新 インフルエンサー論争 。ミケイラ・ノゲイラ氏のマスカラ投稿の背景にあるもの

DIGIDAY

またもや新たなインフルエンサーがらみの論争が起きた。

1月24日、TikTokネイティブのインフルエンサー、ミケイラ・ノゲイラ氏が1440万人のフォロワーに向けて、ロレアルパリ(L’Oréal Paris)のマスカラ、テレスコピックリフト(Telescopic Lift)を宣伝した。その動画では、ノゲイラ氏が製品を賞賛し、片方の何も塗っていない目にマスカラを2度塗りしてみせたあと、画面が切り替わり、長いまつ毛の横顔を映し出した。この「アフター」ショットでつけまつ毛を使用していると、彼女は非難の嵐に直面している。

この動画はこれまで1700万回以上視聴され、4万件のコメントが付いている。比較すると、彼女の過去7回の投稿の平均ビュー数は670万回、平均コメント数は3116件だ。今回のコメントの大半が否定的な内容で、ノゲイラ氏がアーデル(Ardell)のつけまつ毛、ウィスピーズ(Wispies)を使っていると非難するものが多い。あるコメントでは「まあ、そのマスカラは買わないけど、アーデルのウィスピーズはカートに入れた」とある。

ノゲイラ氏とロレアルパリの担当者にコメントを求めたが、返答はなかった。強いボストン訛りでも知られるノゲイラ氏は、製品レビューに対する生真面目だが、明るい姿勢で評判を築いてきた。2021年に彼女が投稿した、美容ブランドのキス(Kiss)のつけまつ毛に関する動画では、マスカラブランドがいかに製品が優秀かを示すためにつけまつ毛を使うというありがちな戦術を非難してすらいる。

インフルエンサーへの高い信頼と期待

マスカラが虚偽の広告に巻き込まれたのは今回が初めてではない。2007年から2017年の間に、少なくとも5つの英国のマスカラ広告が、まつ毛の強化に関する虚偽の宣伝を理由に取り下げられている。そうした宣伝を行ったブランドはディオール(Dior)カバーガール(CoverGirl)メイベリン(Maybelline)、そしてリンメル(Rimmel)が2007年2017年に2回となっている。2013年のニューヨーク・タイムズ(New York Times)の記事では、マスカラの広告に関する問題と、広告における信憑性という厄介なテーマを取り上げている。だが、当時は、広告や信憑性の立証においてインフルエンサーが果たす役割と、足をすくわれる事態が起きたときに多大なバックラッシュを引き起こす理由については、まだ黎明期だったこともあって深く調査されなかった。

「テレビで目にする広告よりも、自分がフォローしているクリエイターやインフルエンサーに対する信頼が非常に厚い。それが、どのマスカラをつけたらいいのか、どの製品を買うべきかを教えてくれるクリエイターに期待する理由の一部になっている。だから今回の出来事では、そうした信頼が裏切られたように感じられるのだ」と述べたのは、より信頼性の高いオンラインコミュニティを目指すべくデザインされたソーシャルメディアプラットフォーム、ニッシ(Niche)の共同創業者、ザヴァン・ナハペティアン氏だ。「だが、我々は信頼できるブランドスポンサーシップやパートナーシップが得られる。ソーシャルメディアとマーケティングの新たな時代へと移行するにつれ、ブランド(とインフルエンサー)がコミュニティとの関係性を発展させていくことがさらに重要になる」。

虚偽広告を行ったインフルエンサーに対する批判と擁護

1月24日の最初の動画が公開されてから、このニュースは勢いを増し、ノゲイラ氏のフォロワーとほかのインフルエンサーの両方が論争に加わっている。フォロワー210万人のTikToker、アナニア・ウィリアムス氏(@Anania00)は、ノゲイラ氏の動画に「あらまあ」とコメントした。ジェフリー・スター氏(彼自身も激しい論争の的になっている)は、コンテンツクリエイターが「オーディエンスに嘘をつくことをやめられない」ことにうんざりした心境のまま、来週化粧品のレビューに戻ることについて、Twitterでやや遠回しなコメントをしている。そのスター氏は2カ月間、YouTubeにレビューを投稿していない。マニキュアブランドのライツラッカー(Lights Lacquer)の創業者で、YouTube、インスタグラム、TikTokに700万人のフォロワーがいるインフルエンサー、キャスリーン・ライツ氏は、1月25日にインスタグラムのストーリーを投稿し、誇張や偽りの製品レビューを行うほかのコンテンツクリエイターへの不満を表明した。26日にはライツ氏は別のインスタグラムのストーリーを投稿、ノゲイラ氏に対する辛辣な批判は行き過ぎていると、さらに意見を述べている。

