消費税と密接に関わる「インボイス制度」。どんな仕組みか基本を学ぶ 【インボイス制度に備える】

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 皆さんは「インボイス制度」をご存じだろうか? 会社に勤め、毎月の報酬を「給与」というかたちで受け取っている方にはあまり聞きなじみがないかもしれない。しかし、デザイナーやプログラマー、あるいは小規模な飲食店や美容室を経営している「個人事業主」にとって、税金との付き合い方が変わる――もっと生々しく言えば「納めるべき税金が増え、手取りが減る」可能性が高い制度である。

 いよいよ来年2023年の10月1日から施行されるインボイス制度について、制度そのものの解説に加え、会計ソフトベンダー「弥生」の専門家によるアドバイスも踏まえながら、まずは今回から3回にわたってインボイス制度の基本のキから解説していこう。

[目次]

  1. 消費税と密接に関わる「インボイス制度」。どんな仕組みか基本を学ぶ(この記事)
  2. 「インボイス制度」で税負担が増える!? 年商1000万円以下の個人事業主への影響を考える(近日掲載予定)
  3. 個人事業主が「適格請求書」を発行すべきどうか、会計ソフトベンダーの「弥生」さんに聞いてみた(近日掲載予定)

※この記事は、政府与党による「令和5年度税制改正大綱」が決定・発表される前に取材・執筆したものです。同大綱では、売上規模の小さい事業者を対象に、インボイス制度の開始に伴う課税負担・事務負担を軽減するための経過措置を講ずる方針が示されました[*1]。それら最新動向を踏まえた解説記事は追って後日、あらためて掲載する予定です。

「インボイス」とは、消費税額を計算するための必要項目がきっちり記載された請求書のこと

 インボイス制度の前に、まずは「インボイス」の意味を確認しておこう。英語の「Invoice」をそのまま日本語読みしたもので、本来は「請求書」「送り状」「納品書」など、定義はかなり広範。また、海外通販などを利用したりすると、同梱される書類の冒頭であったり、メール控えなどで「Invoice」の文字列はよく見かける。それくらい一般的な名詞だ。

請求書のイラスト(「いらすとや」より)

 こうしたインボイスと呼ばれる範疇の書類は、例えば小売店であれば社長や経理担当者が自由に書式を決め、取引相手に渡すのが普通だ。例えば履歴書は、文具メーカーが販売しているものを使ってもいいが、別に自作しても構わないのと同様に、請求書や領収書も、取引年月日、金額、請求主の名称・住所など、必要な項目を記述しておけば、どんな様式であっても取引に支障はないはずだ。

 しかし、こうした書類に、法律で定められたいくつかの項目――主に消費税の納税に関わってくる要素――を明確に記載したものが「適格請求書」である。今、日本で話題になっているインボイスとは、一般名詞のInvoiceではなく、厳密にはこの適格請求書を指すケースが大半だ。

 国(国税庁)も、公式ウェブサイトなどでは適格請求書のことを“いわゆる「インボイス」”と表現しているので、混乱しないように注意してほしい。また、適格“請求書”ではあるが、請求書に限らず、領収書やレシートなども含まれる。

 この「適格請求書としてのインボイス」をあらゆる金銭取引に際して使おうというのが「インボイス制度」だ。ただし、これは略称で、正式な名称は「適格請求書等保存方式」である。

 要は、消費税額を正しく計算し、その裏付けとなる証拠書類が「適格請求書」……というふうに理解するのがいいだろう。

なぜ「インボイス制度」が必要になったのか? 「軽減税率」が1つのきっかけ

 繰り返しになるが、インボイス制度は消費税の計算にとって必要だからこそ、生まれた制度だ。そこで消費税の仕組みについても確認しておきたい。

 雑貨の小売店を例にとって考えてみよう。税別5000円の品物が店先で売れたとして、実際には消費税10%がかかるため、店は客から5500円を受け取る。このとき、消費税500円分は客から預かっているだけだ。消費税を負担するのはあくまで消費者であり、雑貨店は納付の役目を担っているにすぎないというのが、消費税という税金で最大の特徴だ。

