デジタルマーケティング のプレイブックは2022年にどう一変したか?:有料広告とオーガニックコンテンツのバランス

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2022年もまた、デジタルマーケティングにとって新たな転換期となった。

2021年と同様、多くのD2Cが以前から依存してきたデジタルマーケティング方式が、多くの要因により維持できなくなってきたことから、さらに多くの小売業者が2022年も自社のマーケティング戦略を調整、または完全に見なおした。

一例として、メタ(Meta)の広告からの離脱は2022年も続いた。これは、2021年春にAppleのiOSが更新されたときにはじまった動向だ。そして、インフレによりマーケティング予算が減少するなか、小売ブランドは、より安価に顧客とつながる方法も探し求めている。

このような理由から、eコマースブランドはより多くの広告支出をTikTokやピンタレスト(Pinterest)のような、新しく実験的なトップオブファネルのチャネルに移行させ、同時にオーガニックなコンテンツやマーケティング活動への投資を増やした。2023年に向けて、オンライン小売業者やブランドは、顧客をコンバートするのに十分な効果を持つマーケティングミックスを維持しながら、これらの新しい方式をどのようにテストするかという問題に取り組んでいる。そして、最新の課題は、確固とした実績はあるが高価な広告と、よりリスクの高いキャンペーンのバランスをどう保つかということだ。

長期的な成長のためオーガニックなマーケティングを重視

D2C創業者のなかには、特にキャッシュランウェイの引き延ばしをする必要がある場合、広告支出を減らし、オーガニックなトップオブファネルのマーケティングで顧客を獲得するという、直接的な変更を行った企業もある。

女性向け健康ブランドのスティックス(Stix)は、妊活や妊娠に関係する商品を販売しており、2022年に自社のマーケティング戦略を見直したD2C企業のひとつだ。

スティックスの共同創業者であるジェイミー・ノーウッド氏は、2022年の初頭まで同社は「ごく伝統的なマーケティングのプレイブック」に従い、メタやTiktokに多くの広告を出していたと、米モダンリテールに語った。しかし、同年の後半には、有料マーケティングを80%減らし、Googleのブランド検索のための広告と、同社のPR代理店によるアフィリエイトマーケティングだけを残した。「当社は現在、広告の費用対効果があるマーケティングにしか支払っていない」と同氏は述べ、前年2021年のiOS14のアップデートを受けて同社のCACが激増したことを受けての決断だったと付け加えている。

「当社は、オーガニックな成長を試みることにした。それが当面のあいだ収益に影響するとしても甘受することにしいる」と、同氏は述べている。「当社の収益の下落が約20%にとどまったのには勇気づけられた」。

この結果、スティックスは、同社ブログ「リアルトーク(Real Talk)」のようなオーガニックな教育的コンテンツに投資することを決めた。これによって、同社のウェブサイトのトラフィックのうち半分以上をこのブログが支えていると、同氏は述べている。ブログのトピックの多くは、女性からのGoogleでの質問に、同社のSEOヘッドラインを通じて回答するようになっている。

同社の共同創業者と従業員も、TikTokへの投稿頻度が増えた。ここでは、セクシャルヘルスや膣の健康など、スティックスに関係するトピックについて語られていることが多い。同ブランドのページのフォロワーはつい最近3万人を超え、もっともバイラル化したタイトルのひとつは「経血から何が分かる?」というタイトルだった。この投稿は現在までに300万回以上再生され、「いいね!」の数は14万を超えた。「チームの9人全員が当社のTikTokパスワードを保有しており、毎日の投稿のアイデアについて話し合っている」と、同氏は述べている。

全体として、この方針展開は成功しつつあり、スティックスが広告への支出を減らしたにもかかわらず、収益は増加している。「当社の第4四半期の収益は、この変更を行ったあとでも、第3四半期より増加している」と同氏は述べる。「そして、2022年全体を通した収益は、2021年より100%以上も増加した」と、同氏は付け加えている。

ブランドへの認知を広げるため、より大胆な方法を見つけることは、新興企業のほかの創業者たちも念頭に置いていることだ。

メタ広告を完全に切り捨てられない理由

ココナッツスプレッドブランドのコカダ(Kokada)は2021年1月に営業を開始し、ターゲット(Target)のフォワードファウンダーアクセラレーター(Forward Founders Accelerator)の一部として拡大してきた。コカダの創業者であるブレアナ・アトキンソン氏は、同社が2023年に小売店でのプレゼンスを高めるため、現場でのマーケティングに全力を投入すると語る。

同氏は次のように述べている。「当社はまさに、街角や歩道でプロモーション活動を行っている。キャッチーなチラシを配り、男性モデルを起用したポップアップ店舗を開設している。2023年には、ゲリラマーケティングに全力を投入する」。

パートナーシップも、2023年の同社の成長に大きな役割を果たすだろう。同社は2022年、CPGブランドのあいだで広く行われるようになった、食品サービスとのパートナーシップから良好な反応を得ている。同ブランドは全国のスムージーショップ、アサイーボウルの店舗、ベーカリーとさらに提携していきたいと、アトキンソン氏は述べている。

