Twitter 新CEO、ヤッカリーノ氏が優先して取り組むであろう最も重要な4つのこと

DIGIDAY

Twitterが、またも新たな時代へと乗り出そうとしている。いわば「Twitter 3.0」は、同プラットフォームを軌道に戻すためのものだ。少なくとも同社の新たな首脳陣は、その実現を願っている。公平に見ても、彼らが希望を抱く理由は十分にある。

イーロン・マスク氏は5月12日、NBCユニバーサル(以下、NBCU)の広告担当チェアマンであるリンダ・ヤッカリーノ氏が、新CEOとしてTwitterを率いていくと発表した(マスク氏の愛犬であるフロキをカウントに入れると、ヤッカリーノ氏は半年間で3人目のCEOとなる)。この発表に対する反応は上々だった。マスク氏は、昨年10月に自身が買収したビジネスが重大な岐路に立たされているいま、メディア業界で最大級の影響力を持つ人物を獲得したことになる。

ヤッカリーノ氏獲得に対する反応は圧倒的に好意的であるが、その声がどれほど大きかろうと、Twitterがいま陥っている混沌とした状況を覆い隠すことはできない。その問題の根深さは、あるメディア企業幹部(匿名希望)の言葉からもうかがい知れる。「Twitterのメディアの売買に携わる幹部たちから度々聞かされることのひとつは、Twitter広告の効率の悪さだ。カバレッジの点では有効だが、そのほかはそうでもない」。

マスク氏からトップの肩書を引き継ぐヤッカリーノ氏(マスク氏は最高技術責任者とエグゼクティブチェアを兼任する)だが、控えめにいっても、対処が必要な優先事項をヤッカリーノ氏はいくつも抱えている。なかでもとくに急を要するのが、Twitterに対する広告主の信頼回復だ。

Twitterに必要なのは、信頼できる広告販売チーム

ヤッカリーノ氏はベテランの広告幹部だ。過去10年をNBCUで、それに先立つ20年をターナー(Turner)で過ごしてきた。確かにこの確固たる経験は、大いに同氏の役に立つだろう。しかし、だからといってそれは、ほかの人々の力に頼らなくてもいいということではない。

マスク氏は、大規模なコストカットの一環として(これはいまも続いている)、広告販売チームの大多数を解雇した。そしてこれにより、彼らが積み重ねてきた経験の多くをも捨て去ってしまったのだ。これは悪手だった。もしそうでなければ、広告主の懸念を払拭しようとする同氏の試みが、これほど冴えないものにはならなかったかもしれない。

マスク氏による買収以来、Twitterは機能停止を繰り返し、デマや疑わしいコンテンツの集積地と化してきた。それを考えると、マーケターたちが寡黙であることを責めるわけにはいかない。たとえば、ハイト・デジタル(Hite Digital)のオーナーでパートナーであるモーリー・ロペス氏は、Chief Twit(Twit[ter]のチーフ)を自称するマスク氏がCEOに就任して間もない頃を振り返り、「同社のチームにメールすることは、ブラックホールにメールするようなものだった」と述べている。

各社のレイオフで、人材はあふれている

ヤッカリーノ氏が最初に取り組むべき優先事項のひとつは、いうまでもなく、同氏を囲むチームに自身の考えを行き渡らせることだろう。一方でかさむ赤字。そしてTwitter本社を漠然と覆う不安定感。そんななか、(少なくとも、退職を発表する人々のツイートを見るかぎりでは)ほぼ毎日、誰かしらが退職しているように思える現状を考えると、そう簡単に事は運ばないだろう。Twitter広告のセールスパーソンを見つけるのは、広告を売るのと同様、簡単ではないだろう。

ほかの部門も再建を必要としており、「大人の監督」が必要な部門もある。その一例が広報部門だ。徹底的に淘汰されたメンバーで構成されているためか、米DIGIDAYのシニアレポーターが先日、同社にコメントを求めたところ、「ウンチ」の絵文字が使われたメッセージが返ってきた。

皮肉なことに、ヤッカリーノ氏の採用活動を後押しするのは、大手ライバル企業かもしれない。プラットフォーム各社でレイオフの嵐が吹き荒れているおかげで、巷には次の仕事に目を光らせている有能なエグゼクティブがあふれている。Twitterで働くことに疑問を抱かないわけではないだろうが、だからといって月々の支払いは待ってくれない。つまり、Twitterは、失業中の有能な広告パーソンにとって魅力的な場になり得るということだ。

とはいえ、「売れるプロダクトに事欠いているのが、Twitterの現状だ。信頼できるストーリーもそこにはない」と話すのは、ボケー(Bokeh)でCEO兼クリエイティブディレクターを務めるデビッド・ベイツ氏だ。「ここ数カ月のTwitterは、マスク氏の虚栄心を満たすためのプロジェクトと化している」と、同氏は語る。「Twitterとは何なのか? ユーザーの心にどう映りたいのか? それをTwitter自身が理解するまでは、セールスチームへの投資は二の次になるように思える」。

