怪しい伝説「 メタバース 」編::マーケティング業界お気に入りのバズワード、よくある誤解を解消

DIGIDAY

2021年以来、メタバースはマーケティング業界お気に入りのバズワードになった。ブランドはこぞって、特注のバーチャル環境の確立やデジタルコレクティブルの販売をはじめ、さまざまなかたちで、来たるべきバーチャルな世界での存在感を示そうと躍起になっている。

だが、業界がにわかに活気づいた一方、メタバースに関してはいまだ、多くの誤解が広告およびマーケティング界中に蔓延しているのも事実だ。

そんな誤解のなかでももっとも一般的なものについて話を聞くべく、米DIGIDAYはこのたび、ゲーミング、広告、Web3各界の専門家に取材をした。ただ、彼ら専門家らの間でさえ、メタバースとは一体何なのか、そしてそれがこの先、どのような役割を果たすことになるのか、依然として見解に有意な相違があることがわかった。

メタバースの構築にブロックチェーン技術が不可欠という考えは大いなる誤解だ、と言う者がいれば、反対にメタバースの構築にブロックチェーン技術は「不要」という考え自体がよくある誤解だ、と言う者もいる。つまり、メタバースにおけるブロックチェーン技術の究極的役割については、いまだ評価が定まっていないということであり、本記事ではその点についての議論は避けることとする。

実際、メタバース(metaverse)という呼称自体もそうで、1文字目「m/M」の大文字表記からして論争の元であり、大文字にする派としない派で、意見が真二つに分かれている。DIGIDAYは「インターネット(internet)」の1文字目「i/I」を小文字で書く通例に倣い、小文字にしているが、この形が標準化されているわけではない。たとえば、メタバースソートリーダーのマシュー・ボール氏は、「僕は『インターネット(Internet)』と、『I』を必ず大文字にする」と断言する。「確かに、スタイルガイド(出版物などの表記の手引き)では小文字が主流派になりつつある。でもやはり、大文字の『M』のほうが絶対に、存在感を強く示せると思う。だから、一貫性を持たせるという意味で、僕はどちらも大文字を使う」。

このように、メタバースの未来については依然、論争が絶えないわけだが、その土台自体は少なくとも、いくつかの誤解を明らかにできる程度には固まっている。今回の「怪しい伝説」では、メタバースに関してよく目/耳にする神話の一部を紹介する。

伝説1:メタバースはフェイスブック/メタ(Facebook/Meta)が開発したプロダクト

メタバースはひとつのバーチャル空間や存在ではなく、むしろ多層からなるデジタルプラットフォームの総称であり、それらをすべて繋ぎ合わせ、一貫性のある、相互運用可能な全体を形成する未来図をメタバース構築者らは思い描いている。

メタの幹部らもこの構想への賛同を公にしているが、その一方で同社が最近行なった名称変更がこの誤解を根強いものにしているのも否めない。メタバースの構築に積極的に関わる者たちは、メタのVRプラットフォーム、ホライゾン(Horizon)はあくまでも、パズルを構成するコマのひとつでしかないことを承知しているが、多くの新参者らは依然、メタバースはメタだけの領地との印象にとらわれている。

「フェイスブックというかメタは、メタバースのビルダー(構築者)でも何でもないし、メタバースのリーダー(牽引者)でもない」とTPG傘下の企業、ミラダ・スタジオ(Mirada Studios)のイノベーションリーダー、マーゴット・ロッド氏は話す。「実際、メタバースを牽引している企業は他にいくつかある。私に言わせれば、ロブロックス(Roblox)のほうが、この業界では、メタのはるか先を行っている」。

伝説2:メタバースにはバーチャルリアリティ経由でしかアクセスできない

この神話はメタをメタバースの所有者とする誤解と連動している。同社のメタバース構想にバーチャルリアリティは不可欠であり、ホライゾンのトップ、ヴィヴェック・シャーマ氏は確かに、2022年前半、最終的には他のユーザーにも利用できるようにするとDIGIDAYに語ったとはいえ、現時点で同アプリを入手できるのは、同社のヘッドセット、クエスト(Quest)の使用者に限られている。

そして、メタバースをVR体験に限定するこの誤解が、ロブロックスフォートナイト・クリエイティブ(Fortnite Creative)といった、VRゴーグルを必要としないプラットフォームにおけるバーチャル体験の一般層への浸透を妨げている。

