美容業界は、2020年に発足した「15パーセントの誓約(15 Percent Pledge、ファッションや美容小売店の棚に並ぶ商品の15%を黒人が展開するブランドに与えるというもの)」を受け入れるなど、マーケティング、広告、ブランドの品揃えにおいて、テクスチャードヘア(巻き毛や縮れた髪など)に対してよりインクルーシブになるために前進してきた。しかしつい最近まで、すべての髪質に対応するヘアサロンの環境はその構図に含まれていなかった。
マスブランドによるテクスチャードヘアスタイリング認定プログラム
最近の理美容業界の動向は正しい方向を示している。そこには、インクルーシブな美容術規則の可決や、より多様で教育的なプログラムの確立などが含まれている。2021年6月には、ルイジアナ州が美容師委員会による免許の取得条件にテクスチャードヘアケアスタイリングを含む最初の州となった。そして2022年4月、ヘアケアブランドのトレセメ(Tresemmé)は、新人スタイリストと経験豊富なスタイリストの両方に、テクスチャードヘアのトレーニングを受ける機会を提供するため、テクスチャードヘアスタイリング認定プログラムを作ったと発表した。
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トレセメは、2020年の髪にまつわるバイアスに関する調査と、同じく2020年にローンチしたBIPOC(黒人・先住民・有色人種)のスタイリストと美容師を支援する同社のフューチャースタイリスト奨学金プログラムに続いて、今回のテクスチャードヘア認定プログラムを開発している。2020年の調査は、米国内の黒人女性1000人とプロのヘアスタイリスト500人を対象に行われた。そのデータではスタイリストのテクスチャードヘアに関するトレーニング格差が明らかとなり、そのせいで黒人女性やテクスチャードヘアの顧客が不快に思ったり、十分なサービスを受けていないと感じたりするサロンの雰囲気が形成される傾向があるとわかった。これを受けてトレセメは、ラグジュアリーサロンのシンプリービューティフル(SimpleeBeautiful)によるスタイリングスクール、カーリー・テクスチャード・アカデミー(Curly Textured Academy)と提携し、2022年末までにテクスチャードヘアのケアについて1000人以上のスタイリストを育成することになった。
「あの調査がはじまりだった。ブランドとして自分たちにはもっと何かできるのではないか、より大きな規模でさらに意味のある影響を与えられるのはどこか、ということを理解したかった」と、トレセメのブランドディレクターであるジェシカ・グリゴリオ氏は語っている。
オンラインと対面式の15時間のトレーニングプログラム
全米のヘアスタイリストは、シンプリービューティフルのCEOダイアン・ダ・コスタ氏と、セレブリティのヘアスタイリストであるレイシー・レッドウェイ氏およびナイバシャ氏が教える3つの無料コースに登録することができる。このプログラムは、オンラインと対面式のトレーニングを組み合わせたもので、テクスチャードヘアの基礎、テクスチャードヘアのカット、テクスチャードヘアのスタイリングという3つのユニットで構成されている。カットとスタイリングのユニットは、丸1日かかる対面式セッションだ。認定プログラムを修了するには、3つのユニットからなる合計約15時間のコースを履修することになる。トレセメは自社で所有するソーシャルメディア全体はもちろんのこと、自社ウェブサイト上のランディングページや、レッドウェイ氏やナイバシャ氏といったパートナーからソーシャルフォロワーに向けたプロモーションなどを通じて登録を促している。このプログラムは6月に開始される予定だ。
「私たちはこのトレーニングが、州の免許取得の必須カリキュラムになる世の中を望んでいる」とグリゴリオ氏は言う。「トレセメは、この分野にスケールと専門知識をもたらしている。業界に非常に大きな影響を与えることになってほしいと思うコラボレーションを立ち上げた」。
今後、トレセメがサービス提供のために提携するスタイリストは全員、この認定を受けなくてはならなくなる。たとえばニューヨーク・ファッション・ウィークでは、トレセメは複数のショーの現場に約60名のスタイリストと参加しているが、その60人のスタイリスト全員がトレセメの認定を受ける必要がある。
すべてのサロンをインクルーシブな環境に
全米のサロンでテクスチャードヘアのスタイリングが欠けていることは、決して小さな問題ではない。ニールセン(Nielsen)によれば、黒人女性は髪の手入れのためにサロンを訪れ、プロのスタイリング剤を使用していることが従来から知られている。ニールセンの2021年の多文化美容レポートでは、アフリカ系アメリカ人女性の41%が、Covid19の一時的なサロン閉鎖によってヘアスタイリングやメンテナンスの計画を変えざるを得なかったと述べていることがわかった。トレセメがヘアバイアスレポートで気づいたように、コストの面にも影響が現れている。同レポートによると、白人のスタイリストの63%が、テクスチャーのある髪や巻き毛、縮れ毛のスタイリングに追加料金を課すのは妥当であると感じているのに対し、同じように感じている黒人のスタイリストは46%にとどまっている。またテクスチャードヘアの人、とくに黒人女性は、縮れ毛や巻き毛はスタイリングがあまりにもむずかしいという認識からハイエンドの美容サロンでのサービスを拒否されている。