消費税の仕組み(弥生が公開中の特設サイト「2大改正あんしんガイド」より。同サイトでは、小規模事業者向けに、2つの大きな法令改正――「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」と「改正電子帳簿保存法」の理解促進・対策準備のための情報をまとめている)

 一方、品物は税別5000円で売れたが、実際には、この店が製造業者から税別2000円で仕入れていた。すると、ここで雑貨店は製造業者に10%分の消費税200円を加えて2200円を支払うことになる。

 この取引だけを見たとき、雑貨店が年に一度の消費税確定申告で税務署に対して納付すべき額を計算すると、その答は300円である。客から預かった消費税500円から、製造業者に支払った200円を差し引いた300円を、雑貨店が税務署に消費税として納付する(なお、製造業者は製造業者で、やはり取引の前段階で材料の商社などと金銭をやり取りしているだろうから、雑貨店から預かった200円の消費税のうち、製造業者が消費税として税務署に納付するのは例えば100円だったりするかもしれないが、それはまた別の話)。

 つまり消費税は、物品やサービスを消費・利用する人がその全額を負担する。商品を仕入れて販売(転売)する限りは、店は消費税の納付役を仰せつかっているだけなのだ。

 とはいえ、消費税を正確に計算して納付するのを複雑している仕組みがある。それが「軽減税率」である。2019年10月1日、消費税率がそれまでの8%から10%へ増税された一方で、食料品(酒・外食を除く)と新聞(定期購読契約に基づくもの)に限って8%の税率が維持された。

 こうなったとき、例えばスーパーで消費税率を計算するのは一筋縄にはいかない。米やリンゴは8%、日本酒は10%、弁当は8%かと思いきや店内のイートインコーナーで食べるとなると10%等々……。現状でも複雑なのに、もし将来的に異なる税率の物品が追加されたりしたら、さぞや現場は混乱するだろう。

 以下の図は適格請求書の記載事項である。発行主や年月日の記載はいいとして、注目したいのは消費税額の欄。商品ごとに適用税率が明示されていて、かつ税率ごとに区分した消費税額と、その総額としての消費税額が併記されている。ここまでハッキリ書かれた書類が残っていれば、消費税の計算ミスは減るだろう。

 ただ、適格請求書を発行するにあたっては、「適格請求書発行事業者」としての「登録番号」(の取得)という大問題があるのだが……。詳しくは、次回でお伝えする。

「インボイス」でないと、納めるべき消費税が増える!?

 さて、ここでもう1つ重要なのが、消費税の「仕入税額控除」という概念だ。前述の雑貨店の例を思い出してほしい。雑貨店は500円の消費税を客から預かっている。原則に則れば、税務署に納付すべき消費税額は500円ではなく、製造業者に支払った消費税200円を差し引き、300円を税務署に納付すればよい。

 こうして、仕入れに対してかかった消費税は、税務署へ納付する消費税を減らす効果がある。これが仕入税額控除だ。だからこそ、請求書や領収書をぞんざいに扱ってはならない。領収書をなくすのは、街中でサイフを落とすのと同じくらい、経理にとってはダメージなのである。

 仕入税額控除は、消費税を納付している事業者であれば、ほぼ無条件に適用できていた制度だった。しかし、これに大きく手が加えられるのがインボイス制度だ。適格請求書を伴った取引でなければ、消費税の仕入税額控除が適用されなくなるのだ[*2]

 前述の雑貨店の例で言えば、製造業者が雑貨店に対して適格請求書を発行してくれれば、納付額は300円で済む。しかし、製造業者が特に対応することなく旧来型の請求書を発行したとなると、雑貨店は仕入税額控除ができずに納付額は500円になってしまう。自分は正しく消費税を処理しているのに!

