こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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小売業界の専門家によれば、「ライフスタイルセンター」は今、少なくともショッピング・モールの役割を果たしている。
この数年間、いわゆるライフスタイルセンターと呼ばれる場所が登場してきた。多くの場合は、屋外にあり、レストランやカフェなどのテナントを中心とする複合型施設だ。
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このような場所にブランドが集まるというトレンドは、たとえばハイブリッドなワークスケジュールや、郊外地域への移住といったパンデミック時代の習慣によって、さらに激化してきた。これらのセンターは多くの場合、住居施設に併設されていたり、住居施設から歩いて行ける距離に置かれ、中心街的なライフスタイルを送るのに理想的なものとなっている。ライフスタイルセンターでは、デベロッパーや小売テナントが、仕事と遊びの両方について、日常生活のあらゆる部分に対応できるような施設を構築している。
ライフスタイルセンターは通常、郊外のストリップモールや屋内のショッピングセンターよりも、都会のプロムナードによく似ている。そして、従来型のモールとは異なり、これらのセンターのテナントには、ショッピングに加えて、食事ができる劇場、スパ、さらにコワーキングスペースなどの日常的なレジャー活動が用意されている。このようなセンターの最新の例として、ボストン港にこの夏オープンしたザ・スプレッテ(The Superette)がある。このセンターのコンセプトは欧州風の木々に囲まれた中庭に、、ルーニャ(Lunya)、フレームブリッジ(Framebridge)などのデジタルネイティブのブランドや、地元のカフェやバー、レストランなどを点在させるというものだ。このデザインは、人々がワークアウトやネイルカラーなどの日常的な活動をしながら、ブティックや小売店の前を通るように設計されている。小売に参入する新しいブランドによれば、このようなトラフィックの多い区域が、一般的なモールよりもライフスタイルセンターの魅力を高めているという。
ショッピングモールのデザインへの新たなアプローチ
「リテールプライド(Retail Pride)」の著者で、ボノボス(Bonobos)とトリーバーチ(Tory Burch)の元エグゼクティブであるロン・サーストン氏は、これらの新しいライフスタイルセンターのデザインは長いあいだ待ち望まれていたものだと語る。
同氏は次のように述べている。「従来型のモールは、閉鎖された建物の中に、数十もの小売店、フードコート、百貨店が設置されていた。小売業界はこの方向性を変えようとしている」。同氏はさらに、「ライフスタイルセンターにはさまざまな姿があるが、根本的に屋外であることが多く、太陽光や、新鮮な空気、エネルギーがその場所に満ちている」と説明している。
これらのセンターには、従来のような大型の映画館や安価なファーストフードコートに代わり、人気のあるファストカジュアルレストランやエンタテインメント施設が設置されることが多い。もっとも重要な点として、「これらのセンターはコミュニティの大きな部分で、アメリカのすべての街の中心にメインストリートがあった時代を思い出させるものだ」と、サーストン氏は述べている。
デベロッパーは、このようなタイプのショッピングとエンタテインメントを融合させたコンセプトへの関心が高まっていることに注目した。
地元住民のために再構築されたココウォーク
ライフスタイルセンターのトレンドに傾倒しているデベロッパーの一例として、マイアミのココナッツグローブ地区にあるココウォーク(CocoWalk)など、東海岸沿いの数十のライフスタイルセンターを開発しているフェデラルリアリティ(Federal Realty)が挙げられる。地域リース担当シニアバイスプレジデントを務めるスチュアート・ビエル氏は、同社のポートフォリオにおいて、複合用途およびライフスタイルモールのカテゴリーは、ほかのモール設計を上回っていると、米モダンリテールに語った。
ココウォークは1990年にアウトドアモールとして開設され、テナントや買い物客を呼び寄せるために何年間も苦戦していた。クルーズ船の寄港地として長年利用されてきたことから、「地元の人々を相手にした施設に戻したいと思った」とビエル氏は述べる。デベロッパーである同社が、現在最重要課題として考えているのが、Covid後のハイブリッドワークプレイスだと、同氏は説明している。
この数年間にわたり、フェデラルリアリティはココウォークを改修し、アンカーテナント(核店舗)を現地向けにするとともに、既存の居住者やパンデミックの最中にマイアミに越してきた新しい居住者に対応するため、複合型施設として最適化してきた。現在のココウォークは、緑豊かで歩き回りやすいデザインにより、新しいテナントにとっても魅力的な環境になっていると、ビエル氏は語る。そして、デベロッパーである同社にとって現在最優先となっているのは、Covid以後のハイブリッドワークプレイスだと、同氏は説明している。
これは、この地区におけるラテン系の影響に合わせることを意味すると、同氏は語る。たとえば、チーズケーキファクトリー(Cheesecake Factory)のような流行遅れのレストランは、ビーガン食堂のプラントクイーン(Plant Queen)に置き換えられた。「当社は、マイアミで愛されているウルグアイマーケットチェーンのナルボナ(Narbona)や、トレンディなミスター・オーワン・エクストラオーディナリー・ピザ(Mister o1 Extraordinary Pizza)も招き入れた」と、ビエル氏は述べている。ニューヨーク市を拠点とする中華料理チェーンのレッドファーム(RedFarm)も今年末までにココウォークで開店する予定だ。「さらに、一部をAクラスのオフィスビルに改装した。これは、マイアミに移転してきた雇用主たちに注目されるだろう」と、同氏は述べる。
