ブランドが実店舗に頼るなか、新たな 小売戦略 が浮上【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

デジタル広告のコスト上昇に伴い、顧客にリーチするために新たに店舗をオープンするファッション企業が増えている。2020年以降、実店舗の形を新しく作り変えようという傾向がますます加速しており、こうした企業もその点を視野に入れた革新的なアプローチをとっている。

今回のブリーフィングでは、以下の4つの事例を紹介する。

・マルチフラッグシップを展開するワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンド
・サービスファーストのリテールアプローチを取るソーホーハウス
・棚貸し式ビジネスモデルのリドレス
・ブランドイメージに適した店舗の立地を重視するクリスチャン・コーワン

3ブロック内にふたつの旗艦店:ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの大胆なソーホー計画

3月21日、創業29年となるラグジュアリーヴィンテージ小売業者ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンド(What Goes Around Comes Around)は、本店となる旗艦店の4月7日の再オープンを祝うパーティへの招待状を業界関係者にeメールで送付した。

ソーホーのウエストブロードウェイにあるこの店は、建物内のスプリンクラーの故障による甚大な被害を受けて1年近く休業していた。閉店を余儀なくされた創業者のセス・ワイザー氏とジェラード・メイワン氏は、この機会に店舗を統一感のあるデザインにすることに注力し、完成させることにした。ふたりは2003年に隣接する店舗を手に入れて、仕切りの壁を取り払ってはいたものの、空間が一体化していなかったのだ。6年前にオープンしたビバリーヒルズ店のミッドセンチュリーモダンのデザインがインスピレーションの源になった。

店舗ごとに異なる役割とマーチャンダイズ

改装工事中、ワイザー氏とメイワン氏は、わずか3ブロック先のウースターストリートの、ちょうどスプリングストリートとプリンスストリートの間に位置する場所にポップアップショップをオープンすることにした。ワイザー氏いわく「信じられないほどよい反応」が得られたことから、彼らはその店をブランドにとって3店舗目となる常設旗艦店にすることを決定した。

ウースターの店舗に関しては「あのブロックには別の顧客がいる」とワイザー氏は言う。「近隣の人々の往来という点で、より買い物客が多いと予想される場所だ」。

それと比較すると、本店は「買い物の目的地」であり、ブランドの「アイデンティティ・ストア」としての役割も果たしているという。

それぞれの店舗では商品のマーチャンダイズも異なる予定だ。ウースター店では、より直接的に最近のリセールブームに対応して過去10年から15年の中古スタイルを販売する。一方、ウエストブロードウェイ店は、80年代と90年代のスタイルを専門とした、本物のヴィンテージを提供するという同社の評判により近い形となる。

eコマースよりも店舗と卸売チャネルで成功

最近の中古品市場が混雑するなかで、ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドが差別化を図っている重要な点は、委託販売でアイテムをリセールするのではなく、売り手から商品を購入していることだとワイザー氏は述べた。新たな競争相手に奪われることなく、売り手と買い手を維持することに力を入れていると彼は言う。そしてその競争は激化している。

他のリセール企業は「かなり資金力がある」と彼は認めているが、ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは外部からの投資を受け入れていない。しかし、今後も引き続き事業拡大を目指すため、現在では資金調達が検討事項だという。

またワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、eコマースサイトの売上比率がもっとも低いというのも特徴的だ。店舗での売上のほうが多く、卸売りチャネルはさらに多くなっている。キース(Kith)、グープ(Goop)、ショップボップ(Shopbop)、さらにはディラーズ(Dillard’s)など、20の小売業者を通じて密かにヴィンテージ・スタイルを販売している。

「アラバマ州タスカルーサでラグジュアリーがうまくいくと思う人はいないかもしれないが、地元のディラーズで買い物をする女性は、ソーホーの女性と同じようにルイヴィトン(Louis Vuitton)のバッグを買いたいと思っている」とワイザー氏は指摘した。

パンデミックで高級品を投資とみなす消費者が増えている

パンデミックが始まってからは、特にその傾向がある。ラグジュアリーファッションのアイテムを収集価値のある投資として考える消費者が増えているのだ。最近ラグジュアリーブランドが価格を大幅に引き上げたことで、この考え方はより強く印象づけられている。

「二次市場の価格は(一次市場の)価格上昇を反映している」とワイザー氏は指摘した。「ここ2、3年で、シャネル(Chanel)のヴィンテージカタログに掲載されているものはすべて約2倍の価格になっている。以前はシャネルのジャンボクラシック(ハンドバッグ)に7000ドル(約86万5000円)の値を付けていたが、今では9000ドル(約111万2500円)から1万ドル(約123万6000円)になっている」。

