16万人が来場!:メタバースイベント、アフロテックの中身

DIGIDAY

この夏、Facebookは今後5年から10年をかけて、SNS企業からメタバース企業への移行を進めると発表した。そしてこの一報を機に、メタバースという言葉が日常単語の仲間入りを果たした。

その一方で、デジタルメディア企業のブラヴィティ(Blavity Inc.)では、2年前からメタバースは、バーチャルイベント戦略の中核をなしている。同社は、毎年恒例のイベント、アフロテック(AfroTech)をバーチャルで開催するにあたり、受け身になりがちな参加者の姿勢やZoom疲れへの対策として、メタバースというメディアの活用にいちはやく乗り出していた。

ユーザーにとって、さらには広告主にとっても、メタバースは快適で気安い空間になりつつある。当然、パブリッシャーたちもこのデジタル世界のイノベーションにさらなる投資を続けるものと見込まれる。

アフロテックは、テクノロジー業界で働く熱心で革新的な黒人を一堂に集め、多くの求人担当者に引き合わせるためのカンファレンスだ。バーチャルでの開催は今年で2年目となり、11月8日から13日の日程で開催された。2021年のアフロテックでは、全米各地で対面式のハッピーアワーや小規模なイベントも開催されたが、カンファレンスの大部分は、2年連続で同社のためにカスタム開発されたメタバース空間でおこなわれた。

「これは恒久的な戦略の転換であり、一過性のものではない」。ブラヴィティの共同設立者でCEOのモーガン・デボーン氏はそう話し、来場者数と収益がともに伸びていることに言及した。

少なくとも当面は、メタバースで開催されるどのイベントも、対面型のイベントとは別扱いで運営されるようだ。対面からデジタルへの移行に伴う作業負荷を、少しでも軽減する必要があるからだ。

数字で見るアフロテック2020とアフロテック2021:

  • 入場料の値上げにも前向きな反応:入場料が前年比で57%から75%上昇。2020年の入場料は、一般向けが199ドル(約2万3000円)、法人向けが349ドル(約4万円)だったが、2021年は、それぞれ349ドルと549ドル(約6万3000円)に引き上げられた。
  • スポンサー企業の増加:2020年のアフロテックでは120社のスポンサー企業を獲得したが、2021年は170社に増えた。なお、これらスポンサー企業が支払った展示会場でのブース出展料は、1万5000ドル(約171万円:早期割引料金の場合)から50万ドル(約5680万円)だった。結果として、スポンサーシップ収入の総額は前年よりも増えた。ただし、具体的な金額は開示されていない。
  • 来場者の増加:完全に対面式で開催された2019年のアフロテックの来場者は、約1万人だった。これに対し、はじめてメタバースで開催された2020年のアフロテックには1万5000人が参加した。一方、2021年のアフロテックでは、メタバースと対面型のイベントに、合わせて16万7000人が参加したという。

イベントの中身と工夫点

アフロテックのメタバースは、ブラヴィティと、テクノロジーベンダーのeXpワールドホールディングス(eXp World Holdings)が共同で開発にあたり、eXpワールドホールディングスのバーチャルワールドプラットフォーム上に構築された。なおこれらは、完全バーチャルで開催された初のアフロテックに合わせ、すべてカスタムで開発されたという。ジョブエキスポの会場から、出し物用のステージ、さらにはアバターまでも、すべてがリアルのアフロテック、および来場者とそっくりにデザインされており、ユーザーは肌の色、ヘアスタイル、顔の特徴、衣装などを自由に選び、カスタムキャラクターを作成できるようになっていた。

今年のアフロテックも、同じ仮想空間で開催された。だがデボーン氏によると、1年目の反省点を踏まえて、参加者へのオリエンテーションを改善したり、記憶に残る印象的な演出を増やすなど、必要な調整をおこなったという。2年目のメタバース空間は、1年目よりもさらに大きな可能性を秘めていることを、参加者とスポンサー企業の双方に示すためだ。その結果、チケット収入とスポンサーシップ契約の成約件数は順調に増加。対面式のイベントが徐々に復活するなかでも、参加者と広告主がメタバースの活用に前向きであることが示された。

アフロテックのメタバースは、「完全に没入型の体験であり、対面式のリアルなエクスペリエンスとは異なるものの、Zoom会議のような平板な体験よりも確実に優れている」と、デボーン氏は強調する。「昨年は、メタバース自体が目新しく、特段のイノベーションがなくてもそこにあるだけで注目された。今年は、さらに進化したアフロテックを見せることができたと思う」。

