「ドラァグクイーンほど、美を理解している人はいない」:ドラァグコンに起業家としてクイーンたちが登場

DIGIDAY

パンデミックで2年間中止されていた「ル・ポールのドラァグコン(RuPaul’s DragCon)」が5月13~15日にロサンゼルスで開催され、華やかな復活を遂げた。
3日間のイベントには5万人が参加し、華麗な衣装やファビュラスなパフォーマンス、美に対する積極的な姿勢や存在感は以前のように格別なものだった。今年参加した美容ブランドのなかには、インフルエンサーがブランドを立ち上げる流れに乗り、番組『ル・ポールのドラァグ・レース(RuPaul’s Drag Race)』に登場したスターが創業したブランドが複数ある。

「多くのドラァグクイーンたちが、美容ブランドを立ち上げている」と語るのは、「ル・ポールのドラァグ・レース」を制作するワールド・オブ・ワンダー(World of Wonder)の共同創業者、ランディ・バルバト氏だ。「これらは正統派の美容ブランドになりつつある。美容業界がドラァグのメイクアップや、ドラァグクイーンが支持するメイクアップを異端としてではなく、正統な事業の案としてとらえるようになったのだ」。

ドラァグコンに参加したドラァグクイーンのブランドは、キム・チ・チック・ビューティ(KimChi Chic Beauty)、モー・ビューティ(MoBeauty)、トリクシー・コスメティックス(Trixie Cosmetics)などがある。これらのブランドは対面型イベントへの出展を、ファンに向けたスペシャルプロモーションや、ドラァグコンのソーシャルコンテンツ作成に役立てていた。

バルバト氏によると、ブランドはドラァグクイーンのマーケティング力を意識するようになり、「ドラァグ・レース」が公開された2009年頃からは大きく転換したという。

「主流の人々や企業は、ドラァグをずっと過小評価してきた」と同氏は語る。「今年はドラァグコンに参加するブランドが、全体的に増えている」。

長年「ル・ポールのドラァグ・レース」のパートナーだったアナスタシア・ビバリー・ヒルズ(Anastasia Beverly Hills)は、今回復活を遂げたドラァグコンのスポンサーとなり、社長のクラウディア・ソアレ氏と「ドラァグ・レース」のスターたちによるパネルトークを主催した。他にもサリー・ビューティ(Sally Beauty)、ザ・クレーム・ショップ(The Crème Shop)、シュガーピル(Sugarpill)などの美容ブランドがブースを出展している。

ドラァグコンが「主流のイベント」になったという主催者の考えに、ソアレ氏は同意する。

「もはやオルタナティブなものでも、一部の人々のためだけのものではない」とソアレ氏。「皆のための主流のイベントなので、参加することが非常に重要だ。もっと多くのメイクアップブランドが参加するべきだし、来場者も増えるはず。とても多くの人がショーを観ているから」。

元ドラァグクイーンの創業者たちにとって、ファンとの交流イベントはブランドの認知度向上に役立つ。

「ここに来なくてはならないような気がしていた。ドラァグや、ファビュラスなすべてのものに祝意を表する場だからだ」と、シーズン8の出場者でキム・チ・チック・ビューティの創業者でもあるキム・チ氏は、交流会を前にブースで語った。「鮮やかなヘチマ」に触発されたというピンクと紫のチュールドレスを纏った同氏が登場すると、1時間も前から並んでいたファンたちから歓声があがった。メイクアップ販売の列も終日、顧客でいっぱいだった。

キム・チ・チック・ビューティは、ニックス・コスメティックス(NYX Cosmetics)創業者のトニー・コ氏が立ち上げたインキュベーター「ビスポーク・ビューティ・ブランズ(Bespoke Beauty Brands)」傘下のブランドだ。キム・チ氏によると、同氏のブランドが先月からドラッグストアで発売されるようになったのは、ドラァグ・カルチャーが美容業界全体に影響を与えていることの表れだという。「ドラァグのコミュニティやテクニックから、美容業界は多くのインスピレーションを得ている」。

ワールド・オブ・ワンダーの共同創業者、フェントン・ベイリー氏も同じ意見で、「美容ビジネス、アイデンティティビジネス、そしてファッションビジネスの全体がドラァグだ」と述べる。

フェイスジェム(ラインストーンを用いるメイク)など美容のトレンドは、ドラァグクイーンに触発されたものだと、ソアレ氏は語る。アナスタシア・ビバリー・ヒルズのアイパレット「ノーヴィナ(Norvina)」は「ドラァグを中心に据えたもの」だという。「ドラァグクイーンが生み出したルックスに触発された、美容インフルエンサーの数に驚かされるだろう。ドラァグから始まっているのだ」とのことだ。

「クィア・アーティストがメイクアップをどのように前進させてきたかを見るだけでも、本当にすばらしい」とモー・ビューティのブースで、モー・ハート氏は語った。2021年に立ち上がったこのスキンケアブランドではシートマスクや美容液を販売しており、今後はメイクアップにも事業を拡大していく予定だという。最初にスキンケアを展開したのは「メイクは良いが、まずは肌のケアを」という考えに基づくものだ。「メイクをしても、肌が荒れていては見栄えが悪くなる」。

シーズン14を迎えた「ル・ポールのドラァグ・レース」は、熱心なフォロワーに支持されるドラァグクイーンのインフルエンサーを何人も生み出してきた。たとえばトリクシー・マテル氏のインスタグラムには280万人ものフォロワーがおり、美容チュートリアル動画を157万人の登録者が視聴した。

トリクシー・コスメティックスは、2019年のドラァグコンでローンチされたブランドで、今回のイベントではプロモーションブースのスポンサーとして、ヘアカラーブランド「グッド・ダイ・ヤング(Good Dye Young)」とのコラボボックスなどを販売した。また、トリクシーのスタイルでブースを訪れたファンには、無料のリップスティックが贈られた。

「ドラァグとメイクアップは非常に深く結びついている。ドラァグコンの来場者の多くは、化粧品を購入したりショッピングするために訪れている」と、トリクシー・コスメティックスのグラフィックデザイナー、ジェス・スティーブンス氏は語る。

ドラァグビューティが主流になるにつれ、ブランドは「ドラァグ・レース」の幅広いファン層にアピールしようと取り組んでいる。
「ドラァグのメイクアップと、消費者にとってアクセスや理解がしやすいものとのバランスをとる必要がある。すべての製品において、常に心掛けていることだ」とトリクシー・コスメティックスの商品開発マネージャー、ヴァニア・ナスティオン氏は話す。

バルバト氏は、ドラァグの世界がトレンドを先取りしていると強調する。「それはここ数年で、ファッションやメイクアップの観点から明らかになった。次に流行するものを知りたいのならば、パリやミラノ、ニューヨークのランウェイに注目すべきなのと同じくらいに、「ル・ポールのドラァグ・レース」のランウェイもチェックする必要がある」。

[原文:‘No one understands beauty more than drag queens:’ Queens emerge as founders at DragCon’s return

LIZ FLORA(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)

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