そして同時に、ラグジュアリーの買い物客はますますリセールに目を向けるようになっている。「この2年間、そうした買い物客は以前のようにシャネルやグッチ(Gucci)の店に行くことができなかった」とワイザー氏は述べた。

サービスファーストのリテールというソーホーハウスの策略

「総合ライフスタイルブランド」になるというミッションに取り組むブランドが増えているが、明らかにその先頭に立っているのが会員制クラブのソーホーハウス(Soho House)である。ホームファニシングやナチュラルビューティ製品の小売オファーを足場に、同クラブは今月スキンケアブランドのソーホースキン(Soho Skin)をデビューさせた。

11万8000人いる会員の生活の多くの側面に対応するという意味で、このスキンケア事業は、ソーホーハウスのレストラン、映画館、ワークスペース、スパ、ホテルと同様に、ソーホーハウスの悪名高いクラブ(ヨーロッパ、北米、アジアにある)を当てにしている。近いうちにファッションも登場するかもしれないと、ソーホーハウスのリテールのマネージングディレクター、アーリッシュ・ヨーク=ロング氏は言う。

「すべては会員から始まり、会員がどのように生活しているかを考えることから始まる。だから、もし会員がファッションを求めるなら、ファッションをローンチするかもしれない」と彼女は述べ、「それは来年かもしれない」と付け加えた。

ロックダウン中に会員向けサービスを充実

ソーホースキンの11の製品は、3週間前にソーホーハウスの「ベッドルーム」(ホテル)を通じて、会員に向けて限定的にローンチされた。会員は現在、提供されたQRコードから製品の感想を伝えることができる。これらの製品は6月にはソーホーハウスのヘルスクラブで提供されているトリートメントの中心となり、会員が購入できるようになる予定だ。さらに9月にはSohoSkin.comおよび戦略的小売パートナーを通じて、一般にも販売される。

6年前にローンチしたソーホーホーム(Soho Home)は、現在、ネッタポルテ(Net-a-Porter)やセルフリッジ(Selfridges)などの小売店で販売されている。さらに、同ブランドは11月にニューヨークのミートパッキング・ディストリクトに初の店舗をオープンするなど、ヨーク=ロング氏いわく「ますます強力に」なっている。年内にはLAにもソーホーホームの店舗をオープンする計画だ。

ソーホースキンは「ロックダウンが生んだ」とヨーク=ロング氏は述べ、パンデミックがソーホーハウス全体に及ぼした「極度の」影響を指摘した。「すべてのハウスが閉鎖された」と彼女は言う。「そこで会員が戻ってきたときのために、私たちが提供するすべての体験を、より大きく、よりよいものにする方向に転換した」。

それと歩調をあわせてソーホーハウスはデジタルブランドとなり、ヘルスクラブのレッスンのライブストリーミングなど、オンラインサービスを追加しているという。

重視するのは会員の体験を豊かにすること

ヨーク=ロング氏は、製品販売が事業に占める割合については言及しなかったが、「ロックダウンは小売には有益だった」として、過去2年間は小売がその野望を上回ったと述べるにとどまった。

「ソーホースキンはサイエンス主導」で開発されたため、外部パートナーの協力があって実現した、とヨーク=ロング氏は話すが、詳細については教えてもらえなかった。だがブランドの成長とともに、ソーホーホームのときと同様に、すべての業務を自社で行う計画である。

ソーホースキンのキャッチフレーズは「モダンリビングのための知的なスキンケア」で、会員の多忙な生活を念頭に置いた、無駄のない合理化された製品ラインが考慮されている。ソーホースキンの1年間におよぶ開発プロセスには、アンケート、フォーカスグループ、テストパネルなどさまざまな手段を通じて会員が参加した。

また、会員からのフィードバックをもとに、今後1年以内にリリースされる予定の「製品の強力なパイプライン」があるとヨーク=ロング氏は述べている。また同ブランドのソーホーチャンス(Soho Chance)プログラムを通じて会員がさまざまなサプリメントも作っており、ソーホースキンブランドの名の下でリリースされる予定だ。

「インフルエンサーという言葉は、ソーホーハウスでは汚い言葉だ」とヨーク=ロング氏は述べたが、同社はしばしば会員とコラボレーションし、会員の仕事のためのプラットフォームを提供していると話した。

