11月20日にエジプトで終了した世界最大の気候変動会議COP27。その期間中により明らかになったのは、ファッション業界が環境への影響を正しく追跡するには、まだやるべきことがあるということだった。だが、専門家たちはこれまで築いてきた土台に基づき、サステナビリティへの取り組みや環境への影響に対する意識は来年も業界の焦点になるだろうと楽観視している。
ここでは、COP27の現場にいた専門家による、ファッションブランドが2023年にサステナビリティを推進するための3つの方法について概説する。
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フットプリントだけでなく、ファッションの「ブレイン・プリント」に基づいた行動を開始せよ
サステナビリティ・コンサルタントであり、サステナブル・コミュニティ・プラットフォームのファッシュマッシュ(FashMash)の創設者レイチェル・アーサー氏は、ファッションが環境に与える影響に関するナラティブに変化が必要だと述べている。ファッション業界の排出量は、世界の総排出量の2~8%を占めるといわれているが、それは影響全体のほんの一部に過ぎない。アーサー氏はファッションが人々のライフスタイルに広範にわたって影響を与えていることを説明し、「ファッション業界ははるかに大きなブレイン・プリントを持っている」と述べた。つまりファッションは常に消費やトレンド、独占性を重視することで、より幅広い消費習慣を刺激するのだという。「ファストファッションブランドであれ、ラグジュアリーブランドや、あるいはその中間のブランドであれ、私たちが起こせる変化という点では、その責任は非常に大きい」。
「2023年以降を考えると、業界はもっとオーナーシップを持って、状況を好転させる必要がある」と、アーサー氏。「ファッションは、消費者、企業、他のセクターや政策立案者に対して」地球を変える気候の影響を抑制するために、パリ協定で定められた「1.5度の目標内に収まるようなライフスタイルを指し示すことができる」。
ヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)やEbay(イーベイ)のキャンペーンによって、消費者は新品ではなくリセール品を購入するようになり、グリーンウォッシュ企業やその製品を避ける消費者が増えるなど、消費者行動は変化し始めている。そしてファッションは、投資やコンセプトの実証を通じて、科学を含む外部セクターにも影響を与えつつある。たとえば、エルメス(Hermès)はマイコワークス(MycoWorks)と提携して菌糸を使ったバッグを作り、パンガイア(Pangaia)は素材パートナーのリストを増やしている。
COP27では、H&M、ケリング(Kering)、インディテックス(Inditex)などの小売業者と非営利団体キャノピー(Canopy)との新たなパートナーシップも発表された。これらのブランドはともに、衣料やパッケージングに使用する低炭素の代替繊維を50万トン以上購入し、排出量を削減することを約束した。
「我々は最近では、リニューセル(Renewcell)の工場(11月14日オープン)を除くと、大規模な商業規模の生産は現時点では行っていない」とキャノピーの創設者でエグゼクティブ・ディレクターのニコル・ライクロフト氏は話す。「しかしブランドによるこれらの購入のコミットメントは、そうした画期的なソリューションを市場は調達する準備ができている、という明確なシグナルを投資家に送り、変化を起こす可能性がある。我々は、現在から2025年までのあいだに、少なくとも10~20のこうした工場を持つと予想している」。
COP27のスピーカーであり、メーカーのエイブリィ・デニソンRBIS(Avery Dennison RBIS)でサステナビリティ・コンプライアンス・コアPLMの責任者を務めるデビー・シェイクスピア氏は、生地のリサイクルもブランドの焦点になるべきだと述べた。「生地を工業規模でリサイクルすれば、リサイクル素材のコストが下がり、ブランドはスコープ3(Scope 3)のサステナビリティ目標に向けて真の前進を遂げることができるようになる。必要なのは信頼性の高い情報の橋渡しによって、すべての関係者がすべての衣服の出所と素材構成を理解し、リサイクルの方法に関する情報を得られるようになることだ」。
独占禁止とESGコミットメントの間の緊張をオープンな対話で解決せよ
独占禁止法に抵触しないようにするためには、透明性が業界におけるサステナビリティの会話の基礎となるトピックになるかもしれない。独占禁止という要素は今年に入ってから出てきたものだ。
