カンヌライオンズ初参加の TikTok 、予想外の「控えめ」な内容の狙いは

DIGIDAY

2年間の休止からの再開ということ、そして現在の世界情勢を考えると、カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)は穏やかなものになると予想されていた。しかし、マスクをしていない人たちの姿や、おしゃれな特設イベントスペース群、クロワゼット通りに並んだ巨大なテント群は、ほぼパンデミック前の状態にほぼ戻っていることを証明しているようだった。

4日間のフェスティバルの初日、オムニコム(Omnicom)はウォルマート(Walmart)との新たな合意を発表した。これは、本フェスティバルでオムニコムが行う一連のeコマース関連の取り組みのなかでも、最初のものになると予想されていた。そして、ピンタレスト(Pinterest)、スポティファイ(Spotify)、電通クリエイティブ(Dentsu Creative:同社は彼らが持つクリエイティブエージェンシーたちを合併して統合ネットワークを形成するとカンヌで発表した)といった大手企業は、本フェスティバルにおける通りでの存在感を再度確立していた。

静かにその存在感を示したTikTok

よく見ると、現在のソーシャルメディアの神童であるTikTokに対するメタ(Meta)のライバル意識が、今年のフェスティバルでリアルタイムで現れていることが分かる。クロワゼット通りの一端では、TikTokは静かにその最初のプレゼンスを立ち上げ、過去2年間逃してきた業界との連携や、個人レベルでのマーケターや広告主との提携を行っている。その道を少し行ったところ、フェスティバル会場からさらに離れたところで、メタは数年前と同じような勢いでフェスティバルに戻ってきた。

TikTokはそのカンヌデビューのために、いくつかの経営陣が参加するふたつのスペースを出展した。ひとつ目は、ビーチ沿いにある小さなスペースで、TikTok動画を制作したり一般向けプログラムを流したりするスペースだ。もうひとつは、通りを挟んだ7階建てのアパートメントだ。ここは、マーケティングや広告担当の幹部がTikTokの経営幹部と顔を合わせるための静かなスペースだとなっている。

これは前述の企業による豪華なビーチプレゼンスとは全く異なる外観であり、悪名高いSnapchatの特設観覧車とは明らかにかけ離れている。

TikTokは、「とにかく大きなことをする」というプラットフォーム企業たちが踏襲してきた戦略を、3年の歴史のなかで拝借してきた。しかし、ヨーロッパ向けグローバルビジネスソリューション責任者のスチュアート・フリント氏が「控えめ」と形容する同社の今年のフェスティバルにおける存在感は、フェス参加者への訴求というよりも、ソーシャルメディア業界における重要なプレーヤーとしての地位を確立するためにあるようだ。

エンゲージメントと対面での関係構築を重視

TikTokは、2020年半ばから後半にかけて市場に投入される広告費のシェアを大きく獲得して以来、業界では「急成長の挑戦者」と見なされてきた。その当時、同社は広告主にとってブランドセーフな避難所であり、ユーザーベースは天文学的なペースで成長しており、広告主が広告を測定するためのより柔軟な方法を提供しているというイメージを広告主に売り込んでいた。それ以来、同社は企業のマーケティング予算の柱の一つとなり、シルク(Silk)やホリスター(Hollister)、ロレアル(L’Oreal)といった有名企業から関心を集めている。

とはいえ、TikTokがマーケティング担当者や広告主にとって価値があることが証明されていることを考えると、同社初のカンヌライオンズで比較的控えめなアプローチを取ったことは興味深い。このことは、TikTokのコンテンツ作成プロセスがどのように機能するか、懇切丁寧な解説を必要する人は多くないことを意味する。

フリント氏によると、広告業界で最も期待されているイベントである本フェスティバルにおけるTikTokの存在は、エンゲージメントと対面での関係構築を重視した物だという。過去2年のパンデミックによって対面でのネットワーキングの機会が失われたことを考えると、確かに同社はこれらをこの規模ではできなかったかもしれない。「もしあなたがクリエイティブ業界の一員なら、ここにいることは重要だ」とフリント氏は言った。

本フェスティバルにおいて多くの著名人が参加したり派手な展示会が開催されたりするのとは対照的に、同社の資金は研究のために回されているとフリント氏は述べたが、それが何を意味するのか詳細は明らかにしなかった。この時期、CEOたちはマーケターたちに、より少ない労力でより多くのことをして欲しいと願っている。そんななかで、同社がまだ測定と属性システムの解明に取り組んでいることを考えると、これは興味深いポイントだ。

同社の幹部によると、TikTokは極めて意図的に「学びの場」を提供するために作られたものだという。学習分野はマーケターや広告主にとって比較的安全な場所である。それでも広告主やマーケターの多くはこの短編動画アプリへの投資に価値があるかどうかをまだ評価している段階だ。

リールに焦点を当てたインスタグラム

クロワゼット通りのすぐ下には、同社のライバルであるメタ傘下のインスタグラムが、「メタビーチ(Meta Beach)」と称した企画を通じてクリエイター、ブランド、広告主を引きつけようと取り組んでいる。メタビーチでは、メタバース、リール、そして急成長するクリエイターエコノミーを中心に同社のためのプログラミング、アクティベーション、体験が計画されている。

同社は今年のフェスティバルに参加する人たちにリールを使った体験を提供し、なんとかリールの地位を維持しようと、リソースを大きく投入している。今年提供されたのは「リールスタジオ」で、訪問者はビデオプロデューサーの助けを借りて自分のショートビデオを作成することができる。リールはTikTokに対抗することを目指しているメタによる短編動画サービスだ。ユーザー利用を維持・獲得することで、ブランドからの広告収入を増やすことに注力しているメタにとってリールはその主なフォーカスのひとつとなっている。クリエイター自身がコンテンツをより簡単に収益化できるという点は、ファンにも気に入られる点だが、リールはまだマーケターの予算のなかの重要なアイテムにはなっていない。とはいえ、今年のイベントの焦点がそこに置かれているのは当然だ。

「ブランドや企業にとって、クリエイターをビジネスパートナーと見なすことは重要だ」と、インスタグラムのビジネスマーケティング責任者を務めるグレース・カオ氏は言う。メタは、ワークショップシリーズやプログラミングで多数のクリエーターを迎える予定だ。

もちろん、カンヌでビーチ沿いのイベント展開を初めて行なったのはTikTokだけではない。Amazonはそれまでのホテルの客室におけるビジネス会議から、ビーチでの大規模な展開へと移行した。(カンヌでのビッグテックの広告シェア獲得計画についてはこちらの記事を参照してほしい)。

今年の参加者数に関する情報はない(フェスティバルを所有し運営しているアセンシャル[Ascential Plc]は、今年の参加者数や代表者数を明らかにしていない)が、このイベントはまだ始まったばかりであり、月曜日の午後まで、次々と参加者は増え続けている。

[原文:Cannes Briefing: TikTok wants its ‘low key’ approach to the festival to cement it as a serious player

Digiday Editors(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

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