ファッションブランドは、 大幅割引 を避けるための戦略を練っている:パック・アンド・ホールド方式採用も

DIGIDAY

季節や年度を問わず過剰在庫はファッションブランドや小売業者にとっては問題だが、これは2022年末にかけて特に顕著になると思われる。インフレ率の上昇によってアメリカの消費者の消費行動は控えめになり、また前シーズンからの遅れた在庫もある。これはブランドが過剰在庫に取り組まなければならないことを意味している。

大幅割引が意味すること

この課題にブランドはさまざまな方法で対応している。もっともありうるのは大幅な割引だ。アーバン(URBN)のCEO、リチャード・ヘイン氏は、同ブランドを含め業界全体の多くのブランドが在庫をさばくために大幅値下げに依存しなければならなくなるだろうと予測している。

「競合他社の計画はわからないが、全体的に在庫が多すぎると思う」とヘイン氏は8月の収支報告の際に語っている。「流血という言葉は使いたくないが、割引や値下げの量という点ではひどい状況になるだろう」。

ギャップ(Gap)やアバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)のようなブランドは夏の間商品を大幅に値下げしたが、このアプローチは理想にはほど遠い。過度の値引きにより顧客はセールを期待するようになり、割引価格でなければ買わなくなる傾向を生む。また、利益に大きく影響しかねない。ギャップの粗利益率は今年上半期に820ベーシスポイント減少したが、220ベーシスポイントは特に値引き率の上昇によるものである。アメリカンイーグル(American Eagle)の最新の収益報告書によると、同社は割引によって春夏の在庫を完売したが、それは今年の第2四半期に3000万ドル(約43億円)の損失を計上している。

パック・アンド・ホールドで対処

値引きだけではブランドの在庫問題は解決しない。そこで、ファッション企業はパック・アンド・ホールドの実施やオフプライスの清算業者との協働などの手段でクリエイティブに対処している。

ギャップとコールズ(Kohl’s)は、どちらも売れ残りの在庫を清算せずに保管して翌年に定価で販売するというパック・アンド・ホールドを利用している。ギャップの場合は売れ残ったTシャツ、ショートパンツ、タンクトップなどの季節限定の服を保管して、来夏に販売できるようにしている。

ギャップの最高財務責任者、カトリーナ・オコネル氏は先月の収支報告で、「パック・アンド・ホールドの在庫を将来の品揃えと統合できると確信している」と語った。

パック・アンド・ホールドにはマイナス面もある。それは、該当する在庫はその年の運転資本ではないという点だ。また、その売れ残りの在庫が翌シーズンにも売れ残ってしまえは流行遅れになってしまう。

在庫処分を担当するプラットフォームが登場

売れ残った在庫を処分するストレスを軽減するために新しいプラットフォームが次々登場している。ブランドとTJマックス(TJ Maxx)やバーリントンコートファクトリー(Burlington Coat Factory)などの割引業者をつなぐB2Bマーケットプレイスであるゴースト(Ghost)は、2021年10月にソフトローンチし、先月2000万ドル(約29億円)の資金を調達した。過去2カ月でゴーストの取引は375%増加した。これは、多くの大手ブランドが在庫を取り除く方法を模索しているためである。

ゴーストの共同創業者、ジョシュ・カプラン氏は提携ブランドの名前を出すことは控えた。ゴーストが自社サービスをブランドにアピールするなかには(ブランドとの提携を公にしないという)ない内密性があるからだ。社内でさえもすべての顧客企業を知らない社員がいるが、カプラン氏によると世界最大手のファッション企業やアパレル企業数社が含まれているという。

「このビジネスを構築し始めたとき、関係構築と在庫の処分にもっとも支援を必要としているのは小規模なD2Cブランドだと予想していた」とカプラン氏は語る。「だが、世界最大手のブランドでさえオフプライス販売業者の1、2社としか関係を築いていないことが多いのが実状だ」。

カプラン氏は、ゴーストを通じて収集したデータから考慮すると年末にかけて値引きやオフプライスの在庫が増加するだろうと述べている。特に、これまでTJマックスやロス(Ross)のような小売業者を通じて販売したことがないブランドが登場すると思われる。

「ラグジュアリーブランドや通常は在庫の行方を公表していないブランドから多くの関心が寄せられている」とカプラン氏。「当社が高く評価されていることのひとつには、在庫を販売する場所についてのパラメーターを設定できる点がある。たとえば、ブランドは米国外でのみ割引価格で販売したいと言うこともできる。これはビューティブランドに特に人気の高いオプションだ」。

過剰生産と過剰在庫に対する計画策定を支援する企業

ダン・リーヒー氏はメイカーサイツ(MakerSights)の共同創業者である。同社は、ブランドが過剰生産とその後の過剰在庫を回避するために事前に計画するのを支援する。リーヒー氏はブランドは過剰在庫に関してよりインテリジェントに計画を立て始めなければならないと述べている。

「流通を向上させるために難しい短期的な決断を下したブランドは、多くのデパートで在庫が急増していることから懸念される、ブランドにとっては苦しい割引に直面することがはるかに少ないことに気づいている」とリーヒー氏。「そして、消費者への深い理解と、そのニーズと欲求を満たす品揃えに投資するブランドは、不要な在庫による割引を減らし、競合他社が横行する値引き合戦に苦しんでいるときに平均ユニット小売を増やすことができる」。

[原文:Fashion brands are strategizing to avoid a discounting ‘bloodbath’

DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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