Cookie レス時代を乗り切れる広告IDとは:ソリューションを選定するうえでのポイント

DIGIDAY

メディア業界では、サードパーティCookieやモバイル広告ID(MAID)など、従来型広告ターゲティングと効果計測の手法が終焉を迎えようとしている。そうしたなか、購買意欲の強いオーディエンスとの接点を広げたいマーケター向けの代替ツールが次々と登場してきた。

代替ツールのベンダー各社は、厳格化されたプライバシー規制を遵守しながら、Cookieなどと同様に広告予算の費用対効果を証明できるソリューションという謳い文句を掲げ、広告主ブランドのマーケティング部門に怒涛の勢いで売り込みをかけている。

調査によると、市場に出回る同種のIDツールは山ほどあり、選択肢には事欠かない。しかし、どのツールが自社のニーズに最適かという判断となると迷いそうだ。Googleが示したChromeブラウザでのサードパーティCookieのサポート終了予定は2024年。それまでに備えを万全にしておきたいマーケターとしては、複数の代替ソリューションの内容を十分に理解し、検討したうえで採用を決定したいだろう。

代替IDベンダーの訴求メッセージはさまざまだが、2022年に米DIGIDAYが発表したDIGIDAY+ Researchの調査結果によると、ID作成の元データには多くの種類があるわけではなく、eメールアドレス、IPアドレス、デバイス上のデータが主流だ(一部のベンダーはCookieベースの技術に回帰したIDツールを提供している)。

プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)はそれらのIDソリューションを、決定論的、確率論的、コンテクスチュアルという3つのカテゴリーに分類して紹介し、各国市場のプライバシー保護規制要件により使い分けるよう推奨している。

ただし、100を超えるといわれるIDソリューションのなかには、特定地域の市場でしか使えないものも相当あり、ことはそう単純ではない。広告主もメディア所有企業も、どのベンダーと連携すべきか選択に困るほど、パートナー候補の企業は多い。

ここで、プロハスカ・コンサルティングが業界調査をもとに作成した広告IDベンダーのリストを見てみよう。

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企業にとって、ベンダーに提案されたソリューションを手あたり次第に導入するやり方は実践的でないばかりか、弊害をもたらす場合もある。米DIGIDAYはこのたび、業界関係者数人に取材して得た情報を、各社のニーズに合ったソリューション選定のヒントとして以下にまとめた。

ある企業のインハウスマーケティング部門の元幹部によれば、IDソリューションをめぐる状況は、まるで「裸の王様」のストーリーのようだという。「マーケターは、パートナー候補のIDベンダーのプライバシー対応について、深い理解を得ておく必要がある」。

この人物は現在、消費財メーカー向けにリテールメディア戦略コンサルタントを務めており、進行中のプロジェクトに関わっているという理由で匿名を条件に取材に応じ、こう述べた。「どのベンダーもしかるべきIDソリューションを持っていると主張するが、実態は違う。どのツールの機能も似たりよったりだ。ところがほとんどのマーケターは、ツールの良し悪しの区別がつかない」。

1.プライバシー:データの来歴をたどれるのか?

データプライバシー保護の第一歩は、ベンダーが扱うデータが、提供元から適切な形で同意を得て取得したものかどうかを確かめることだ。EPAMシステムズ(EPAM Systems)の主任ビジネスコンサルタントであるリズ・サルウェイ氏は、マーケターへのアドバイスとして、IDベンダーに質問しておくべき事項を挙げており、まずはデータの出所、来歴の保証、プライバシー保護法の遵守、遵守状況の更新頻度を確認する必要があるという。

「ベンダーが提案するIDツールはどれも、メディア業界のエコシステム内に広く普及した『ソリューション』として、プライバシー規制に準拠した先端機能が備わっているというふれこみだ」とサルウェイ氏はいう。「ただ、広告主ブランドとしては、プライバシー規制を遵守した形でベンダーとデータのやりとりをするにあたって、そのプロセスの管理に真摯に向き合わなくてはならない。何か不始末が起きた場合の結果責任までは問われないかもしれないが、ブランドとしての一定の責任はあるはずだ」。

また、ヴァーヴ・グループ(Verve Group)の製品マーケティングディレクターのアニシュ・アラヴィンダクシャン氏も、こんなアドバイスをしている。「マーケターは、IDソリューションにおけるユーザー認証方法を十分に理解したうえで採用を決める必要がある」。つまり、「決定論的/確率論的/コンテクスチュアル」IDソリューションのどれをどう使うかという命題に立ち返ることになる。

「たとえば、UID2(Unified ID 2.0)のようなソリューションの場合、ID作成にはユーザーのメールアドレス取得が必須だが、この方法は一部の広告主からは絶対にOKが出ない」とアラヴィンダクシャン氏はいう。「一方、コンテクスチュアルIDソリューションは、決定論的IDを必要としない。IDによってそれぞれプライバシーの適用範囲が異なるが、マーケターはこういった違いを踏まえて選定の判断をすべきだ」。

2.「インテント」とは?――「フィンガープリンティング」の別名か?

