群雄割拠の リテールメディア 、競争激化に直面するウォルマート:傘下のサムズクラブは広告ネットワークを刷新

DIGIDAY

広告主が消費者にリーチできるよう、小売業者が所有するオンラインメディアに投資するケースが増えるなか、サムズクラブ(Sam’s Club)がアドネットワークの全面的リニューアルを実施した。

ウォルマート傘下の同社は6月15日、ウェブサイト、アプリ、カーブサイドピックアップ(路上受け取り)用のEコマースオプションに多数のアップデートを実装した。オンラインショッピングに新たな検索機能が追加されたほか、広告主はスポンサードプロダクトの広告枠をセルフサービスプラットフォームで購入できるようになった。メンバーシップアクセスプラットフォーム(MAP)と呼ばれる同プラットフォームでは、検索履歴、購入履歴、メンバーシップ情報をもとに購入者のターゲティングができる。マーケターはまた、ザ・トレードデスク(The Trade Desk)、IRI、ライブランプ(LiveRamp)とのプログラマティック広告パートナーシップを通じて、サムズクラブのプラットフォームの外で顧客のリターゲティングを行うこともできる。

急拡大するリテールメディア

サムズクラブが広告事業に乗り出したのは2009年だが、他社からの委託事業としてスタートしたものであり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降は大規模なアップデートは実施していなかったと、サムズクラブの広告営業担当バイスプレジデントとゼネラルマネージャーを兼任するレックス・ジョセフス氏はいう。同氏によれば、購入者は「かつてないほど」積極的に商品検索を行うようになっているが、これまで顧客向けのオンライン検索体験と呼べるものはなかった。同社はメンバーシップモデルを採用しているため、顧客の生涯価値を理解し、また彼らがオンラインまたはオフラインで何を検索し何を購入しているかを把握するうえで役立つ、ファーストパーティデータを広告主に提供できる。

「100%追跡可能で、すべてがクレジットカードに紐付けられているので、メンバーに関するすべてを知ることができる」と、ジョセフス氏はいう。今年1月にサムズクラブの経営陣に加わった同氏は、それまでの4年間をウォルマートの広告営業チームで過ごしてきた。「これにより、我々は高度にパーソナライズされた体験のキュレーションを実現できる」

新生プラットフォームにどういった広告主が参加しているのかについては言及しなかったものの、ジョセフス氏によれば、約1カ月前から広告主が集まりはじているという(ウォルマートも自前のメディアネットワークを所有しているが、同氏によればサムズクラブのデータとは完全に独立している)。前述の3社に加え、他のデータパートナーも今後追加される可能性がある。

リテールメディアは活況を呈している。米国だけを見ても、フォレスター(Forrester)の予測によれば、リテールメディアの広告売上は2021年の290億ドル(約3兆9170億円)から、2022年は39%増の400億ドル(約5兆4030億円)に達する見込みで、さらに2026年までに倍増し850億ドル(約11兆4810億円)になるという。終焉間近のサードパーティCookieを通じて顧客にリーチする手法が廃れて非効率的になるなかで、広告主は従来の検索とソーシャルメディア以外のやり方で顧客にリーチする手段を模索している。

新たなウォールドガーデンの誕生か

広告主は要するに消費者の購買時点(POP)に近づきたがっているのだと、ピュブリシス(Publicis)傘下のEコマースモニタリングプラットフォームであるプロフィテロ(Profitero)でプレジデントを務めるサラ・ホフスタッター氏はいう。しかし、広告費を使う新たな空間の誕生は、ウォールドガーデンの新たなブームの到来を意味する。

「『ゲーム・オブ・スローンズ』のようなものだ」と、ホフスタッター氏は話す。「その時々で誰がどの領域を支配しているかはめまぐるしく変わる」。

Amazonが長年トップに君臨してきたが、競争は激化している。今年3月、ウォルマートは自社プログラムのアップデートを発表した。さらに同社は初めて広告売上を公開し、2021年は21億ドル(約2840億円)であったとした。それでもまだ、Amazonの昨年の広告売上である310億ドル(約4兆1870億円)とは比較にならない。