とはいえ、あれこれ変更を加えるより先に、まずはユーザーが快適かつ集中して過ごせる空間を作ることが先決だった。デボーン氏によると、ブラヴィティではイベントの開催前にSNSでハウツー動画を公開し、ログオン時にオリエンテーションを行うなどして、メタバース空間での移動方法、アバターの外観の変更方法、ほかの参加者とのコミュニケーション方法などについて周知徹底したという。

「啓発活動に、以前より多くの時間を割いた。それはある意味、アフロテックに課せられた使命でもあった」と、デボーン氏は話す。「黒人の仲間たちに、最新のトレンドや最新のテクノロジーに積極的に関わってほしい。彼らが、自分たちの空間だと思えるメタバースを作りたいと考えた」。

スポンサー企業の努力

一方、ゴーダディ(GoDaddy)やペイパル(PayPal)を含むスポンサー企業にも、インパクトのある演出やアクティベーションを積極的に展開してもらう必要があった。対面で開催されるアフロテックとは異なり、メタバースではディスプレイ広告やバーチャルビルボードの掲出ができなかったため、演出の工夫は特に重要だった。というのもメタバースでは、広告の組み込みが技術的に難しいのだという。

そこでゴーダディは、エキスポ会場のバーチャルブースの周辺で、同社のCEOと従業員が集まり、フラッシュモブを実施することにした。事前にSNSで告知して、大勢の参加者を集めたという。

「メタバースで開催されるイベントのスポンサーは、物理的な空間と同様に、仮想空間でも人と人との距離感を尊重しなければならない。たまたまスポンサーのブースの近くにいたからといって、参加者のアバターに押しつけがましい態度をとることは許されない」。そう話すのは、ワンインクコーポラティブ(One Inc Cooperative)のマネジングディレクターを務めるブライアン・スウィッチコウ氏だ。同社は、コミュニケーションテクノロジー企業として、オンラインおよびメタバース空間で、消費者と有意義な関係を築く方法を法人顧客に指導している。実際ゴーダディの事例では、消費者との隔たりを埋める手法として、フラッシュモブという仕掛けを活用した。

「アフロテックの収益や参加者の増加は、新しいことに果敢に挑戦する企業たちの貢献によるところが大きい」とデボーン氏は認める。

人的コストは対面と変わらない

またデボーン氏によると、今年のアフロテックでは、もうひとつある変更を行った。対面で開催した2019年のアフロテックと同じ規模のスタッフを、メタバースでのカンファレンス運営に投入したという。フルタイムのスタッフ、請負業者、そのほかの支援要員を含め、約70人が配置されたのだ。プレゼンテーション画面のアニメーションを作成するためにアニメーターが動員され、バーチャルクラブを運営するためにDJが6日間通しで招かれ、数多くの演目でコメディアンがホストを務めた。

厳密にいえば、メタバースでのイベント開催は安上がりだ。ステージやブースを物理的に設営するわけではないので、資材費も輸送費も印刷費もかからない。その一方で、「物理的なコストは少なくて済むが、人件費は変わらない」とデボーン氏は指摘する。

「メタバースであっても、サポートや参加登録、カンファレンスの運営に必要な人的コストは、対面イベントと変わらない」。

「使えば使うほど、扱いは容易になる」

バーチャルカンファレンスのゲーム化を試みるパブリッシャーも現れている。ユースカルチャーにフォーカスしたメディア企業、コンプレックス(Complex)もその1社だ。同社は、毎年恒例の人気フェス、コンプレックスコン(ComplexCon)のデジタル版として、ゲーム仕様のコンプレックスランド(ComplexLand)を展開している。同社の場合も、2年目のスポンサーシップ収入は、1年目よりも60%増加した。

パブリッシャーやブランドが、より多くの時間をメタバースで過ごすようになれば、そこはより快適で暮らしやすい空間となる。「メタバースという空間は、使えば使うほど、扱いは容易になる」と、スウィッチコウ氏も述べている。「十分な時間を費やせば、効果的なアクティベーションや活用方法は、おのずと明らかになるだろう」。

[原文:Blavity to continue building its virtual event model in the metaverse after successful AfroTech

KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)

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