仮想通貨 業界の不振がつくる広告の空白:「広告予算が削られ、大きな打撃を受けている」

DIGIDAY

仮想通貨関連の広告はしばらく鳴りを潜めるだろう。広告主である仮想通貨企業が、広告費を含め、あちこちでコストを切り詰めているためだ。

昨秋以来、この業界は激しい暴風に見舞われている。被害を最小限にとどめるためにできることは、コスト削減くらいのものだ。2021年11月以来、暗号通貨の市場価値は3兆ドル(約415兆円)からざっと9000億ドル(約124兆円)に急落した。そしてアナリストたちはこの不振が当面続くと予想している。

投資家たちはたいした買い手もいないのに、こぞって暗号通貨の現金化に走る。暗号通貨の投資家たちが慌てれば慌てるほど、市場に放出される暗号通貨はさらに増える。そして需要が下がるほど、供給過多が進む。暗号通貨を買えば金持ちになれる。そう投資家を焚きつけたい企業にとっては、都合の悪い事態である。そんな幻想は間違いなく揺らいでおり、暗号業界の大物たちの思惑もまた然りだ。

まっさきに削られた広告予算

2年にわたり仮想通貨業界を支えてきた急成長と目先の利益を追う姿勢は、より保守的で生存主義的な思考に姿を変えた。暗号通貨と同様に価値を失った市場において、企業はコスト削減にいそしんでいる。いつものことだが、まっさきに削られるのは広告予算だ。

暗号通貨の投資および金融に特化したウェブサイト、グリーナリーフィナンシャルドットコム(GreeneryFinancial.com)の創業者でCEOを務めるザッカリー・グリーン氏によると、「仮想通貨企業の広告支出はここ数ヶ月で平均70%近く減少した」という。「この低迷による広告その他の収入減により、現在進行中の我々自身のマーケティング活動をすべてストップせざるを得なくなった。さらに、先月は一部の従業員の一時解雇や労働時間の短縮も余儀なくされた」。

状況はあっという間に暗転した。仮想通貨企業がスーパーボウルの広告に数百万ドルという大金をはたいたのは今年初めのことだった。いま、彼らはほとんど広告を出していない。デジタル広告のインテリジェンスプラットフォーム、パスマティクス(Pathmatics)のデータによると、仮想通貨企業10社のデジタル広告費は、11月以来、約90%減少した。なお悪いことに、広告費の回復がいつになるのか誰にも分からない。あくまでも「いつ」の問題であって、「回復するか否か」ではないのだが。

かつてないほど保守的な新規投資家

もちろん、筋金入りの信奉者はいる。仮想通貨は必ず定着すると頑なに信じる者たちだ。しかし、仮想通貨企業が広告のターゲットとしていたのは、実はこういう人々ではない。むしろ、彼らが狙いを定めたのは、「みんなが儲けているのに自分だけ取り残されるのは嫌だ」という思いから、暗号通貨に走った新規の投資家たちだ。現在、このような心理は以前ほど強く働かない。「自分も」という思いは、「こんなに深く関わるのではなかった」という後悔の念に取って代わられた。仮想通貨業界の広告主がいま一番敬遠するのは、かつてないほど保守的になってしまった新規の投資家たちにほかならない。

「私の見る限り、すでに動いているスポンサーシップ契約はそのまま履行されるようだが、ほかはぱっとしない。少なくとも暗号通貨の冬が続く限り、この状況が続くだろう」。仮想通貨取引所のゲイト(Gate.io)で広報のグローバル責任者を務めるディオン・ギョーム氏はそう述べる。「どのセクターでも同じだが、困難な時期には困難な決断を余儀なくされる」。

プル型の広告か、あるいはプッシュ型の広告か。メッセージを変えるか、あるいは減らすか。新規顧客の獲得を停止するか、それともより効率的な獲得モデルに注力するか。マーケティングを担当する者たちは、目の前の状況を正しく判断し、市場の浮き沈みに対応しようと努めている。

業界の現状は「流動的」

広告インテリジェンスを提供するメディアレーダー(MediaRadar)は、全国ネットのテレビ、雑誌、新聞、さらにはウェブサイト、ポッドキャスト、Facebook、YouTubeなどのオンラインチャネルに広告を出している、暗号資産の取引プラットフォームや仮想通貨取引所などの仮想通貨企業200社を調べた結果、業界の現状を「流動的」と結論づけた。

たとえば、コインベース(Coinbase)の広告支出は2月から3月にかけて90%減少した。ひと月後の4月には、さらに68%削られた。その後、5月には回復に転じ、前月の17倍まで増加した。仮想通貨ドットコム(Crypto.com)の広告費も同様の経過をたどっている。3月に前月比で71%落ち込み、4月にはさらに68%を削減。5月には、コインベース同様、前月比で70%増加した。

