ゆっくり着実な、仏グループ・フィガロの「多角」経営戦略:「大きな前進の原動力に」

DIGIDAY

フランスの新聞社、グループ・フィガロ(Groupe Figaro)にとって、メディアで収益を上げるための最善策は、いまも変わらず多角経営だ。

このオープンマインドな姿勢は、いまや多くのパブリッシャー幹部の精神にしっかりと根づいている。メディアというビジネスをめぐっては、不確かなことがあまりにも多く、確信を持てることなど何ひとつない。サードパーティアドレサビリティの低下は、パブリッシャーにとって吉と出るか凶と出るか? 広告費が行き着く先の管理をパブリッシャーは強化できるのか? こうした疑問の数々が依然として残ったままになっている。

そうであるなら、収益の多様化という、ほこりをかぶった経営計画を、多くの新聞グループが引っぱり出してきているこの現状は、驚くに値しない。

ル・フィガロ(Le Figaro)も例外ではない。事実、同紙の長期計画の発端は2017年にさかのぼる。同紙は同年、広告とサブスクリプション、コマース、ライセンス供与を事業の柱とすることを決定した。

少し時間はかかったが、その計画はいままさに良い結果を生み始めている。時期が時期ならば、このようなことにはならなかっただろう。コロナ禍のなか、グループ・フィガロの事業は苦境に喘いでいた。ル・フィガロのオーナー(同紙のほかにも、ル・フィガロ・マガジン[Le Figaro Magazine]やル・フィガロ・ヴォヤージュ[Le Figro Voyage]など47タイトルをフランス国内で発行。従業員数は1850人)は2020年、700万ユーロ(約9億7400万円)の赤字を被った。そして2021年、同社の事業は約5000万ユーロ(約69億5600万円)という記録的なEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)を達成した。

これは驚くべきことではない。テック企業各社が自分たちはメディアコングロマリットではないと主張するあいだ、当のメディアコングロマリット各社は、ずっと事業の多角化を話題にしてきた。2017年ごろに声高に叫ばれたサブスクリプションへの路線変更は、その証拠だ。しかし、パブリッシャーにとっての課題は、収益をあげるために有料コンテンツの先に進むことだ。それができるパブリッシャーはごくわずかだが、だからといって不可能なわけではない。必要なのは試行錯誤の繰り返しだと、グループ・フィガロのデジタル部門を率いるベルトラン・ジエ氏は話す。だがそれは、賭けと同じように、一か八かの挑戦でもある。ここまでの道のりで、いったい何をグループ・フィガロは得たのだろうか? ジエ氏から話を聞いた。

広告についての実用主義

たとえその変化の見通しが明るくても、ジエ氏が広告に色めき立つようなことはない。グループ・フィガロは2021年、5億ユーロ(約695億5400万円)の収益を上げた。その原動力になったのが広告売上の大幅な上昇で、前年から15%増加した。さらに掘り下げれば、ほかにも明るい材料が出てくる。2021年のリバウンドの大部分は、14%の伸びを記録したデジタル広告によるものだった。メディア企業の幹部であれば、誰しもが勇気づけられる兆しかというと、そうともいい切れない。このデジタル売上の過半数(55%)をもたらしているのは、不透明感がその未来を覆い隠しているプログラマティックなのだ。

「ここ数年にわたり、不得手にしてきたプログラマティックオークションの仕組みを我々なりに理解しようと努めてきた」と、ジエ氏は語る。

当然ながら、同氏が慎重な姿勢を崩すことはない。パブリッシャーにとって、サードパーティCookieの消滅は吉と出るか凶と出るか? これについても同氏は語ろうとしない。しかし、このことだけはしっかりと認識している。業界が向かっているのは、アイデンティティがCookieなどの単一ツールに結びつけられるのではなく、複数の要因にわたって広がる世界であるということだ。

グループ・フィガロは現在、サードパーティCookieに代わる手段を模索する広告主と、自社のデータを容易かつ安全に共有するためのさまざまな方法をテストしている。プライベートマーケットプレイスを介した方法、直接的な関係を介した方法、あるいはこのふたつを融合した方法。これらが広告主の興味を獲得できない場合に備えて、同社はコンテクスチュアルソリューションにも目を向けている。

これらのどれにも成功の保証はない。自社の広告費をグループ・フィガロなどのメディアオーナーに託したほうがいいのか? それともGoogleなどに託したほうがいいのか? 最終的にそれを判断するのは広告主なのだ。実のところ、ほとんどの広告主が大手プラットフォームのサービスを良しとしている。確かに、それは自分で自分の宿題を採点しているようなものだ。だが、その考え方が正しいにせよ間違っているにせよ、彼らの採点は正確だ。

「『新聞のブランドは非常に重要だ』というのが広告主の口癖だ。にもかかわらず、彼らが我々の事業の支援についていうことと、彼らの実際の広告費の使い方のあいだには、ズレがある」と、ジエ氏は語る。「説明がうまくないせいで、我々の価値を広告主にわかってもらえないのかもしれない。あるいは、この業界はある特定の方法で金を使うようにできているのかもしれない。サードパーティCookieが消えたら、この状況は変わるのか? それについては私もわからない」。

サブスクリプションは長期戦

控えめにいっても、ジエ氏はル・フィガロの購読者数に満足しているようだ。同紙の現在の購読者数は40万人で、そのうちの25万人がデジタルオンリーだ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は2021年10~12月だけで37万5000人のデジタル購読者を獲得している。これと比較すると、ル・フィガロの購読者数は決して多くない。しかし、2016年が約6万人だったことを思えば、これは大躍進といってもいい数字だろう。それなりのサブスクリプション基盤を築こうと思ったら、つらい道のりが延々と続くのだから、なおさらだ。その道のりは、その目標に幹部陣の意識を集中させるための、不断の文化的闘争にほかならないと、ジエ氏は話す。

