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暗号通貨市場が停滞に向かう一方で、eBayのような実績のあるeコマースプラットフォームは、非代替性トークン、またはNFTを自社プラットフォームに統合することを、より真剣に検討しはじめている。
eBayは6月22日、NFTマーケットプレイスのノウンオリジン(KnownOrigin)を非公開の金額で買収し、eコマース大手である同社がブロックチェーン技術とデジタルコレクティブルの世界に大きな野心を抱いていることを示した。それとは別に、Shopify(ショッピファイ)は6月22日、「トークンゲーテッドコマース(tokengated commerce)」と呼ばれる新機能を導入した。これは、ユーザーが自分の暗号通貨ウォレットをShopifyのオンラインストアに接続し、自分のNFTを使用して商品、特典、エクスペリエンスへの独占アクセスを解放できるものだ。
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NFTはブランドマーケターや暗号通貨の熱心な信奉者のあいだでいまだ注目のトピックだが、マーケットプレイスは成長中のトレンドに切り込むため、各種の方法を試みている。多くのマーケットプレイスにとって、限定版のNFTドロップを行うのは、買い手と売り手のあいだにどの程度の熱意が存在するかをテストするための最初の一歩だった。そのあとで、eBayのような一部の企業は、NFTが長期的に勢力を維持し続けることに賭けて、この分野で買収を行っている。しかし、このような労力によってどれだけのけん引力が得られるのかについて、eコマースのアナリストは懐疑的であり、マーケットプレイス全体にわたって消費者の行動は大きく変化しないかもしれないと警告してきた。
eBayとNFTの相性
2021年5月にNFTの販売を開始したeBayにとって、コレクティブルが「ブランドの理念」の一部であり、同社ビジネスの重要な部分であることを考えると、これらのユニークなデジタル商品を自社プラットフォームに追加するのは当然のことだと、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は語る。
「NFTは、同じ希少性経済が働いていることと、商品を認証する能力を考えれば、この文脈ではより理にかなっている。コレクターのコミュニティとNFTユーザーとのあいだにはかなり重なる部分があるため、eBayがこの分野を実験し、投資するのも理解できる」と同氏は付け加えた。
eBayの最高経営責任者を務めるジェイミー・イアンノーネ氏は、この取引が自社プラットフォームへの「完璧な追加」だと形容している。「ノウンオリジンは、印象的で情熱的、かつ忠実なアーティストやコレクターのグループを築いており、当社の売り手と買い手のコミュニティに完璧に加わることができる。当社はこれらのイノベーターをeBayのコミュニティに迎えることを楽しみにしている」と、同氏は声明で語った。
NFTのアーティスト、コレクター、売り手を取り込むことは、技術主導の改革を続けるeBayにとって、大きな成長の可能性を秘めた分野を表す。eBayは何年にもわたり、より多くの買い手と売り手を引き入れるため、新しい技術的機能の追加に注力し続けてきた。同社は、自社の現地受け取り機能の簡便性、有効性、セキュリティを高めるための技術的な投資を行い、Google PayやApple Payも含む、決済ゲートウェイを全世界に拡張してきた。
「多くのマーケットプレイスは、暗号通貨のブームのなかでWeb3テクノロジーの実験に着手する必要性を感じていたように思う」とリプスマン氏は述べている。「しかし、この市場の最近の合理化から、NFTがトレンドというより一時的な流行だという雰囲気も強まってきた。これらのNFTに関する実験の多くは、多少の教訓が得られるものの、マーケットプレイスにおけるコマースの行動を長期的にけん引する主要な要因とはならないだろう」。
リプスマン氏は、暗号通貨市場において最近、投資家が投機的資産を投棄する売りが広がっていることに言及している。6月19日には、もっとも広く取引されていた暗号通貨トークンであるビットコイン(Bitcoin)の価格が、1万8000ドル(約245万円)を割り込んだ。
NFTへの関心が一気に高まった2021年
NFTは本質的には独自のデジタルアイテムで、その所有権は、たとえばイーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンのような暗号通貨ブロックチェーンに格納される。2021年には、歌手やアーティスト、企業、セレブリティがNFTの流行に飛びつき、美術品、レコード、ブランド付き商品などあらゆるものをNFTとして販売したことで、NFTへの関心は爆発的に高まった。スニーカーメーカーのアディダス(Adidas)は昨年、NFTコレクション「イントゥ・ザ・メタバース(Into the Metaverse)」を販売したことで、2200万ドル(約29億9000万円)の売上を計上したと報告されている。ライバルのナイキ(Nike)は、NFTとデジタルフットウェアを製造する企業であるアーティファクト(RTFKT)を2021年12月に買収した。この買収の後、ナイキとアーティファクトは初のNFTコレクションであるデジタルスニーカーを4月にリリースした。コレクションに含まれるスニーカーのひとつは日本の現代アーティストである村上隆氏によりデザインされたもので、ニューヨークタイムズ(The New York Times)によると、13万4000ドル(約1820万円)で販売された。
