「 Twitch の活動の中心は、コミュニティにある 」:Twitchトラスト&セイフティ部門VP、アンジェラ・ヘッション氏

DIGIDAY

ウェブでもっとも盛んなゲームコミュニティプラットフォームであるTwitch(ツイッチ)。その勢いは2022年も衰える兆しがない。

ライブストリーミング技術のプロバイダのストリームエレメンツ(StreamElements)とレインメーカー.gg(Rainmaker.gg)が最近発表したレポートによると、2021年、ゲーマーがライブストリーミングサービスで視聴したコンテンツの時間は240億時間以上におよび、2020年から2021年では45%増加している。同時期におけるライブストリーミングのオーディエンス獲得競争では、ユーザーがコンテンツを視聴していた時間はFacebook Gamingが53億時間で第2位、YouTube Gamingが第3位だった

その成長があまりにも急激であるため、Amazonが所有するストリーミングプラットフォームTwitchは今「成長痛」を経験している。2021年には大勢のTwitchクリエイターが、組織化した「ヘイト・レイド」に耐えざるを得ない状況に陥った。「ヘイト・レイド」とは、匿名のユーザーがストリーマーの配信中に悪意のあるメッセージを大量に書き込むというものだ。主なターゲットはオーディエンス数が中小規模のストリーマーで、特に、女性のストリーマーやクリエイターズ・オブ・カラーのような社会的マイノリティに属する人たちがターゲットにされた。「これは誰にでも起こることなんだと、いつも自分に言い聞かせなければならない――あなただけじゃない」と話すのは有名なTwitchクリエイターのARUUUだ。「とにかくストリーミングをやめずに果敢に続けることが大事。こちらが気弱になったとたんに、相手はもっと攻撃的になるから。そうなると、ストリーミングをやめるまで攻撃し続ける。そんな経験をしたTwitchストリーマーは何人もいる」。

2022年1月、Twitchでトラスト&セイフティ部門グローバルバイスプレジデントを務めるアンジェラ・ヘシオン氏がユーザー向けの「オープンレター日本語版)」を公開し、Twitchにおけるヘイト・レイドの現状や、集中的なハラスメントからコミュニティを守るためにTwitchが用意したツールや方針の変更について説明した。このオープンレターでは、Twitchのハラスメント対策の最新情報と、ストリーミング業界初のサービス外での行為に関する行動方針の作成について取り上げられている。

ヘシオン氏によると、Twitchは安全とプライバシー保護のツールを頻繁に改訂しており、同文書に挙げられた変更点は、Twitchの安全措置のほんの一部にすぎない。そこで米DIGIDAYはヘシオン氏から、現在Twitchがユーザーの安全確保のために実施している対策について話を聞いた。

なお、本インタビューは読みやすさを考慮し、一部編集を加えている。

◆ ◆ ◆

――あなたのオープンレターには、Twitchの改訂版「ヘイト関連行為および嫌がらせ行為に関するポリシー(日本語版)」は、悪意をもった行為に対しては、明確化・厳格化していることが示されている。具体的にはどのような意味なのか。

このポリシーは時間をかけて用意したもので、数多くのフィードバックに基づいている。Twitchでは、ヘイト関連行為も嫌がらせ行為も常に禁じているが、ポリシーの内容がより明確に伝わるようにするため、私たちは常時ポリシーの見直しを実施している。具体的には、ヘイト関連行為、嫌がらせ行為、性的嫌がらせ行為の内容を細分化し、私たちの言わんとすることを理解してもらうために具体的な例を挙げた。

社会的マイノリティの立場にいるクリエイターなどの皆さんが、ヘイト関連行為や嫌がらせを受けた場合でも、具体例が提示されているので、どのように報告すればいいのかが、とてもわかりやすいのではないかと思う。嫌がらせ行為などをすべて書き出し、具体例を丁寧に挙げていったおかげで、実際、報告の有効性が高まった。ヘイト関連行為だけでも、報告の有効性は4倍向上している。また、嫌がらせ行為に関しては、状況によって違いがあるので、個人的にはヘイト関連よりも報告が難しいのではないか思うのだが、実際にはユーザー報告の有効性が5倍から6倍向上した。それを考えると、ユーザーが運営側の意図を理解できるので、コミュニティに役立つのはもちろんだが、実際にユーザーが適切に報告するときにも役立ち、それに対して運営側がより強制力をもって対応できるようになる。

