皮膚科医 の流通チャネルに殺到するブランドたち【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

美容のプロフェッショナルチャネル、特に皮膚科のオフィスや医療スパは、スキンケア業界でもっとも活発な流通スペースの ひとつになっている。

2021年以来、皮膚科医のオフィスで販売されているブランドを買いあさる戦略的買収者や既存ブランドによる医療スペースへの進出が増えている。グローバルインダストリーアナリスト(Global Industry Analyst)による2022年6月の調査では、医師が調剤する薬用化粧品の世界市場は2022年には180億ドル(約2.4兆円)になり、2026年までに約260億ドル(約3.5兆円)に拡大すると推定されている。

ロレアルによるスキンベターサイエンスの買収

直近には、9月にロレアル(L’Oréal)が米国のブランド、スキンベターサイエンス(Skinbetter Science)を買収した例がある。スキンベターサイエンスは米国全土の皮膚科、形成外科、美容医療の非公開ネットワークを通じて販売されている。買収発表のプレスリリースで、ロレアルUSAのCEO兼北米地域担当プレジデントであるデヴィッド・グリーンバーグ氏は同社は北米における皮膚科美容事業を「ダイナミックな成長の可能性」がある分野だと見なしていると述べている。

スキンベターサイエンスは2022年8月31日までの12カ月間で約9500万ドル(約128億円)の収益を上げている。買収条件は開示されなかった。

ガルデルマによるアラスティンスキンケアの買収

これ以前にも皮膚科医が調剤するスキンケア分野で別の買収があった。特別買収目的会社(Special Purpose Acquisition Company)のウォルデンキャストアクイジション社(Waldencast Acquisition Corp.)が、2022年7月、1988年創業のオバジ(Obagi)とミルクメイクアップ(Milk Makeup)を合併した。合併された2社は7月にウォルデンキャストPLC(Waldencast plc)として上場した。また、製薬会社のガルデルマ(Galderma)は2021年12月にアラスティンスキンケア(Alastin Skincare)を買収した。2015年創業のアラスティンスキンケアは美容注射剤と非侵襲的な皮膚施術を最適化する製品にフォーカスしている。この買収に関するGlossyのレポートによると、アラスティンは買収時当時、米国の3000カ所の医師のオフィスとD2Tのeコマースを通じて販売されていた。一方、ディスポート(Dysport)やレスチレン(Restylane)などのガルデルマのブランドは累計で約2万カ所の医者のオフィスで流通している。買収の条件は開示されていないが、アラスティンスキンケアのプレジデント兼CEOであるダイアン・グーストリー氏によるとアラスティンスキンケアは2021年の売上で5000万ドル(約67億円)を予想しているということだった。

グーストリー氏によると、アラスティンスキンケアは低侵襲の施術の増加に対応して開発されたが、施術前後の適切なケア製品が不足しているという。ガルデルマに買収されたアラスティンのメリットのひとつには業界の会議で調剤医師へのアクセスが得られる点があると同氏は述べている。また、グーストリー氏は2020年の「Zoomブーム」によって医師が患者に対してサービスと製品をまとめて提供する機会が増えた結果として、皮膚科医調剤スペースでの活動が増えたと考えている。

医師オフィスと医療スパのみで販売するエルタMD

一方、エルタMD(EltaMD)のジョアンナ・ザッカー氏はこの成長は診療所で製品を販売する皮膚科医が増えたことによるものだと述べている。エルタMDはコルゲート・パーモリーブ(Colgate-Palmolive)の傘下である。コルゲート・パーモリーブは2017年、エルタMDとプロフェッショナル向けブランドのPCAスキン(PCA Skin)を買収した。買収の詳細は明らかにされていないが、買収されたこの2ブランドは2017年の純売上高で推定1億ドル(約13兆円)を稼いだ。エルタMDは非公開の数の皮膚科医の診療所と医療スパを通じて独占的に流通されており、日焼け止めにフォーカスしている。

「皮膚科医が審美施術を受け入れるか、または疾病などの医療皮膚科に専念するかどうかはかつては半々の賭けだった」とザッカー氏。「審美施術を行う場合なら医師の診療所で製品を購入したいと思う顧客がいる。そして、医師側は、必要な製品を顧客が自宅に持って帰れるようにしたいと思うだろう」。

