ウィメンズスーツ の新しい時代が到来。本当の意味でのカスタムメイドとは?【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

今回のブリーフィングでは以下のテーマを取り上げる。

・インドチーノ(Indochino)などメンズウェアブランドがウィメンズスーツの未来を築こうとしている。
・コーチ(Coach)やケイト・スペード(Kate Spade)、スチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)などの親会社であるタペストリー(Tapestry, Inc.)の決算は困難な状況下での懸命な動きを示している。

ウィメンズスーツの次の時代がやってくる

新たな需要に応えてウィメンズスーツを導入するブランドが増えるにつれて、昨日までの疲弊した市場がいまやホワイトスペースとして解釈されている。

8月19日、創業15年のメンズカスタムスーツメーカー、インドチーノがウィメンズカスタムスーツへの進出を発表した。女性の体型を考慮して開発された2種類のスーツのシルエットが、トロント、シアトル、バンクーバー、ニューヨークの8店舗で提供される。また、初のスカートも発表した。

メンズテーラーを専門とするほかの企業も最近ウィメンズのスタイルへと拡大しており、その結果、この機会を象徴するような結果を報告している。そうした企業のなかには、3年前に米国で事業を開始し、2020年にウィメンズにも適応すべくカスタムスーツの選択肢を拡大した、日本のカシヤマ(KASHIYAMA)が含まれる。カシヤマのバイスプレジデントであるBJ・マッケイヒル氏によると、このカテゴリーの売上はその後毎月伸びており、特にここ8カ月は「大きく上昇」している。

一方、シカゴを拠点とするスーツショップ(SuitShop)は、2019年後半にタキシード事業を拡大してウィメンズスタイルを加えたが、その後の2年間で売上を300万ドル(約4億1000万円)から2000万ドル(約27億3600万円)に伸ばしたと報道されている。

これらのブランドのリーダーたちは、トレンドは自分たちに有利に働いていると話す。多くの女性が仕事に着ていくスーツをより快適な最新のスタイルにアップデートしたいと考えている。また、上下揃ったアスレジャーのセットから、楽に着られて、もっと洗練されているルックにレベルアップしたいと考える女性もいる。そして消費者がこれまで以上に予算を意識するようになっているなかで、衣服を購入した際のコストパフォーマンスもさらに重要視されるようになり、ありきたりなフォーマルな雰囲気の服装という考えにとらわれず、オケージョンウェアへのアプローチを今の時代に合わせようとする人たちもいる。

着実なアプローチでウィメンズを拡大

インドチーノにとって、的確なウィメンズウェアにするには、時間をかけた着実なアプローチが必要だと、CEOのドリュー・グリーン氏は言う。「私たちは15年間も(もっぱら)男性だけに向けて販売してきたので、学ばなくてはならないことはたくさんある」。

同社は顧客のフィードバックに基づいて商品や顧客体験を完成させ、早ければ今年末にもeコマースサイトと残りのショールームでウィメンズカテゴリーを展開する計画だ。現在から10月までにさらに6店舗をオープンし、44の市場に93店舗となる予定だが、ウィメンズスタイルのみを販売する店舗はない。また最終的には、女性の好みに合わせた生地も発売する。

インドチーノはウィメンズウェアのローンチに対し「非常に保守的な予算設定」をしているため、グリーン氏は、急ぐプレッシャーはないという。とはいえ、彼は10年後にはウィメンズもメンズと同じ規模になるだろうと予測している。2020年から2021年にかけて、インドチーノの売上は85%成長した。

「私たちは急速に成長しており、利益を上げている」とグリーン氏は語る。「同時にこの事業に投資し、あらゆる機会を最大化している」。

今後1、2年のあいだに、インドチーノは新たなカテゴリーを導入するのではなく、既存のカテゴリーに磨きをかけるつもりでいる。インドチーノは、パンデミックの直前にアウターウェアとカジュアルウェアを発売し、その後、後者を基盤にした。グリーン氏は、2023年に予定されている現在進行中の提携がビジネスの「促進剤」になると期待しているが、それにもかかわらず、彼は追加で資金を調達する予定はない。