「理想のデジタル購読者数は25~40万人だ。いまの数字がスタート地点だ」と、同氏は続ける。「これは利益率100%の数字で、その活動は固定費で賄われている。売上高と利益に関しては、これが大きな前進の原動力になってくれている」。

当然のことながら、サブスクリプション基盤の拡大は解約率に左右される。ル・フィガロの2019年の報告書が、このことを何よりも雄弁に物語っている。しかしそれでも、パブリッシャー業界は試行を重ねた末に近道を見つけ出したと考えたほうが、自然かもしれない。この仮定が示すのは、パブッリシャーには継続的な成長への道を切り開くことは無理だという、サブスクリプションに関する厳しい現実が実際には間違いであるということだ。その一例がル・フィガロだ。同紙のサブスクリプションの成功は、ディスカウントやプロモーションではなく、解約率をいかに抑えるかがカギを握っている。

「購読者をつなぎとめることは、彼らを獲得するのと同じぐらい重要だ」と、ジエ氏は語る。絶好調のときにはバランスを正しく保つのが難しい。だが、とりわけ難しいのは、読んだ人がサブスクリプションに加入する気になるコンテンツと、それを継続する気になるコンテンツのタイプが必ずしも同じではない場合だ。たとえば、ライフスタイル関連の記事がサブスクリプションに加入するきっかけになったとしても、その人が、それに今後も料金を払い続けるとはかぎらないのだ。こうした細部のすべてが重要だと、ジエ氏は話す。

「ユーザーがサブスクリプションに加入したプラットフォームからも、多くのことがわかる」と、同氏は続ける。「たとえば、ル・フィガロのアプリの場合、1カ月間サブスクリプションを購入してみて、その後やめるというユーザー傾向が見られる。いま我々はこの点に着目している。購読者の50%はアプリから加入しているからだ。10人中8人がiPhoneから加入している」

eコマースの夢を追う

どのメディア企業も、いま自分たちが展開しているのはコマース事業だといっている。しかし、グループ・フィガロの幹部たちが証言するように、口で「言う」ことと、実際に「行う」こととはまったくの別物だ。

これを証明したのがコロナ禍だ。2020年を迎える前、グループ・フィガロはオンライントラベルとライフスタイルを主軸とする健全なeコマース事業の構築へと順調な歩みを見せていた。劇場チケット販売の売上高は1億2000万ユーロ(約166億9300万円)だった。そしてコロナ禍が始まり、すべてが悪い方へ進んだ。現在も同社のeコマース事業は完全には回復していない。2022年3月は過去2年でチケット販売がもっとも好調な月だったと、ジエ氏は話す。とはいえ、2019年3月と比べれば、その売上は20%も少ないという。

グループ・フィガロがいま取り組んでいる初期段階のワイン販売(その道のりは果てしなく遠い)に、ジエ氏が熱を上げるのも無理はない。簡単にいうと、同社はサイドビジネスとしてワインのレコメンドサービスを立ち上げようとしている。正式にローンチされた際には、ユーザーはそのための専用サイト「Le Figaro Vin」を訪れて、ワインに関する知識を深められるようになる。このサイトでのワイン販売もグループ・フィガロは視野に入れている。そう聞くと前途有望な話に思えるが、実際には同社のライフラインのひとつになる準備はまだ整っていない。この現状を変えるべく、同サイトへの投資が継続して行われている。すでにワインジャーナリストに依頼してコンテンツを充実させている一方で、ワインの試飲イベントも試験的に行っている。いずれはワインクラブを立ち上げて、有料会員を募集する計画も練られている。

「eコマースへの取り組みが成功するかどうかは微妙だが、これだけのオーディエンスがついてくれていることを励みに、これからも挑戦を続けていく」と、ジエ氏は語る。

一部のケースにおいては、これが意味するのはスペースの革新および移動だ。そのひとつが、多くのパブリッシャーが不快感を抱いてきた「ライセンス供与」だ。

ライセンス供与。そう、パブリッシャーに料金を払うプラットフォームが存在する

放送局と同じように、ル・フィガロも記事や画像の出版権を複数のパブリッシャーにリースしている。

ル・フィガロにとって、このライセンス供与は小さくも安定した事業になっており、約400万ユーロ(約5億5600万円)の収益を同紙にもたらしている。その額こそ確かに少ないが、そこにはもっと大きなものが示唆されている。それは、パブリッシャーのコンテンツを表示する権利に金を出す大手オンラインプラットフォームの存在だ。Googleは今年2月、ル・フィガロをはじめとするフランスのパブリッシャー各社とそのための契約を結んだ。昨年10月には、Facebookも同様の契約を結んでいる。ライセンス供与がル・フィガロの新たな収入源であることは確かだと、ジエ氏は話す。だがそれは、大きな犠牲が払われた「ピュロスの勝利(割に合わない勝利を意味する)」だった。

「我々はこの契約を勝ち取るために10年間闘ってきた」と、ジエ氏は語る。「この現状をプラットフォームに受け入れさせるために、我々は欧州議会に状況を説明し、フランスの法廷に訴えてきたのだ」。

[原文:‘Big steps’: Slowly, but surely French publisher Groupe Figaro’s attempts to diversify get traction

Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)

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