皮膚科医での販売が受け入れられている現状

クライン(Kline)の2019年の調査では調剤皮膚科スペースにおける成長が確認されている。250人以上のスキンケアを行う医師を対象とした調査では、40%が10年以上、70%が5年以上スキンケア製品を調剤しており、近年の増加が示唆されている。ほかには皮膚科医の診療所とエステティックトリートメントのようなサービスが切り離されていることも臨床ブランドの小売スペースの拡大につながっている。そして、この点は患者から求められているか、少なくとも受け入れられているようである。クラインの同年の「プロフェッショナルスキンケア:米国消費者の態度と行動に関する調査」という別のレポートでは、美容医療提供者の消費者の70%が自宅用にサンプルを受け取った場合には医師の診療所で製品を購入する意欲が非常に高いことが判明している。

医者の診療所スペースでの調剤に対する医師と患者の認識に関する複数の大学による2021年の調査によると、ほとんどの場合、患者は利便性のために医師から直接購入するのではなく、むしろ不便だと感じていることが判明した。その代わりに、患者は医師の知識に対する認識と医師への信頼ゆえに購入しているのである。この調査では、皮膚科医が製品の販売事業に関わるべきかどうかという微妙な倫理的問題も調査された。

ザッカー氏は次のように述べている。「これを推進しているのは消費者だ。つまるところ消費者の望みが決め手だ。米国や世界中の(主な患者である)女性は『スキンケアや外見、身体は私の健康の一部だ。この点は自分の気分と自信に影響するので、私はこれに投資するつもりだ』と言っている」。

医師に選ばれるためのブランドの尽力

皮膚科医オフィスでの小売に固有の課題は、取り扱われる可能性のあるブランドの数である。何百ものブランドと商品を揃えられる通常の美容小売業者とは異なり、皮膚科医の診療所で提供できるブランドと製品は限られている。2007年にローンチしたヘリテージブランドのエルタMDは、研修医やフェロー、免許を取得した新人の皮膚科医らとの関係を築き、早期に参入できるように尽力してきた。エルタMDは過去2年間に医科大学でのランチ付き学習セッションやハッピーアワーの開催に投資している。また、大学や医療レジデンシープログラムとの関係の構築・維持に専念する3人からなるアカデミックチームも開発した。そうすれば、免許を取った皮膚科医が開業する際に医師らはすでにエルタMDに精通しており、エルタMDが優遇されるかもしれないからだ。

業界誌のプラクティカルダーマトロジー(Practical Dermatology)では、2018年のアレガンプラクティスコンサルティング(Allergan Practice Consulting)のベンチマークデータを引用して、小売売上高は診療所の総収益の8~15%になるだろうと記されていた(中央値は7%)。2017年の小売売上高の90パーセンタイル内の診療所は年間約140万ドル(約1.9億円)の小売収益を上げた。このベンチマークデータによると2016年の小売収益は60万ドル(約8074万円)だった。

皮膚科の展示会や会議もブランド認知度を高める大きな機会だ。それには、展示会ブースの運営や研究や出版物の聴衆に向けた発表などがある。エルタMDは、米国皮膚科学会(the American Academy of Dermatology)、米国皮膚外科学会(the American Society of Dermatological Surgery)、ベガス美容外科・美容皮膚科(Vegas Cosmetic Surgery & Aesthetic Dermatology)など多くの会議に出席している。5月にはラ・メール(La Mer)が研究皮膚科学会(Society of Investigative Dermatology)で独自の研究を発表し、同社製品が処置後の患者に役立つことを皮膚科医らに示した。

コーデックスラボ(Codex Labs)(旧名コーデックスビューティ(Codex Beauty))は、2021年の統合皮膚科学シンポジウムにおいて同社のアントゥスキンバリアセラム(Antü Skin Barrier Serum)の臨床結果に基づいたプレゼンテーションを行った。コーデックスラボの創業者兼CEOのバーブ・パルダス博士によるとプレゼンテーションは好評だったという。これにより、同社は美容業界から高い関心が寄せられている別の臨床スペースであるOTC(市販医薬品)分野にいっそう深く進出している。コーデックスラボは2023年2月までに小売を終了し、皮膚科医のオフィスと薬局専用になる。

「当社の製品が非常に専門的であるために、小売業者が製品について説明するのに苦労していることがわかった。だが、薬剤師や皮膚科医、または自然療法医師にも当社の製品はすぐに理解してもらえる」とパルダス氏。「プロフェッショナルチャネルには厳しい選択眼がある。医師の多くは当社の技術資料を受け取るまでは行動を起こさない」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Brands are rushing to dermatology offices for distribution

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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