TikTokのクリエイターであるマディソン・ルイス氏(@mads.yo、フォロワー数1260万人)は、ノゲイラ氏を擁護する動画を投稿し、次のように語った。「なんで『嘘をついている』ことで、その人を憎むの? 彼女が実際につけまつ毛をつけていたとしても、それの何が問題なのか? それが虚偽の広告なのは知ってるが、あらゆるものが虚偽の広告なのでは?」。さらにルイス氏は、食品のコマーシャルがその食品を実際よりも魅力的に見せることと、インフルエンサーがスポンサーの製品をよりよい性能に見せることの違いは何なのかと質問した。その後、この動画は削除されたようだ。

「(美容は)イメージがすべての業界だ。だからある程度までなら、人は広告を目にするたびに、そこにはすばらしい評判や輝く魅力が描かれていることをわかっている」と述べたのは、クリエイティブエージェンシーのキングスランド(Kingsland)のCEO、ダグラス・ブランデージ氏だ。「だがこれは、実際にはどのブランドや人を指しているのかということが大いに関係する。マクドナルド(McDonald’s)が『このハンバーガーはヘルシーだ』と主張するのを目にすることはない」。

金もうけ主義が招いた不信感

ルイス氏は直接非難していないが、その懐疑的なコメントは、売らんかな主義に対して文化的な関心が高まっていることと交差している。そのような商業主義では、はりきって仕事に打ち込んでいるうちに、利益を得るために悪質な嘘をついたり、ガスライティングを行うようになってしまうようだ。ノゲイラ氏へのフォロワーやクリエイター仲間の怒りは、一部には、誰も何も信じられないという感覚が広がっていることへのリアクションだと、ブランデージ氏は感じている。ノゲイラ氏は以前、別のソーシャルメディアでインフルエンサーのワーク・ライフに関するコメントが反感を買い、2022年後半にメンタルヘルスの治療のため一時的にソーシャルメディアから身を引いていた。

「いまは金もうけ主義者の黄金時代だ」と彼は言う。「我々は世の中の制度を信頼できないと感じている。人々がノゲイラ氏に腹を立てているのは、こうしたことが毎日新たに起きているように思えるからだ。また我々は、ネット上で誰もが何でもかんでも問題だと言いたがる文化に生きている。だがそれは健全ではない」。

ブランデージ氏は、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)やその他の規制機関による追加的かつ詳細な規制が存在すべきだと主張した。本物志向と強い倫理観を重視する企業文化を作ることで、ブランド自体が行う広告でこうした事例を防いだり、同じようなインフルエンサーのトラブルから身を守れると彼は言う。

今回のケースで唯一の勝者は、アーデル・ビューティ(Ardell Beauty)のようだ。アーデルには2万5500人のフォロワーがいるTikTokのアカウントがあり、今回の一連のゴタゴタに言及した3本の動画を投稿している。最初の動画は「ここ数時間の私たちの通知」というキャプション付きで、圧倒的な数のメッセージを受け取る人の姿を映し出している。1月26日に投稿された2本目の動画は、ノゲイラ氏の目とまつ毛のアップの後に、アーデルのデミ・ウィスピーズの商品ページを表示するというものだった。キャプションには「ミス・デミ・ウィスピーズが注目されてうれしい」とある。3本目の動画では、アーデルのウィスピーの新しいプレゼントキャンペーンを宣伝している。親会社のアメリカン・インターナショナル(American International)は、コメントの要請に応じなかった。

[原文:What’s behind the Mikayla Nogueira mascara controversy]

EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

Source

タイトルとURLをコピーしました