これは、顧客が地元の小売業者で商品を購入する前に、ブランドが浸透していることを認識してもらうのによい方法だと、同氏は付け加えている。ブランド認知度の向上は、同社が過去2カ月に、マザーズネイチャー(Mother’s Nature)やエレウォン(Erewhon)など、より多くの小売店で販売を開始することにもつながっている。

それでも、コカダは有料広告を完全に切り捨てることはできなかった。「実は、データプライバシーとメタの変更があった後の10月に、当社は有料ソーシャル広告を開始した」と、アトキンソン氏は述べている。

ただし、オンラインの顧客獲得キャンペーンを精選しているのに加え、予算は創業者たちが開業時に計画していたよりも大幅に低くなっていると、同氏は語る。コカダはメタとTikTokで広告を運用しているが、これらは、コカダの最新の小売店の近くでジオターゲティングされた広告を行い、主に小売店へのトラフィックを促進するために使用されている。TikTokでは、すでにブランドと何かの関わりがあるユーザーをリターゲティングするため広告が使用される。「当社の広告の目的は、小売業者のパフォーマンスを引き出し、すでにコカダのことを知っている人々が商品を注文するよう最後のひと押しを行うことだ」と、同氏は述べている。

同社のジレンマは、多くのブランドが直面する課題を示唆している。つまり、各ブランドは、Facebookやインスタグラムの広告を完全に切り捨てることはできない。オンラインで可能な限り多くの人々とつながるためのもっとも簡単な方法であることに変わりはないからだ。

デジタルマーケティング代理店オープンインフルエンス(Open Influence)のCEOを務めるエリック・ダハン氏は、メタのようなプラットフォームが依然として、最新のプライバシーポリシーに合わせて広告ツールを修正している途中だと語る。「メタは、この導入について、より遅く、より困難なスタートを切ってしまった」と、同氏は語る。

しかし、メタとTikTokはどちらも、それぞれのプラットフォームにブランドをつなぎ止めるため、コマースツール、特に動画とリールに多額の投資を行っている。そのため、メタは、依然として多くのブランドの広告戦略において中核的な要素であり続けている。

ファーストパーティーデータの手法

メタを頼っているブランドがFacebookやインスタグラムの広告を補完するため行っていることのひとつは、ファーストパーティーデータの収集への投資を増やすことだ。これによってブランドは、さらに多くの情報を集めて顧客を的確に理解し、Facebookやインスタグラムの広告のターゲティングにも役立てることができる。

たとえば、D2Cの宝石類ブランドのベルラス(Verlas)はiOSの変更のあとでデータ収集ソリューションを見つける必要があった。同社の創業者であるニディ・ダンガヤック氏は、これまででもっとも大きな課題は、メタのトラッキングに欠けているデータポイントだったと語る。AppleのiOS14が2021年に更新され、iOSユーザーがアプリによる閲覧行動のトラッキングを拒否できるようになってから、特定のユーザーの購入意図を測定するのは困難になった。これは、ブランドのリターゲティングプールの最適化にも影響を及ぼすと、同氏は述べている。

ダンガヤック氏は、Facebookやインスタグラムが顧客獲得に与えた影響を測定するため、購入後のアンケートを実施したという。その結果は、メタは依然として、人々がブランドのことを知るきっかけとなる、もっとも多い経路であることを示していた。「このため当社はFacebookやインスタグラムから引き上げなかったが、ピンタレストのようなほかのチャネルや、ライブインテント(LiveIntent)によるメールマーケティングを展開し、規模を拡大した」と、同氏は説明する。

ブランドが、メタの保有するプラットフォームに対するアプローチを見直さなければならなくなったのは、その点だけではない。クリエイティブの資産と価値の提案について、広告とオーガニックな投稿の両方について再考することがますます必要になってきた。スティックスのノーウッド氏は、セクシャルヘルスの投稿が検閲されることが多いインスタグラムについて、「当社は現在、商品を取り上げることに重点を置いている」と述べている。

ベルラスにとって助けになったのは、メタの有料キャンペーンを、高級志向のオーディエンスを対象とするよう調整したことだったと、ダンガヤック氏は語る。「当社はこの方法で、より一般的で幅広い層のオーディエンスよりも、見込み客を増やすことができた」といい、平均注文金額が1.5倍から2倍高くなる傾向を示したという。今年の同社のブラックフライデーセールでは、1000ドル以上と2500ドル以上のセグメントで平均注文金額がそれぞれ増加した。

全体として、小売企業は既存の枠組みに縛られることをやめ、ソーシャルメディア広告の黄金時代にはうまく働いていた方針への依存を減らそうと試みている。しかし、新しい環境にはマーケターへの新たな一連の課題も存在する。

「オーガニックなコンテンツは、有料広告とは大きく異なり、チャネルの作成と管理に何人もの人手が必要となる」と、スティックスのノーバック氏は述べる。「現在の最大の投資は時間とリソースなので、間違いなく長期的な活動だ」。

同氏は、ソーシャルメディア広告が過去の有効性を取り戻してくれることを今も期待していると語る。「しかし、それを当てにはしていない。過去にこうしていたら、と思うことはあるが、後知恵なら誰でも正しい選択肢を選べるものだ」。

[原文:How the digital marketing playbook was upended in 2022]

GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu

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