リブランディングから1年、 Meta がマイクロソフトらと提携:VR戦略のシフトでSNS広告から脱却へ

DIGIDAY

1997年、マックワールドエキスポでIT業界に激震が走った。マイクロソフトが倒れかけていたAppleとの提携を発表したのだ。それを契機に、Appleの黒字化が本格的に始まった。それから25年。苦しい経営が続くSNSプラットフォームMetaは、低迷する広告収益に取って代わる法人顧客を探したいと考え、社運を賭け、メタバースで勝負に出た。そこでまた、重要な役割を担うのがマイクロソフトだ。

2022年10月11日、年に一度開催されるカンファレンス「Metaコネクト(Meta Connect)」に、マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏がMetaのCEOマーク・ザッカーバーグ氏とともに登壇した。Metaは今年のMetaコネクトで高価格帯の新たなバーチャルリアリティヘッドセット、クエストプロ(Quest Pro)(1500ドル[税込み価格22万6800円から])を発表、そのほかにもAV/VRやメタバース向け製品についても情報を公開した。

Metaが勝負をかけたメタバース

2014年に20億ドル(約2800億円)でオキュラス(Oculus)を買収してからというもの、Facebookは新たなSNSとしてだけでなく、ゲームやエクササイズ、さまざまなコンテンツ視聴の場としてもVRのビジョンを強く打ち出している。しかしながら、Meta コネクトにナデラ氏がゲストとして登場したことで(ほかにも、提携が明らかにされたアクセンチュア[Accenture]やアドビ[Adobe]、オートデスク[Autodesk]など業界大手のトップも登壇)、MetaがSNS広告からの脱却をどのように実現しようと考えているのかが見えてくる。

マイクロソフトは、Microsoft TeamsとWindows 365をMetaのヘッドセットで利用できるようにする予定で、Microsoftインチューン(Microsoft Intune)とアジュール(Azure)からクラウドサポートの提供も計画している。オートデスクは、建築士や設計士が3Dモデルをチェックする方法を追加し、アドビはクリエイターが3Dでデザイン可能なツールを開発、Adobeアクロバット(Adobe Acrobat)ユーザーがPDFでコラボできるようなプランも考えている。また、アクセンチュアはVRで顧客や従業員とやりとりができるような新しいテクニックの開発に取り組んでいる。

「Metaのマイクロソフトとの提携は特筆に値する。というのも、メタバース運用への確かなステップが踏み出された証だからだ」。そう話すのは調査会社フォレスター(Forrester)のアナリスト、マイク・プルー氏だ。「メタバース運用は、より多くの企業がオープンに協力しなければ実現しない。勘違いしないでほしいのだが、Metaには捨てなければならないお荷物がある。失われた信頼を一部でも取り戻すには、こうした行動がもっと必要になるだろう」。

Facebookとして知られてきた同社がMetaにリブランディングしてから間もなく1年になる。2021年10月、この変化は、Metaがこれからメタバースを重点的に取り扱うという印だけでなく、個人データの保護とコンテンツモデレーションにかかわる懸念から世間の注意をそらす試みとしても解釈された。それ以来、Metaの株価は半値に落ち込み、一方の広告収入はAppleのプライバシーポリシーの変更や先の見えない経済状況が相まって、減少が続いている。Metaは2022年に入り、Appleのプライバシーポリシー変更で予測されるコストを発表、その額は100億ドル(約1兆4000億円)におよぶのではないかとした。なお、2021年はその同額がメタバース関連の支出として計上している。

Metaは果たして、Facebookやインスタグラムの広告収益鈍化分を相殺できるほどVRの新規事業の収益を上げることができるか。「それがわかれば10億ドルの価値がある」と、ITコンサルティング企業ムーア・インサイツ&ストラテジー(Moor Insights & Strategy)のアナリスト、アンシェル・サグ氏は話す。同氏がさらに注目するのは、発表の準備を整えていたであろうAppleに先駆けて、Metaがヘッドセットを発表したことだ。