もちろん、この広告費の変動は、そのすべてがコスト削減によるものではない。ことはそれほど単純ではない。まず、広告支出減のひとつの要因と考えられるのが、NFLのシーズン戦や冬季五輪のような大型のスポーツイベントが減少したことだ。さらに、この市場の広告は、仮想通貨の価格や市場の浮き沈みに左右されやすい。当然、このような企業に対する消費者の反感も、不振の要因と考えられる。

「最近、暗号関連の広告が大きな打撃を受けている」。そう語るのは、カナダで活動するNFT専門の弁護士、ハリソン・ジョーダン氏だ。「市場の暴落に伴い、暗号資産に関連づけられたくないブランドが増えている」。

ほかの多くのことがそうであるように、広告を手控える動きはじわじわと進行した。スーパーボウル以降、仮想通貨企業は短期間に多額の広告費を使った後、徐々に広告の出稿を控えはじめた。そして市場の落ち込みが深まるにつれて、広告支出の下落は急速に深刻化した。

テレビ関連のインサイトとアナリティクスを提供するサンバTV(Samba TV)の調べによると、米国で広告支出がもっとも多い仮想通貨企業5社が、従来型テレビのインプレッションに投じた広告費は、2021年10月からスーパーボウルが開催された2022年2月にかけて着実に増えていたが、2022年4月を境に急落した。2022年2月から2022年5月にかけて、これら仮想通貨企業が購入した従来型テレビの広告インプレッションは全体で64%減少している。

「仮想通貨市場が底割れするや、暗号資産関連の広告主たちはすぐさま広告費の引き締めにかかった。株価と広告出稿の相関関係が明確に示されたかっこうだ」。サンバTVのシニアバイスプレジデントを務めるダラス・ローレンス氏はそう語った。

「メッセージ発信に注力する必要がある」

急激な落ち込みであることは間違いない。一方で、広告からの完全な撤退ではない。広告出稿を完全にやめてしまえる暗号関連の企業などないに等しい。顧客の獲得が極めて重要なのだから、それは無理な話である。特にコインベースやFTXのような取引所にとってはなおさらだ。彼らは今後も広告費を使いつづけるだろう。もちろん、より計画的かつ有意義な方法を模索する必要はあるかもしれない。少なくとも、そうできる企業はそうすべきだろう。実のところ、一部の企業は、いざという時に備えて十分な軍資金を蓄えておくような賢明さを持ち合わせていなかった。資金的に余裕のある企業は、広告予算の使い先をメディアからより目的ベースの広告戦略へと移動させたり、主軸の製品の改良に注力したりしている。

暗号資産の税務申告ソフトを提供するゼンレジャー(ZenLedger)の共同創業者で、CEOを務めるパット・ラーセン氏は、「扱う商品の役割にもよるが、ユーザーをさまざまな方法で支援するために、メッセージ発信に注力する必要がある」と述べている。「下げ相場にあっても、ユーザーに価値を提供し、彼らが勝てるように支援することで、消費者の生活において、自分たちの役割を確立することができる」。

現在、仮想通貨企業はこの難しい局面を利用して、長期的な戦略を強化しようとしている。結局のところ、この市場に価格変動はつきものだ。このたびの低迷は経済的な混乱のおかげでよりいっそう深刻だが、業界関係者のあいだには、いずれ必ず回復するという確信があるようだ。過去に幾度か同じ危機を経験しているが、そのたびに立ち直ってきたという成功体験があるからだ。実際、回復基調に転じれば、投資家や暗号通貨はすぐに戻ってくるだろう。暗号資産を扱うマーケティング関係者は、そのときに備えて、自社のブランドを大々的に売り込む準備を確実に整えておきたいと考えている。

「短期的には、広告会社の幹部たちはメディアプランの再考を余儀なくされるが、その反面、総合的に考えれば、新しい議論や戦略の余地もできるだろう」。そう語るのは、テクノロジー、eコマース、Web3を扱うエクスペリエンスデザインエージェンシーのRNO1を創業し、最高エクスペリエンス責任者を務めるマイケル・ゲイズティス氏だ。「デジタル通貨とデジタルエコシステムは、暗号資産からデジタル資産、将来的にはメタバースまで、今後も存在しつづける。これをいま受け入れる人々は、そう遠くない未来に大きな見返りを手にするだろう」。

[原文:‘Advertising has taken a hit’: The crypto crisis has created an advertising vacuum

Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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