インドチーノは、より幅広いウィメンズスーツをローンチするまでは、検索、ソーシャル、ディスプレイメディア、アフィリエイト、屋外、ラジオ、テレビといった、通常のチャネルをまたぐマーケティング手段への投資は控える予定でいる。いずれは「セレブやアスリートの広告への起用」も行うことになるだろうとグリーン氏は述べた。8月19日に同社はプレスリリースと既存の顧客への告知メールを発送し、さらに同社のソーシャルチャンネルにこのローンチについての投稿を行った。またグリーン氏が期待するのは、婚約者と一緒に結婚式のための服を買いにインドチーノに来店する女性客の獲得だ。

本当の意味でのカスタムメイド

インドチーノの製造パートナーである中国の大楊創世(Dayang Group)にはオーダーメイドのウィメンズウェアの経験があり、ウィメンズウェアを世に送り出そうとしているインドチーノにとって間違いなくプラスになるだろう。大楊創世は、ラルフローレン(Ralph Lauren)やJクルー(J.Crew)などのブランドのスーツを製造している。

またインドチーノは「経営陣の半数が女性」であることに加えて、グリーン氏の概算では全従業員の50%以上が女性であるため、女性従業員が多いこともメリットになるはずだ。COOのモーガン・ホイットニー氏はがウィメンズウェアのローンチを主導し、このプロジェクトに「彼女の視点」を取り入れたという。このカテゴリーをスタートさせるにあたって、新たに社員を雇う必要はなかったが、店員は新しいスタイルの着こなしのトレーニングを受けている。

しかし買い物客がこのスタイルをどう受け止めるかに対しては、同社はオープンマインドで臨んでいる。グリーン氏によると、ウィメンズカテゴリーのソフトローンチの後、シアトルのある女性客が、女性用の「マディソンの」シルエットのジャケットにメンズのパンツを組み合わせたスーツを購入したという。「彼女は(メンズの)パンツのカットの方が気に入ったのだ」と彼は話す。

「私たちの顧客は、楽しみながら、本当の意味でカスタムメイドのルックを見つけることができる点を気に入っている。そして私たちはすべてのジェンダーに対応したいと考えている。(ウィメンズウェアは)私たちの次の冒険だ」。

自由にカスタマイズできることに価値がある

そこには明らかにチャンスがある。オンワードグループ傘下のカシヤマは、ウィメンズスーツが米国事業の20%を占めるまでに成長した。「ややエッジの効いた」オーバーサイズのジャケット、クロップ丈や長めの袖のジャケット、ワイドパンツやペンシルスタイルより幅広で丈の長いスカートなどを揃えるなど、品揃えは需要に応じて進化している。また、イエローやパープルなど明るい色の生地の取り扱いも開始した。

「ウィメンズのスーツには、決まりきったルールが少なくなっている」とマッケイヒル氏は言う。「シルエットやプロポーションで遊べる自由度が高く、カスタマイズできる機会が女性にとって価値があることが証明された」。

カシヤマの女性の買い物客層には、働く女性や、カスタムスタイルを自己表現の手段と考えるファションに敏感な女性、特別な機会に礼装を着るという考え方の女性などが含まれている。カシヤマは今、小売店からウィメンズのスタイルを販売したいという要望を受けていると、マッケイヒル氏は述べた。

