2021年8月7日の記事を編集して再掲載しています。
私たちの世界は恐竜まみれ。
暴れん坊のティラノサウルスや、ビルのごとくそびえ立つ巨大なブラキオサウルスは、とっくの昔に地球上から姿を消してしまいました。でも私たちのまわりには今だって恐竜たちが自由に飛びまわっているって、知ってました?
そう、鳥たちです。
鳥の祖先が恐竜だったと聞いたことはあっても、鳥こそが正真正銘の恐竜だって聞いたことはあまりないですよね。ですが、根拠はちゃんとあるそうなんです。以下、米GizmodoのDvorsky記者の熱のこもったコラムをどうぞ。
すべての鳥は恐竜だ
間違っちゃいけません。鳥は恐竜そのものです。恐竜の末裔なんかじゃありません。6600万年前、巨大な隕石が落ちてきて生物の大量絶滅を引き起こしたときに、鳥類以外の恐竜はすべて地球上から消え去りました。しかし、いくつかの鳥の種(地上で暮らしてたっぽい)は天変地異を凌ぎ、親類の恐竜たちが次々と死に絶えていく中で瞬く間に勢力を拡大していきました。
「窓辺でさえずっているかわいらしい小鳥たちは、この地球上に現存している唯一の恐竜たちです」とクレムソン大学のキャンベル地質学博物館館長・スミス(Adam Smith)さんはメールで書いています。
鳥は恐竜の一種なんです。ですから”鳥は恐竜の末裔である”と言うのは”ヒトは哺乳類の末裔である”と言っているのと同じです。要は、すべての鳥は恐竜だけど、すべての恐竜が鳥だとは限らないんです。
鳥類と恐竜とが系統学的にリンクしているらしいことは、なにも最近わかったわけではありません。19世紀後半に活躍したイギリスの博物学者・ハックスリー(Thomas Henry Huxley)は、当時の固定概念を覆すべく、勇気を出して鳥類が恐竜から進化したと主張しました。サイエンスライターのブラック(Riley Black)が2010年に書いているように、「ハックスリーの主張は現在私たちが知っていることを完璧に予測したものではなかった」ものの、優秀な解剖学者だった彼は明らかになにかを掴みかけていました。
そして、その後現在に至るまで、科学者たちは鳥が恐竜の一種だと裏付ける数々の特徴を発見してきました。ネブラスカ大学のライオンズ(Kate Lyons)助教は、古生物学者に”鳥は恐竜だ”と言わしめる所以はひとつどころではなく複数のエビデンスによって支えられているとメールで書いています。
さらに、エジンバラ大学の古生物学者、ブルサット(Steven Brussatte)氏は、鳥が恐竜だと言い切れるロジックは、コウモリが哺乳類であることと似ていると説明しています。
鳥は小さくて羽根を持ち、翼をはばたいて飛ぶことができます。これは、私たちが通常持っている恐竜のイメージからはかけ離れたものですよね。類似している関係性をコウモリにも見ることができます。コウモリも小さくて翼を持ち、飛ぶことができますし、犬・ゾウ・類人猿などのほかの哺乳類とは似ても似つきませんが、それでも彼らはれっきとした哺乳類なんです。
その言葉どおり、コウモリは哺乳類にしか見られない特徴をいくつも持っています。体毛、大臼歯、3つある耳骨もそうですし、子どもを母乳で育てるのもそうです。同様に、鳥にも獣脚類の恐竜にしか見られない特徴が見られるとブルサット氏は言います。
鳥と恐竜の共通点
たとえば、羽根。
鳥が恐竜であると結論づけるエビデンスが多数ある中でも、羽根の存在はもっとも説得力のあるエビデンスと言えるでしょう。羽根は今では鳥だけが持っている特徴ですが、化石記録を見てみると鳥類ではない恐竜が羽根を生やしている例はいくらでも見つかるため、科学者たちは鳥が恐竜の一種であると考えています。
この考え方に懐疑的な人は、鳥と鳥類以外の恐竜のどちらもに羽根が見られるのは収束進化の一例だと反論するでしょう。収束進化とは、関連性のないふたつの独立した種が進化の過程で同じような特徴を取得することを言います。しかし、クレムソン大学のスミス氏は、恐竜と鳥の場合、収束進化の原理が働いた可能性は低いと考えているそうです。
鳥類ではない恐竜の化石に羽根の存在が確認された例の多くは、ベロキラプトルやシノサウロプテリクスのように、以前からそれぞれ鳥類に系統的に近いと仮定されてきた種でした。
それに、羽根というのはとんでもなく複雑な構造をしているんです。収束進化が似たような体の構造を作り出したり、表面上は体がそのままそっくり似ることはよく見られますが、収束進化が羽根のように複雑な構造を極めてミクロなスケールで、極めて忠実に複製した例はこれまで皆無です。
恐竜から鳥へと受け継がれた系譜
さらに、系統学とは生物が進化してきた過程でお互いどのように影響し合ってきたかを研究する学問ですが、ここでも鳥が恐竜だというエビデンスが集まりつつあります。
