ピンタレスト はソーシャルとeコマースの融合に対応できるか?: 「発見のためのブラウジングのレベルアップを図る番だ」

DIGIDAY

パンデミックでeコマースが盛んになるずっと前から、マーケターたちはピンタレスト(Pinterest)に発掘されないままの金鉱が眠っていると感じていた。だがメディアバイヤーたちに言わせれば、同社が広告商品の拡大に急ぐいまも、続々と参入する競合たちと互角に競うには、まだ長い道のりがある。

2010年に設立されたピンタレストは、結婚式から家の改装、グルメ、ファッションまで、あらゆるあらゆるものをピン留めする場所として何百万人もの人々に知られている。現在は広告主のニーズに応じた取り組みを拡大中で、インターネットで計画を練るためにピンタレストにやってくるユーザーへの売り込みや販売の手段を増やしているところだ。

軌道に乗るも「現時点では最下位」

その努力は実を結び始めている。8月第1週、ピンタレストはショッパブル広告の収益が収益全体の2倍の勢いで伸びていることを発表し、ショッパブル広告が扱う商品の数が10億点に上ると明らかにした。第2四半期の業績では米国とカナダで総収益の伸びが鈍化し、ユーザー数も減少していることが示されたが、全世界的には、1ユーザー当たりの平均収益は17%拡大している。

こうした進展にもかかわらず、マーケターたちはピンタレストがもっと早くソーシャルコマースの波に乗れたのではないかと考える。一部の広告バイヤーは、ピンタレストがほかに比べてブランドセーフティが確保できるソーシャルチャネルであり、「インターネット上の幸せな一角」であるとまでしながら、急速に独自のサービスを構築しつつあるほかのソーシャルネットワークとの競争が激化するいま、やるべきことはまだ多いと見る。

「これはマラソンであり、ピンタレストもいつかは追い付くかもしれない」とトロントのエージェンシー、テイク・サム・リスク(Take Some Risk)のCEOであるドゥエイン・ブラウン氏は話す。「だが、現時点では最下位だ」。

3者を呼び込む新たなツール

ピンタレストのCROビル・ワトキンス氏は、ショッパブル広告と、自動入札の拡大やインサイトに基づいたメディアバイで、同社の広告主ベースを多様化したいと語った。同時に、ピンタレストはこれまで必ずしも重視してこなかったクリエイターエコノミーも活用しようとしている。

2022年7月、ワトキンス氏は米DIGIDAYとのインタビューで「商品そのものに関する体験でも、商品の広告体験でも、両方を促進するものをつくらなければならない」と話した。「そうでなければ、ピンタレストはユーザーにとって最高の体験、広告主にとって最高の広告商品をつくっていないということになる」。

ここ数年、ピンタレストはユーザー、クリエイター、広告主を同プラットフォームに呼び込もうと、それぞれに向けた新しいツールを登場させている。

  • クリエイターやブランドがピンタレスト初の動画中心のフォーマットでコンテンツを制作できるストーリーピンを2020年に、その後アイデアピンをリリース。
  • 2022年3月、新しいネイティブの決済ツールのベータテストを開始。
  • 同年6月、ブランドが動画を販促・情報発信用の動画・画像として使用できる、アイデアアドを開始。
  • 7月、企業が商品のタグ付け、動画カタログ、ショップタブを利用するためのPinterestショッピングAPI(Pinterest API for Shopping)を追加。

どこまでいっても控えめ

ピンタレストは(少なくとも名目上は)遅れを取り戻す一方で、ほかの面ではライバルたちより先んじていた。たとえば、2015年に購入可能なピンを導入している。その後2020年には、Shopify(ショッピファイ)のマーチャントが商品をショッパブルピンにできるようにした。Shopifyは2022年の夏まで、YouTubeやTwitterなど、ほかのプラットフォームには統合されていなかった。しかし、ピンタレストはその画像検索ツールの価値を十分にアピールできていないとの声もある。2015年にデビューしたこの機能では、撮影した写真を使ってピンタレスト内で類似する品物を検索できる(GoogleとSnapchatが同様の機能を提供し始めたのはそれぞれ2017年と2019年)。

マイクロソフトアドバタイジング(Microsoft Advertising)のブランドスタジオ(Brand Studio)の元責任者で現在はフリーのマーケティングコンサルタントであるジェフリー・コロン氏は「現在利用できる最高のDIYツールのひとつだ」と話す。「いくら皆がTikTokを大絶賛しようと、クリエイターエコノミーに最適なのはピンタレストだ。なぜこの点をもっと大きく前面に打ち出さないのかが不思議でならない」。

