国際法・国連決議・軍事力より外交力が平和の決め手

アゴラ 言論プラットフォーム

橋下徹氏の一連の発言が炎上している。論評したいのだが、まとまった論説の形で示されたものでないので、目下、橋下氏の論理がどういう組み立てになっているのか、そこそこきちんと理解してからにしようと思う。

ウクライナ兵 ゼレンスキー大統領FBより

どうもゼレンスキー大統領の市民ぐるみでの徹底抗戦路線を批判した際の言葉尻を捉えられて、ウクライナにロシアに対し無条件降伏しろといったようなニュアンスで批判されているようだ。

そんな単純なことを橋下氏が言っているわけでなさそうなので、橋下氏も誤解を招くところがあったのかもしれないが、批判としてはフェアとは思わない。

その橋下氏を攻撃している人、論争している人はいろいろいるが、篠田英朗氏の「ウクライナは早く降伏するべき」そうした主張は日本の国益を損ねるトンデモ言説である」というそれなりにしっかりした論説を見て、私が感じたことを書いておきたい。

篠田氏の論考は、世界に正邪2種類の国とか思想があり、この紛争は正と邪の戦いであり、正の方に味方することが、100%善であり実利にも適うような組み立てに近い。

また、ゼレンスキーにより柔軟な対応を求めるといってもさまざまな角度からの多様な提言があるにもかかわらず、「降伏すべきだ」という同じような意見を多くの人が言っているような印象でまとめ、その上に単純化された批判が展開されている。

しかし、世界に正と邪の陣営があって、対立しているわけではない。いわゆる価値観外交では、普遍的価値(自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づく同盟がめざされたのだが、これは、日本外交の指針であり、それが、とくに対中国包囲網の基本理念になっているということであって、それを超えて普遍的にひとつの同盟を形成するものではないし、アメリカ的な自由経済が正義だというのも世界で広く認められているわけでない。

それは、たちまち、ウクライナ問題において、インドにとっては、反ロシアの同盟のつもりなどなかったというので、綻びが見えてしまった。

あるいは、サウジアラビアのような、上記の価値観の対極にあるような国と友好関係にあるのは、どう見るのかという問題もある。

ウクライナがロシアより民主主義が行われるとは思わないし、政治の腐敗や暴力は目を覆うばかりだ。ロシアは少数民族に寛容な国だが、ウクライナのロシア系住民に対する差別は虐殺だとか言わずとも相当にひどい。

さらに、国際法や国連決議に反することをもって邪悪だとするなら、おそらく、イスラエルほど悪い国はないし、米国はイスラエルのために、安保理事会でも拒否権の行使を躊躇わないし、総会決議などで今回のロシアよりはるかに孤立していても、歯牙にも掛けてない。イスラエルの首相ほど人道に対する罪に問われても仕方ない指導者はほかにいないといわれても、頬被りだ。あるいは、アメリカが無法行為のやり放題のキューバ・グアンタナモ基地はどう評価するのだろうか。

だから、アメリカがロシアを批判するのに、国際法だ、国連決議だというのを、金科玉条にふりかざした意見を見ると戸惑ってしまう。

「ウクライナは中国に軍艦を売却した、といったことを気にしている者もいる。冷戦終焉後の1990年代にスクラップ扱いで中国に売却しただけだ。現在のウクライナと全く関係がない」とか断言されている。

しかし、中国へスクラップという名目だが、また使用できる状態で引き渡したのだし、引き渡されたのは冷戦終了からはるか時間がたった2002年であり、オレンジ革命後も盛んに海軍力、空軍力強化のための輸出等をしている。

また、ここ数年における北朝鮮のミサイルの飛躍的な性能向上がウクライナからの技術流出によるものというのが、最有力な見方だし、違うというなら、少なくとも潔白を晴らすべき立場にある。

それを「現在のウクライナと全く関係がない」と断言するのはいかがなものか。さらに、旧ソ連の悪行については、私は繰り返し述べているように、旧ソ連においてウクライナ出身者は権力中枢を占めており、お手盛りで地元として非常に優遇されており、ロシアに搾取されていたがごとき話は真っ赤な嘘だし、日本人がソ連から受けた被害はロシアと同じようにウクライナにも責任がある。

私はなにも国際法による平和維持が役に立たないなどとは言わないし、国連決議が無意味だとは思わない。しかし、それが日本の領土問題や世界平和維持の決め手などになっているのでない。しかし、そんなに、権威があって役立っているという意見があるのに驚きだ。

それでは、なにが大事かといえば、もちろん、軍事もある。しかし、それとともに、賢い外交だと思う。賢い利害調整と果敢な決断、安定性の高い平和維持体制の構築が正しいと別の投稿でも書いたとおりである。

外交の出発点のひとつは、自分が嫌なことは相手国にもしないことだ。アメリカが自分がされたら絶対に承服しないような話をロシアにも要求すべきでない。ウクライナがNATOに加盟する自由を、キューバ、メキシコ、カナダがロシアや中国と軍事同盟を結んでいいなどと思っていない国がどの口で言うかだ。

あるいは、日本はやはり隣国なのだから、気に入らずとも、友好関係は保っておいた方がいい。

昨日の「トルコ仲介の期待と戦争を終わらせたくない英米の迷走」でも書いたように、目下、トルコの仲介が成功しつつあり、昨日は首脳会談に持って行けるかもしれないと報道されている。トルコの立場は日本以上にクリティカルだ。NATO加盟国であり、イスラム教国であり、ボスポラス・ダーダネルス海峡の通航という厄介な問題もある。

しかし、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が頑張って、双方に感謝してもらえる方向になってきた。私は、まさに、トルコがやっているようなことを日本政府にして欲しかった。そのことで、ロシアから敵性国家といわれずに済む、また、いまいわれても、治癒することを早めることが出来たはずだ。

エルドアン大統領 トルコ大統領府公式サイトより

いまのままだと、今回のように、ヨーロッパ諸国が驚くほど反ロシアで日本が協力したことは、相当、深刻に日露関係を長期に渡って悪化させ、中国や北朝鮮の2正面だけでも大変なのに、3正面作戦を強いられることになりお先真っ暗だ。

ヨーロッパ各国にすればウクライナもロシアも大事な隣国だが、日本にとってはロシアだけが隣国である。なんでまた、無謀なことしたか理解に苦しむ。近所との無用な摩擦は避けるのが常識だ。

中国については、習近平路線での膨張路線と戦わざるを得ないし、韓国については。あまりもの無茶に、付き合わない方がトラブルにならなくて良い状態だが、両方とも本当は仲良くはしたい。

北朝鮮でも、核問題と拉致問題がなかったら仲良くしたいくらいだ。ロシアとは、北方領土問題があるが、それも、竹島や尖閣と同じ以上の問題ではなく、互いにとって補完関係が多いはずなのだ。

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