Twitter 3.0に必要なのは、新たなナラティブ

メディア販売ビジネスのカギを握っているのは、強力なナラティブであり、そのことはヤッカリーノ氏もよくわかっているはずだ。それがなければ、マーケターが購入する前提もなくなる。したがって、説得力に満ちたストーリーができるまでは、意味のある広告ビジネスの構築に同氏は苦労することになるだろう。豊富な人脈と幅広い経験を持つ彼女とはいえ、できることには限度がある。

しかし、もしこれがうまくいけば、そこから新たに生まれたナラティブが、Twitterがいまも抱えるアイデンティティ危機の解消にいくらかは役立ってくれるだろう。Twitterは長年、「ライブ」に熱を上げてきた。文化的瞬間が最初にリアルタイムで目撃され、議論される場所であることに固執してきたのだ。ところが、Twitterが本当の意味で「ライブ」だったことは一度もない。「最近」がせいぜいなのだ。数分前、ときには数時間前の投稿であふれ返っているのが、Twitterユーザーの典型的なフィードだ。

このライブのナラティブと決別すべきときが、ついにTwitterに訪れたのかもしれない。マスク氏もそう考えているようだ。同氏は以前から、ここにきてその存在を知られるようになってきたスーパーアプリ「X」の開発を構想してきた。ビジネスの収益化をめざすクリエイターやメディアビジネス、インフルエンサー、エンターテイナーをサポートすること。マスク氏の狙いは、Twitterをこの目的に特化したプラットフォームにすることだ。

念のためにいっておくと、Twitterはマスク氏が乗り込んでくる前から、サブスクリプション料金や、ユーザーがくつろげる場である「スペース(Spaces)」の導入で、すでにこの路線を歩んでいた。ヤッカリーノ氏がこれをさらに進める方向に舵を切る可能性はある。そうなれば、少なくともTwitterがこの先もずっと取り戻すのに苦労するであろう広告費への依存はいくらか減るかもしれない。昨今のマーケターが、選択肢が少なくて困ることはないのだ。

マスク氏の存在は邪魔ものか

もちろん、Twitterが抱える最大の課題のひとつにして、おそらくは広告主の多くが撤退の道を選んだ大きな理由は、「マスク氏」と「同氏がTwitterにもたらした不確実性の高まり」にある。

マスク氏が乗り込んできて以来、Twitterはある種、無法地帯と化した街の広場のような存在として知られるようになった。ベイツ氏はそれを「くだらないトレンドや考え、ラジカリズム、そして小さな意味でニュースが渦巻いている」と表現する。

たとえば、少し前の週末がそうだ。トルコの国政選挙に先立ち、Twitterは同国で配信されるコンテンツに制限をかけた。マスク氏は「言論の自由の絶対主義者」を自称しているが、そのことを考えると、Twitterが強者のいいなりになるという意志を新たに得たらしいことを、この決定ははっきりと物語っている。

そんなマスク氏(そして、4月にマイアミで開かれた初の「ポッシブル(Possible)」カンファレンスの壇上で行われたマスク氏へのインタビューで、ヤッカリーノ氏が触れたマスク氏の午前3時のツイートも)を抑えて、今後は思いつきで決定が下されることはもうないと広告主に約束できるかどうかは、ヤッカリーノ氏の双肩にかかっている。

ベイツ氏が述べているように、マスク氏が日々の意思決定権の大部分を自ら進んで捨てないかぎり、これを実現するのはほぼ不可能だ。同氏の存在は、もはや邪魔なものと化している。

かつてのTwitterに戻るにはかなりの時間がかかる

ベイツ氏のいい分は正しい。マスク氏がTwitterを買収したのは(同氏が下した買収の決断は一度撤回されている)、もしそうしなければ、法律上の深刻な問題に巻き込まれると思ったからにほかならない。BBCの取材で、同氏はそのことを事実上認めている。

おそらくマスク氏は、自身が認識する悪い状況から何とかよい結果を生み出そうとしてきたのだろう。しかし、ザ・ガーディアン(The Guardian)が3月に報じたところによると、440億ドル(約6兆1000億円)でTwitterと買収契約を結んだマスク氏は、わずか半年あまりの期間で同社を事実上骨抜きにし、その評価額を200億ドル(約2兆7700億円)以下の水準にまで下げたのだ。

一方のマスク氏自身は4月、Twitterの収支はすでにほぼプラマイゼロになりつつあると断言した。おそらく、この断固たる狂気とおぼしきものには、何らかの筋道があったのだろう。

ニュー・エンゲン(New Engen)のメディアサービス担当バイスプレジデントであるアダム・テリアン氏は、結局のところ、ヤッカリーノ氏がすべての権限を掌握しても、Twitterの売上がかつての水準にまで回復するには、かなり時間がかかるだろうと述べている。

動画についてはどうか?