「MetaはVRとAR、メタバースへの投資を増額しているが、これは同社の経済状況から考えると最悪のタイミングだ」といサグ氏。「とはいえ、新しい市場で、しかも時期尚早のきらいがある市場で、確固たる地位を確立するにはある程度の痛みが伴うことは同社も覚悟していると思う。……Metaは次のプラットフォームを逃したくないと考えており、できるだけ早く実現するためには、時間をかけてしっかりとしたイノベーションを生み出すのを厭わないのは明らかだ」。

収益化の要

VR/ARの体験から3Dオブジェクトまであらゆるものに対するビューワーの関心をMetaが高められるのであれば、収益はあがる。スタートアップのなかには、AR/VRプロジェクトの開発には規模や分野によって5万ドルから数百万ドル(約700万円から数億円)と費用にばらつきがあるという企業もある。一方、企業向けAR/VRプロジェクトを手掛けるスタートアップ企業オカブ(Ocavu)の創業者でCEOを務めるジョナサン・チェニー氏によると、オブジェクトを3Dレンダリングするには数百ドル(数万円)かかる場合もあれば、複雑なものでは1000ドル(約140万円)を超える場合もあるという。

AR/VR事業の収益が数十億ドル(約数千億円)に膨らみ、現在の広告で稼いでいる金額に匹敵するようになるのがいつなのか(そもそも、そんなことが可能なのか)が分かるのは、まだ何年か先になるだろう。調査会社ガートナー(Gartner)によると、バーチャルスペースの常時利用率は、2021年現在従業員全体の1%だが、2025年までには10%になる。ガートナーのアナリスト、トゥオン・グエン氏は、企業向けVRヘッドセットの売上はこの3年で伸びると思われるが、一般消費者のあいだで普及するようになるには、低価格製品の導入、魅力的なコンテンツの制作、抜群な使い勝手のよさなど、特別な変化がなければ、10年はかかるだろうという。とはいえ、どんな使い方があったとしても、Metaがヘッドセットに注力するのがなによりも効果的だとも話す。

「MetaがVRとVRヘッド型ディスプレイに注力すれば、同社のほかの取組みのなかには憂き目をみるものもでてくる」とグエン氏。「MetaがVR以外の分野で何を目指しているのかは定かではないが、VRには私たちには必ずしも見えていない潜在的な力がもっとたくさんある」。

コンサルティング大手のPwCが実施した2022年メタバース調査によると、経営陣の42%はオンボーディングとトレーニングの支援でVRを使う計画があり、36%が社内コミュニケーションの活性化やバーチャルコンテンツの制作に利用する予定だと回答している。一方、34%がコミュニティの創出やエンターテインメントの提供、29%が購入前のトライアルサービス提供、25%が既存製品のデジタル版販売、それぞれの計画があると回答した。

法人向けが一般向けコンテンツの突破口になるのかも懸案事項だ。コンピュータはまず会社で普及してから家庭で使われるようになり、スマートフォンも仕事で使用してから、誰もが使うようになった。リモートワークが浸透した今、仕事でヘッドセットを購入した社会人が、プライベートでもほかのアプリを試したりするだろうか。

「仕事用のヘッドセットをつけてビデオゲームを楽しもうと考える人たちは大勢いる」とデジタルエージェンシーVMLY&Rでエクスペリエンスデザインのディレクターを務めるルーク・ハード氏。「『仕事用だ、遊び用だ、と区別せずに使おう』とユーザーに思わせることができるのなら、企業をターゲットにするのは非常に大きな意味がある」。

広告を超えたVR

この数年、多くの企業が、航空宇宙分野や建築分野からヘルスケア分野まで、あらゆる分野の向上にVR/ARを活用してきた。しかしながら、VRのマーケティングは、電話1台があれば話がすむ拡張現実(AR)よりもはるかに浸透するのに時間がかかっている。

Metaは消費者が自発的に「わたしには、VRをはじめとするメタバースのテクノロジーが必要だ」と言い出すと考えているようだ――そう説明するのはWEB3デザインコンサルタント企業ジャーニー(Journey)でメタバース戦略を統括するサシャ・ウォリンガー氏だ。しかし、ナイキ(Nike)、H&M、ソレル(Sorel)でマーケティングチームに携わってきた同氏は、それは違うと考える。Metaはもっと時間をかけて、なぜメタバースに注目すべきなのかを消費者に説明すべきだという。

