メディア企業における ハイブリッドワーク の鍵を握るERG:「企業文化のインフルエンサーになりうる」

DIGIDAY

企業経営者が従業員をオフィスに呼び戻す際、理由のひとつに挙げるのが「企業文化や人間関係の醸成」だ。メディア企業において従業員リソースグループ(employee resource groups:ERG)の立ち上げが相次ぐなか、このような組織が職場でコミュニティと一体感を形成するための貴重なリソースとなりうることが分かってきた。

多くのメディア企業の経営陣はリモートワークからハイブリッドワークへの移行を支持している。従業員同士の協力、創造的な作業、企業文化の醸成を効果的に進めるには、従業員が少なくとも一定の時間、オフィスにいる必要があるというのが経営側の主張だ。

そこで登場するのが従業員リソースグループ(Employee resource groups、以下ERG)である。ERGは従業員主導の団体で、同じアイデンティティや関心を持つメンバーで構成される。PwCでDEI(多様性、公平性、包摂性)専門のコンサルティング部門を統括するテリー・マクレメンツ氏は、「ERGはハイブリッドな職場環境において、企業文化や帰属意識、インクルージョンを推進するのに一定の役割を果たす」と述べている。「企業文化のインフルエンサー」になりうる存在だというのが同氏の見立てだ。

米紙USAトゥデイ(USA Today)の旅行記者で、同紙を発行するガネット(Gannett)でエイジアンアメリカンフォワードERG(Asian American Forward ERG)を立ち上げたイヴ・チェン氏によると、ERGは従業員同士のつながりを築くのに有効だという。

リモートワークはもとより、「大辞職時代(The Great Resignation)」あるいは「大再考時代(The Great Reimagination)」と呼ばれるキャリアをめぐる構造変革など、職場環境における多くの変化を背景に、EGRsはかつてないほどその重要性を増していると、働く女性の地位向上に取り組むコンサルティング企業のカタリスト(Catalyst)で、アドバイザリーサービス担当のバイスプレジデントを努めるヴァンダナ・ジュネージャ氏は述べている。

チームや人をつなぐ接着剤

ERGはリモートで働く人やチームをつなぐ接着剤のような役割を果たすと、ジュネージャ氏は話す。また、マーケティング、コミュニケーション、エグゼクティブコーチングなどのサービスを提供する10カンパニー(The 10 Company)のプリンシパル、ヴァレリー・ディ・マリア氏によると、ERGは朝のコーヒーブレイクや終業後のハッピーアワーのようなバーチャルイベントを頻回に開催し、オフィス内外の従業員が帰属意識や一体感を養うのに一役買っているという。

ハーストマガジンズ(Hearst Magazines)でハーストブラックカルチャーERG(Hearst Black Culture ERG)を結成し、共同議長を務めるトミー・アトキンス氏は、「このグループの結成は、私のこれまでのキャリアにおいて特筆すべきことだ」と述べている。アトキンス氏はハーストマガジンズのセールス、マーケティング、オペレーションを担当するハーストメディアソリューションズ(Hearst Media Solutions)で、マーケティング部門を統括するシニアマネジャーを務めている。ハーストブラックカルチャーの優先事項は、何よりもまず社内にコミュニティを作ることだとアトキンス氏はいう。これを実現する手立てとして、同グループでは、各種のバーチャルイベント、映画の上映会、ネットワーキング、メンター制度、カクテル講座、講演会などを実施している。

「ほかの従業員と交流したいが、どこから始めればよいのか分からない。そういう若手の黒人従業員にとって、このような活動はとても重要だ」とアトキンス氏は話す。「自分たちの文化にどっぷり浸かりたい、自分の存在を認め、声を聞いてもらいたいという従業員たちに、その出発点として我々の活動を利用してほしい」。

若手従業員に帰属意識を促す

ERGは、新入社員や若手の従業員に対して、特に重要な役割を果たすことができる。昨今、企業が従業員の維持、特に多様な背景を持つ働き手の引き留めに苦慮するなか、ERGはキャリア開発に貢献し、若い従業員に会社への帰属意識を促す貴重なツールとなりうる。「リモートで働く新しい従業員を迎える際、ERGへの参加は、企業文化にいち早くなじみ、ほかの従業員との仲間意識を育てる一助ともなる」と、The 10 Companyのディ・マリア氏は述べている。

ERGを通じたコミュニティや人間関係の形成を成功させるには、ERGを会社組織から切り離し、孤立化させてはならないとディ・マリア氏は忠告する。さらに、PwCのマクレメンツ氏は、経営陣の支援も必要不可欠だと説く。

ガネットとハーストのERGでは、この点に関する懸念はないようだ。経営陣の支援、社内各部署との連携、さらにはほかのERGとの協力も確保できており、メンバーは皆、自分たちのアイデンティティが尊重されていると実感できるという。

「我々は会社から全面的な支援を受けている」とUSAトゥデイのチェン氏は話す。「会社の支援があれば、従業員のための環境作りはずっと容易になる」。

アライシップは以前より顕著に

ハーストブラックカルチャーは、同社のLGBTQ+のERGであるハーストプライド(Hearst Pride)と連携して、6月26日にニューヨーク市で開催されたプライドパレードにも参加した。ハーストマガジンズの編集者たちが、ハーストブラックカルチャー主催のイベントで、パネルディスカッションの進行役を努めることもある。さらに、アトキンス氏によると、ハーストの業務、マーケティング、経営、広報などの仕事を社内に広く周知させるために、ERGと協力することもあるという。

しかし、重要なのは経営陣や同じERGメンバーからの支援だけではない。自分自身は社会的少数派に属していなくても、そのような集団を積極的に支援する態度や精神、いわゆるアライシップも欠かせない要素である。そしてマクレメンツ氏によると、コロナ禍の勃発以降、このアライシップは以前よりも顕著になっているという。「社会的多数派のなかにも、ERGに参加する人々が増えてきた。帰属意識という意味では、これは極めて重要なことだ」。

[原文:Media ERGs foster community among hybrid workforces

Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

Source

タイトルとURLをコピーしました