YouTube のストリーミング広告、すでに時代遅れに?:「ブランド各社はいまや、TikTokに夢中といっていい」

DIGIDAY

動画とクリエイターを活用したオンラインマーケティング競争が激化するなか、一部のマーケターや代理店幹部は、YouTubeのストリーミング/TV広告事業に一時期の勢いがないと評価している。

YouTubeは、ストリーミングサービスが充実したプラットフォームとしての地位を固めようとしているが、メディアバイ担当者によれば、YouTube上で「ソーシャルメディア」と「動画ストリーミング」のどちらに広告費をつぎこむかの判断が難しくなっており、広告の2面作戦は同社に不利に働きかねないという。また、マーケットプレイス事業者の乱立化に加えて企業の広告予算抑制、ソーシャルメディア広告におけるTikTokの躍進といった現象もYouTubeにとっては向かい風になる。

「当社のクライアントであるライフスタイルブランドの多くは、ソーシャルメディア施策を増やす構えだ。YouTubeは最近、SNSコミュニティやソーシャルハブの事業者というより、動画プラットフォームとして認識されている」と指摘するのは、広告代理店のザンベジ(Zambezi)でグループ・メディア部門のディレクターを務めるカイル・ズバチェック氏だ。「ソーシャルメディア広告に注力するクライアントは来たる2023年に向けて、YouTube以外のプラットフォームへの出稿を検討するのではないか。広告予算が抑えられれば、企業は成長の機会を求めて効果の高いプラットフォームに費用を投入するはずだ」。

広告予算の緊縮に加え、TikTokの躍進がYouTubeを悩ませる

YouTubeの広告収入は前四半期、前年同期比で1.9%減少した。これは、広告主の予算が緊縮傾向にあるマーケティング環境にも起因している。加えて、さらなる伸びが見込めるプラットフォームとしてマーケターや代理店に評価され、コンテンツ制作費が最小限ですむTikTokの影響も大きいだろう。この点についてYouTubeに取材したところ、広報担当者はコメントを差し控えるとした。

「世界経済の先行き不透明感がYouTubeの広告事業収入の下振れ圧力となっているのは間違いない」と、マーケティング戦略のマテリアル(Material)でメディアプランニング&バイイング部門長を務めるローレン・マーカヴェリッチ氏はいう。「YouTubeは過去数年間、ストリーミングサービス事業者や従来のTV局からマーケットシェアを奪うべく多大な努力を重ねてきたが、その間ブランド各社は、消費者の心をつかんだTikTokを試験的に利用して学習していた。YouTubeはやや準備不足で、対応が遅れたといえるかもしれない」。

マーカヴェリッチ氏は次のように続けた。「ブランド各社はいまや、TikTokに夢中といっていい。すでにブランドのマーケティング活動に欠かせない存在となったTikTokが、メディアプランから削られるとは考えにくい」。

米国で急成長を遂げるTikTokはほかソーシャルメディアを追い抜き、ピュ―研究所(Pew Research Center)によると「動画コンテンツ視聴でもっとも人気のあるプラットフォーム」となった。若年層、とくに広告主がアピールしたいZ世代に属する消費者に広く受け入れられている。FacebookもSnapchatも、以前に比べてZ世代に対する求心力がなくなってきたため、TikTok以外のソーシャルメディアを介してこの世代に働きかけるのは難しい。

「最近、広告インプレッション数が重視されているが、大半のブランドは計測結果にいちいち反応して焦るより、自社の広告費がしかるべきプラットフォームに投入され、しかるべきオーディエンスに届いているという安心感を得たいと考えている」と語るのは、YouTubeに注力する代理店、チャネル・ファクトリー(Channel Factory)マーケティング部門のシニアバイスプレジデント、ローレン・ダグラス氏だ。

ストリーミング広告に注力も、流行からは逸れ始める

メディアバイ担当者たちは事の成り行きを次のように説明する。新型コロナの感染拡大期、YouTubeは当時のブームに乗るべくストリーミング広告に注力した。その後2年間で、消費者は自らの支出習慣を見直すようになったが、その影響で広告主も動画配信プラットフォームへの支出を再検討し、ストリーミング広告のバブルにかげりが見え始めた。この流れでいくと、ストリーミングとソーシャルメディアの両輪で広告事業を推進するYouTubeの方針は、同社にとって有利にはならないのだろうか。

「YouTubeは、自社のストリーミング事業がテレビやスーパーボウルより大きい存在になったと自負しており、過去数年間でその確固たる地位を築いたと喧伝している」とズバチェック氏はいう。「ストリーミングへの投資がいまでも最大の機会だと考えているように見受けられる」。

ウェブサイト分析トラッキングを専門とするセムラッシュ(SEMrush)によると、2022年時点で、YouTubeの米国内ユーザー数は2億人を超えている。ストリーミング広告中心の戦略を追求する一方で、同社は消費者がTikTokに流れる現象については認識しているようで、TikTokの機能からヒントを得て開発した短尺動画サービスのYouTubeショート(Shorts)を2020年から取り入れて対抗している。2023年には、YouTubeパートナープログラム更新の一環として、クリエイター向けの収益分配モデルが導入される予定だ。この施策でクリエイターを呼び戻せるかどうかが、YouTubeの今後の成功を左右すると、代理店関係者らはみている。

2023年2月からは、チャンネル登録者数が 1000人以上、かつ有効な公開ショート動画の視聴回数が直近90日間で1000万回以上のクリエイターがパートナープログラムの参加資格を得られるようになる。ショート動画再生時に表示される広告の収益は毎月の集計にもとづき、全体の45%がショートクリエイターに分配される。

TikTok以外にも、今やYouTubeのライバルは多い

代理店のリアル・ハイプ・クリエイティブ(Real Hype Creative)の創業者兼CEO、エリカ・ヤン氏によれば、一部のコンテンツクリエイターがTikTokを選ぶ理由は、YouTubeのサービスにストリーミングを超える発展がないからだという。「ブランドの多くは同じ意見だろう。各社が求めているのは、オーディエンスとのエンゲージメントやクリエイティブ戦略に発展の可能性をもたらす新たなインフルエンサー施策なのだから」。

ほかのプラットフォームの利用を検討しているのは広告主ブランドだけではない。「YouTube上でコンテンツを公開しているクリエイターの多くが、広告収益源を多様化している」とズバチェック氏は指摘する。「ユーザーとしては、YouTubeで視聴するのと同じコンテンツがTikTokでも視聴でき、とくに違和感はないだろう」。

とはいえ、YouTubeにとっての挑戦者はTikTokだけではない。デジタル動画広告の分野ではマーケターにとっても代理店にとっても、かつてないほど多くの選択肢がある。その選択肢の多さが、YouTubeが直面している難題のひとつかもしれない。

「マーケットプレイスには、動画広告在庫のチャンスがふんだんにある。広告主は複数のプラットフォームをうまく活用すれば、消費者のターゲティングとリターゲティングが容易になる」と、デジタル広告会社インフィリオン・メディア(Infillion Media)のプレジデント、クリスタ・カローン氏はいう。「プラットフォームにとっての付加価値はやはり、ブランドセーフティが担保されたコンテンツ、プライバシー保護規則に準拠した精度の高いターゲティング、説得力のあるクリエイティブ、そして目に見える成果が得られる環境だ」。

[原文:Why YouTube’s focus on competing with streamers may have hurt the platform as brands focus on TikTok

Julian Cannon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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