エピックゲームズ がブランド向けアンリアルエンジン講座を開く理由:「メタバースの創造を加速させたい」

DIGIDAY

エピックゲームズ(Epic Games)はデジタルエージェンシーのコレクティヴ(Collective)、英IPA(Institute of Practitioners in Advertising/広告実務者協会)と手を組み、人気が高まりつつあるゲームエンジンであるアンリアルエンジン(Unreal Engine、以下UE)内でのデジタルアセット制作に必要な知識とスキルをブランドやエージェンシーに提供していく。その初の試みとなるUEワークショップが、2022年6月28日、IPAのロンドン本社で開催される。

バーチャルアクティビティの普及を受け、エピックゲームズはゲームデベロッパーから、今や正真正銘のメディアオーナーへと進化を遂げた。同社が誇るUEは、ファッションフィットネス自動車業界といった非ゲーミング領域におけるバーチャル環境およびアセットの構築に利用されている。自社人気ゲーム、フォートナイト(Fortnite)を広告インベントリとして提供するだけでなく、エピックゲームズはバーチャルグッズの大半のデザインに利用される同ツールを管理監督しているのだ。

UEユーザーがゲーム界の外へと拡大を続ける今、同ツールの仕組みに関する完全な知識を社内に備えておくこと――そして、エピック・ゲームズと仕事上の関係を維持すること――は、ブランド勢にとってなおいっそう必要不可欠になりつつある。

ゲームエンジンが一大バーチャルツールへ

エピック・ゲームズがUnreal Engineを生み出したのは1998年。もともとは同社の将来性に富む初のファーストパーソンシューティングゲーム、「アンリアル(Unreal)」用のゲームエンジンだったが、同時に上述の他分野における利用を積極的に促してきた。以降、同社はUEに新機能を継続的に導入しアップデートを図るとともに、革新的方法で同ツールの実験を試みるデザイナーに「メガグランツ(Epic MegaGrants)」――5000ドル(約55万円)から50万ドル(約5500万円)相当の支援金――の提供も続けている。

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「私の見る限り、彼らは建築からゲーム、映画に至るまで、多岐に拡がる巨大コミュニティの構築に本腰を入れている」と話すのは、フリーランスのUEデザイナー、アミエル・スリーガーズ氏だ。氏はチーム・リキッド(Team Liquid)といったブランドやコンピュータハードウェアメーカーであるマイクロスター・インターナショナル(Micro-Star International)と契約を結んでいる。「私はUEがまださほど大きい存在ではなかった頃からこの業界におり、現在に至るまでの成長を間近で見てきた。まさに飛躍的だ」。

今回のコラボを円滑に進めたのがIPAのトップ、ジュリアン・ダグラス氏であり、氏は1月の演説で、同協会が今後メタバーステクノロジーを重要視していく旨を表明していた。バーチャルイベントの企画・計画に多大な経験を有するエージェンシー、コレクティヴは、IPAがエピック・ゲームズと今回の話を進めていると聞き、自らも参画するべくファウンディングパートナーのスティーブン・バーンズ氏がコンタクトを取った。

「この共同関係は極めて興味深い」と、エピックゲームズのビジネスデベロプメント部門マネージャーで、同社の在ロンドン部門イノヴェーション・ラボ(Innovation Lab)に籍を置くレイチェル・ストーンズ氏は話す。「ダグラスは広告業界の人間――IPAのトップを務めている。スティーブンと彼が率いるチームは、我々のツールを利用してブランド勢のために、まさに特注のエントリーポイントを創造している。そしてもちろん、我々がここにいる目的は、人々がこれをどう使いたいのか、彼らが克服すべき課題は何なのかを理解することであり、それに基づくものを我々のエコシステム内で提供し、彼らの期待に応えるよう努めることにある」。

