イーロン・マスク氏の発言に、首を傾げる Twitter 広告主たち

DIGIDAY

イーロン・マスク氏は自称「チーフ・ツイット(Chief Twit、Twitterのトップの意)」として、Twitterをどう変えてしまうのか。そんな広告主らの懸念を、氏は早くもツイートを介して鎮めにかかっている。

10月第4木曜の午前中、マスク氏はTwitter広告主に向けたツイートにおいて、氏が同社のコンテンツモデレーションポリシーを緩和するのでは、との懸念に言及した。

「私がTwitterを獲得した理由は、街にある公共広場のデジタル版を持つことが、未来の文明にとって極めて重要だからだ」と、マスク氏は書いた。「多種多様な信念について、健全な形で、暴力に訴えることなく、討論できる場のことだ。世界には今、ソーシャルメディアが極右と極左に分裂し、各々がエコーチェンバーとなって憎悪を増幅させ、社会を完全に分断してしまうという、大いなる危機が存在している」。

自身の言動と矛盾する発言

かの億万長者――ちなみに、氏はこの何カ月も、Twitter買収を取り止めようとしていた――はさらに、同プラットフォームは引き続き広告を受け入れる旨の発言をしており、これを氏が同ビジネスモデルを受け入れた証だと見る向きもある(Twitterは収益の約90%を依然、広告から得ている)。とはいえ、広告に関する具体的な展開について、マスク氏は自身の見解はいまだ発信しておらず、氏が治める街の広場が、広告の有無にかかわらず、どんな様相を呈するのか、不安視する者も少なくない。

あるエージェンシー幹部によれば、Twitterの社員らは同プラットフォームの広告機能をマスク氏に説いているという。ただその一方、同じ情報筋によれば、Twitterの上級幹部らは古株社員らの退社を懸念しており、一応は残った者たちも社の将来を不安視しているという。

マスク氏のツイートに、一部のマーケターは呆れ返った。マスク氏は一体、広告主がTwitterに求めるものを本当にわかっているのだろうかと、首を傾げるマーケターもいる。クリエイティブエージェンシー、R/GAのグローバルチーフストラテジーオフィサー、トム・モートン氏いわく、ビジネスリーダーや政治家からセレブやスポーツファンに至るまで、幅広いユーザーにリーチできる、という強みを活かしたプロダクトを開発できれば、Twitterには依然、高い潜在能力があるという。

「マスク氏はTwitterをひっくり返す前に、自分の手の中にあるものの隠れた強みを自覚するべきだ」と、モートン氏は話す。「イーロン・マスク氏による広告プラットフォームの所有には、大きな矛盾がある。自身の言・行動に対するいかなるルールも縛りも認めない男が、Twitterをユーザーおよび広告主を広く受け入れる場にしたいなら、ある程度のモデレーションを受け入れねばならないからだ」。

マーケターにとって優先度の低いプラットフィーム

ブランド向けNFTプラットフォーム、ミント(Mint)のチーフマーケティングオフィサー/共同創業者マット・ワースト氏によれば、リーダーシップ、プロダクト、ポリシーに関する不安という「黄色信号」が出ているかぎり、広告主がTwitterに駆け寄ることはないだろうという。ただし、安定性を維持できれば、懸念は減るだろう、とも氏は言い添える。

ワースト氏いわく、「Twitterを広く牽引するリーダーシップチームは、同社の最大の強みだ。個人的には、現在の不安定が収まり、彼らリーダーたちが残り、以前どおりのフォーカスを保ってくれることを期待している」。

Twitterへの2022年度の広告費は、11%増と予想されている――調査グループWARCによれば、これは2021年の予想値42.5%を大きく下回るものであり、2023年度の成長はわずか2.7%とされている。ちなみに、WARCによれば、その成長率を下回る米プラットフォームはFacebookだけであり、2022年度は8.2%減、2023年度は8.6%減と予想されている。

Twitterは実際、マスク氏が買収を申し出る前からすでに、マーケターのなかでの優先順位が低かったと、WARCメディア(WARC Media)のトップ、アレックス・ブラウンゼル氏は話す。氏によれば、Twitterにはブランドセーフティに関する問題があり、一部の広告主はマスク氏が新オーナーになる前から「鼻をつまんでいた」という。同プラットフォームの効率改善や広告依存の解消に繋がる新収入源の開拓に努める、という話もあるが、Twitterについてはそもそも、未解決の商談やそれに伴う訴訟のせいで、多くは不安感を抱いていると、ブラウンゼル氏は話す。

ブラウンゼル氏いわく、「Twitterはしばらく宙ぶらり状態にあり、その間に他のメディア企業勢が遂げた巨大な革新を我々は目にしてきた。たとえば、TikTokが他を一気に追い抜いたように」。

プランドセーフティの懸念が新たに生じるリスク

広告プラットフォームを改善し、収益の新形態を導入できたとしても、Twitterを「何でもありの地獄のような場」にはしない、というマスク氏の宣言は、この何カ月にもわたって氏が示唆してきたことに矛盾している、と見る向きもある。ソーシャルエンゲージメントプラットフォーム、オープンウェブ(OpenWeb)のCMOティファニー・シンウー・ワン氏は、モデレーションが緩くなれば、Twitterは「最も声高な、最も耳障りな物言いが支配する、無法地帯になりかねない」と話し、「言論の自由は、リーチの自由とは違う」、だからこそ「最も有害な声を最も声高にさせてはならない」と言い添える。

「それは実際、ブランドセーフティの構築に必要な行動の対極にある」と氏は続ける。「我々はモデレーションに、より健全な会話に、ユーザー間の、そしてコミュニティ、パブリッシャー、広告主間のなおいっそうの信頼にフォーカスする必要がある」。

また、Twitterの上場企業化に伴い、いわゆる抑制と均衡がなくなることで、広告主は同プラットフォームに関する説明責任を負うという、さらなるプレッシャーに直面させられる、と見る向きもある。

左派の監視グループ、メディア・マターズ(Media Matters)の長、アンジェロ・カーソソーニ氏いわく、Twitterにおけるブランドセーフティの懸念が新たに生じれば、それが何であれ、2020年のFacebookの場合と同じく、ブランド勢はTwitterへの支出を控えるべきではないか、との疑問をユーザーに抱かせることに繋がりかねないという。しかも、Facebookは当時、中小および地方企業の広告主からなる頑強な基盤のおかげで、その痛手を緩和できたが、Twitterは前者と違い、いわゆる一流どころの広告主に依存している。

「リスナーとのやり取りを中心とするトークラジオ番組はAppleのCMを流さないし、コカ・コーラ(Coca-Cola)のCMも流さない。いずれも極めて有害だと見なされているからだ」と、カーソソーニ氏は話す。

[原文:Elon Musk’s appeal to Twitter advertisers leaves many with questions

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

Source

タイトルとURLをコピーしました