不況のなかでも広告主は「 多様性 」にコミットするのか?:「我々はあくまで『あるといいもの』と見られるようになっただけ」

DIGIDAY

黒人経営のメディア企業勢は、ブランドおよび広告エージェンシーが2020年から続ける投資による好影響を実感している。この先起きうる景気後退がその流れを止めるのではないかと危惧する者もいれば、すでに自らの価値を広告主らに証明しており、それゆえブランドのいかなる予算縮小にも耐えうると、見る向きもある。

確かに、不況の嵐が吹き荒れるなかでも、ブランド/広告エージェンシーが「多様性」へのコミットメントを頑なに守れば、その姿勢を通じて、黒人経営パブリッシャーの支援という宣言の本気度がをあらためて示せるのは間違いない。

今回のポイント

  • 黒人メディア企業への支援/投資に対するブランドおよび広告エージェンシーのコミットメントは、それら一部の企業に、漸増的ではあるが、好影響を及ぼしている。
  • 不況の足音が忍び寄るなか、予算が縮小された場合、最初に切られるのは自分たちへの広告費ではないかと、幹部らは不安視している。
  • 一方、業界は大きく様変わりしており、広告主がコミットメント宣言を覆すことはなく、たとえ予算が縮小されても、黒人経営のパブリッシャーに多大な影響が及ぶことはないと、見る向きもある。

不況知らず、との太鼓判は押せるか?

「書面上で」件のコミットメントをしたブランド勢は、メディア予算の2~10%を「ダイバースメディア」(非白人が経営するメディアまたは非白人オーディエンスをターゲットとするメディア)に割いていると、ピュブリシス・メディア(Publicis Media)のマルチカルチャルプラクティス、カルチャル・クォティエント(Cultural Quotient)のトップ、リサ・トーレス氏は話す。

そうした予算はこれまで、景気後退が起きれば真っ先に削られるのが常だったが、今回のこれは、万が一不況に襲われても、クライアント勢は「維持するだろう」と、トーレス氏は断言する。

ただし、たとえこの投資が維持されたとしても、それは依然、広告主の予算のごく一部でしかないと、黒人メディア企業の幹部らは米DIGIDAYに語る。

「ダイバースメディアが供する漸進的上昇をブランド勢は利用できる。それは不況時にブランドのボトムラインに前向きな影響を与えられる」と、ブルーライフ・メディア・グループ(BleuLife Media Group)のCEO/創業者で、非営利団体ザ・ブラック・オウンド・メディア・エクイティ・アンド・サステナビリティ・インスティテュート(The Black Owned Media Equity and Sustainability Institute、以下BOMESI)の共同創設者、デボン・クリストファー・ジョンソン氏は話す。氏いわく、予算はトップファネルから削るべきであり、「理由は、そこにはすでに投資してきたからに尽きる。新規顧客が欲しいのなら、顧客ベースを広げたいのなら(中略)その予算を我々にくれ、我々から奪わないでくれと言いたい」。

漸進的改善

2020年夏にブラック・ライブ・マター運動が最高潮に達した後、マーケター勢は黒人メディア企業を広告費の一部を割くことで支援すると誓った。エージェンシー勢もそれに乗った――たとえば2021年7月、ピュブリシス・メディアは2年間にわたるイニシアチブ、Once & For All Coalition(ワンス&フォー・オール・コーリション、以下O&FA)を始め、マイノリティが経営するメディアへの支援/投資を決めた。現在、30以上の同社クライアントがその対象となっている。

Group Black(グループ・ブラック)――CEOトラビス・モンターク氏、チーフストラテジーオフィサーのボニン・バウ氏、チェアマンのリシュルー・デニス氏が、マーケターおよびエージェンシーに対して、黒人メディア企業への広告支出を増やすよう強く促すために、2021年共同創設した――はプロクター&ギャンブル(Procter & Gamble)といった企業や、WPP、電通、IPGなどのエージェンシーから計約5億ドル(約650億円)の広告支出の約束を取り付けたと、『ウォールストリート・ジャーナル』は報じている

