LVMH のWeb3とコミュニティ構築への取り組みが語る、ラグジュアリーの方向性【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

6月中旬、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)やディオール(Dior)といったファッション界の最大手ブランドを擁するコングロマリット、LVMHが、パートナーシップにおいて大きく前進した。2024年にパリで開催されるイベントにフランスらしいスタイルを加味すべく、オリンピックとの交渉を進めているほか、LVMHはゲーミング最大手のエピックゲームズ(Epic Games)とも提携した。この動きは、ラグジュアリーと没入型デジタル体験の関係を継続するもので、ラグジュアリーブランドにとって、現在どのようなパートナーシップが有効なのかを示すよい指標となっている。

6月14日に発表されたエピックゲームズとの提携は、新たな没入型顧客体験を創造し、同社の全ブランドのための3D技術を用いたデザインパイプラインに新たなツールを追加することを目的としている。これらのツールには、最近プーマ(Puma)のブラックステーション2(Black Station 2)のローンチで使用されたゲーミング制作ツール、アンリアルエンジン(Unreal Engine)が含まれている。このツールは、高解像度のリアルなゲーム体験、新しいコレクションや広告キャンペーンの制作などに使用することができる。ファッション業界は、ビジュアル重視のブランドをデジタル環境において最適な状態で見せる表現方法を検討しているため、最近このツールはファッション関係者から注目されている。

LVMHグループのマネージング・ディレクターであるトニ・ベローニ氏は、エピックのツールは、同社が「これらのコードや使い方に非常に慣れている若い世代ともっと効果的に関わることに役立つ」と話す。しかしLVMHが狙っているのは、若年層の顧客だけではない。LVMHのようなファッション企業は、美術界の富裕層のコレクターからヒントを得て、Web3がそうした富裕層の顧客もターゲットとするのに役に立つことを期待している。

ラグジュアリーブランドが手本を示すWeb3戦略

LVMHのルイ・ヴィトンは、個性的で高価なNFTプロジェクトを通じてこれを実現した。6月6日、同ブランドはVIAトランク(VIA Trunks)を通じてデジタルコレクティブルをローンチしたが、これは同ブランドのスーパーファンが、接続されたデジタルウォレットを通じて今後のプロジェクトへの特別なアクセスを受け取ることができるもので、このデジタルウォレットには、独自のコレクションやイベントへのアクセスのほか、招待状やお知らせがエアドロップされる。このフィジタルなトランク(物理的なトランクとデジタルのトランク)は、6月8日に100点未満が限定的にローンチされ、価格は4万2000ドル(約595万円)となっている。経緯に詳しい人物によれば、このアイテムはその日のうちに完売し、同社にとって予想以上の需要があったという。

「このトレジャートランク(Treasure Trunks)の発表がファッション、Web3、マーケティング業界全体に与えた反応を見ると、これらの業界が密接に連携していることがはっきりとわかる」と、LVMHイノベーションアワードの受賞者で、Web3初のウォレットリレーションシッププラットフォームのアブソリュートラボ(Absolute Labs)共同創業者兼CEO、サミール・アダミン氏は述べている。「ラグジュアリーブランドは、その多大な影響力を利用して、何が可能かを他者に示している。新しいキャンペーンやコレクション、プロジェクトはすべて、他のブランドが自らWeb3へのジャーニーに乗り出すためのフレームワークや戦略を提供している」。

VIAトランクのローンチは、ファッションブランドにとってアクセシビリティがどこでも同じである必要はないことを示している。ルイ・ヴィトンもまた、大衆のオーディエンスを対象としたモバイルゲームやその他の体験を行っている。デジタル環境におけるほかの多くのブランドでは、より多くのユーザーを取り込むために、提供するものをハイパー・パーソナライゼーションするのではなく、デジタルアイテムの価格を下げる傾向にある。たとえば、リチャード・クイン(Richard Quinn)は60ドル(約8500円)のNFTを提供しているし、グッチ(Gucci)はRoblox(ロブロックス)にて7ドル(約990円)相当の90Robux(ロバックス)でアビエーターを提供している。

新たなテクノロジーに継続的な投資を行うLVMH

LVMHは2017年からイノベーションアワードを主催し、パリで開催されるビバテック(Viva Tech)カンファレンスではLVMHパビリオンを設置して毎年同社のイノベーションを展示するなど、継続的に新しいテクノロジーに投資している。アワードでは、LVMHグループの会長兼CEOであるベルナール・アルノー氏が、「LVMHも何年も前はスタートアップだった」と述べた。

このスタートアップというメンタリティに加え、世界最大のブランドに対する責任の増大が、LVMHの投資を他の業界にとっての指針たるものにしている。

「ファッション界のリーダーたちは、ブロックチェーンベースの技術やAIが画期的なものであることは知っているが、そうした技術を活用する方法が確実に自分たちのレガシーや未来によい影響を与えるよう非常に慎重になっている」と、アダミン氏は語る。

ゲーミング会社との提携や新しいWeb3プロジェクトは派手で、新たな層を取り込む可能性があるが、LVMHはもっと持続可能な顧客体験を構築する企業への投資も続けている。

そうした会社のひとつが、最近のイノベーションアワードを受賞したセイブユアワードローブ(Save Your Wardrobe)だ。創業6年となる同社は、修理やお直しなどのアフターケアのための購入後のコネクテッド体験を提供する。6月15日に受賞が発表された。

「セイブユアワードローブは、LVMHのクリエイティブな循環型社会へのコミットメントを完璧に体現している」と、アルノー氏は授賞式で述べている。

「LVMHは、衣服の構成や製品作りに込められたケアが同社にとって非常に重要であり、アフターケアも同様に優れているべきだという点に言及した」と、2017年にセイブユアワードローブをローンチしたハスナ・コウルダ氏は述べた。同社は2020年にアフターケアアプリをローンチしている。そのB2Bソリューションは2021年にザランド(Zalando)と提携、同社はその後、300万ドル(約4.2億円)のシード資金を獲得した。

「ラグジュアリーブランドにとって重要なのは、すべてのチャネルで統一された体験を持つことだ」とコウルダ氏は言う。LVMHとその賞は、ファッション分野における技術的進歩の重要な成功要因となっている。賞の支援とLVMHブランドへのアプローチ方法についてのインサイトを得たセイブユアワードローブは、そのプラットフォームをハイエンドのジュエリーや時計に応用し、中東への進出も視野に入れている。

[原文:Fashion Briefing: What LVMH’s push into web3 and community building says about luxury’s direction]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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