「週に1~4杯の赤ワインを飲むと新型コロナの感染リスクが10%下がる」という研究結果が信頼できない理由とは?

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2022年1月に「赤ワインを飲む習慣と新型コロナ感染のリスク低減には関連がある」という研究結果が学術誌に掲載されました。内容は、週に1~4杯の赤ワインで新型コロナ感染リスクが約10%低下し、週5杯以上だと17%低下するというもので、本当なら赤ワインを飲む人が増えそうなところですが、この研究に対して、オーストラリア・ディーキン大学の疫学者であるハッサン・バレー准教授が「食と健康に関する研究がなぜ信頼性に欠け、慎重に解釈する必要があるかを示す好例である」として、注意すべき点を挙げています。

A recent study suggests red wine may protect you from COVID. But I wouldn’t drink to this yet
https://theconversation.com/a-recent-study-suggests-red-wine-may-protect-you-from-covid-but-i-wouldnt-drink-to-this-yet-176152


題材となった研究は、深圳康寧病院精神衛生センターのXi-jian Dai氏らによるものです。

Frontiers | COVID-19 Risk Appears to Vary Across Different Alcoholic Beverages | Nutrition
https://doi.org/10.3389/fnut.2021.772700

当該研究で示されている知見は
・週に赤ワインをグラスに最低4杯飲むと、新型コロナの感染リスクが約10%低下する
・5杯以上だと感染リスクは17%低下する
・白ワインやシャンパンでも予防効果はあるが、赤ワインほどではない
・ビールだと感染リスクは7%~28%増加する
といったものです。

バレー准教授は、まず問題点として「相関関係は因果関係と一致しない」ということを挙げています。

当該研究は、被験者を集めて行われたものではなく、大規模な縦断的研究で集められたデータをもとに「飲酒のパターン」と「新型コロナの診断結果」との関連を調べた観察研究です。バレー准教授によれば、この分析から自信を持って言えるのは「赤ワインを飲むことは、新型コロナだと診断される可能性の低下と関連している」ということであって、「赤ワインを飲んだことが感染リスクの低下要因である」とはいえないとのこと。

赤ワインを飲んだグループにおける新型コロナと診断される可能性の低下には、飲酒以外の要因が関係している可能性があります。こういった外部要因によって疑似的な相関関係が生じている状況は「交絡」と呼ばれており、交絡の影響を完全に除去した上で本当に何が起きているかを解明するのは非常に困難です。

また、バレー准教授は「飲酒に関するデータは信頼性に欠ける」とも指摘しています。その理由は、1つは、「何を食べたか・飲んだか」といった情報そのものの信頼性がそもそも低く、さらに誤りのレベルが人によって大きく異なっているため補正が難しいという点。もう1つは、研究に用いられた「飲酒パターン」は縦断的研究の初期に収集されたもので、その後も継続して同じ飲酒パターンだと想定して分析が行われましたが、実際には人の飲酒パターンは変わりうるので参考にならないという点です。

そして、仮に赤ワインが新型コロナの感染リスクを下げる効果があったとしても、それが現実的に重要な意味を持つかどうかだとバレー准教授は述べました。新型コロナの感染リスクを下げる施策としては「マスク着用」「ソーシャルディスタンス」「手洗いの徹底」「ワクチン接種」などが取り入れられていますが、これらから得られる大きな効果に比べて、赤ワインを飲むことによるリスク減少は、仮に本当に効果があったとしても小さいもので、新型コロナへの強力な備えとはなりません。また、現実的にはアルコール飲用には他に潜在的に有毒作用があるため、「新型コロナ感染リスク低減」を目的として赤ワインを飲むことは推奨しないとのこと。


バレー准教授は「『赤ワインにリスク低減効果がない』というのは誰もが聞きたいニュースではありませんが、驚くべきことでもありません。『話がうますぎて本当とは思えない』と感じるものは、たいてい、本当のことではないですから」と、厳しく締めくくっています。

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