ゲーミングとeスポーツ、そのどちらもが「文化」の一部になるなか、両者の違いはますます曖昧になっています。
eスポーツはゲーミングコミュニティの括りに含まれるグループのひとつです。eスポーツのファンで「ゲーミングはまったくやらない」という人はまずいないでしょう。そのうち、ゲーミングのファンで「eスポーツはまったくやらない」という人もいなくなるはずです。
それはつまり、カジュアルプレイヤーもノンゲーマーも同じように、eスポーツシーンを特徴づけるイベントやトレンドメーカーにかつてないほど慣れ親しんでいることにほかなりません。とはいえ、「ゲーミング」と「eスポーツ」はコンセプトがまったく違い、そのコンセプトにはデモグラフィックの面でもオーディエンスの嗜好の面でも依然として違いが見られるのです。
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この数年間、ブランド各社はゲーマーにリーチするため、eスポーツ団体とのパートナーシップにかなりの投資を続けてきました。こうした協力は相互に利益をもたらし、ブランドには見込みのある顧客エンゲージメントを、eスポーツ団体には数百万ドルという金鉱脈をもたらしました。しかし、ブランドがゲーミング部門の内製化に取り組み、その取り組みが洗練されてくると、より一般的なゲーミングコンテンツ全般に対する要求が高まり、eスポーツ団体もそれに応えるようになってきたのです。
こうした背景を踏まえながら、「ゲーミング」と「eスポーツ」の違いについて、いつものQ&Aシリーズで解説していきます。
――単刀直入に聞きますが、ゲーミングとeスポーツの違いは?
もっとも単純な言い方で説明すると、eスポーツというのは、「賞金をかけて対戦ゲームをすること」を指す表現のひとつです。ゲーム業界の人間ならたいてい、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)やライアットゲームズ(Riot Games)などのゲームデベロッパー/パブリッシャーが運営するフランチャイズのeスポーツリーグを思い浮かべるでしょう。その一方で、規模が小さい、成長過程にあるといった格闘ゲームなどのeスポーツも、ゲーミングのエコシステムで注目に値する要素です。
「eスポーツとゲーミングに関していえば、そのeスポーツが大手ゲームデベロッパーが運営する対戦ゲームかどうかで線引きする傾向がある。規定されたスケジュールやシステム、フランチャイズの可能性があるかどうかが加味される」とeスポーツ団体イモータルズ(Immortals)のCEO、ジョーダン・シャーマン氏は説明します。「ただ、必ずしもフランチャイズでなければならないということはない。たとえば5人同士で対戦するタクティカルFPS(一人称シューティングゲーム)のVALORANT(ヴァロラント)はフランチャイズではないが、ライアットが制作したものであり、非常に競争力があり、競技環境が充実していることから、我々はeスポーツだと見なしている。これはリーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)のモバイル版であるWild Rift(ワイルドリフト)も同じだ」。
eスポーツと従来のスポーツとの大きな違いは、「eスポーツ」という言葉がもともとプロの対戦ゲームに限定された表現であり、レクリエーションの要素が含まれない点にあります。一方、スポーツはスポーツであり、NFL選手がスタジアムで見せるアメフトの試合も10歳の子どもが楽しむ草野球も、誰もがスポーツと呼びます。eスポーツはゲーミング全般のコミュニティに属するものの、独自の発展を遂げたジャンルだと見なせます。
このように大きな違いがあるにもかかわらず、多くのブランドはカジュアルなゲーミングコンテンツにも「eスポーツ」という言葉を使用しています。主要なeスポーツ団体では、パートナーであるブランドにこの違いを理解してもらおうとするのではなく、パートナーの認識に合わせてよりカジュアルで非対戦型のコンテンツも含めた、幅広いタイプのサービスを提供することで対応しているようです。
「ブランドの話を聞く限り、彼らはそれほど差別化していない。どうやら、eスポーツを配信するストリーマーをeスポーツだとも考えているようだ」とシャーマン氏は指摘します。「我々が違いを説明しなければならないのか? いや、理論的な話には首を突っ込まないほうがよい。私たちの役割は、状況をしっかり把握し、ブランドに対しては、『関心があるのはゲーム自体ですか、それともストリーマーですか? もしその両方なら、どちらの要素も合わせもったものを構築してみましょうか。そうすれば、マーケット全体にアピールできますよ』と話すことだ」。
記者注:「esports」という英単語にはさまざまな表記がある。現在の代表的な表記は「e-sports」と「eSports」。ただし、正しい表記は昔から使われているシンプルな「esports」となります。AP通信も同じ見解です。この表記は業界の大御所たちのあいだでちょっとした禁句になっていて、「e-sports」や「eSports」と書こうものなら、たちまち「この業界のことをよくわかっていない奴」だとバレてしまいます。
――eスポーツが「ニッチ」なのだとすると、ブランドやマーケターにとってそれほど価値があるようには思えないのですが。
eスポーツの試合に積極的に参加しているのはゲーミングコミュニティのごくわずかな層にすぎません。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)が3月に発表したレポートによれば、米国では毎月約3000万人がeスポーツを視聴しています。一方で、エンターテインメント・ソフトウェア・アソシエーション(Entertainment Software Association)が2021年に調査した結果によると、米国には2億2600万人を超えるゲーマーが存在するそうです。
それでもなお、eスポーツはゲーミングの原動力となっています。対戦型アクションゲームのオーバーウォッチ(Overwatch)のカジュアルプレイヤーは、最新の高度なテクニックや現在ゲームで優位にあるキャラクター、アイテムの情報を知るために、公式リーグであるオーバーウォッチリーグの試合を見ています。レベルの高い「大乱闘スマッシュブラザーズ」プレイヤーが、ゲームの追加コンテンツとして購入することで使用可能になるキャラクターを使い、主要大会で優勝すれば、勝負に執着しないカジュアルプレイヤーも自分で試してみようとそのキャラクターを購入する可能性が高くなるでしょう。
カジュアルゲーミングの拡大が進むにつれ、eスポーツ団体はクリエイター第一主義戦略へのシフトを強め、より多くのリソースを所属ゲーマーのなかでも非対戦型ゲーマーに回すようになっています。とはいえ、eスポーツ団体がeスポーツ団体たるゆえんはeスポーツにあり、今後もずっと対戦型ゲーミングがeスポーツ団体の戦略の一部であり続けることも間違いありません。
「信頼性を構築し、高価値のビジネスチャンスをつかむうえで、eスポーツに対戦型ゲーミングという屋台骨があることは、これから先も常にかけがえのない事実になるだろう」とシャーマン氏は言います。「でも、『たかがeスポーツだから』と自ら可能性を狭めてはいけない。とにかく重要なのは、これからも業界のトレンドに対して柔軟に適応していくこと、さらに、どのトレンドにおいても信頼してもらえるようになることだ」。
――ということは、ゲーマーはeスポーツファンとカジュアルプレイヤーの2種類に分類できるということですか?
