IPO前に意図的に 評価額 を下げたランバンの堅実な戦略

DIGIDAY

投資を求める企業が自社の評価額を膨らませることはしばしばあることだが、自社の評価を意図的に引き下げることはあまり一般的ではない。

しかし、それこそが、フランスのラグジュアリー企業ランバングループ(Lanvin Group)が10月17日発表の2022年上半期の収益報告書で行ったことだった。その際、重要な情報2点が明らかにされた。

IPO前に評価額を下げたランバンの狙い

まず、ランバンの収益が前年比で110%増加、ウォルフォード(Wolford)とセルジオロッシ(Sergio Rossi)を含むグループ全体の収益が73%アップしたことがある。しかし、ランバンは評価額を12億5000万ドル(約1847億円)から10億ドル(約1477億円)に引き下げた。同社が経験している成長では、今年後半に上場する前にもっと高い評価を受けることが一般的に考えられる。しかし、低い評価額は将来の投資家にとって魅力的である。

会長兼CEOのジョアン・チェン氏は収益報告書で次のように述べている。「事業の見通しに変更はない。当社が世界中で未開発の成長機会を引き続き獲得していくために、調整後の評価額は投資家にとって非常に魅力的なエントリーポイントを確立すると確信している」。

賢明なランバンの動き

アーリーステージのベンチャーキャピタル企業、ジョビ(Jobi)(最近、コートニー・コックス氏のフレグランスブランド、ホームコート(Homecourt)に投資している)の共同創設者であるライアン・ネルソン氏によると、ランバンが評価額を引き下げたことは現在の市場状況において、賢明で、直感に反する動きだという。

ネルソン氏は次のように述べている。「上場するときは市場と投資家が満足する価格を設定しようと試みるものだ。会社は売上から収益を得るので、一般的には(評価額を)高くしてできるだけ多くの資金を得ようとする」

しかし、ネルソン氏は、企業の健全性にとっては、株価の勢いを維持することは、高い評価額以上ではないにしても同等に重要だと述べている。上場時の非常に高い株価によってブランドはすぐに多額の資金が得られるかもしれないが、株価の急速な下落を引き起こす可能性がある。基本的にランバンは優れた成長見通しと多くの投資家ゆえに高い株価で取引されている。

市場に対する慎重な動きに称賛の声

ランバンはプリマベラキャピタル(Primavera Capital)関連の特別目的取得会社(SPAC)を通じて株式を公開する。2021年のSPACのIPO数は600件を超え、SPACにとって最高の年だった。ファッションブランドのエルメネジルド・ゼニア(Ermenegildo Zegna)は今年初めにSPACを通じて株式公開した。しかし、SPACの数は大幅に減少しており、2021年上半期の167件と比較して、2022年上半期に発表されたのは77件だった。

ランバンの評価額を下げた要因のひとつには、ほかの通貨と比較してドルが高くなっていることがある。ランバンの事業のうち、米国からの取引は約15%にすぎないため、ほかの大部分は通貨安の地域で行われることになる。

ファッションデザインソフトウェアのカラ(Cala)に投資しているベンチャーキャピタル企業、ウマナ・ハウス・オブ・ファンズ(Umana House of Funds)の創業者、バ・ミヌージ氏もランバンの動きを称賛している。それは、特に投資家やVCが昨年よりも投資に慎重になっているからだと同氏は述べている。

「評価額を引き下げることは非常に戦略的な動きだ」とミヌージ氏。「市場はかなりひどい。ナスダックが下落、仮想通貨とビットコインも下落している。投資家の多くはいまは様子を見て慎重になるべきときだと考えている」。

しかし、ミヌージ氏によると、ランバンの好業績報告と同社がサービスではなく、有形の商品を扱っていることが、いまの投資家にとっては比較的安全な賭けであることを意味するという。ラグジュアリーブランドとしてのランバンのステータスは、ファッション業界のほかの分野を襲ったインフレの圧力からラグジュアリーカテゴリーは絶縁されているため、より安全な賭けにもなる。ランバングループの親会社である中国のコングロマリット、復星国際( Fosun International)は大規模な多国籍企業に対する中国政府の取り締まりを乗り切るなか、ランバンの継続的な成功を必要としている。

ミヌージ氏は次のように語っている。「投資家と企業の両方にとっていまは規律が必要なときだ。ランバンは戦略的であり堅実であり、それが現時点では賢明な動きだ」。

[原文:Why Lanvin cut its valuation ahead of an IPO

DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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