定額・CPC・CPA徹底比較、理想のコマースビジネス価格設定は?:要点まとめ

DIGIDAY

コマースビジネスを実施する一部のパブリッシャーは、この数カ月をかけて新たな価格設定モデルを試し始めた。自社サイトのアフィリエイトリンクから得られるコミッションの増加分を超えた、eコマースの収益増加を期待しているのだ。

こうしたパブリッシャーは、コマースビジネスを「広告主が購買時点にとても近いターゲット顧客にリーチできる手段のひとつとして見なし始めている。このボトムファネルのビジネスで勝利をつかむために、各社のコマースチームがブランドに対してクリック単価制と定額制を提供し始めた。

比較分析

  • パブリッシャーはコマースビジネスで新たな価格設定モデルをテスト中。いずれのモデルも、消費者の購買体験、つまり購入までのプロセスのさまざまなポイントで支払いの請求が可能になる。
  • 定額制は、一部のパブリッシャーでブランドコンテンツの一歩手前のステップとして採用されているが、幹部のなかには、コマースコンテンツを取り入れると、有料の商品紹介が含まれるようになるので、編集の整合性に影響を与えるのではないかと危惧する人たちもいる。
  • クリック単価の場合、パブリッシャーの利益は少なくなる傾向があるものの、報酬を得ながら、オーディエンスに対してトレンドや新商品のアピールをすることができる。

「それぞれに賛否両論がある」

「ちょうどカンヌから戻ってきたところだが、あちらではCMOから予算削減の話はあまり聞かれず、話題はもっぱらアッパーファネルとローワーファネル間の支出の変化についてだった」。そう話すのは、ダウジョーンズ(Dow Jones)でCROを務めるジョシュ・スティンチコム氏だ。同氏は、2022年7月に入り、ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)のコマースブランド、バイサイド(Buy Side)を新たに立ち上げたところである。

これまで顧客獲得単価(CPA)は、アフィリエイトビジネスを展開するパブリッシャーにとって価格設定の王道だった。「いったん設定したら、あとはお任せ」な部分が多いことを考えれば、それも当然である。多くのパブリッシャーにとっては現在もアフィリエイトで収益をあげる一番の方法なのだが、その一方で、CPAの場合は、「交渉の余地が少ない」「メディアは、スキムリンクス(Skimlinks)のようなアフィリエイトネットワークでビジネスを展開するブランドの言いなりになるしかない」といった受け身の姿勢にならざるを得ない。

とはいえ、パブリッシャーがこぞって新たな価格設定モデルに夢中になっているわけではない。編集の品位に影響を与えかねないと考えるところや、騒ぎ立てるほど価値はないと切って捨てるところもある。しかしながら、私が話を聞いた複数のパブリッシャーによれば、リテーラーやマーチャントとの直接取引が、手数料やコマースビジネスの収益全般を押し上げる一番の戦略であることはもはや考えるまでもないという。

「ダウジョーンズでは、ブランドコンテンツや課金制コンテンツの類を持つことは考えていない。当社の戦略はまったく違うアプローチだ。しかし、ブランドと直接アフィリエイト契約を結ぶ機会は、今後さらに多くなるだろうと考えている」とスティンチコム氏は話す。

「現在、パブリッシャーのコマースビジネスで使用されている価格設定は3つのモデルがある。それぞれ戦略導入の是非には賛否両論ある」。

定額制

定額制とは

定額制は、パブリッシャーがリテーラーやマーチャントと直接契約し、パブリッシャーのコンテンツ内で、ブランドの製品やサービスのプレイスメント広告を保障するモデル。パブリッシャーが売上向上に貢献したかどうかにかかわらず、リテーラーはパブリッシャーに予め設定された金額を支払う。パブリッシャー側が、インプレッション数の最低基準どころか、掲載する商品の内容にすらこだわらないのが特徴。広告主と直接取引ができるため、その取引内容は、柔軟に対応したり、カスタマイズしたりと、ブランドによって微妙に違う。とはいえ、このモデルを導入しているパブリッシャーは、バイスメディア・グループ(Vice Media Group)のように、編集の整合性を担保できるよう、たとえばブランドには掲載前にコンテンツを見せないなど一定の制限を設けている。