今年1月、ベストバイ(Best Buy)は独自のメディアネットワークを立ち上げた。4月にはターゲットが自社プラットフォームをアップデートした。これ以外に過去1年以内にリテールメディアの創設やリニューアルをおこなった小売業者としては、クローガー(Kroger)、ウォルグリーンズ(Walgreens)、テスコ(Tesco)、アルバートソンズ(Albertsons)が挙げられる(さらに6月にはダラージェネラル[Dollar General]が自社プログラムのアップデートを実施した)。

メディアレーダー(MediaRadar)によれば、2021年5月から2022年1月までのあいだに、約2万4000社が約3万8000のブランドの広告を22の小売サイトに掲載した。この期間中、広告費の合計は30億ドル(約4050億円)を超え、17%に相当する5億ドル(約675億円)以上が消費財(CPG)ブランドによるものだった。広告の約88%はネイティブ広告で、残りの11.5%はディスプレイ広告だった。2021年12月の小売ウェブサイト上の広告費は4億2500万ドル(約574億円)であり、翌2022年1月は3億5000万ドル(約473億円)だった。

同じくメディアレーダーのデータによれば、ケロッグは広告費全体の約10%をリテールメディアに出資し、モンデリーズ(Mondelez)の場合はこの割合が18%に達した。小売広告費を最も集めた小売業者は、Amazon、ウォルマート、ターゲットだった。

良質な行動データを入手できる

Amazonを除くと、小売広告費の57%をオンライン検索広告が占めると、フォレスターの研究主幹を務めるエミリー・コリンズ氏はいう。ウォルマートはスケールと広告主の順調な成長を背景に力をつけているが、同じく大規模でロイヤルティプログラムの豊富なデータを有する、他の小売業者との競争の激化に直面しているという。

「競争の激化に伴い、小売業者は消費者に価値を提供する必要に迫られている。こうした価値が、ブランドが買う広告の効果を高め、需要を喚起することにつながる」と、コリンズ氏は語る。「小売業者がサイトの収益化手段から中間手数料を排除したいのか、あるいはもっと緊密に統合されたオンラインとオフラインの広告プログラムを実現できるだけのビジョンとスケールをもっているのかにかかわらず、差別化が未来の成功の鍵だ。具体的な方法としては、広告商品の拡充や、ウォルマートとザ・トレードデスクの提携のような戦略的メディアパートナーシップなどが考えられる。

IRIなどのパートナーとの提携により、リテールメディアネットワークは広告主にクローズドループの指標を提供できると、ライブインテント(LiveIntent)のグローバルマーケティング担当シニアバイスプレジデント、ジェニカ・ムニョス氏は話す。マーケティングテック企業である同社は、小売企業がEメールニュースレターをメディアネットワークに統合する取り組みを支援している。

リテールメディアはまた、マーケターが良質な行動ターゲティングデータを入手し、売上データをリアルタイムに近い形で追跡するうえでも役に立つ。四半期やそれ以上も待たされることなく、商品の売れ行きを知ることができるのだ。ただしムニョス氏は、データだけでなく広告フォーマットのデザインにも注目することが重要だと述べる。

「数撃ちゃ当たる」のアプローチよりも魅力的

買い物モードにある消費者にリーチするには、相応の出費を覚悟すべきだ。広告主は深いエンゲージメントに追加料金を払わなくてはならないが、ムニョス氏によれば、プレミアム価格を支払うほうが、テレビ広告やオープンウェブ広告を使った「数撃ちゃ当たる」のアプローチよりも魅力的だ。

「オーディエンスインサイトを利用し、また人々の熱心な注目を集めるためには、多少の追加料金を払う必要がある」と、ムニョス氏はいう。「ログインしたユーザーはオウンドチャネルにいるので、広告が買い物中の人々の目に触れていることは確実だ。コストと利益を分析すれば、払うだけの価値は十分にある」と、同氏は述べた。

[原文:Why Sam’s Club is overhauling its ad network with a self-service platform to compete in the retail media race

Marty Swant(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)

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