不況が迫るなか、 国際輸送 は「途方もなく高額」に:ファッション企業の課題と施策

DIGIDAY

Glossyではファッションとビューティ業界がどのように潜在的な不況に備えるかについての記事をシリーズで掲載している。経済が悪化したときに、企業がどのように製造や資金調達、小売経営を計画するのかを掘り下げていく。

じわじわ迫り来る不況がファッション業界のサプライチェーン全体に与える影響はまだ確認されていないものの、企業は輸送に関する新たな課題に備えつつある。

海外からの出荷の計画が困難に

初期の指標では、貨物市場が不況関連のニュースの影響をまだ受けていないことが示されているが、状況の変化に応じて柔軟性を維持することの重要性が最優先事項であるのは変わっていない。サプライチェーン上の商品の海上・地上輸送は、サプライチェーンの順を追うさまざまな部分に大きく依存している。そのどこかが停止すれば、企業は中断によるロスタイムを緩和するために航空貨物など異なる解決策を考慮しなければならなくなる。

D2Cのアパレルブランド、クルヒュー(ClHu)の創設者兼CEOであるマリア・ボロメオ氏は、世界規模で起こっている遅延を考えるとブランドが海外から在庫を出荷するためにかなり前から計画を立てるのはほぼ不可能だと述べている。つまり航空輸送に頼るしかなくなるということだ。

「特に小規模なブランドにとっては費用が途方もなく高くなる」とボロメオ氏。「現時点では当社はこれを吸収することにしている。顧客に回せるものではないからだ。現段階では我々の生産実行は小規模すぎる。我々のコストには大影響が出て、商品の価格が高くなり、当社の市場から締め出されることになる」。

需要がないのに大量在庫を抱えるリスク

消費者に近い側に理由がある中断もある。消費者の関心がないにもかかわらず小売業者が大量の在庫レベルを抱えるような状況だ。全米小売業協会(National Retail Federation)とハケット・アソシエイツ(Hackett Associates)の追跡報告によると、4月の輸入量は過去最高に近い水準にとどまっていたという。ただし、顧客から速度と利便性が期待されているラストマイルを含めてサプライチェーン全体で障害が増えると、ブランドが対応できない可能性がある。

このノックオン効果(連鎖反応)が今後数カ月のうちに具体的に見えてくると、小売業者は船のコンテナにある在庫、そして港に置かれたままになっているコンテナのコストに対処しなければならないかもしれない。また、燃料費の高騰は輸送コストの高騰につながっている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、中国から米国の西海岸にコンテナを輸送するためのコストは2年前と比べて12倍になっているということである。ガソリン1ガロン(約3.8リットル)あたり6.5マイル(約10キロ)の走行距離の平均的な商用セミトラックについては、1年以上前と比べて2ドル(約270円)高くなっている。

市場の不確実性がもたらす諸問題

ビジネス意思決定プラットフォーム、ボードインターナショナル(Board International)のサプライチェーン責任者、デイヴィッド・フード氏は市場の不確実性が輸送に数々の影響を及ぼしていると述べている。

「現在の海運市場は、コストが予測できなくなり、ルートが混雑して負担が過剰になっているのでかなり問題がある」と同氏は言う。「特にこれは荷下ろし能力のせいで米国と中国に見られる。だが、可視性の欠如と遅延により状況はさらに悪化しており、予測できないノックオン効果が生じて港湾システムに負担がかかってしまっている」。

このような現状ゆえに、企業は増える一方の輸送関連の課題に機敏に対応しなければならない。しかし、フード氏は、現在のルートの代替を求めている消費財市場によりいっそうタイトな市場が生み出されると述べている。価格はますます予測できなくなり、キャパシティ予測は信頼できなくなる。

また同氏は次のように述べている。「海運における現在の課題は、収益性の高い海上輸送費を自信を持って維持できるようにすることだ。そうすれば、より安定した長期契約を惹きつけることができる。今はすべてが非常に短期的になっている」。

しかし、既存のサプライチェーンのルートと戦略を再設計するために企業が行えるソリューションはいくつかある。たとえば、サプライチェーンを再構成して、ニアショアリングとライトショアリングにさらにフォーカスすることだ。生産がまだ行われていない地域ではさらに困難になっているニアショアリングと比べて、ライトショアリングは出力品質とコストの適切な組み合わせを提供する国にビジネスコンポーネントを配置することにフォーカスする。これは、国の価格基準の違いによりESGのような優先事項が取り残されることがあるため最適とは言えないが、サプライチェーン管理に苦労している企業に一時的な解決策を提供するものだ。

サプライヤーとの綿密な協働で対応するブランド

クロヒューのようなブランドは異なる方法で対応している。「通常は船積みに対応するために開発サイクルを十分に前倒しして計画するのだが、現在は何もかもが非常に不安定なので、商品の受け取りが間に合わず、販売する在庫がないというリスクを抱えてることになる」とボロメオ氏。

また、クロヒューは小規模な生産工程に対応してくれる米国現地の工場との協働も行っている。

「今後、製品開発サイクルを延長して、何カ月もかかる海上輸送に対応する必要があるだろう」とボロメオ氏。「製品開発に関してリアルタイムのデータに基づいた意思決定を行っていないため、そのような計画にはマイナスの影響がある。顧客から望まれているものとのズレが生じて、在庫の超過につながりかねない」。

業界横断的な輸送・貨物に関するデータが入手できれば、複数の企業は同じ考えを持つパートナーとして協働し、データを収集・分析して、変化する状況をより把握し、リスク分類に関する議論を強化させることができるだろう。それによって全体的により準備が整っているファッション業界が生まれることになる。これはサプライヤーにも当てはまる。サプライヤーが市場の変化状況とブランドの対応状況をもっと把握できるようになれば、その結果としていっそう適切な計画を立てられるようになるかもしれない。

「ボトルネックとピンチポイントに特に注意しながらサプライチェーン全体のリスクを評価することが重要だ。また、もっときめ細かく計画を立て、計画の可視性を一次サプライヤーに拡大して、よりインテリジェントな意思決定を確保することも重要だ」とフード氏。同氏は、また、複数のサプライヤーにまたがるデュアルソーシングにもフォーカスし、ブランドへの供給を優先するためにそのブランドがもっとも使用している材料を把握するべきであるとも述べている。

[原文: International shipping becomes ‘exorbitantly expensive’ as recession looms

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:黒田千聖)

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