こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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小売業者やプラットフォームは、ソーシャルメディアのクリエイターを対象とした新しいポータルに投資している。
ウォルマート(Walmart)は10月18日、クリエイターが店舗で買い物可能な商品を簡単に収益化できる新しいウェブサイト「ウォルマートクリエイター(Walmart Creator)」を開始した。「我々は、お客様が、好きなインフルエンサーのソーシャルフィードで毎日見るコンテンツやストーリーを見て、インスピレーションを受けていることを知っている」と、米ウォルマート(Walmart U.S.)の最高マーケティング責任者を務めるウィリアム・ホワイト氏はプレス声明で述べている。それとは別に、専門的融資およびオンライン決済プロバイダのクラーナ(Klarna)も、新しいショッピングツールであるスポットライト(Spotlight)の最新リリースの一環として、最初の接触からパートナーシップ、売上と委託まで、クリエイターや小売業者をつないで、大規模なアクションを自動化する新しいプラットフォームを立ち上げた。
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インフルエンサーマーケティングの専門家は、小売業者はソーシャルメディアでもっとも人気があるパフォーマーとの直接接触や、インフルエンサーの活動に関するすべてのデータの所有権を求めていると、米モダンリテールに語った。さらに、小売業者はこれによって、自社のマーケティングコストを削減し、サードパーティーのプラットフォームを使用することの問題点が解消されるという利益を得られる。
クリエイターのコンテンツ力
インフルエンサーマーケティング企業のスウェイグループ(Sway Group)の創設者で最高経営責任者を務めるダニエル・ワイリー氏によれば、クリエイターにより公開された買い物可能なコンテンツは、小売業者自身によって制作された素材よりも多くのエンゲージメントとクリックを生み出す。「膨大な数の消費者がオンラインショッピングを受け入れているいま、買い物可能なコンテンツがすべてだ。また同時に、クリエイターのコンテンツは小売業者自身によって作成されたコンテンツよりもエンゲージメントとクリックが増えることも明確になってきた」と、クラリッサ・ラスキー氏やエイミー・フルシャー氏などのAmazonインフルエンサーと協力しているワイリー氏は述べている。
ここ数年間で、各企業が自社商品をマーケティングするためにソーシャルメディアのインフルエンサーやセレブリティと協力することの重要性を理解してきたことから、インフルエンサーマーケティングへの支出は急増した。この市場の規模はすでに、2020年の97億ドル(約1兆4400億円)から2021年には138億ドル(約2兆400億円)に増加し、今年だけでもさらに17%増加して、164億ドル(約2兆4300億円)に達すると推定されている。
このような形式のプラットフォームは何年も前から存在していた。多くの企業が、より細かいコントロールを可能にするために、インフルエンサーと直接協力できる独自のエコシステムを開発してきた。Shopify(ショッピファイ)は8月、Shopifyの出品者とコンテンツクリエイターとを結びつける新しいディレクトリであるShopify Collabs(ショッピファイコラボ)を開始した。Tiktokは昨年、ブランドや代理店が、TikTokを利用するインフルエンサーと簡単にコラボレーションできる、新しいクリエイター向けマーケットプレイスを取り入れた。Amazonは、スパーク(Spark)のような試みの失敗にもかかわらず、2017年以来ソーシャルメディアのインフルエンサーの隆盛を収益化しようと試みてきた。同社は最近、プライムデー(Prime Day)などショッピングが多いイベントの期間、自社のインフルエンサープログラムを使用し、インスタグラムや、TikTok、YouTubeなどのソーシャルメディアプラットフォームでAmazonの商品を推薦するソーシャルメディアの有名人に対して、報酬を支払ってきた。
「これらのプラットフォームは簡単なアフィリエイトリンクや、先行披露、お得情報を提供することで、クリエイターが小売業者の店舗へのトラフィックを促進するのをできるだけ簡単に行えるようにする。それが、小売業者の利益につながっている」と、ワイリー氏は付け加えている。