メリット

  • しくみは広告と同じ。アフィリエイトリンクの場合は手数料が入ってくるのを待つだけだが、それに対して定額制の場合は、パブリッシャーは一度に何千ドル(何十万円)という売上を手にできる。
  • ブランドコンテンツの取引と同じように、定額制にもさまざまな方法がある。たとえば、ブランドの商品をポッドキャストやニュースレター、ライブショッピングなどで紹介することも可能だ。そのため、ブランドはある程度試して、オーディエンスのコンバージョンで、どのプラットフォームやコンテンツの影響力が大きいのかがわかるようになる。一方のパブリッシャーも、定額制であれば、商品を掲載した結果、利益がゼロになるリスクを取らずにすむ。
  • ブランドはコンテンツに対して意見できるが、ガイドラインを設定して、その権限を制限することが可能。これは、基本的に公開前の最終決定権が広告主にあるブランドコンテンツの契約とは違う点だ。

デメリット

  • ブランドや商品がパブリッシャーのオーディエンスの間で非常に人気が高いことが明らかで、そのコンテンツに掲載したことで商品の売上が伸びた場合、パブリッシャーは従来のCPA制を利用していれば得られたであろう利益を稼げなくなるリスクがある。
  • 一部には、プレイスメント広告を有償で掲載したり、記事中に商品を含めたりすることで、編集の整合性が保てなくなると考えるパブリッシャーもいる。
  • 定額制は、パブリッシャー社内の広告部門との競合を招く場合がある。ブランドは注意を怠ると、ブランドのプロジェクトがなければパブリッシャー社内で実施するはずだったキャンペーンの分をわずかとはいえ肩代わりさせられることになるだろう。

パブリッシャーの事例

バイスメディア・グループ(VMG)でチーフデジタルオフィサーを務めるコリー・ハイク氏によると、定額制が単に「試して終わり」のモデルではなく、ブランドの選択肢として成長することを期待するメディア企業のうちの1社だ。また、この分野の取引高は2021年第1四半期から2022年第1四半期で1000%増加したという。なお、同氏は定額制による取引の総件数を明かさなかった。

同社のコマース&パートナーシップのバイスプレジデントであるサマンサ・ベーカー氏は、2022年6月に開催された米DIGIDAYのコマースウィークで、定額制に関して言及し、同社はこのモデルに5万ドル(約650万円)の上限を設定していると話した。また、ブランドがその上限を超えた契約を模索している場合、必ず同社の広告チームが投入され、定額制ではなく協働でブランドコンテンツを作ることになると説明した。

定額制は特に、VMGを売上の起爆剤と考えているブランドにはとっておきの手段であるとベーカー氏。たとえばキッチンウェアブランドのアワープレイス(Our Place)や百貨店のノードストローム(Nordstrom)も、定額制を求める傾向にあるという。

このタイプの取引には、「当該ブランドに特化したニュースレターを出す」「コマースストーリーで当該ブランドについてさりげなく言及する」「1カ月で当該ブランドの商品に絞った記事を決められた本数だけ掲載する」といった単独契約のほか、内容を取り混ぜた契約もある。ただし、パブリッシャーがどの製品を選ばれるのかは保障されず、レビューが肯定的なものであることも保障されないという。また、ベーカー氏によれば、ブランドはコンテンツを予めチェックすることができない。

クリック単価制

クリック単価制とは

クリック単価(CPC)制では、オーディエンスがブランドのウェブサイトや製品ページにアクセスしようとクリックした場合、パブリッシャーに紹介料が支払われる。顧客獲得単価(CPA)を利用したアフィリエイトリンクとは違い、クリック先で売上が生じてもパブリッシャーがその一部を受け取ることはないが、消費者がブランドのエコシステムに加わったことに対してわずかながら報酬がもらえる。

