景気後退直撃した メディア 業界、2022年上半期レビュー:要点まとめ

DIGIDAY

当初2022年の利益や成長は2021年と同じようなものだと考えられていた。しかしながら2022年半ばの今、景気後退が迫り、世界を揺るがす事態がいくつも生じたことで、その様子は2021年よりも2020年に近いことが明らかになっている。

「現在私たちが置かれている状況は、2カ月前とまったく違う」。あるメディアのトップが匿名を条件に話してくれた。「世界がこのような状況になるとはとても予測できなかったし、あと半年でこの状況から脱することができるとはなかなか言えないのではないか」。

不確実な部分は多いものの、2022年後半の姿は、パブリッシャーが前半6カ月で試してきた結果から予測できるだろう。たとえば、2020年に影響を受けなかった分野でも広告費の減少が進む、成長著しいコマースビジネスでは新しい戦略が導入される、ブロックチェーンの勢いが小休止を見せる、雇用維持の取り組みの見直しに着手するといった動きもその一部だ。

上半期レビュー

  • 広告業界は景気後退前のパニックで打撃を受けている。とはいえ、その影響はどの分野も同じとはかぎらないだろう。
  • パブリッシャーは、自社のコマースビジネスで広告主をなだめる方法を模索している。新たな価格設定の追加やショッパブル動画の活用も、その一環。
  • 人事関係はこれまでになく不安定な状況。しかしながら、採用凍結や一時帰休、解雇といった手段は奥の手として残しておく。

影響を受ける広告業界

「不況、不況」と騒がれはじめ、一部の広告予算が危ぶまれる事態にあるようだ。先述のメディア役員によると、景気後退を示す最初の兆候として、広告主がプログラマティック広告への支出を中断したことが挙げられるという。新型コロナのパンデミック当初、同氏が目の当たりにした「支出削減はまずプログラマティック広告から」という動き――その同じ現象が再び始まったのだ。

BuzzFeedの2022年第1四半期業績説明会では、CFOのフェリシア・デラフォーチュナ氏がこう話している。「2021年は、市場全体で広告CPMが明らかに季節性の上昇を見せた。それで、プログラマティック広告のCPMが鈍くなっている」。

同社は、プログマティック広告の収益に関する第2四半期の具体的な数字について言及を避けたものの、デラフォーチュナ氏によると、前回の業績説明会で触れた広告分野にはテクノロジーやCPG(消費財)など、「マクロ経済の明代」に直面し、広告主の撤退や抑制が見られ始めたものもあるという。

しかしながら、一部のメディア役員は、迫りくる景気後退にもかかわらず、収益が好調な分野もあると話す。

「世界の状況や将来に対する不安が高まるなか、成長を見せる分野はアルコールやリキュールだ。当社もパンデミック中に(この分野で)若干の上昇が見られる。これは、ほかと似たような傾向だ」とある役員は話す。同氏は、パンデミック時とは違い、「不安定な経済状況やインフレーションにもかかわらず」旅行は強い分野だと話す。これは、「旅行したい」という気持ちがうっ積しているからだという。また、景気後退で、財産や生活を守ろうという気持ちも強まり、保険分野も広告で顕著な動きを示している。

一方で、勝負に打って出たのが暗号通貨取引プラットフォームやブロックチェーン企業である。瞬く間に数多くのメディアのトップ顧客に登りつめたが、その分、脱落するのも速い

ブロックチェーンは一休み

暗号通貨市場は大きな打撃を受けており、市場価値が3兆ドル(約390兆円)から約9000億ドル(約117兆円)に減少し、3分の2が失われている。当然、これは、暗号通貨に特化した企業の広告費凍結が見込まれる(まだ凍結していなければ、の話だが)ことにほかならならず、ブロックチェーン技術やNFT(非代替性トークン)などを試してきたパブリッシャーが、この革新的な分野へのアプローチを変え始めている。

ターナー・スポーツ(Turner Sports)はNFTレースでトップを走るメディア企業の1社で、これはブロックチェーン技術を俯瞰的に捉えるチャンスだと考えて始めている。NFTの下落で、数千ドルどころか数百万ドルの獲得競争が鈍化した今、たとえば、NFTを利用したビデオゲームへの投資や、複数のNFTを購入したオーディエンスだけが利用できるアクセス方法の検討もその一環だ。

