景気の先行きが不透明ななか、ゲーミングおよびeスポーツ業界は依然、自らの未来を楽観視している。
そこで米DIGIDAYは、ゲーミングおよびeスポーツ業界関係者に取材し、経済の不確実性がこの業界に及ぼす影響に関する洞察および予測を聞いた。
マクロ経済環境がeスポーツに及ぼす影響は?
グローバルX ETF(Global X ETFs)のリサーチアナリスト、ティージャス・デサイ氏は、個人消費の動向こそ不透明だが、eスポーツ業界はおそらく、マクロ経済が後退しても安定を維持できるだろうと話す。
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「我々は現在、ねじれたマクロ環境に置かれている、高金利および高インフレ状態が続いており、これは間違いなく、消費動向を巡る今後の展開に悪影響を及ぼすであろうし、それはゲーミングおよびeスポーツ分野も例外ではない」。
「とはいえ、ゲーミングおよびeスポーツはそれでも、他のコンシューマーテクノロジー分野よりもマクロ環境の動きに対するリジリエンス(耐性)がはるかに高いと、我々は確信している。第1に、ゲーミング企業勢はバランスシートが優良であり、負債が比較的少なく、資金が潤沢にある。競争力が低いことを自覚している企業らは、このところ合併買収の可能性を探っている。いずれにせよ、コミットメントの維持および既存のスポンサーシップ契約については、問題ないだろう」。
「第2に、2000年でも2008年でもいいが、過去の大幅な景気後退をふり返ってみればわかるとおり、ゲーミングへの支出が世界中どこにおいても、マクロでの落ち込みに対して比較的リジリエンスが高く非弾力的であることは、十分に証明されている――それどころか、世界経済の不安定時に、健全な成長さえ見せた。この見方が正しいと言える理由のひとつに、ゲーミングは基本的に愛好家の趣味的行動であり、始めるのに大金がかからず、必要なのはユーザーの時間だけ、という点がある。プレイに必要なコンソールやスマートフォン、PCはおそらく、誰もがすでに持っている。さらに、ゲーマーは一般にロイヤリティが高く、なかでもハードコアゲーマーは社会生活と娯楽の大部分をまさしくゲームを中心に構築している」。
不況の最中、eスポーツが例外的存在でいられる理由は?
ドレクセル大学准教授ジェフリー・レビン氏は、eスポーツ業界が景気後退を乗り切るための鍵は多様化にあると、指摘する。
「eスポーツは俊敏な、常に進化を続ける産業にほかならない。そして、eスポーツにおける最新のトレンドが収益の多様化だ。eスポーツの利害関係者らがスポンサーシップや配信契約に留まらず、多様な商用権の可能性を掘り下げることができれば、たとえば無形プロダクト、従来型プロダクト/マーチャンダイズ、エクスペリエンシャル(体験型)プロダクト、コンテンツクリエーションのほか、自らの知的財産権から派生するブランドエクステンションであり、それらは不景気への耐性強化の手段となってくれる」。
「eスポーツの顧客はロイヤリティが極めて高く、それゆえ、そうしたプロダクトに対応する市場がある可能性は非常に高い。こうした収益源の多様性は、不況時に一部の利害関係者を補強する一助になるとともに、最新の企業価値評価における信用付与にも繋がるだろう」。
過去の不況から推察される、今後の不況がeスポーツに与える影響は?
トレードジング(TradeZing)の創業者/CEOジョーダン・エデルソン氏は、現在のeスポーツの不況対応力は、2008年の相場崩壊時のそれよりも高いと断言し、根拠のひとつとして、ゲーミングがすでに「本物のスポーツ」としての地位を築いている点を挙げる。
「eスポーツ業界は現在、この先も景気後退に直面するにあたり、2008~2009年時よりも良い状態にある。この業界は著しい成長を遂げ、すでにバリデーションを確立している。マーチャンダイジングチームの成功と、eスポーツが本物のスポーツとして認知されている事実がその証拠だ。eスポーツはもはや、エクスペリエンシャルマーケティングではなく、ブランドにとって実績が証明済みの、有意義かつ測定可能な結果もたらしてくれる、成功したビジネスであり、差し迫る不況にも耐えうる好調な業界と見られている」。
「もちろん、不景気が生じれば、スポンサーシップ費および広告費が削減または再配分される可能性はある。となれば、ライブイベントに高額なスタジアムを借りるのではなく、コスト削減のため、YouTubeやTwitch上でイベントを開催する企業も出てくるだろう。市場衰退時にあるいは短期的減速は生じるかもしれないが、その点についても、長期的には不安はない。ブランド勢はいまや、eスポーツおよびゲーマー業界への広告出稿の価値をはっきりと認識しているからだ」。
eスポーツにおけるスポンサーシップの役割は変わる?
エンスージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)のチーフオペレーティングオフィサー、サンバ・サマリンゲイム氏は、景気後退がeスポーツにおけるパートナーシップおよびスポンサーシップに与える影響をこう推察する。
「広告の観点から言えば、広告主がこの分野の可能性を探り、活動を妨げるのではなく、全体の経験に貢献する体験を供する機会は無数にある。イマーシブ(没入型)広告体験とそこに囚われるキャプティブオーディエンスは、ブランドのゲーマーに対するリーチ、交流、および影響にとって、完璧な場を創出する。いま現在、エンスージアスト・ゲーミングは、スポンサーシップについてもパートナーシップについても、減速が起きるとは見ていない――むしろ、マーケティングおよび広告費がより効率的かつ妥当なROAS(広告費対効果)にフォーカスしたものへと移行するなか、上昇が見られる可能性もある」。
ザ・スイッチ(The Switch)のセールス部門ディレクター、デビッド・レナード氏は一方、経済的展望の変化を受けて、eスポーツにおけるスポンサーシップの構造も変わるのではないかと指摘する。
「景気の先行きが不安視されるなか、eスポーツは依然、高成長および関心を世界的に維持しており、極めて良い状態にある。eスポーツは、放映権よりもスポンサーシップ契約への依存度がはるかに高いという点において、非常に独特な業界であり、いかなる不況の波が生じようとも、他のスポーツほどの影響は受けないと思われる。唯一の懸念は、eスポーツ界におけるスポンサーシップの構造であり、多くは短期またはイベント毎の契約となっている。eスポーツ界では、たとえば1年契約は長期と見なされうるが、他のスポーツ界では短期とされる。この構造は景気後退時、一部のeスポーツ企業/組織に悪影響を及ぼしかねない――スポンサーにとっては、一時的な経費節減を図り、次シーズンや多くのイベントの契約更新を見送ることが容易にできるからだ」。
「eスポーツ企業/組織にはこの先、複数年を網羅する長期契約を慣行として確立することが求められる。それは間違いなく、景気循環の波から身を守るさらなる術となるはずだ。ただ、総じて言えば、eスポーツはいかなる不況の嵐にもさほどの苦もなく耐えられるだろう。人気の高まり、常なる革新、ファンが求めるものを確実に提供できる能力は、オーディエンスの絶え間ない拡大に寄与し、好不況の別に関わらず、リーグおよびイベントオーガナイザーを支える一助になる」。
不安定な状況下でもeスポーツが勝ち組となれる理由は?
ワールド・チャンピオン・ファンタジー(World Champion Fantasy)の創業者/CEOマイク・ベラ氏は、コロナ禍中に顕著となったeスポーツの特質が今後の状況を示す指針になるだろうと指摘する。行動制限を受けてすぐに他の業界が軒並み落ち込んだ一方、eスポーツは成功を収め続けた。これこそがeスポーツが嵐に耐えうる理由にほかならないと、ベラ氏は指摘する。
「不況の影響と無縁な業界はないが、eスポーツはユーザーが自宅を離れることなく参加できるものであり、この特性は経済的不安定時に多大な力を発揮する。eスポーツ業界は今度の嵐も凌げるだろう。2020年の世界的コロナ禍時、eスポーツが成長を続けたことはよく知られている。eスポーツ業界は世界屈指の速度で成長を続ける業界であり、それゆえ、多少の減速がこの3年間で成し遂げた進歩をすべて止めてしまうことは、まずありえない」。
「それどころか、不況の波が家庭に及べば、eスポーツの視聴数は逆に伸びると思われる。この先、誰の収益も広く打撃を受けることになるだろうし、これについては、我々のプラットフォームに広告を出してくれる大企業から、ゲーム購入に消費してくれる個人に至るまで、例外はない。そして、その障壁はエンゲージメントという形を通じて消費者に価値を付与し、視聴経験を促進することになる。それこそがまさに、我々がワールド・チャンピオン・ファンタジーで行なうことだ。我々はファンタジースポーツの次世代を創造し、いかなる外的要因にも左右されることなく、構築を続けていく」。
「誰もが知ってのとおり、経済が好調の時、企業価値は一気に上昇するし、2021年にそのとおりのことが起きたわけだが、実のところ、経済が不調の時にこそ、確かな価値のある本物の企業が形成される。現在の世界におけるeスポーツの力には人類史上類を見ないものがあり、それをもたらしているのはグローバルエンゲージメント、テクノロジー、アクセシビリティにほかならない」。
[原文:Esports responds to the economic downturn]
Carly Weihe and Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)