小売業はソーホーハウスにとって明らかに重要度を増しているが、ソーホーハウスが店舗へと進化することは期待できない。「私の仕事でもっとも微妙なニュアンスがあり、最大の責任を伴う点は、人々がショッピングの中心地にいるように感じさせないことだ。人に強制的に押し付けるようなことはしたくない」とヨーク=ロング氏は述べた。「(私たちの製品は)会員の体験を豊かにするためのものなのだ」。

新たなビジネスモデルが浮上:棚貸しがリセールに参入

最近ではあらゆるもののデジタル化が加速しているにもかかわらず、ここ数年で急成長しているもっとも革新的な小売コンセプトのひとつに、小売店における新たなアナログの採用があるのは間違いない。それを一番よく表している棚貸しというビジネスモデルは、そのシンプルさゆえに、あるいはシンプルなのにもかかわらず、うまくいっている。

売り手と買い手の両方に好評

11月にロサンゼルスで誕生したリドレス(ReDress)は、創業者のカティ・カネルヴァ氏いわく、母国フィンランドでは何十年も前から盛んだっというこの棚貸しというコンセプトを米国に導入した。要するに、自分のクローゼットにあるアイテムを売りたい人は、この店にある50のハンガーラックのひとつを1週間99ドル(約1万2200円)、2週間149ドル(1万8400円)で借りることができる。ラックには50点の洋服に5点のアクセサリーまで置くことができ、レンタル期間中にアイテムが売れたら補充することが可能で、また同社のオンライン予約システムで売れ行きを確認することもできる。同時に、たとえばポッシュマーク(Poshmark)にスタイルをアップロードする学習曲線も避けることができる。価格は売り手が決めるが、リドレスは最善の方法を売り手に提供し、各売上から15%の手数料を取る。

カネルヴァ氏いわく、リドレスはザラ(Zara)からプラダ(Prada)までさまざまなスタイルを販売している。主にInstagramの広告を通じて情報を発信しており、さらにロサンゼルスの活気あるアトウォーター・ビレッジ地区(ファーマーズ・マーケットが開催される人気のショッピングエリア)に店を構えていることが、十分な集客につながっている。リドレスはローンチ以前から「重要なインフルエンサー」や「多くのものを所有している」スタイリストに接触することを習慣にしていた、とカネルヴァ氏は言う。それが功を奏して店舗のラックはつねに埋まっている状態であり、現在では2カ月待ちとなっている。最大のレンタル期間は1カ月だが、ほとんどの売り手は2週間のレンタルオプションを選んでいる。

デジタルリセールプラットフォームにはない利点

「売り手は通常、自分のラックについて割り当てられたラック番号を明記してInstagramに投稿する。リドレスも、4300人のフォロワーがいるInstagramのアカウントでラックを紹介する。アカウントのハイライトには『Vendors(ベンダー)』というスポットライトがあって、そこでこれまでのすばらしい収益を大きく紹介している。たとえば、ある出品者の画像には『クリスティーナは2週間で1325ドル(約16万3600円)を達成!』といったキャプションがついている」。

全体としては、Instagramのおかげでロサンゼルス市外から買い物客を呼び込むことができた、とカネルヴァ氏は話す。そしてその需要を考慮して、年内にはLAに2店舗目のリドレスをオープンする予定だ。このコンセプトをほかの都市でも展開するというのが、より長期的な目標である。

デジタルリセールプラットフォームは、売り手が服を販売する際にすぐ利用できる方法を多大な努力を払って提供しているが、現実世界でのこうした新しいコンセプトは、デジタルにはまだあまり詳しくない人々にもより快適な選択肢を提供している。さらなる利点として、ほかの物理的なリセールオプションとは異なり、このモデルでは売り手のアイテムを厳しく評価することはなく、リドレスが拒否するのは状態の悪いアイテムのみだ。つまり、高慢な店員にスタイルを断られる可能性はほぼないということだ。私たちのだれもが、そんな経験をしているだろう。

クリスチャン・コーワンがブランドイメージに完璧に合った立地で1号店をオープン

3月24日夜、英国人ファッションデザイナーのクリスチャン・コーワン氏は、ニューヨークのソーホー地区のブランド初となる小売店のグランドオープニングイベントを開催。創業から5年のクリスチャンコーワン(Christian Cowan)にとって実店舗への飛躍は、コーワン氏いわく、立地、とにかく立地、「一生に一度の」立地がすべてだったという。