ブランドマーケターが「ゲーミング」と「eスポーツ」を対称的なものとして無理やり組み合わせようとしたところで、そもそもこの2つは相対するものではありません。eスポーツはゲーミングコミュニティの一部であり、ゲーマーは競技性があるものとカジュアルなものを結ぶ線上のどこかに落ち着くのです。ゲーミングとeスポーツはどちらも人気が高まるにつれて、ファンの特徴にはますます差がなくなっていくでしょう。
「五大湖(米国とカナダの国境)周辺には、大学や高校を中心にゲーミングコミュニティが数多くある。彼らはさまざまなタイプのゲームに参加しているが、競技だけでなくゲームそのものにも関心を持っている」とシャーマン氏は説明します。「つまり、3つめのグループに分類される人たちだ。競技志向を持ちながらも、ゲーム体験を仲間とシェアしながら楽しみたいとも考えており、その両方を満たせるいわゆる『草試合』グループとでも言えるだろう」。
――では、プロのeスポーツプレイヤーはどこに分類されるのでしょう?
eスポーツは幅広いゲーミングコミュニティの一部であり、eスポーツ選手のほとんどはカジュアルゲーマーです。彼らはみんな、大会を中心としたeスポーツの世界から、レクリエーションとしてのゲーミングへの文化的シフトを受け入れているようです。
実際、eスポーツ団体はプレイヤーに、ゲーミングコミュニティ全体にリーチできるよう、対象を広げたコンテンツの提供を促しています。これは特に、ストレスや燃え尽き症候群でプレイヤーが若くして引退することと関係しています。現在人気のeスポーツ選手は全員がストリーマーやインフルエンサーの顔も持ち、過酷な競技の合間にアモング・アス(Among Us)やマインクラフト(Minecraft)のようなカジュアルなゲームを楽しみながらストリーミングを配信しているのです。
「コンテンツ制作と聞くと、大抵の人が『単調でつまらないと思っているんだろう?』と言ってくる」。そう話すのは、大乱闘スマッシュブラザーズのeスポーツ選手、ゼイン・ナグマイ氏です。彼は、NBAゴールデンステート・ウォリアーズ(Golden State Warriors)の関連会社で、eスポーツ団体ゴールデン・ガーディアンズ(Golden Guardians)に所属しています。「でもゲームでのんびりスケッチをしたりしていると友達と遊んでいるような感じで、元気が出てくる。それに、試合の緊張感とはまったく違う。だから、試合とコンテンツ制作で、いい具合にバランスがとれていると思う」。
――ブランドはゲーミングとeスポーツの違いをもっとよく理解すべきですか?
そうとも言えますが、そうでないとも言えます。ゲームはとても微妙な違いのある世界なので、ブランドマーケターが社内にゲームの知識を持ち込んで、業界に対する理解を深めることは決して悪いことではありません。一方で、いまのゲーマーたちの大半がその違いについて気にしていないのも事実です。
カジュアルゲーマーが競技を、プロプレイヤーがよりカジュアルなコンテンツを受け入れ、ゲーミングとeスポーツの境目はより曖昧になるにつれ、eスポーツ団体はブランドがゲーマーにアプローチするための効果的な手段であり続けるでしょう。両者の違いが曖昧だからといって何かが破綻するわけではなく、修理も必要ありません。ただ認識のアップグレードが必要なだけです。
「多くの若者にとってeスポーツなどというものは存在せず、すべてビデオゲームに過ぎない。ここにいるのはビデオゲームをプレイするトッププレイヤーたち。そして、ここにいるのはビデオゲームをプレイする私のお気に入りのコンテンツクリエイターたちだ」とeスポーツ団体センティネルズ・ゲーミング(Sentinels Gaming)のCEOロブ・ムーア氏は話します。「ときには、プレイヤーがトップエンターテイナーの役割を果たすこともある。実際、私たちがeスポーツや組織に関して線引きしたところで、ファンにしてみれば、『eスポーツ』という言葉そのものはおそらく大した意味がないのではないだろう」。
[原文:WTF is the difference between gaming and esports?]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)