メリット

  • 予算の厳しいリテーラーや、CPAの手数料やアフィリエイトネットワークで事業を展開する費用を支払う余裕がないマーチャントにとって救いの神。
  • CPCはブランドと直接取引でも、アフィリエイトネットワークの価格設定オプションとしても利用可能。
  • パブリッシャーにとっては、新たなブランドや商品について記事に取り上げる手段にもなり、そのブランドや商品が自社のオーディエンスの心に響くのかを調べながら、稼ぐこともできる。たとえば、パブリッシャーがはじめてビタミン剤について記事を書いた場合、ビタミン剤についてより知りたいと思ったオーディエンスがリンクをクリックすれば、パブリッシャーはビタミン剤の業者からわずかながら紹介料をもらえる(CPAの場合、そのオーディエンスが商品を購入しなければ手数料は入らない)。つまり、当該パブリケーションのオーディエンスにとってビタミン剤はそれほど魅力がなく、たとえ購入まで至らなくても、商品についてもっと知りたいとクリックされれば、パブリッシャーは利益を得られる。

デメリット

  • パブリッシャーが稼げる金額が、CPA制よりもかなり低くなる。CPCで契約した場合、パブリッシャーの収益は月平均で、3000ドルから5000ドル(約39万円から65万円)。
  • なかには、CPC制で稼いだ収益は、特に直接取引の場合、そもそも取引の成果として取り上げる価値がないと考えるパブリッシャーもいる。
  • コンバージョン率がわからないため、パブリッシャーにとってもブランドにとっても、製品の売上がどの程度伸びているのか、パブリケーションのオーディエンスがその商品やブランドを気に入っているのかいないのかがよくわからない。
  • ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のeコマースサイト、ワイヤーカッター(Wirecutter)でコマース担当エグゼクティブディレクター務めるレイラニ・ハン氏によると、アフィリエイトネットワークで事業を展開する余裕のないブランドは、パブリケーション経由でオーディエンスのアクセスが急激に増えたり、売上が伸びたりした場合、それに対応できる企業としてのスタミナやネット環境がない可能性もある。

コンサルタントのアドバイス

デジタルマーケティングおよびeコマースのコンサルタント、ベン・ゼトラー氏によると、この方法を選んだブランドは、自社のエコシステムに新たなオーディエンスを増やせるよう、最大限の努力を払わなければならないという。

たとえば、特定のリンクからユーザーがアクセスした場合、ニュースレターに登録したくなるようなメッセージが立ち上がるようにすると良いという(登録すれば、はじめての購入で、金額が10%オフになる割引サービスなど)。「オーディエンスが購入するようになったかどうかは、最初の1週間、あるいは2~3日ですぐにわかる」とゼトラー氏は話す。

顧客獲得単価制

顧客獲得単価制とは

顧客獲得単価(CPA)制とは、パブリッシャーのアフィリエイトビジネスでは最も一般的な価格設定の方法。これは、パブリッシャーの場合、アフィリエイトネットワークが大規模だが、CPAならブランドとの直接取引に活用することも可能だからだ。パブリッシャーのサイトで取り上げた結果、商品やサービスが売れると、パブリッシャーには手数料が入る。なお、手数料は、商品の分野やプライスポイント、ブランドの予算によって大きな違いがある。

メリット

  • パブリッシャーの収益は、CPCの紹介料よりも、CPAの手数料のほうが高い傾向がある。
  • オーディエンスがどの商品を好み、どの製品ならお金を出したいと思うのか把握するのは非常に簡単だ。というのも、コンバージョン測定のおかげで、パブリッシャーはオーディエンスが何を購入しているのか正確にわかるからだ。
  • リンクのなかには、パブリッシャーが取り上げた特定の商品だけでなく、顧客が購入した商品全体の一部を手数料としてもらえる場合もある。その結果、手数料収益が増加する。

デメリット

  • 収益が保障されない。
  • パブリッシャーのサイトから購入時点まで、アトリビューションを失う機会は数えきれないほどある。たとえばオーディエンスが購入手続きを完了しなかったり、あとで直接サイトにアクセスして商品を購入したりすれば、パブリッシャーは手数料をもらえないのだ。

[原文:Media Briefing: The pros and cons of three commerce pricing models

Tim Peterson and Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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