――Twitchは、ヘイト・レイドの結果としてどのようなツールを開発してきたのか。

ツールの開発は、いざやろうとすると何カ月もかかるものだ。というのも、ツール構築時、世界各地で通用するものを想定して考えなければならないからだ。そのため、テクノロジーの構築では、そのテクノロジーにどのような意味を持たせるのか、常にグローバルな視点で考えている。

2021年、Twitchが発表したツールのひとつが、電話番号を認証に利用したチャットだ。これは、チャットをしたいと言ってくる人がいたら、クリエイターがその人の電話番号で事前に認証できるツール。これを使えば、クリエイターは自分が望む体験を創り出せるようになる。それから、不審なユーザー検出も発表した。このツールに関しては、コミュニティから大きな反響があり、ツールを希望する声が多く寄せられている。機械学習の開発と統合には何カ月も費やした。というのも、追放措置の回避者[新たにアカウントを作ったり、VPNサービスを使ったりしてチャネル内の追放措置をかいくぐるユーザー]かどうかを見極めるために、機械学習を利用しているからだ。チャットの電話番号認証と不審なユーザー検出のどちらのツールも、クリエイターとモデレーターが該当者をチャネル内から排除するかどうかを決められるようになる。カスタマイズも可能なので、クリエイターやモデレーター自身が、自分のチャネルや自分のコミュニティをどのような安全な場所にしたいのかを考えるのに役立つ。

――クリエイターやオーディエンスは、こうしたツールの検証や開発にどのようにかかわったのか。

Twitchの活動の中心はコミュニティ。つまり、TwitchをTwitchたらしめるのはコミュニティなのだ。少し遠くから引いてみると、Twitchにはシグナルがいくつも発信されているし、フィードバックループもたくさんある。まず取り上げるのならクリエイター・キャンプ。これはもともと、コミュニティを知る場所で、クリエイターやオーディエンスがいて、ツールや情報が共有できる。そのほかには、Twitchのユーザーボイスがある。ここではコミュニティのメンバーが自由にフィードバックや提案を進言して、私たちも直接皆とやりとりが可能だ。また、安全諮問委員会もあり、業界の専門家やクリエイターがTwitchの製品に関して定期的にセッションを開催する。ほかにも、Twitchアンバサダーがいて、コミュニティのロールモデルを担ってくれている。アンバサダーと一緒に、フィードバックの会合を開くこともできる。

――嫌がらせ行為を防ぐ規則を強化するにあたり、Twitchではどのように人材を確保しているのか。

私たちは外部の法律事務所と組み、調査の支援を依頼している。また、社内の法務専門チームもスタッフを4倍に増強した[Twitchは、具体的なチームの人数に関する言及を避けた]。引き続き、ほかの部門とも協力し、情報を共有していく。

――オープンレターでもっとも興味深い内容に、サービス外での行為に関する行動方針(日本語版)がある。この方針は、TwitchはTwitch以外の場所で発生する違反を監視できるようになっている。Twitchではないところで起きた事象で人を罰することに対して法的懸念はないのか。

よく考えて対処することが重要。調査のサポートを外部の法律事務所に依頼しているのはそのためだ――その結果、適切な証拠を使うことも、適切な考察を深めることも確実に可能になる。これがコミュニティにおよぶ危害を軽減する私たちの取り組み方だ。危害の原因がどこであろうと関係ない。だからこそ、社外の法律事務所の力を借りて、調査や証拠に対応している――これで十分に検討したことになるのだろうかと常に自問自答しながらだが。

――Twitchがこうしたツールを開発することで、Twitchへのアクセスに関してはどのような懸念事項があるのだろうか。コミュニティに参加する壁が厚くなれば、「このコミュニティに是非参加したい」と思うユーザーの気持ちに水を差すことにならないだろうか。

そもそも私たちが行なっているのは、Twitchのクリエイターたちが自分の望む安全な環境を自分で用意できるようにすることだ。だから、クリエイターが電話番号認証チャットを採用しなくても、それはかまわない。逆に、自分が安全だと思う状況を作りたいから、ツールを使用するということも可能なのだ。先ほど壁と言っていたが、結局のところ、ユーザーは安全のためのツールを使わなくてもいい。必要だと感じたら、いつでも使えるようにツールは用意しているものの、その使用は強制ではない。

[原文:‘Community is at the heart of everything we do’: A Q&A with Twitch vp of trust and safety Angela Hession

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

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