ボトムファネルを狙うコマースビジネス

パブリッシャーのコマースビジネスは、この数カ月、危険な状態が続いており、その責任の所在は、対面販売の復活から、サプライチェーンの納期遅延、景気後退を見据えた消費者の買い控えまでさまざまなだ。

「まだ影響は見えていないが、第4四半期の計画では、コマースビジネスの観点からいざという時のために備えている」。そう話すのは、バイスメディア・グループ(Vice Media Group)でチーフデジタルオフィサーを担うコリー・ヘイク氏だ。「予算がさらに厳しくなることを想定して、戦略として消費者の視点で考えようと取り組んでいる。いくらでも予算を注ぎ込めるのであれば、商品の栄養素のラベルをどうしようと関係ないだろうが」。

BuzzFeedは、第1四半期のコマースビジネスの収益が目標に達しなかったと発表している。収益予測では、2022年の総収益の23%を占めると見ていた(前回の業績報告によると12%)。ドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)の親会社IACも、第1四半期の業績報告書で、同期にデジタル収益が期待以下だったのは、オーディエンスがオンラインショッピングから離れたことが理由のひとつに挙げられるとした。

だからといってコマースビジネスのリーダーたちが、「きっとなんとかなる」と手をこまねいているわけではない。クリック単価(CPC)制や定額制のような新価格設定を試して新たなリテールブランドやマーチャントを取り込もうとしたり、オーディエンスが新たなブランドや製品、トレンドにどのような反応を示すのかを調べる試験期間は支払いを保証したりしている。

一方、パブリッシャーには、オーディエンスに消費を促し、新たな広告ビジネスを勝ち取る方法として、ライブストリームショッピングやショッパブル動画を捉えているところもある。つまり、ローワーファネルをターゲットにした、コンバージョン率を高めるキャンペーンを展開していく。

バイスメディア・グループのコマース収益は、同社のヘイク氏も述べるように、まだ減益を示しておらず、2022年上半期は前年同期比で40%増を見せているほどだ。とはいえ、第4四半期が近づくなか、消費者の購買習慣と広告予算の減少がメディアのコマースビジネスにどれほど大きな影響を与えるのかは、まだこの時点ではわからない。

「オフィス再開」問題

メディア数社がオフィスを再開したことからわかるように、パブリッシャー経営陣の間では、社員がオフィスで新型コロナに感染するのではないか、社内で感染拡大が生じるのではないかという不安が薄れてきているようだ。しかし、「1週間の出社日数」や「他州在住の人材雇用における通勤の意義」は、依然としてよく考えなければならない。

コロナ禍でM&Aを実施し、規模が大きくなったばかりの会社にしてみれば、オフィス再開は別の意味で問題だ。たとえばドットダッシュ・メレディスは週3日以上の出社を義務づけているが、ニューヨークシティ在住の社員は出社先としてドットダッシュとメレディス、どちらのオフィスでも選択できる。なお、この2つのオフィスはマンハッタンにあり、徒歩15分圏内だ。

メディアの中には、オフィス再開予定や出社日数の決断をチームリーダに任せているところもある。一方、労働組合の場合、オフィス再開の取り組み方について意見が異なり、特に、従業員のリモートワークの権利を守るべきだと訴えている。

解雇と採用凍結

メディアのなかには、コロナ禍の対応として、採用凍結や一時帰休、解雇を実施したところも数社ある。その目的は、事業費の多くを占める人件費と福利厚生費の削減だ。

今後さらに景気後退が続くのか判断するのは時期尚早だが、2020年春から夏にかけて人件費の管理に関する独自のルールを策定したメディア企業であれば、おそらくそのルールがまた役立つことだろう。

2022年6月だけを見ても、サブスタック(Substack)が従業員の14%を解雇し、フード52(Food52)は全社で21人(15%)を人員削減している。なお、フード52では、給与20%削減の代わりに、クリエイティブチームの一部とコンテンツチームに関しては、1週間の労働時間を32時間に定めた。

恐ろしいのは、これらの事例は上半期のほんの一例であり、今年全体の振り返りではないという点だろう。

[原文:Media Briefing: The media business’s mid-year review

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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