映画『ジュラシック・パーク』みたいだったらいいんですけど、琥珀の結晶から古代の恐竜DNAを抽出して分析することなど現在では不可能です。ですから、系統学の専門家は化石として残された骨格や体の構造を比較することで、種と種の間に共通している特徴を探し出します。
この観点から、ブリストル大学地球科学部で学んでいる博士課程の大学院生・ロウ(Andre Rowe)氏は「鳥が獣脚類の恐竜の系譜を受け継いでいることは系統学的にほぼ確証されています」とメールで説明しています。獣脚類とはティラノサウルス、アロサウルス、コンプソグナトゥスを含む肉食恐竜。この獣脚類の骨格と鳥の骨格とを比べてみると、「お互い進化してきた過程に急激な変化は見られず、むしろ何百万年もかけたなめらかなトランジションが行なわれたことがわかる」そうなのです(ロウ氏)。
マカレスター大学で脊椎動物の系統学を学んでいるロジャーズ(Kristi Curry Rogers)氏は、
時を逆行して鳥の基本的な骨格の進化をたどってみると、もっとも初期に現れた恐竜たちにまで遡ることができます。恐竜と同じく、鳥は歩行の際に脚を体の真下で動かします。また、鳥の成長速度が速いのも恐竜から受け継がれてきた特徴です
とメールで具体例を挙げています。
また、オクラホマ大学で系統学と解剖学を教えるバラード(Holly Woodward Ballard)准教授曰く、
鳥は現存しているどの生物よりもすでに絶滅した恐竜と多くの特徴を共有していることから、鳥は恐竜だと言うことができると思います。
さらには、羽根以外にも「叉骨(ウィッシュボーン)、含気骨(気嚢の入り込んだ骨)、回転する手関節」など鳥と恐竜とに共通している特徴はほかにもたくさんある、とブルサット氏は説明しています。
鳥は特殊な構造をした手関節を持ち、真後ろに曲げることができるために翼を折りたためるそうです。カルガリー大学で系統学と進化生物学を修めるセオドア(Jessica Theodor)氏によれば、この同じ構造が翼を持たなかったコエルロサウルス類にも見つかっており、獣脚類の進化を通して徐々に変化してきたこともわかったそうです。
呼吸・消化・育児の仕方にも共通点
手関節以外にも共通点が。
ニューメキシコ大学生物学部で博士課程を学んでいるシュローダー(Kat Schroeder)氏は、鳥類に見られる「複合仙骨」と「尾端骨」ついて、こう説明しています。
複合仙骨とは腰部分の上にかかる脊椎骨の融合を意味します。背中を強化することで飛行を補助する働きをします。また、尾端骨は尾椎の末端部分が融合したもので、尾羽を支えています。この尾端骨はオビラプトロサウルスやオルニトミモサウルスなどの鳥類以外の恐竜にも見られる特徴で、これらの恐竜はひょっとしたら長い尾のかわりに扇子状に広がった羽根を持っていたかもしれません。
また、セオドア氏は
鳥の肋骨には「鉤状突起(uncinate process)」と呼ばれるかぎ状の突起があり、呼吸の際に胸部の筋肉の動きを助ける働きをします。これはオビラプトル、そしてドロマエオサウルスにも見られる特徴です
と説明した上で、
これ以外にも鳥の骨格には恐竜の骨格化石と類似した構造がいくつも見つかっていることから、系統発生上の分析により同様に分類されています
とも書いています。
さらに、恐竜の中には抱卵行動が認められているものもいますが、これは現代の鳥にも見られる行動であることは明らかです。もうひとつ、鳥と恐竜はどちらも胃石を食物の消化に役立てている点でも共通しています。
遺伝子に書かれた証拠
すでに書きましたが、絶滅してしまった恐竜のDNAを採取して調べることは不可能です。けれども、現代における恐竜たちのDNAを調べることは可能です。
鳥というのは本当は飛ぶことを覚えた小さな恐竜たちです。その証拠は古代の恐竜たちの化石記録からも、今生きている鳥たちの骨格やゲノムからも読み取れます
とマカレスター大学のロジャーズ氏。
現代の鳥たちの遺伝子の奥深くにはもっと獰猛だった過去の記憶が眠っています。もっと長く、もっと力強い尾や牙を生やすための失われた遺伝子プログラムがまだ閉ざされたまま残っているのです。
鳥が恐竜である証拠は、すべてここにあります。遠い昔に死滅した恐竜、そして現在も空を飛び交っている恐竜たちの骨と体の中に!
ということで、次回ハトに遭遇したり、カルガモがどこかの池で泳いでいるのを見かけたら、恐竜と遭遇したと思ってみてください。鶏の唐揚げを食べているんじゃなく、じつは恐竜の肉を喰らっているのだと思ってみてください。どおりでカラスに襲われると恐怖を感じるわけです、恐竜に襲われているわけですから。