2022年5月、ロイター(Reuters)は、2021年5月にフォーラムレターに署名し、リワイヤリグファッション(Rewiring Fashion)の提案を作成したいくつかのファッション企業が、独占禁止法違反で欧州の独占禁止規制当局から家宅捜索を受けたと報じた。そのなかには、セルフリッジズ(Selfridges)、ロダルテ(Rodarte)、トムブラウン(Thom Browne)など50社以上が含まれていた。レターも提案も、グローバルブランドが年に何度もコレクションを発表する慣習を制限することと、ファッションカレンダーがブランドの売り上げに与える悪影響を修復することに焦点を当てたものだった。ひとつは、ランウェイのデザインがファストファッションブランドに直接コピーされていることがある。
この問題は、業界に難問を突きつけている。現在の市場が機能する方法を変えることなく、どのようにしてサステナブルな生産とシステムの変化を実現できるのか? その答えはいまなお検討中だが、ファッションブランドやメゾンは、政府の改革と並行してオープンな対話を行うことができれば、より変化を起こすチャンスを得られるだろう。
「ファッション業界の成長は、生産と消費のためのよりサステナブルなモデルを切り開かない限り、同時に温室効果ガスの排出量も増加させる」とシェイクスピア氏は言う。「つまり循環型社会、イノベーションへの投資、実証済みの革新的なソリューションの拡大を完全に取り入れることだ」。
同時に、米国のファッション法による規制と、5月に欧州委員会が定めた持続可能な繊維戦略規制が、ブランドの長期計画に影響を与えている。EUの基準や規制は、2030年からEU内で生産されEUに輸入されるすべての商品に適用されることになり、最近改正されたファッション法も早ければ来年には成立する可能性がある。ファッション法は、ニューヨークでビジネスを行うファッション小売業者および製造業者のうち、全世界での年間総収入が1億ドル(約139億円)を超えるすべての企業に適用される。
「原材料の調達からサプライチェーン、消費者が直面する収益源にいたるまで、バリューチェーンのすべてにおいて、サステナビリティは価値創造の代替源となる。その価値とは、リスクの軽減、マージンの向上、市場投入の迅速化、あるいはリセールなどの新たな流通チャネルなどである」と述べたのは、フォーダム大学ガベリビジネススクールのレスポンシブルビジネス連合(Responsible Business Coalition)のエグゼクティブディレクター、フランク・ザンブレッリ氏だ。
「企業は、財務目標とESGのターゲットの両方を達成するための材料を用いて、自社製品を複数回販売するという発想で製品を企画製造し、価格を設定する必要があることを認識し始めており、投資家にはそうした行動に対するより高い評価で報いることができる」。
経営コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニー(Bain and Co.)によると、パーパス主導型ブランドは、既存のESG課題に光を当てることで「パーパスドリブンの資本主義の新しい自己強化モデルの中核を形成する好循環を生み出す」。そうしたブランドは消費者の製品への関心をあおり、小売業者の需要を喚起し、質の高いやる気のある従業員を引きつける。その結果、より高い成長と投資家からの高い関心へとつながる。今年、サステナブルなアクティブウェアブランドのタラ(Tala)は、投資会社のアクティブパートナーズ(Active Partners)とベンレックス(Venrex)から570万ドル(約7.9億円)のシード資金を調達した。また、サステナブルなサプライヤーからの調達のためのプラットフォームであるマテリアルエクスチェンジ(Material Exchange)は、ベンチャーキャピタルのモルテンベンチャーズ(Molten Ventures)が主導する2530万ドル(約35億円)のシリーズA資金調達ラウンドを終了した。
コーペティション:標準となるブランド横断的なコラボレーションを見よ
プーマ(Puma)のようなブランドは、すでにコーペティション、つまり共通の目標を達成するために競合他社と協力することについて話している。「ファッション業界の変革は、パートナーシップなしには単に実現しないという明白な事実に、業界内外のリーダーたちが気づき始めている」とザンブレッリ氏は言う。
「すべての企業は、公に直面する温室効果ガスの排出目標を達成するために、パートナー、ベンダー、サプライヤーに依存し、互いに支援し合うことになる」とザンブレッリ氏は述べた。「よりサステナブルで経済的な成功につながるそのようなパートナーシップを促進するための、新たな方法や製品、サービス、情報システムを業界関係者が発見するにつれて、今後数年間でコラボレーションにおける革命が起こるだろう」。
[原文:COP27’s top takeaways for fashion brands]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)