UEデザイナー採用を急ぐブランド各社

非ゲーミング企業勢がUEの利用に次々と乗り出すなか、今回のIPAワークショップ――すでに予約で一杯であり、参加希望者はキャンセル待ちの状態となっている――の目的の一部は、社内にUEデザイナーを置く価値をブランド勢に納得させることにある。「いわゆる伝道師的な部分も多少ある。今回のプレゼンではUE内で仮の製品を作り、その仮製品の生涯という形で1年間の流れを見せていく」とバーンズ氏は話す。

実際、ブランド勢はすでにUnreal Engineの知識を社内に取り込みはじめている。たとえば2021年10月には、チーム・リキッドがスリーガーズ氏と社内デザイナーとのコラボで創出したバーチャルスペースを利用し、同チームのクロージングラインLQD設立に関するプロモーションを実施した。2022年初めには、自動車レストア企業であるE.C.D.オートモーティヴ・デザイン(E.C.D. Automotive Design)が、面接試験で車の3D描写の精度を上げるUEの利用を提案した3Dデザイナー、タイラー・ゴッドビー氏を採用した。同社は現在、実際の製造に入る前に、クライアント自身にUEベースのモデリングツールを介して車のデザインをさせている。「UEのおかげで我々の顧客体験に付与された価値は、計り知れないほど大きい」と、E.C.D.共同創業者スコット・ウォレス氏は話す。

現在、UEを巡るこの動きを牽引しているのが、ファッション業界だ。2021年にファッションデザイナー、ゲイリー・ジェームズ・マックイーン氏はエピック・ゲームズのMegaGrantsを利用してバーチャルファッションショーを開催した。同年9月には、バレンシアガ(Balenciaga)がUnrealを使い、フォートナイトのアクティベーション用に自社デザインの一部を創り直した。「ファッション業界には巨大革命が起きている」とストーンズ氏。「特にポストコロナの今、彼らは製品のデザインになおいっそうUnreal Engineを利用しており、これはサステナビリティにとって非常に良いことでもある。彼らは新製品をゲーム内でローンチしている。つまり、デジタルファーストなコレクションがすでに存在する。デジタルファッションはいまや巨大市場だ」。

もっとも、今のところすべての企業がUEに精通したデザイナーを社内に置く必要はないと、スリーガーズ氏は断言する。もちろん、UEの利用が非ゲーミング業界にさらなる広がりを見せるなか、そうした採用は今後も増えるだろうとも付け加えている。

UEで構成されるメタバースの実現へ

デザイナーを社内に抱えることで、ブランド勢がより迅速に動けるようになるのは間違いないが、UEのメリットはそれだけではない。世界中のUEユーザーがデザインした、急速に拡大を続けるPnP(プラグアンドプレイ)アセット群へのアクセスも、そのひとつだ。「私を雇うメリットは、私の機材費を払う必要もなく、私の年金を払う必要もなく、権利許諾料を払う必要もないという点にある」とスリーガーズ氏は話す。「UEは無料であり、そこがほかのどれとも違う――私は実際、さまざまなプログラムの権利許諾料だけで、年間2000ドル(約22万円)近くも支払っている」。

とどのつまり、UEの長所をブランド勢に教える、エピックゲームズ、コレクティヴ、IPAの三者共同によるこの動きは、UEを根本的な構成要素とするメタバースの創造というエピックゲームズの壮大な計画の一部にほかならない。UEを動力源とするバーチャルスペースがさらに普及するなか、同ツールを利用したバーチャル製品の創造は、企業勢にとって極めて理に適っている。UEでデザインしたアセットの他バーチャル環境への移行も可能ではあるが、複数の異なるプラットフォーム間での相互運用がより簡便に行なえるようになるからだ。

「弊社CEOティム・スウィーニーは、メタバースの創造を加速させたいと考えている。彼の思い描くメタバースとは、開かれた、相互運用可能な、そうしたすべてを兼ね備えたものだ」とし、エピックゲームズのストーンズ氏は続ける。「したがって、我々のツールもすべて、それと同じ機能を有する必要がある」。

[原文:Why Epic Games is collaborating with Collective and the IPA to educate brands about Unreal Engine

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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