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D2C企業がビジネスの多角化を図るなか、自然派化粧品小売ブランドのローシュガーリビング(Raw Sugar Living)は、特定の顧客セグメントに対応するために、D2Cチャネルを立ち上げた。
現在の潮流と逆行
ローシュガーリビングは、2014年の創業から10年近くを経て、今年8月にD2Cをはじめた。同ブランドは当時、ドンダ・マリスとロニー・シュガーが、大手小売チェーンのターゲット(Target)との提携を通じて誕生した。現在、同ブランドの製品は、ウェグマンズ(Wegmans)、マイヤー(Meijer)など多くの全国チェーン店で販売されており、最近はウォルグリーン(Walgreens)でも販売がはじまった。同社の歴史は、動物実験を行わないコールドプレスのハンドソープとボディウォッシュの小さなコレクションではじまった。その後数年のあいだに、ローシュガーは、ヘアケア、手および全身用スクラブ、自然派デオドラントなど、隣接するカテゴリーにも進出した。
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D2Cの開始により、顧客は初めてローシュガーリビングから直接購入できるようになる。これまで同社のウェブサイトには、購入を可能にするコンポーネントがなかった。南カリフォルニアを拠点とする同社は、これまで1億ドル(約138億5000万円)以上を売り上げてきたが、今年の後半には自社ウェブサイトとAmazon公式ストアを通じて、デジタルでの拡大を図りたいと考えている。ただし、ローシュガーリビングのこの新しいD2Cチャネルは、特にもっとも忠実な顧客のために設計されており、彼らには特別な割引や、セット販売、特典などを提供する予定だ。
3月にヘルスケア大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)から同社に加わったCEOのマイケル・マーキス氏は米モダンリテールの取材に対し、この新しいデジタルプレゼンスには、ブランドの既存の小売店での取り扱いを補完する意図があると語った。また同氏は、この動きは、多くのデジタルネイティブブランドが小売店との提携をもくろんでいる現在の潮流とは逆であることも指摘した。
「D2Cの大実験は終わった」と、同氏は言い切った。「今は、ポストプライバシーとパンデミックによる変化のなかにある。そこで、我々は、適切に目的を果たすeコマースについて考えている」。
マーキス氏は、同ブランドの公式サイトでの販売は、同社の財務と収益性の目標を変えるものではなく、それを補完するものであると述べた。「D2Cが、我が社が小売業界で行っているビジネスを超えることはない」と、同氏はいう。「D2Cブランドは小売業に進出しようと頑張っているが、我々は幸いなことに、その基礎をアドバンテージとして持っている」。
忠実な顧客に応えること
D2Cチャネルの開始にあたり、ローシュガーリビングは「需要をすぐに満たすことができる」製品を選んで用意したと、マーキス氏は述べている。現在この製品群には、ボディバターやデオドラントなど、20種類のベストセラー製品が含まれている。今後数カ月のうちに、すべての製品を追加する予定だ。
「D2Cの正しい役割は、ブランドに忠実な顧客に応えることだと思う」と、マーキス氏は言う。そのユースケースは、特定の顧客層をターゲットにすることから、D2C限定のコレクションを提供することまで、多岐にわたる。「たとえば、ある製品が特定の小売店で扱っていないことがある。そういうとき、ウェブサイトなら簡単にその製品を手に入れることができる」と、同氏は述べている。またウェブサイトは、ローシュガーリビングで急速に成長している子供向け製品事業のような、同社の新しいカテゴリーのハブとしても機能する。「子供向け製品の購買行動が見られない小売店では、このラインは無意味かもしれない」と、同氏は付け加えている。
リピート注文を引き出すために、ローシュガーはウェブサイト上でリワードプログラムを開始した。顧客は、購入、レビュー、ソーシャルメディアへのエンゲージメントに応じて、ポイントを獲得できる。このポイントは、あとで割引に利用できる。同ブランドが力を入れているもうひとつの取り組みは、クリーンビューティーに関するコンテンツである。このコンテンツで顧客はブランドの理念を知り、環境に優しいスキンケアのヒントを学ぶことができる。
ローシュガーリビングは、3月から新しいウェブサイトの設計やフルフィルメント倉庫の確保など、立ち上げに向けた準備をはじめた。また、新たな事業拡大に対応するため、中西部にD2C販売専用の流通センターを開設した。「また、デジタルマーケティング促進の経験がある優れた人材も採用した」と、マーキス氏は述べている。
一方、Amazonは別の役割を果たす。ローシュガーリビングは、Amazonを年内に開始すると見積もっている。「我々がAmazonのエコシステムに参加しなかったら、別の販売業者が代わりに参加することになるだろう」と、マーキス氏はいう。「我々の商品がそこに並ぶのは、あまりいい方法ではない」。
顧客体験をコントロールする
マーケティングに関していうと、ローシュガーリビングは、小売店のネットワークだけでなく、既存のソーシャルメディアのフォロワーにも期待している。「ローシュガーリビングの販売促進を手助けしてくれるインフルエンサーは何百人もいる」と、マーキス氏は述べている。同ブランドには現在、15万人以上のインスタグラムフォロワーと、1万人以上のTikTokフォロワーがいる。これらは、同ブランドが小売店でのプレゼンスを通じ、何年もかけてオーガニックに集めてきたものだ。
ローシュガーリビングは、メタ(Meta)やGoogleのような主要なチャネルのソーシャル広告に今後も投資するだろう。しかし、デジタル顧客獲得は「最重要事項」ではないと、マーキス氏は語る。むしろ、現在のところ、ターゲットやウォルグリーンのようなプレイヤーが構築してきた小売広告ネットワークのほうが、同ブランドのマーケティング活動には合っている。「新しいプラットホームの価値を見極めようという戦略だ」と、同氏はいう。「新しいものが光り輝いていても、合わないのなら、そのあとを追うことはない」。
実績のあるブランドが、購入可能なD2Cウェブサイトを用意することは、別に目新しいことではない。多くの会社が、パンデミックの開始時に、このチャネルを構築した。一般的にいえば、卸売業者を重視するブランドは、D2Cのプレゼンスを確立することで、新しい顧客プールにリーチし、その顧客体験をよりコントロールできるようになる。
長期的な投資に見合うD2Cサイトの価値
コンサルティング会社であるアルバレツ・アンド・マーサル(Alvarez & Marsal)の消費者小売グループでシニア・ディレクターを務めるマノラ・ソレル氏は、「D2Cへの動きは、ブランドのデジタルエコシステムの集大成であり、潜在的な採用ツールでもあると見ている」と述べている。
ソレル氏は、ライフスタイルをテーマにしているこのサイトが、より幅広い商品を提供するための格好の出発点になるだろうと述べている。ただし、多くの変化がD2Cビジネスに影響を与えていることを考えると、考慮しなければならない課題がある。ソレル氏は、D2Cウェブサイトが長期的な投資に見合う価値を持つには、「チャネルは、フルフィルメントのスピード、配送コスト、ロイヤルティポイントなど、消費者に直結する価値について競争力があり、期待に応えられる必要がある」という。そうでなければ、多くの買い物客は送料の下限が低いターゲットのウェブサイトでローシュガーリビングを買うだろうと、同氏は指摘した。
ローシュガーリビングにとって理想なのは、小売店とのパートナーシップを維持しながら、D2C販売に対して「より配慮したアプローチ」を取ることだ。「結局のところ、適切な製品を、適切な人々に、適切な場所で提供したいのだ」と、マーキス氏は述べている。
[原文:Why one brand is launching a DTC site after years of selling at national retailers]
GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Raw Sugar Living