「ファーストパーティデータで、購買体験を『立体的に』」: DELISH KITCHEN 鵜飼勇人氏

DIGIDAY

食品関連の購買体験は、従来そのほとんどが小売店舗などリアルオフラインチャネルによるものだった。しかし昨今のコロナ禍により、その状況が少しずつ変わりつつある。

そこで課題となるのが、実店舗のような購買体験をいかにオンラインで構築し、購買を促進できるかだ。レシピ動画メディアのデリッシュキッチン(DELISH KITCHEN)によるファーストパーティデータ活用の狙いもまたここにある。

同メディアを運営するエブリー(every)の執行役員で、DELISH KITCHENをはじめとしたサービスのtoB向け事業統括を行うソリューション本部長の鵜飼勇人氏は「ファーストパーティデータ活用で、オンラインにおける購買体験を『立体的に』なものにしたい」と述べる。デリッシュキッチンでファーストパーティデータ活用の構想がスタートしたのは2020年。今年7月には、デリッシュキッチンの膨大なファーストパーティデータに基づいて、タイアップレシピ動画を、同アプリ内で特定のターゲットに配信できるソリューションを提供開始した。

「広告のパーソナライズ配信は、ファーストステップだ。これからも、広告主の要望に応えられるよう、食の購買体験をさらに洗練されたものにすべく尽力していく」。こう強調する鵜飼氏に、デリッシュキッチンのファーストパーティデータ戦略について訊いた。

◆   ◆   ◆

――ファーストパーティデータ活用の構想は、いつ頃スタートしましたか?

我々は2020年の10月頃から、サービスを運営するなかで蓄積してきたユーザーの属性や行動に関するデータを上手く活用すべく、試行錯誤してきました。一部の広告主や代理店のみなさまには、テスト運用にもご協力いただきました。

7月には、デリッシュキッチンのアプリユーザー約2200万人のファーストパーティデータに基づき、我々が制作したタイアップレシピ動画を、同アプリ内でパーソナライズ配信するソリューションをスタートしています。これを利用すれば、性別・年代、世帯構成などの属性情報、およびレシピ閲覧傾向からうかがえる嗜好性などを踏まえて、タイアップレシピ動画を特定のユーザーに届けることができます。

なおこのソリューションは、我々が4月から展開している、マーケティング調査、ターゲティング広告の配信、ロイヤルティの可視化を一気通貫で実現できる、「DELISH KITCHEN CONNECT」という広告主さま向けサービスのひとつになります。

ファーストパーティデータを活用した広告配信ソリューションの概要

――ふむ。同様の取り組みは、レシピ動画パブリッシャーのなかでは御社がはじめてですよね?

メディア内で検索されたキーワードに連動させて、広告バナーを掲出する取り組みは競合でも展開されています。しかし、ファーストパーティデータに基づいて精密にレシピ広告動画を配信しているのは、界隈でははじめての試みだと思います。

――ファーストパーティデータ活用の構想に至った理由を教えてください

プライバシー保護の潮流はもちろんですが、もっとも大きいのは、コロナ禍の影響です。

従来、食品業界では小売店舗における購買意思決定の割合が、全体の割合を大きく占めるといわれてきました。しかし昨今、コロナ禍により、オンラインでの購買が増加しつつある。こうした状況を受け、食品関連の広告主さまのあいだでは、オンラインチャネルの立ち位置を見直す動きが見られています。

しかしオンラインの購買体験は、店頭におけるそれと比べて情報の濃淡が少なく「平面的」です。そこで我々は、ファーストパーティデータに基づいたパーソナライズの仕組みを導入することで、よりメディア内での体験を立体的にし、オンラインでの購買体験を促進できないかと考えたわけです。

――広告主からの反響はどのようなものがありますか?

我々は、レシピ動画に付与される「お気に入り」数を、購買行動における重要な中間指標として定めています。ある広告主さまでは、実際に我々のソリューションを導入したところ、この「お気に入り」数が通常のタイアップ動画の配信時と比べて2倍以上増加し、成果を実感していただきました。

ただ、それ以上に喜んでいただけたことがあります。それは、施策の結果から顧客の行動や刺さりやすい訴求ポイントを、明らかにできた点です。食品業界では、B2Bという構造上、ユーザーと直接繋がる機会がほとんどありません。最近では、オンラインでの販売をスタートした企業も見受けられますが、そもそも、どのようなユーザーが自社の商品を買っていて、それをどのように消費しているのかを把握することが難しいのが現状です。

我々のソリューションを活用することで、いままで不確かだった顧客像をさらに鮮明にすることができたのです。

――素晴らしいですね。ちなみに、アドテク企業が提供している共通IDソリューションとの連携などは検討されていますか?

いまのところ、いわゆる共通IDソリューションとの連携は考えていません。今後の展開については、まず自分たちの持つファーストパーティデータの価値をしっかりと見極めながら考えていきたい。ファーストパーティデータとひと言にいっても、パブリッシャーによって特色がありますから。

たとえば、我々が取得できるのは食に特化・深化したファーストパーティデータです。そのユーザーはどんなレシピが好む傾向があるとか、どんな調味料を最近使いはじめたとか、食生活に特化したデータであると認識しています。

――パブリッシャーが自社のファーストパーティデータを活用するうえで、気をつけるべきことは何でしょう?

これまで、デジタル化が遅れていた食品業界でもDXが推進され、最近では多くの食品メーカー様が、ファーストパーティデータに高い関心をもたれています。一方で懸念すべきなのは、ユーザーからどうデータを取得するか、といった点に話がいきがちだということ。

ファーストパーティデータ活用の本質は、取得したデータに基づいて、購買体験をいかに高めていくのかということです。ユーザー側もメリットを感じるからこそ、我々にデータを提供している。その対価をしっかり良質な情報と体験で返していく必要があります。今後も我々は、そのような視点を心に留め、購買体験をどう向上させていていくか、どのようにユーザーにデータの価値を還元していくか、試行錯誤していきたいと思います。

Written by 小野和哉、村上莞

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