「設計士であれば、まず壊して建てるものだ。その場所が何なのかがわかれば、それに基づいて構築できる」と話す。

プロクター&ギャンブル(Procter & Gamble)のイマーシブテクノロジー責任者イオアナ・マテイ氏は、事業提携は興味深いが、まだ魅力的な事例がないという。一方、ニューヨークを拠点とする広告会社バーバリアン(Barbarian)の戦略最高責任者エリザ・イベット・エスキベル氏は、最高の事例を提供するのはIT企業ではないのではないか、おそらく、ああでもないこうでもないと趣味でヘッドセットを試す人たちなのではないかと話す。

「テクノロジーが存在意義を求めたり、デバイスがエンドユーザーの事例を求めたりするのは、昔からいつでもどこでもある話だ」とエスキベル氏。

エスキベル氏の考えでは、ザッカーバーグ氏は、VRに対してもFacebook創業時と同じアプローチをとるべきだという。当時、「利益を上げなければ」というプレッシャーが一切なく、そのうえ模索する余地もあった。確かに大企業には大きな期待がつきものだが、彼女いわく、事業は樹木のように、すぐに成長するとは限らないし、たとえすぐ結果が出たからといって、それが最高の果実とは限らない。

「今はまだすべて土のなかで、芽さえ出ていない」とエスキベル氏は話す。「おそらく泥遊びの様相を呈することになる。しばらくはまだ何を作っているのかもわからない状態が続くだろう。……エンドユーザーの事例があるのかどうかもまだわからない。出てくるのは、トレーニングや教育でこうしたテクノロジーを導入した企業の事例だけという場合もあり得る」。

重なるAppleとMeta

Appleが1990年代に経験した問題は現在Metaが直面しているものとは同じではないが、両社はライバル企業として重なることが多くなっている。Appleは、Apple TVなどのさまざまな分野で広告ビジネスの拡大を模索していると言われており、近い将来、自社製ヘッドセットの発表も見込まれている。しかしながらVMLY&Rのハード氏(MetaのSpark ARプラットフォームのカリキュラム開発を支援)の見立てでは、販売の1年後にApp Storeが立ち上がったiPhoneの動きと、VRのハードウェアとソフトウェアの動きが似ているという。

「Appleには勝算があった」とハード氏は話す。「単にiPhoneをローンチしただけではない。当然市場では『それで次は?』となる。Appleはそこにエコシステムがあるはずだと知っていたのだ」。

Metaの長期計画がどのようなものなのかはまだわからない(ハード氏は、この数年のマーケティングのピッチを見ると、市場では単なる広告よりも体験が好まれているという点が目立つとも指摘する)。しかし、イノベーションコンサルティング会社オール・ウィ・ハブ・イズ・ナウ(All We Have Is Now)の創業者トム・グッドウィン氏によると、VRの代表的な事例がないという事態は、渡るべき橋が遥か遠くにしかなく、しかも見当違いの方向にかかっていることを示している。広告代理店のピュプリシス(Publicis)とハバス(Havas)で役員の経験があるグッドウィン氏に言わせれば、Metaにおけるメタバースの状況は、現実世界の問題を解決しないまま、企業が消費者にITの導入を急かしたときに起きる状況と同じである。

「『まずテクノロジーを作る。それから、そのテクノロジーが私たちを変える』というのがこれまでの古い考え方だ。それに、テクノロジーが使われ始めた当初は、たいてい誰もが混乱する」とグッドウィン氏。「しかしながら私には、その古い考え方で動いてきた世界をどうすれば違う視点で捉えられるのか、まったく思いつかない。VRを使うと、自分の世界や居場所からかけ離れていると感じる傾向が強く、今のところ、『画面を見る時間をもっと長くしなければ』と考えている人はほとんどいないのではないかと思いがちだが、実際は違う」。

[原文:A year after its rebrand, Meta forges new bonds to shift its VR strategy beyond the social advertising era
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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