彼は自分のブランドは「グラマラスなナイトライフの上に築かれた」ものであり、店舗空間の背景にあるストーリーとぴったり合っていることを指摘した。

「(この店舗には)独自のグラマラスな歴史がある」と彼は言う。そこは、1980年代半ばにグレース・ジョーンズ氏のレストラン「ラ・ヴィ・アン・ローズ(La Vie en Rose)」があった場所だった。またかつてアンディ・ウォーホル氏、キース・ヘリング氏、ジャン・ミッシェル・バスキア氏、ジュリアン・シュナーベル氏などが頻繁に訪れたアートスペースでもあった。そしてオノ・ヨーコ氏がジョン・レノン氏の作品展を開催するために借りたスペースでもある。

「我々がここを引き継ぐ許可を得るまで、5年も空き家のままだった。ファンタジーが実現した」と彼は述べた。

「クリスチャン・コーワンのルックは、グラマラスなフルフェイスのメイクアップなしには完成しない」として、店内にはスマッシュボックス(Smashbox)の製品をそろえたビューティステーションが設置されている。さらにスマッシュボックスのプロのアーティストがコンサルテーションや製品の試着を行うために常駐する予定だ。

スレッドスタイリングの新たな資金調達ラウンドについて、創業者ソフィー・ヒル氏に4つの質問

3月21日、イギリスに拠点を置く創業13年となるチャットベースのショッピングプラットフォーム、スレッドスタイリング(Thread Styling)は、1200万ドル(約14億8940万円)の資金調達ラウンドを発表した。このラウンドは、ハイランドヨーロッパ(Highland Europe)やCベンチャーズ(C Ventures)などの既存投資家が主導している。また、クラウドファンディングプラットフォームのクラウドキューブ(Crowdcube)を通じて、スレッドスタイリングの顧客が同社に投資することを許可するデュアルレイジング戦略も採用されている。

同社は今回の資金調達によって、DMやチャットだけでなく、eコマースサイトやライブショッピングイベントなどを含むサービスチャネルの拡大を目指す。スレッドスタイリングはまだ利益を出していないといわれており、2021年の売上は約6000万ドル(約74億924万円)だった。

3月23日に行われたインタビューで、創業者でCEOのソフィー・ヒル氏がこのニュースについて詳しく語った。

買い物客の層の内訳と、その層にいま共感されていることは何か?

「地域的には、ヨーロッパと中東に強い顧客基盤があり、米国とAPACは急成長している市場となっている。さらにスレッドスタイリングの顧客の8割はZ世代やミレニアル世代だ。この層は、そのシーズンのホットなマストアイテムのスタイルにとても興味を持っているが、さらにレアなオーダーメイドやパーソナライズされたアイテムへのトレンドも強まっている」。

eコマースのローンチの原動力となったのは何か?

「インスピレーションとパーソナライズされたサービス(を提供すること)が、スレッドスタイリングのユニークなアプローチの核心であり、ソーシャルコマースとチャットコマース上にそれを構築してきた。そして同じ創造性、サービス、テクノロジーを新しいeコマースプラットフォームに統合することで、自分たちのDNAに忠実でありながら、成長を促進することができると考えている。顧客はその時々のニーズに合わせて(どのプラットフォームでも)買い物ができることを知ってほしい。顧客に最高のサービスを提供できるように、引き続き進化して拡大していくつもりだ。

私たちの成功は業界でもっともすぐれたパーソナル・ショッピングの人材を惹きつけており、そうした人々を確保している。そしてこのチームによる広範囲にわたって顧客にサービスを提供する能力は、私たちのeコマースプラットフォームがチャットベースやその他のカスタマージャーニーを幅広くサポートするにつれてさらに成長していくだろう」。

高価格帯の顧客への対応方法で独自の点は何か?

「顧客が欲しいものを探し出すためなら、どんなことでもやるというのが私たちの誇りだ。美術館のアーカイブにあったサンローラン(Saint Laurent)のヴィンテージブーツが、たまたま顧客のサイズにぴったりだったので、それを売るように美術館を説得したこともある」。

クラウドファンディングキャンペーンの動機となったものは?

「スレッドスタイリングのコミュニティは非常に熱心で、その意見はとても価値があるものなので、投資して私たちの成長を共有しようとコミュニティに呼びかけることは理にかなっていた。クラウドファンディングは自然な次のステップだと考えている」。

[原文:Fashion Briefing: New retail strategies are emerging as brands fall back on physical stores]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)

Source

タイトルとURLをコピーしました