ほかを模倣する戦略とそのバランス

ほかの大手ソーシャルメディアと同じように、ピンタレストの戦略の一環として「ほかのプラットフォームで成功したことをまねする」というものがある。最近の動画への方向転換を見てもそれは明らかだ。アイデアピンのような広告商品やさまざまなコンテンツパートナーのおかげで、動画視聴は2022年第2四半期のアプリ滞在時間の10%に上る。だが、ピンタレストは最新の決算報告で、動画広告のような新しいフォーマットが「もっと魅力的であるため、ユーザーがピンタレストのプラットフォーム上で閲覧、検索する時間が減り、当社収益にマイナスとなるおそれがある」と明かした。

TBWA\シャイアット\デイ(TBWA\Chiat\Day)ロサンゼルス支社のソーシャルクリエイティブ・リードを務めるジャンニ・ワイダーホーム氏は、コンテンツのスタイルと目的という意味では、アイデアピンは「TikTokとインスタグラムのストーリーを合わせたようなもの」だと話す。アイデアピンというフォーマットは、ユーザーをクリエイターやブランドのコンテンツの視聴につなぎ止め、プラットフォームから出ていかないようにするという。

だが、バランスをとるのは難しい。ほかを模倣する戦術は「マーケターだけでなく、消費者にとってもピンタレストのポジショニングをぼやけさせてしまう」とイノベーションおよびデザインのコンサルティング企業であるプロト(Proto)の共同創設者で最高体験責任者を務めるレイチェル・マーサー氏は話す。

自動入札を何年も前から行っているソーシャルネットワークもあるが、ピンタレストがそれを始めたのは2020年で、今後さらに拡大する計画もある。ただし、ピンタレストは広告料金設定ではほかと一線を画す。ティヌイティ(Tinuiti)によると、第2四半期のCPMはMeta(メタ)に比べて53%低い。参考として、ティヌイティはTikTokとスナップ(Snap)のCPMがMetaよりそれぞれ25%と58%低いことを挙げている。

「先の長い防御策」を持つピンタレスト

ピンタレストにはこのほかにも独自の強みがある。マーサー氏は、ニッチ市場に関するユーザー体験と掌握力で、ピンタレストには「アップストリーム・マーケティングを行うためのネタがたくさん」あり、閲覧から購入までが圧縮されていると話す。ユーザーはピンタレストでいろいろ見て回りながら計画を立てる、という使い方をするため、広告主も関心と目的に合わせてリーチできる。つまり、Appleのプライバシーポリシーの変更によって広告のターゲティングに問題を抱えることになったGoogleやMetaなどの大手に対し、「先の長い防御策」を持つのだ。

ミネアポリスのエージェンシー、ソーシャルライツ(The Social Lights)の最高クリエイティブ&戦略責任者であるグレッグ・スワン氏は、ピンタレストがこれまで現行ユーザーの離反を引き起こすことなく、コア部分を繰り返し展開し、キュレーションを強化できていると話す。

「ピンタレストにとっての課題は、ユーザーにアプリを開いてもらう機会を見つけ出し、従来のユースケース以外の使い方で繰り返しピンタレストに滞在してもらうことだ」とスワン氏は語った。「発見のためのブラウジングはピンタレストで始まったわけではないが、そこで洗練されていった。次はそのレベルアップを図る番だ」。

ソーシャルメディアとeコマースの融合はまだ始まったばかりで、各種プラットフォームのショッピング利用は今後も進化を続けていくだろう。8月第1週、Facebookはライブショッピング機能を廃止する計画を発表した。そのわずか数週前にはTikTokの撤退も報じられている。ピンタレストがブランドとして進化を続けるなか、広告主の期待に応える一方で、そのコアアイデンティティを維持しければならないプレッシャーもあるだろう。

R/GAのメディア&コネクション部門グローバル責任者のエリー・バンフォード氏は次のように語った。「ピンタレストに行くのは、そこがインスピレーションを得られる場だったから。結婚式や旅行など、自分の夢や希望を共有する場でもあった。何かを買いたくて行く場所ではない。何もかもがモノを売るための手段になってしまうのは、たしかに少し悲しい気がする」。

[原文:How Pinterest hopes to catch up to the e-commerce boom

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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