ライフスタイルセンターの隠された魅力
多くの新興ブランドは現在、このようなタイプの複合施設に店舗を開設することに注力している。サードラブ(ThirdLove)やマディソンリード(Madison Reed)は、年末までに全国に80のカラーリングサロンを開設する予定だ。
ピアススタジオのローワン(Rowan)の創設者であるルイーザ・シュナイダー氏は、新しい拠点となる場所の調査に時間をかけるなかで、これらのライフスタイルセンターは賑やかな活気で際立っていると感じたと語る。「我々は、顧客が買い物のためだけでなく、エクスペリエンスのために訪問するような場所で成功できるとわかった」と、同氏は述べている。
同社が開設しようとしている店舗の2つは、人気のあるライフスタイルセンターのなかに設置される。ダラスの近くのサウスレイクにあるショップス(Shops)と、マイアミのココナッツグローブにあるココウォークだ。これらの場所が複合用途のライフスタイルセンターとみなされている大きな理由のひとつは、レジャー施設と小売店のテナントが均等に配置されていることだ。たとえば、ココウォークには多数のスパと美容センターがあり、新たに開設されたグロスラボ(GlossLab)、3Dブロースタジオ(3D Brow Studio)、バーバスキンクリニック(Barba Skin Clinic)も含まれている。このようなタイプの付近のテナントは、ローワンのような同様の嗜好を持つ店舗への訪問客を促進すると、シュナイダー氏は語る。
「これら2つの地域は、定住しようと転居してくる家族により、急激に人口が増加しつつある」と、同氏は述べる。ローワンの顧客層は通常、友人や家族で記念日を祝う人々で構成されているため、小売戦略として、1週間を通して地元のライフスタイルセンターに足繁く通うような、高い関心を持つ地元の人々を重視している。
「当社は、独自のマーケティングや活動に多くの投資を行っている屋外のライフスタイルセンターに魅力を感じている」と同氏は述べ、注目するイベントとして、ホリデーマーケットや、ヨガのワークショップ、カボチャの彫刻イベントなど地元のアクティビティに言及している。「ジョージアのアルファレッタのアバロン(Avalon)や、スコッツデール・クォーター(Scottsdale Quarter)にある当社の店舗は、このようなタイプのセンターのよい例だ」と同氏は述べている。
さらに同社は現在、郊外の家族連れや近隣の大学生を対象としたライフスタイルセンターでのリースも検討している。シュナイダー氏は、この顧客グループの若い層を取り込むことに成功した最近の例として、フォートワースのテキサス・クリスチャン大学(Texas Christian University)の近くにあるローワンのウエストベンド(WestBend)スタジオを挙げている。
「顧客が飲食や社交を行う場」への出店を望む小売業者
アパレルブランドのファリティ(Faherty)の共同創設者でCEOを務めるアレックス・ファリティ氏は、同ブランドがライフスタイルセンター内に次の店舗を開設する予定であると語る。このような場所に出店することで、新しい店舗で急速にファンを獲得することができたという。「当社は、コミュニティ活動や、レストラン、および素晴らしい屋外の雰囲気を持つセンターがある地域の店舗を重視している」と、同氏は語る。
ファリティ氏は、同ブランドの少数の都市型店舗以外では、「当社の顧客が現在家族とともに住んでいる、郊外の地域に重点を移してきた」と語る。
同社は特に、これらの新しい層に対応するため、ライフスタイルセンターに的を絞っている。特に、同ブランドがカジュアルなライフスタイルの雰囲気があることから、「これらのセンターによって、現在の顧客とつながりを持ちながら、新しい顧客に出会う機会が増えると考えている」とファリティ氏は語る。「ニューポートビーチのリド(Lido)にある当社の店舗がよい例だ」と同氏は付け加える。今後、同社の店舗は、同様のライフスタイルセンターと称する施設にオープンする予定だ。ボストンのシーポートスクエア(Seaport Square)、サンディエゴのワンパセオ(One Paseo)、南カリフォルニアのマリブクロスクリーク(Malibu Cross Creek)などだ。
デザインを一新したココナッツグローブは、新興の小売業者からの人気がもっとも高いショッピングセンターのひとつになった。その理由として、「デジタルネイティブのブランドは通常、店舗の場所については柔軟だが、顧客が飲食や社交を行う場所に店舗を置くことを望んでいる」と、ビエル氏は述べる。同氏は、フェデラルが20年前に開発したライフスタイルセンターの初期の例として、メリーランドのベセスダロード(Bethesda Road)を挙げている。フェデラルが開発したほかの場所としては、シリコンバレーのサンタナロウ(Santana Row)、ボストン地域のアセンブリーロウ(Assembly Row)、これから開設されるコネチカットのダリエンコモンズ(Darien Commons)などがある。
「トラフィックカウンターは使用していないが、この6〜12カ月の動きは驚くべきもので、多くのテナントは2019年の売上高を上回っている」とビエル氏は述べ、同センターの日中および平日のトラフィックが定常的に増え続けていると指摘する。「コアな顧客は、オフィスでも、ワークアウトでも、ハッピーアワーなどあらゆる目的で、週に4、5日この場所に足を運んでいる」。
[原文:Malls have transformed themselves into mixed-use lifestyle centers]
GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration via The Superette (Alo at The Superette)