こうした努力は、一部の黒人メディア企業の広告収入増に繋がっていると、米DIGIDAYの取材に応じてくれた4人の幹部は話す。たとえば、ブラビティ(Blavity)のCEOモーガン・デボーン氏によれば、同社の広告収入は2022年前期、2021年同期に比べて56%増を記録したという。具体的な数字は明かされなかった。

また、新規広告主との契約のおかげで、デジタルメディア会社、ハー・アジェンダ(Her Agenda)の2021年度年間広告収入は、2019年度のそれに比べ140%の伸びを記録したと、同社CEO/創業者でBOMESIの共同創業者ローネンシャ・ビング氏も話す。もっとも、黒人メディア企業と仕事をする広告主は2022年「これまでよりもはるかに多い」のは確かだが、広告予算の伸びはあくまで「漸増的」だと、某社のジョンソン氏は指摘する。

ダイバースメディア投資およびベンダーのリストは確実に伸びていると、トーレス氏は話す。氏によれば、O&FAのクライアントは非メンバーのクライアントよりも、ダイバースメディアに割く予算が27%多い。さらに、O&FAメンバーは非メンバーに比べ、ダイバース経営および対象サプライヤーとの広告が16%多いという(具体的な投資額は明かされなかった)。

「不況時、真っ先に切られるのは我々だ」

その一方で、経済の不安定化に伴うこの投資の喪失は、一部の幹部を不安にさせている。

「不況時、真っ先に切られるのは我々だ」と、クリエイティブ/デジタルエージェンシー、ヒーロー・コレクティブ(Hero Collective)およびメディア/テック会社、ヒーロー・メディア(Hero Media)の創業者、ジョー・アンソニー氏は話す。ちなみに、後者は7月に営業を始めたばかりだという。「肌の色が茶色というだけで、簡単に切り捨てられる。我々はあくまで『あるといいもの』と見られるようになっただけであり、『ないと困るもの』ではない」。

不況が生じれば、ブランド勢はアッパーファネルマーケティング(ブランドビルディングメトリクスなど)ではなく、ローワーファネルマーケティング(コンバージョンといった、パフォーマンスベースのメトリクスなど)にますますフォーカスすると、アンソニー氏は指摘する。ビジネスモデルおよびアドテクインフラストラクチャーはそもそも、ローワーファネルメトリクスに完全に適合するものではなく、それゆえこの移行はダイバースメディアへの投資の「除去」に繋がりかねない。「その結果、割を食わされるのは」ダイバースメディアだと、氏は話す。

「我々の姿勢は一変している」

Group Blackのバウ氏はこれに対し、たとえ不景気が生じたとしても、ブランドおよびエージェンシーがダイバースメディアへの広告費を削る「心配はない」と断言する。「我々と彼らとのパートナーシップからは、すでに多大なリターンが生まれている。したがって、企業勢が今回の投資の裏付けである投資対効果検討書を見失わないかぎり、心配はないと確信している」。

ピュブリシスのトーレス氏もこれに同意する。「我々の業界は大きく様変わりした。ダイバースメディアの建議における価値を実証できるはずだ」。

いずれにせよ、景気後退が起きれば、広告費は業界全体で削減される。となれば当然、全体の広告支出も減少するわけだが、いま現在ブランド/エージェンシーの広告費を手にしているパブリッシャー勢のリストが短くなることはないと、トーレス氏は話す。

「それこそが変化だ。過去、そうした予算はすぐに削減されたし、ブランド勢はまずそこをカットしていた」とトーレス氏。「ただ、今回はそうはならない。この2年間で、我々は大きく変わった。そうしたメディアとのパートナーシップを育み、彼らの価値をはっきりと認識しており(中略)だからこそ、彼らは進んでこれを続けるはずだ。我々が望むのは、その行為の中にあるエクイティ(公正性)だ。一部のベンダーを切り捨てるというかたちは、絶対に望まない」。

[原文:Media Briefing: Black-owned media execs are watching whether advertisers’ diversity commitments will withstand a recession

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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