米DIGIDAYの取材に応じた複数の情報筋によると、データ提供元からの同意取得は「難題」であり、当該分野で事業を展開する多くのベンダーが関連の規制要件を満たしていないという。

ひとつの例として、メタ(Meta)が2023年1月第1週、GDPR(EU一般データ保護規則)違反による罰金の通告を受けた事実をみればわかるだろう。

ザ・トレードデスク(The Trade Desk)の最高戦略責任者であるサマンサ・ジェイコブソン氏は、同業他社に評価対象のIDソリューションについて、GDPRなどの規制遵守、精度、永続性について考えるよう奨励しているという。

また同氏は、デバイスの「フィンガープリンティング」のように、長いあいだプライバシー擁護派に眉をひそめられてきた技術が、サードパーティCookieのサポートが完全終了する2024年を前にして、準備を急ぐ業界関係者の注目を集めていると述べた。

「広告IDの元データにはいくつかの種類がある」とジェイコブソン氏は説明する。「まず、消費者により提供されたメールアドレス(ザ・トレードデスクが推進するUID2のベースとなる入力データ)。加えて、デバイス由来のデータ(ブラウザIDやデバイスに割り当てられたID)、データセットの外挿により導き出されたIDがある」。

「フィンガープリンティングは、その手法に対する批判の高まりを受けて、別の名称で呼ばれることもある。消費者がデータ提供に同意していない場合でもデバイスを特定できる技術を導入するとなると、私なら二の足を踏むだろう。というわけで、マーケターが重視すべき問いかけは次のようになる。ユーザーがターゲティングをオプトアウトする方法は?  ターゲティングをオプトアウトしたあと、下流のプロセスではどう扱われるのか?」

3.拡張性:自社のオーディエンスのマッチ率は?

先を見据えたオーディエンス戦略を追求する企業にとって、プライバシー保護は「必須条件」だが、戦略の主な目的は、オーディエンスに対する精度の高いターゲティングの大規模展開であり、そのためIDベンダー各社の提案の精査が鍵となる。

もちろん、ひとくちに「大規模」といっても、その規模感は主観的なものだ。ヴァーヴ・グループのアラヴィンダクシャン氏は、広告主向けのアドバイスとして、サードパーティCookieなどのツールが利用可能なうちに、オーディエンスの属性を外挿により推定するよう推奨している。マーケターはその知見をもとに、あるIDのデータがブランドにとって望ましいオーディエンスの属性と交差するか否かを確認できる。

また、マーケターはベンダーのプレゼン資料の内容を額面どおりに受け取るべきでないと、複数の情報筋から注意喚起があった。ベンダーに確認する項目のひとつとして、「個人のIDと世帯レベルのIDをどう識別しているか?」が挙がった。

プロハスカ・コンサルティングのアミート・シャー氏は次のようにアドバイスしている。「ベンダー各社がIDソリューションを売り込む際、到達可能なオーディエンス数は『何百万』だと主張するかもしれない。しかし、広告主としては、その種のソリューションが自社のオーディエンスに適しているかどうかを検討する必要がある」。

マーケターがベンダーに投げかけるべき重要な質問は、「そのIDソリューションのマッチ率は、当社のオーディエンスの場合どのぐらいになるか?」であると同氏はいう。「ベンダー側が提供できるメールアドレスベースのIDは相当な数にのぼるだろうが、それらが自社保有のメールアドレスのデータと一致しなければ意味がない」。

「2億、3億、5億といった数のメールアドレス取得は十分可能だが、それより直帰率に注目したほうがいい。当該メールアドレスのうち何件が有効で、何件が無効かを把握するためだ」。

ほかにも考慮事項はいろいろある。たとえば、それぞれのチャネル(ブラウザベースのディスプレイ広告やアプリ内動画など)に適したタイプのIDはどれか、IDソリューション導入に必要な技術要件は何かを把握しておくのが肝要だ。加えて、広告主が利用している既存ソリューションと、2024年のサードパーティCookie終焉にそなえて導入する新規ソリューションを調和させながら運用する方法も、ベンダーに確認すべきだろう。

[原文:How to pick an identifier to navigate the ad industry’s cookieless future

Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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