「(パンデミック中は)あまりにも長い間、みんな家に閉じこもっていた。再びドレスアップして、世界に多少なりともみずからを誇示できるというのは、気分がよいものだ」。

堅苦しいイメージから脱却しつつある現在のスーツ

パンデミック以前のスーツの選択肢は、古臭い、堅苦しいと思われがちだったが、現在のスーツは新鮮に感じられるようなカテゴリーとなっている。ルーズフィットのスリーピーススーツは、クールガールのアウトフィッターのルージュ(Rouje)、インディーズ小売業者のザ・フランキーショップ(The Frankie Shop)のほか、インフルエンサーのアリエル・チャーナス氏のサムシング・ネイビー(Something Navy)が19日のブランドのリローンチにあわせて展開している。クロップド丈のブレザーをフィーチャーしたバージョンは、過去2年間、ランウェイやファストファッションで数多く見られるようになった。そして、鮮やかなレインボーカラーの選択肢も人気を集めている。8月中旬、ファッションモデルで起業家のカーリー・クロス氏が10代向けのコードウィズクロッシー(Kode With Klossy)キャンプを訪れた際は、ホットピンクとオレンジのバージョンを連続して着用していた。後者は2020年に発売された、アナザートゥモロー(Another Tomorrow)のものだ。

小売情報会社エディテッド(Edited)の市場アナリスト、ケイラ・マーシー氏によると、米国と英国のオンラインファッション小売店で購入できるウィメンズスーツの選択肢は、前年比で151%増加したという。そして2023年春先のランウェイは、このトレンドが定着しつつあることを示す証拠となっている。マーシー氏は、ヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)のスリーピーススーツ、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)のシングルブレストブレザー、フィリップ・プレイン(Philipp Plein)のプレッピーミニスカートセットなどを挙げた。

グランドビューリサーチ(Grand View Research)の2022年5月のレポートでは、ウィメンズスーツとアンサンブルの市場は2022年から2028年にかけて複合年間成長率4.8%で拡大し、160億ドル(約2兆1860億円)に達すると予想されている。

伝統的なスーツの販売で有名な企業の多くがパンデミックの影響を受けており、新規参入やイノベーションにチャンスが訪れている。ブルックスブラザーズ(Brooks Brothers)J.クルーは破産を申請し、エムエムラフルアー(MM.LaFleur)を含むフォーマルワークウェアはビジネスカジュアルに注力するよう方向を変え、インドチーノの競合であるスーツサプライ(Suitpply)はほかの削減も行いながら自社の女性向け事業スイスタジオ(Suistudio)を閉鎖している。

タペストリーの決算から明らかになった「アスピレーショナルラグジュアリー」のあり方

8月18日、コーチやケイト・スペード、スチュアート・ワイツマンなどの親会社であるタペストリーが、2022年度の決算を発表した。年間で、2021年比15%増、パンデミック前の2019年比11%増となる67億ドル(約9143億円)の売上高を記録している。

エドワード・ジョーンズ(Edward Jones)の一般消費財アナリスト、ブライアン・ヤーブロー氏によると、収益は予測を上回ったものの、「少し軽め」だった。為替レートとドル高、そして中国での逆風と航空運賃のコストが原因だ。

「(タペストリーは)コントロールできるものをうまくコントロールしている」と彼は述べた。決算期には、不採算店舗の閉鎖、より集中的な品揃えを実現するためのSKU数の大幅削減とクリアランス商品の減少、マーケティングに資金を投入しながらコスト削減に注力するなどの戦略的な動きがあった。

コーチやケイト・スペード、カプリ・ホールディングス(Capri Holdings)傘下のマイケル・コース(Michael Kors)など、「アスピレーショナルラグジュアリー」市場のブランドは、膨大な売上目標を達成するために営業するのではなく、収益性と適切な製品を市場に投入することに集中すべきだと認識するようになった、とヤーブロー氏は述べている。同時に、「ブランドを汚すだけ」である値引き販売からも脱却したという。その結果、より健全でより合理的な、成長する市場が生まれている。

タペストリーのブランドでは、最近、若い新規顧客の獲得と囲い込みがうまくいっている。また、コーチとケイト・スペードについては、中国市場が回復すれば、大きなチャンスになるとヤーブロー氏は考えている。

一方、タペストリーブランドのファンは、さらなる変化を期待することができるだろう。ヤーブロー氏は「(アスピレーショナルラグジュアリーと)ラグジュアリーの価格差はかつてないほど大きくなっている」とし、特にコーチは近々さらに値上げを行うだろうと予想している。

[原文:Fashion Briefing: The next era of women’s suiting is upon us]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:黒田千聖)

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