マスク氏は明らかに動画にこだわりがある。Twitterを所有してからわずか1カ月ほどで、より強力な動画ビジネスを構築する件について話していた。そしてまだ、そうした初期の野心はその後に大きな実を結んでいない。

それでも、ヤッカリーノ氏がそうした状況をできるだけ迅速に変えようとすると言ってもいいだろう。NBCUとターナー・ブロードキャスティングでの経歴を考慮するととくに、動画が同氏の主要な目標のひとつでないとは想像しがたい。同氏は、どのような動画番組が成功するかを把握しているだけでなく、それから利益を上げる方法も知っている。

思い出してほしい。ヤッカリーノ氏は、ターナー・ブロードキャスティングで20年間にわたって番組獲得部門を担当してきた幹部だ。また、番組制作、加えてより広範なメディア事業に常に愛情を持っていることを明確に示してきた。それこそが、同氏が何年も懸命に取り組みを前進させてきたことだ。このような経歴から、Twitterの動画計画が前進する可能性は大いにある。

それらの計画の内容は現時点では不明だ。マスク氏はしばしば、Twitterの短編動画計画を復活させるかもしれないと示唆してきた。Vine(ヴァイン)の復活を公然と呼びかけ、動画ストリーミングサービス「Periscope(ペリスコープ)」にも手を出している。そして、長編動画に興味があると述べたこともある。Twitterで近々始まるニュース番組に保守派政治コメンテーターのタッカー・カールソン氏が登場するのは、その好例だ。

ただし、マスク氏は実際には契約成立をしておらず、「カールソン氏はTwitterのほかのクリエイターと同じ規則を守らなければならない」と指摘している。

動画フォーマットの展開が期待される

何が起ころうと、動画がTwitterの未来において何らかの役割を果たすのは明らかだ。ヤッカリーノ氏とマスク氏は、それがどれほど大きな役割なのかを決める必要がある。Twitterが過去に学んできたように、動画サービスの構築は弱気な者向きではない。Twitterは、放映権が高額であるのが明らかになると、業界の草分け的存在だったにもかかわらずスポーツのストリーミング配信から手を引いた。短編動画とライブストリーミングからも早くに撤退している。

しかもそれは、市場が今のように競争が激しくなる前の話だ。最近は、プラットフォームでの魅力的な動画の構築と維持が軍備拡張競争のようになっており、Twitterは適切に参戦するのに必要な武器を持っていない。

しかし、Twitterは動画において大手と対決する必要はなく、必要なのは賢明であることだ。そのうえで、ヤッカリーノ氏は恐らく、より大手のプラットフォームの多くはeコマースが比較的未開拓であることを考えると、ショッパブル動画路線をTwitterに歩ませるだろう。あるいは、スポーツの放映権に関する知識を頼りに、スポーツをめぐる動画ルートを構築するかもしれない。結局のところ、スポーツメディアほど、景気の変動に影響を受けないものはない。

そしてその後、短編動画が検討されることになるのではないか。とにかく、Twitterが遠からぬ将来に数種類の動画フォーマットを展開することに期待しよう。

ヤッカリーノ氏とともに働いたことがあるが、同氏の新たな役割についてマスコミに話す許可を得ていないため匿名を希望するメディア幹部は、「ヤッカリーノ氏は、クリエイティブ人材でも、スタジオを運営しているわけでもないかもしれないが、スポーツや、メディアビジネスの運営方法について知識があり、さらに重要なことには、Twitterで成功するためのプロダクトについて十分な知識がある」と語った。「彼女について重要な点は、常に万全の準備をしていることだ。それに優秀な人材に囲まれている。それはこの業界でトップに立つのに必須の条件だ」。

重要で厄介な測定の問題

成果があるか分からない広告に対して、広告主に支出させることは難しい。Twitterのように、広告の測定がそれまで得手でなかった場合は、なおいっそう難しい。

確かに、そうした状況を変える措置は取られてきた。Twitterは2023年に、広告の周囲にある攻撃的コンテンツを測定するツールをマーケターに提供した。だが、広告プレースメントの測定は、広範な測定問題のごく一部に過ぎない。広告主は今後、パフォーマンスやリーチの面で広告費が実際に挙げている成果を掘り下げられるもっと強力なサービスを求めるだろう。

もちろん、Twitterにはそうした分野でガイダンスを提供する現行ツールがあるが、パフォーマンスの目標のためにTwitterで広告を利用したマーケターが非常に少ないことを考えると、現行ツールには不十分な点が多い。同社は、マーケターにそう思わせないように最大限の努力を払ってきたが、常にリーチが最優先だった。一方でヤッカリーノ氏は、これを変えようとする可能性がある。

同氏はNBCユニバーサルで働いていた頃、広告支出の健全性確保のために、ニールセン(Nielsen)のような企業にオーディエンス測定の改善を求めた。デジタルメディアに付きまとう問題について市場で最も声高に主張してきた人物のひとりでもある。ヤッカリーノ氏は今後、Twitterでそうした問題に真正面から取り組む立場になる。

[原文:Here are Linda Yaccarino’s likely top priorities as Twitter’s new CEO

Krystal Scanlon and Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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