2022年、D2C創業者たちはプレイブックをどう変更したか:「ビジネスモデルは時代遅れだがマインドセットは進化している」

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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ほんの数年前、D2Cビジネスの概念は極めて単純明快だった。ブランドは商品をオンラインで直接顧客に販売していた。通常は、安価なFacebook広告で特定の人口層や類似性についてターゲットを精密に選び、顧客を獲得した。今日では、この方法は極めて不安定になり、はるかに困難なものとなった。

筆者は、米モダンリテールの「Modern Retail DTC Summit」(10月17〜19日)の主催を手助けする機会に恵まれた。ここで、何十人もの創業者やブランドの専門家と、これらの人々がいつも直面している問題や、目撃している業界の異変について対談した。すべてのブランドは商品、価格、位置づけ、サプライチェーン、資金源においてそれぞれ異なっているのはたしかだ。しかし、この3日間のイベントでは多くの共通点について話が交わされた。具体的には、企業の構築と成長に成功したブランドは物事を創造的に考えており、自分たちのコントロール下にあるリソースについてよりよく考えているということだ。

D2Cという用語はある意味、明らかな誤用になってきた。現在では、成長中のブランドで、ウェブサイトのみで販売を行っているところはほとんどない。実際のところ、対話の多くは卸売やほかのチャネルへの展開の困難さに関するものだった。それでは、もう時代遅れになったビジネスモデルに特化したサミットには意味があるのだろうか。実は、D2Cはモデルとしては時代遅れになりつつあるかもしれないが、そのマインドセットはいまだ人気があり進化しているのだ。

パターンブランド(Pattern Brands)の共同創業者であるエメット・シャイン氏が語るように、「ビジネスモデルとしてのD2Cは死んだ。D2Cはデジタル優先だ」。

これらすべてを念頭に、現在の情勢においてブランドが操業を続けるための新しい方法について、いくつかのテーマと教訓が出現した。私が留意したものを以下に示す。

コミュニケーションと協力は従来にもまして重要

ヒムズ(Hims)、ハリーズ(Harry’s)、クイップ(Quip)など初期のD2C企業と協力してきたデザイン代理店ジンレーン(Gin Lane)の共同創業者でもあるシャイン氏は、もっとも大きな変化はマインドセットの転換だという。D2Cの最初の数年間、「みんなほかの人とは違うと粋がっていた」と同氏は語る。

このため、同氏は自社ブランドを展開・拡大するという前提で、パターンブランドを立ち上げた。しかし、パンデミックによりサプライチェーンの破断が起き、パターンブランドは健全なブランドの買収に注力する方向にシフトしていった。また、これによってシャイン氏は、D2Cについて少しでも知っている人たちであれば、誰とでも話し合うのが必要だと理解した。

「ほかの人々と話すのは、浄化や共感の感情を生む」と同氏は述べる。また、同氏はそれによって、出現しはじめている大きなトレンドを感じ取った。同氏は次のように述べている。「誰もが同じマクロトレンドを体験している。2022年にはほぼ全員の売上が低下した」。しかし、創業者たち(同氏の推定では数千人)との間で交わした会話によって、現在の情勢でビジネスを運営することに対する考え方がしだいに形になってきた。同氏によれば、この数年間で自分をさらけ出して質問ができたことで、D2C業界に対する理解が深まり、ほかの創業者たちがどのような方針や戦術をとっているのかをがうまく働いているかを知ることができたという。より深く理解できるようになった。また、その過程で同氏はいくつかの契約を結ぶこともできた。

「聞く、話すといった行動がもっとも重要だと、私は考える」とシャイン氏は述べている。

自分の先入観を超えて考える

すべてのブランドの業績が壊滅的なわけではない。たとえば、ランジェリーブランドのアドアミー(Adore Me)は設立されて10年以上になるが、2憶ドル(約296億円)を超える収益をあげ、2018年から収益性を維持している。賃借対照表では、アドアミーは老舗D2Cブランドのなかで輝いている実例に見える。同社の収益のほとんどはオンラインで、デジタルの顧客獲得に強く特化しており、活気に満ちたインフルエンサーマーケティングプログラムを行っている。しかしアドアミーには、たとえばワービーパーカー(Warby Parker)と大きく異なる点がひとつある。それは、アドアミーが、自分たちを大衆向けブランドだとみなしていることだ。

「当社の収益配分は米国の人口とほぼ完全に一致している」と、同ブランドの戦略担当バイスプレジデントを務めるランジャン・ロイ氏は語る。すなわち、テキサス州は米国の人口の8.7%を占め、アドアミーの合計売上額の約9%を占めている。「つまり、当社は全国に等しく展開している」。