 こうなってくると、雑貨店は考えざるを得ないだろう。適格請求書をきっちり発行してくれる他の製造業者への切り替えを。逆に製造業者は、適格請求書が発行できるようにしないと、雑貨店から取引を切られる恐れが出てくる。

 2023年10月1日以降も、適格請求書の発行が全ての事業者に義務付けられるわけではない。しかし、こうした商取引の実務を考えると、義務的なものと捉えざるをえない。インボイス制度が、零細企業・個人事業主にとっての頭痛のタネと言われるのは、まさにこの部分なのだ。

 「じゃあインボイス発行すればいいじゃん。会計ソフトとか買えば、できるでしょ?」という声が聞こえてきそうだが、話はここでは終わらない。次回は、インボイス制度開始までのスケジュールと、どうすれば適格請求書を発行できるかについて説明する。

[目次]

  1. 消費税と密接に関わる「インボイス制度」。どんな仕組みか基本を学ぶ(この記事)
  2. 「インボイス制度」で税負担が増える!? 年商1000万円以下の個人事業主への影響を考える(近日掲載予定)
  3. 個人事業主が「適格請求書」を発行すべきどうか、会計ソフトベンダーの「弥生」さんに聞いてみた(近日掲載予定)

[*1]…… 令和5年度税制改正大綱(令和4年12月16日 自由民主党 公明党)
https://storage.jimin.jp/pdf/news/information/204848_1.pdf

この中で、インボイス制度施行に際しての基本的な考え方として新たに示されことは以下の通り。

(1)適格請求書等保存方式の円滑な実施について

① インボイス発行事業者となる免税事業者の負担軽減

 これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずることにより、納税額の激変緩和を図る。この措置により、簡易課税制度の適用を受ける場合に比べ、更に事務負担が軽減される。

② 事業者の事務負担軽減

 インボイス制度の定着までの実務に配慮し、一定規模以下の事業者の行う少額の取引につき、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減策を講ずる。加えて、振込手数料相当額を値引きとして処理する場合等の事務負担を軽減する観点から、少額の返還インボイスについて交付義務を免除する。

 これらの取組みを着実に進めつつ、制度への移行に当たり混乱が生じないよう万全の準備を進める観点から、改めて政府内の関係府省庁で連携して必要な体制を構築し、予算による支援措置や負担軽減措置を丁寧に周知する。こうした取組みも含め、引き続き、事業者が抱える問題意識や課題を、業界や地域ごとに丁寧に把握しながらきめ細かく対処していく。加えて、令和5年3月31日の登録申請の期限について柔軟な対応を行う。その上で、令和5年10月のインボイス制度移行後においても弾力的な対応に努めるとともに、新たな課題が生じた場合には、必要に応じて柔軟に対応策を講じていく。

令和5年度税制改正大綱> 第一 令和5年度税制改正の基本的考え方等 > 5.円滑・適正な納税のための環境整備 より

また、そのための税制改正の具体的な内容として示されたことは以下の通り。

1 適格請求書等保存方式に係る見直し

(国 税)

(1)適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置

① 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、当該課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額を当該課税標準額に対する消費税額の2割とすることができることとする。

(注1)上記の措置は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間及び令和5年10月1日前から課税事業者選択届出書の提出により引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については、適用しない。

(注2)課税事業者選択届出書を提出したことにより令和5年10月1日の属する課税期間から事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる適格請求書発行事業者が、当該課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出したときは、当該課税期間からその課税事業者選択届出書は効力を失うこととする。

② 適格請求書発行事業者が上記①の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記するものとする。

③ 上記①の適用を受けた適格請求書発行事業者が、当該適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を納税地を所轄する税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を認めることとする。

④ その他所要の措置を講ずる。

(2)基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置を講ずる。

(3)売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除する。

(注)上記の改正は、令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について適用する。

(4)適格請求書発行事業者登録制度について、次の見直しを行う。

① 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、課税期間の初日から登録を受けようとする場合には、当該課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日)までに登録申請書を提出しなければならないこととする。この場合において、当該課税期間の初日後に登録がされたときは、同日に登録を受けたものとみなす。

② 適格請求書発行事業者が登録の取消しを求める届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合には、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出しなければならないこととする。

③ 適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置の適用により、令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出する日から15日を経過する日以後の日を登録希望日として記載するものとする。この場合において、当該登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなす。

(注)上記の改正の趣旨等を踏まえ、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、その申請期限後に提出する登録申請書に記載する困難な事情については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。

令和5年度税制改正大綱> 第二 令和5年度税制改正の具体的内容 > 四 消費課税 より

[*2]…… 適格請求書を伴わない免税事業者等からの課税仕入れについても税額控除が可能な経過措置(80%控除、50%控除)も取られるが、これについては次回の記事で解説する。

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