「メタバースには、そうしたオムニチャネルな、オムニメディアなアプローチが存在する」と、ブロックチェーンゲーミング企業ポリゴン・テクノロジー(Polygon Technology)のメタバースリード、ブライアン・トランゾ氏は話す。「メタバースはVRゴーグル内だけでなく、この先、誰のスマートフォン上にも、誰のスマートグラス上にも存在することになる。公共物の画面上にも存在することになる――文字どおりどこからでも、アクセス可能になる」。

伝説3:メタバースは現実世界からの逃避

バーチャルスペースは、物理的世界から逃げ内に引きこもる機会をユーザーに与える場という固定観念があり、そこにどこか暗い影を見る向きもある。

多大な影響力を誇った、メタバース投資家ニール・スティーヴンスン氏のSF小説『スノウ・クラッシュ』では、メタバース内で生きるためにVRゴーグルを常に付けている者らを「ガーゴイル」と称している。だが、いま形成されつつあるメタバースには、物理的世界にバーチャル体験を重ねる手段が数多く存在する。

ナイアンティック(Niantic)といった企業のAR技術や、物理的世界に完全に適合する、いわゆる「デジタルツイン」なバーチャル環境の開発はその典型例だ。そうした新技術は物理的世界の使途を拡大するための機会であり、そこから完全に逃げるためのものではないと、メタバース構築者らは確信している。

「『メタバース』という呼称にはいくつか問題がある、語源もそのひとつだ(「メタ/meta」は「超越」、「バース/verse」は「世界」の意)。ニール・スティーヴンスン氏の小説では、物理的世界からのバーチャルな逃避場、という意味合いが強かった」と、テクノロジー&プロダクション企業、マグノパス(Magnopus)の創業者ベン・グロスマン氏は話す。しかし「いま、皆が構築に努めているメタバースは、陰鬱なSF小説的メタバースとは違う。我々がやろうとしているのは、インターネットの相互接続されたページから相互接続されたスペースへの転換だ」。

伝説4:メタバースの住人は、主に男性

ロブロックスやフォートナイトといったメタバースプラットフォームは、ゲーミングコミュニティと同様の、人口動態に関する誤解を受けている――ユーザーは主に白人の10代男性からなる、という思い込みだ。

確かに、フォートナイトの初期はそうだったのかもしれないが、女性をはじめ、社会的排除を受けている集団に分散型世界の利点を教え諭すことを目的とする企業、バッド・ビッチ・エンパイア(Bad Bitch Empire)などの努力のおかげで、メタバースの人口動態はいま、急速に現実世界のそれに近づいている。

「私が見てきた限り、口だけが達者なのは大半が男性だ」と、マーケターおよびメタバースコンサルタント、アーロン・ワーレ氏は話す。「一方、メタバースで自分に役立つプロダクツを実際に使い、コミュニティを動かし、この業界について私が個人的に関心のあることをしている大半は女性が占めている」。

伝説5:メタバース体験を構築すれば、それだけでユーザーは来てくれる

メタバース環境の構築と、そこでユーザーが時間を費やしてくれるかどうかは、まったく別の話だ。新たなロブロックスおよびフォートナイト体験はいくつも日々生み出されており、それはつまり、口コミ程度ではまったく歯が立たないことを意味する。ブランドのメタバース制作サイクルの流通販売面には、往々にして、動画およびソーシャルチャネルでそれを販促させるインフルエンサーの雇用が含まれる。

オニ・スタジオ(Oni Studios)など、制作と流通販売の両面を提供するメタバース制作スタジオも出てきてはいるが、メタバースを試すブランドの大半はまず、バーチャルスペースを構築するスタジオと、それをイベントや景品/サンプル、ソーシャルコンテンツを通じて販促するエージェンシーやインフルエンサーの双方を雇用する必要がある。

「『作れば、皆が来てくれる』は、誤解も甚だしい――そのためのプログラミングが不可欠だ」と、メタバースデザインスタジオ、サーリアル・イベンツ(Surreal Events)のCEOジョシュ・ラッシュ氏は話す。「クライアントにはよく、ゲーミングのコアループの話をする。ゲームは、人々を取り込み、楽しませ、もっともっとと思わせ、再訪させ続けるよう設計されている。メタバースにもコアループが必要であり、そのコアループは基本的にコンテンツプログラミングに基づくものでなければならない」。

[原文:Myth buster: Debunking common misconceptions about the metaverse

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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