アヴェダ・アーツ&サイエンス・インスティチュート(Aveda Arts & Sciences Institutes)のCEOで、ルイジアナ州美容師委員会の会長を務めるエドウィン・ニール氏は、Glossyへの声明のなかで、スタイリングスクールのアヴェダ・アーツが数年前にテクスチャードヘアに関する教育を「改善」し始め、また免許取得のために州レベルで能力がテストされていないことに理解が及んだ、と述べている。当時、同校はテクスチャードヘアを試験に出すよう働きかける上で重要な役割を果たすようになった。アヴェダ・アーツはテキサス州を含む20以上の州でテスト要件を変更させるよう試みていると、NPRは報じている。
「(ルイジアナ州では)いまではテクスチャーが試験に含まれるようになり、ルイジアナのすべての美容学校の学生は、髪のタイプにかかわらず、すべての顧客にサービスを提供する方法を学ぶことができるようになっている」とニール氏は述べた。「長い目でみれば、これはすべてのサロンがはるかにインクルーシブな環境になるということだ」。
州レベルでの教育を変える働きかけ
シンプリービューティフルのCEOであり、トレセメの認証パートナーでもあるダ・コスタ氏は、ニューヨーク州の美容師免許の要件にテクスチャードヘアのスタイリングを加えるよう、Change.orgに独自の嘆願書を提出している。彼女はこの嘆願書で、2000年代初めのナチュラルヘアムーブメントによる今日のテクスチャードヘアスタイルの人気や、ロレアル(L’Oréal)、マトリックス(Matrix)、レッドキン(Redkin)などがオンラインのテクスチャードヘア教育を実施するなど、美容業界からテクスチャードヘアが正当性を獲得している点を指摘している。
「2000年代初頭から、多くのカーリーヘアのスタイルとカール専門のサロンが登場し、美容のエディトリアル、コマーシャル、テレビ番組、ランウェイ、教科書などあらゆる場所でテクスチャードヘアのスタイルの存在感が増しているのを目にしてきた」と彼女は書き、嘆願を支持している。「かつては単なるひとつのトレンドと考えられていたものが、いまでは真のライフスタイルとみなされている。(それなのに)ニューヨーク州や全米のほとんどの美容プログラムは、州委員会レベルでテクスチャーに関する教育を義務付けることができていない」。
大手ブランドが中心となり髪型による差別禁止法案を後押し
大型小売店や食料品店、ドラッグストアで販売される大衆向けブランドであるトレセメが、サロン環境に着手する決定を下したというのは、珍しいアプローチだと思うかもしれない。だがテクスチャードヘアの人々のためによりインクルーシブな環境を確立しようとしているマスブランドは、トレセメだけではない。2019年、ダヴ(Dove)は全米都市同盟、カラー・オブ・チェンジ(Color of Change)、法律と貧困に関するウェスタンセンター(Western Center on Law & Poverty)と共同でクラウン同盟(CROWN Coalition)を設立、「Creating a Respectful and Open World for Natural Hair Act(地毛を尊重する開かれた世界を作る)の略である「クラウン法」を推進した。これは職場や連邦政府のプログラム、公共施設において、人種による髪型の差別を禁止することを求める法律である。クラウン法は、テクスチャードヘアのためのサロントレーニングとは重複していないが、テクスチャードヘアや生まれつきの髪型をサポートするために草の根レベルでの変化が起きていることを暗示している。この場合、差別を違法とすることで、そうした髪型のさらなる正当性と保護を確立してもいる。
3月、米国下院はクラウン法案を党派を超えて235対189の賛成多数で可決した。同法案は上院での採決が予定されており、バイデン大統領からも強い声援を受けている。
差別をなくすために活動するマスブランド
ダヴは、2019年7月にカリフォルニア州で可決された最初のクラウン法案の発起人となるクラウン同盟を共同設立した。この問題の重要性を人々によく理解してもらうために、同社は2019年に「ダヴ・クラウン・リサーチスタディ(Dove CROWN Research Study)」という調査を委託し、クラウン法案を支援してきた。また最近では、女の子向けの2021年度ダヴ・クラウン・リサーチスタディと、学校で蔓延する髪型差別に踏み込んだ「アズ・アーリー・アズ・ファイブ(As Early As Five)」というキャンペーンを発表している。
ユニリーバ・ノースアメリカ(Unilever North America)のビューティ&パーソナルケアCOOでEVPのエシ・エグルストン・ブレイシー氏は、「クラウン法は、政策と文化をよりインクルーシブなアメリカに向かって動かすことが決定的に重要であることを明確に示している」と述べている。「アメリカの狭い美容基準は、職場や学校で黒人女性や少女がみずからのアイデンティティ特有の髪型をしていることに対し、不当な監視、不正、差別を永続させている。クラウン法だけでは人種的不公正を終わらせるのに十分でないことを私たちは知っている。だからこそ、クラウン同盟のパートナーたちとともに、立法による権利擁護と社会変化を通じて人種的差別に対処できるよう、現在の活動を拡大していくつもりだ」。
[原文:The next frontier of inclusive beauty is textured hair styling]
EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)