アディダスとナイキの活動の影響もあり、NFTを最初にテストしたマーケットプレイスのなかには、ストリートウェアやコレクティブルに関するものがある。デトロイトを拠点とするスニーカー交換プラットフォームのStockX(ストックエックス)は1月に、NFTをStockXプラットフォーム上の製品の所有権と結びつけるプログラムのボルト(Vault)のリリースを発表した。StockXは5月のレポートで、同社はその後、1600以上のボルトのNFTエディションをドロップし、その大部分はリリースからわずか数分で売り切れたと報告した。
ライブショッピングマーケットプレイスのワットノット(Whatnot)も1月、ユーザーが自分のNFTを再販売できるようにした。同社はeBayがノウンオリジンを買収する前の5月に、NFTプラットフォームのワンオブ(OneOf)とパートナーシップを結び、独自のNFTのコレクションを開始した。
すべてのマーケットプレイスが、この分野に即座に飛び込んだわけではない。Amazonの最高経営責任者を務めるアンディ・ジャシー氏は4月、NFTが将来的にAmazonのロードマップに加えられる「可能性」はあるものの、同社が近い将来にNFTや暗号通貨への多額の投資を行う意図はないと、CNBCに語った。「当面は、自社の小売ビジネスの支払い機構に暗号通貨を追加する予定はないが、暗号通貨は長期的に規模が拡大していくと私は考えている」とジャシー氏は語る。
マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創設者でCEOを務めるジョーザス・カジウケナス氏は次のように述べている。「Amazonは業務の継続に集中している。同社はフルフィルメントや人員などに注力しているので、ソーシャルコマースやNFTのイノベーションには期待すべきでない」。
Shopifyはコミュニティ構築を重視
マーケットプレイスが買い手と売り手を引きつけるためにNFTに賭けるなか、ほかのeコマースプラットフォームは、ユーザーがNFTを簡単に実験できるようにする方法を探し求めている。たとえばShopifyは、各種の新しいテクノロジー機能を「ノンストップ」で実験しており、NFTもそのひとつであると、カジウケナス氏は語っている。NFTの導入に加え、eコマースの大手業者である同社は最近、出品者が新しい買い物客をオンラインで見つけられるようにするため、Twitterショッピング(Twitter Shopping)などの新しい製品機能を発表した。同氏は、Shopifyの焦点は、ブランドやマーケターに「今話題のものをテストする」ためのツールを提供することにあり、この手法はより理にかなっていると語っている。
トークン化されたコマースにより、カナダの大手テック企業である同社は、商品ドロップや限定コレクションへの早期アクセスなど、独自のコマースエクスペリエンスをNFTで解放することで、ブランドにファンとのエンゲージメントを構築する能力を提供する。
Shopifyのブロックチェーン責任者を務めるアレックス・ダンコ氏は声明で次のように述べている。「当社はNFTを投機的なアセットではなく、コミュニティの構築とエンゲージメントのためのツールとして見ている。トークン化されたコマースは、ブランドのコラボレーションに特に適している。2つのブランドのコミュニティを従来よりも簡単に結合可能になるためだ」。
Shopifyは、自社のPOSレジアプリを使えば、出品者は、オンラインから、モバイル、実小売店舗まで、あらゆる場所でトークン化されたコマース体験を有効化できるようになると付け加えている。
マーケットプレイスからの熱意とは裏腹に、NFTに関する教育不足と、消費者からの関心の低下により、NFTのより幅広い導入は困難な状況が続くだろう。Googleトレンド(Google Trends)によれば、NFTという用語の検索回数は、今年1月に過去最高を記録したが、そのあとで劇的に減少したことが示されている。
「これは非常にニッチな行動で、ほとんどの消費者はたとえ関心があったとしても、どのように関与すればいいのかがわからない。多くの新しいテクノロジーと同様に、最大の課題は、投資を正当化できるほど多くのユーザーが市場に存在しないことだ」と、リプスマン氏は述べている。
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via eBay