ロイ氏によれば、同氏が常に繰り返している最大のスローガンは、「自分の顧客が誰なのか」を常に考えることだ。同氏は次のように述べている。「我々は常に、自分たちは顧客ではないと自らに言い聞かせる必要がある。我々は、『自分ならこのように買い物をするだろう』という先入観から考えはじめてしまう傾向がある。これを行うとブランドの前途は厳しくなる。特に、自分たちが住んでいる地域以外の人たちにアプローチしようとする場合にそうすると、ブランドは困難に直面することになる」。

そこでアドアミーは、メッセージングを工夫し、オーディエンスにさらに適切なメッセージを見つけ出した。たとえば、沿岸地域のミレニアル世代の顧客ベースは、誰かの夫について言及している広告に共感しないかもしれない。しかし、アドアミーの顧客は共感する。同様に、同社はサステナブルな素材調達に注力しているが、その事実を自社の顧客に対してマーケティングのため強調してはいない。これは、このようなマーケティングがよく受け止められないことが明らかになったためだ。

LTVは新しいCAC

ほとんどの参加者が考えていたのは、投資対効果を最大にすることだった。これについては、顧客の維持やロイヤルティが真っ先に思い浮かぶ。ロイ氏にとっては特に重要なものだ。アドアミーはFacebookの広告プラットフォームの最盛期には顧客を獲得できていたが、iOS14がリリースされてからは顧客獲得がはるかに困難で、コストが高いものになった。同ブランドはTikTokのようなプラットフォームに投資したが、その一方で既存の顧客を維持する方法についても考えを巡らせていた。

「当社は顧客の維持とロイヤルティを重視してきた」とロイ氏は語る。「CAC(顧客獲得コスト)の議論に欠けているのは、LTV(生涯価値)の側面だ」。すなわち、「顧客のLTVを増やすサービスや商品とロイヤルティプログラムを見つけることができれば、CACが多少増加しても問題ではなくなる」。

この目的のため、アドアミーは2つのメンバーシップモデルを作り上げた。同社には自宅での試着サービスがあり、顧客は商品を気に入るかどうか試すことができる。また、月額のメンバーシップもあり、割引などの特典を受けられる。ロイ氏によれば、顧客に「買い物をする口実」を与えるというのがここでのアイデアだ。このプログラムは成果をあげており、同社の収益の4分の3近くは、同社のメンバーシップか、ほかの持続的な収益プログラムからのものだ。

ロイヤルティについて考えているブランドはアドアミーだけではない。たとえば宝石類ブランドのジェーンウィン(Jane Win)は、創業者でプレジデントを務めるジェーン・ウインチェスター・パラディス氏によれば、顧客を維持するためにはカスタマーサービスが極めて重要であることを理解し、カスタマーサービスの部門全体をマーケティングの下に移動させた

ハンドバッグブランドのカラー(Caraa)も、顧客維持のためのサービスを改修しつつある。共同創業者のアロン・ルオ氏は次のように述べている。「当社には以前からロイヤルティプログラムが存在した。今年と来年は、このプログラムにさらに本腰を入れていく」。

同氏にとって、このプログラムは高価なパフォーマンスマーケティングへの依存を減らして多様化する方法であり、同時により良いデータを収集するための方法でもある。「Cookieや顧客獲得方法について考える代わりに、当社はロイヤルティプログラムやリターゲティング(たとえばクラビヨ[Klaviyo]など)を通じて、顧客データを直接獲得しようと考えている」。

これはコストの高い試みであり、2015年前後のFacebook広告プラットフォームのように、ごく簡単にターゲティングが行えるものではなく、また、単純に解決策が見つかるものではない。しかし、「より多くのファーストパーティーデータを収集できれば、リターゲティングを行うのに有利になる」。

ビジネスの予測のリセット

おそらくもっとも重要な点として、各ブランドは収支決算について考えている。パターンブランドのシャイン氏によれば、昨年は「極めて困難だが、従来にも増して重要となった利益への集中」が行われている。同氏はこれを「現金は自由を意味する」と表現している。資金の調達が従来よりも困難ないま、これは特に的を射ている。

ルオ氏によれば、カラーは常に収益性を重視し、ゆっくりと持続的に成長することを心がけてきたという。しかし、この1年間のもっとも大きな変化は目標の再設定だ。「当社は、目標を調整しなければ、現在の環境で積極策をとり顧客を獲得するのはリスクが大きいかもしれないことにすぐに気がついた」。

顧客を獲得するための方法は値引きであり、それはカラーが取りたくなかった戦術だという。一回限りの顧客を引き入れるために大幅な割引を行うくらいなら、「売上額の予測を再設定するほうがよい」と同氏は述べている。

同氏はむしろその代わりに、持続的に売上を伸ばし、現在の顧客がブランドに満足しているかに注力することが適切だと考えた。「プロモーションは強硬路線で、当社は常に控えている」と同氏は述べている。「私は、すでにある顧客との関係において親密に業務を行うことを選ぶ」。

[原文:DTC Briefing: How DTC founders have changed their playbooks in 2022]

CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Jane Win

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