永続的な関係
インフルエンサーマーケティング代理店のダイアログニューヨーク(Dialogue New York)の創設者であるジュリアンヌ・フレーザー氏も同意している。「小売業者は、インフルエンサーが、個人として利益があるような方法で関わってもらうことが、もっとも効果的であることを、時間をかけて学んできた。クリエイターエコノミーを支援するツールを開発することは、その自然な延長戦上にあり、インフルエンサーに価値を提供し、数多くの競合他社のなかで、自社ブランドを目立たせることができる」と同氏は述べている。
ツールを開発することで、サードパーティーのプラットフォームを利用するマーケティング費用が不要になり、よりカスタマイズされたブランドエクスペリエンスが可能となるため、永続的かつ熱心なブランドアンバサダーを生み出すことができると、フレーザー氏は付け加えている。
「クリエイター向けのマーケットプレイスを開設することで、クリエイターは面倒な作業の多くが不要になり、自分たちの得意な、コンテンツの作成やコミュニティとのつながりに戻ることができる」と、インフルエンサーマーケティングを研究しているUCLA教授であるリア・ハーバーマン氏は述べている。
クリエイターの観点から見ると、これらのプラットフォームは、お得な情報を見つけたり、リンクを生成するといった問題を解決し、このプロセスをよりシームレスにしてくれるので、インフルエンサーは、さらに多くのコンテンツ生成に専念することができる。しかし、あまりに多くのプラットフォームが存在するため、クリエイターがすでにほかのプラットフォームと契約している可能性も高く、別のプラットフォームと契約することを躊躇してしまうケースもあるようだ。
「特に、ブランドとの契約や、正当な報酬を得ることに関して、クリエイターが抱えている現実的な問題に目を向ける必要がある。クリエイターに代わって交渉を行う代理人やマネージャーが存在しない場合、ブランドと連絡をとり契約を調整するために多くの時間を費やす必要があり、これはクリエイターの時間を無駄にするだけだ」とハーバーマン氏は説明する。
創作活動をサポートする体制
課題となるのは、インフルエンサーテック企業の市場は競合が非常に激しく、多くのプラットフォームがブランド独自の新しい製品に対して優位点があることだと、ジャーニーファーザー(Journey Further)でインフルエンサーマーケティングディレクターを務めるローレン・マクファーランド氏は指摘する。TikTokやインスタグラムさえも、ブランドがインフルエンサーの活動を測定するのに役立つマーケットプレイスとツールを開発し続けている。
「独自のテックを構築することで、ウォルマートなどのブランドは、インフルエンサーの活動全体にわたるすべてのデータを保有し、『成績の高いパフォーマー』に直接アクセスでき、インフルエンサーがブランドに直接アプローチするためのチャネルを保有して、長期的にはより投資対効果を高くできる」と、マクファーランド氏は述べている。
しかし、ウォルマートやクラーナなどのプラットフォームにとって主要な課題のひとつは、クリエイターの維持だ。「そのために、これらのプラットフォームはインフルエンサーとの調整を行い、歩合であれ固定給であれ、十分な報酬を支払う必要がある」とマクファーランド氏は述べる。
別の問題点は、これらのプラットフォームで、投稿やリンクの要件、最低収益、独占性などの多くの条件が要求されるなら、クリエイターはそのプラットフォームに群がったり、長期的に使い続けたりすることはないということだと、ワイリー氏は警告している。「クリエイターは結局のところ、自分たちの収益を最大化し、優れたコンテンツを共有することを望んでいる。特定の小売業者に縛り付けられることは、この分野に属する人々の大多数にとってその目標に資するものではない」と同氏は付け加えている。
フレーザー氏は次のように述べている。「これらのプラットフォームは、コンバーターとして知られているインフルエンサーにアピールするだろうが、インフルエンサーの創作活動をサポートするデジタルサービスを検討することも重要だろう。さまざまな能力の多様なインフルエンサーと手を組み、ブランドについてハロー効果を作り上げることが、最終的に売上を促進すると、私は信じている」。
[原文:Why retailers are rushing to build tools for creators]
VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Walmart