ロレアルグループ のLA新本社に潜入:「買収するブランドがここにあったことは戦略的だった」

DIGIDAY

ロレアルグループ(L’Oréal Group)がカリフォルニア州ロサンゼルスに、美容のハブとなる本社を新設した。かつて第二次世界大戦の戦闘機を製造していた工場を改装したもので、床面積は108,000平方フィート(約1万平方メートル)に及ぶ。

「男性が戦争に行き、女性が戦闘機を製造するために働いた最初の工場のひとつであることが、リース契約を結んだ後に分かった」と、同グループの買収部門でプレジデントを務めるキャロル・ハミルトン氏は、8月23日に開催されたグランドオープンの場で語った。「ここが女性解放が始まった場所のひとつであることは、私たちにとって誇りの源泉といえる」。

1930年代の頃にこの場所で製造されたダグラス社の急降下爆撃機はとうの昔に姿を消し、現在はここでメイクアップやスキンケア製品、ヘアケア製品が作られている。新社屋はアーバンディケイ(Urban Decay)、ニックス プロフェッショナル メイクアップ(NYX Professional Makeup)、パルプ ライオット(Pulp Riot)、ユーストゥーザピープル(Youth to the People)といったロサンゼルスを拠点とするブランドの本拠となる。また、ハミルトン氏が「取締役会での投票が間もなく行われる」と話す買収予定のブランドも、ここが拠点となる。2021年5月に発表された新社屋の設立を、同氏は2020年10月から監督してきた。世界最大の化粧品会社である同社のこの拠点は、エンターテインメント業界やインフルエンサー業界との協働で成功を収めた美容スタートアップのハブとなり、ロサンゼルスが美容の中心地として世界的に存在感を増すマイルストーンとなるのだ。

「カリフォルニア自体が、多くの点でひとつの国のようなもの。私たちにとって、巨大なビジネスの場だ」と語るのは、ロレアルUSAのCEO兼プレジデントであるデイビッド・グリーンバーグ氏だ。同氏は、ロサンゼルス市長のエリック・ガルセッティ氏が出席したテープカットの式典を主導した。「式典を開催した理由のひとつは、社内に刺激を与えること。ここに住む人々のためだけでなく、ロレアルUSA、そしてロレアルグループ全体のためのものだった」。

ロサンゼルスは近年、美容界のスタートアップ企業におけるシリコンバレーとしての地位を確立している。

「私たちは長いあいだ、買収に積極的で、ロレアルにブランドを追加してきた。これまで獲得してきたブランドを、ここに置くのは戦略的だった」とグリーンバーグ氏は語る。

エルセグンド市(ロサンゼルス郡)に位置するこの物件は、もともと軍需企業ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)が所有し、それをハックマン・キャピタル・パートナーズが購入して再開発を行ったものだ。

施設はサンフランシスコに本拠を置く建築&インテリアデザイン会社、スタジオ・ブリッツ(Studio Blitz)がデザインを手掛け、熱帯植物や太陽光パネル付き天窓などといった項目でLEEDプラチナ認証とWELL認証を取得申請中だ。オープンフロアのオフィスにはブランドごとの区画があり、ひとつの空きスペースには、「次に買収するブランド」と壁に目立つように書かれている。ユーストゥーザピープルのスタッフは今後数カ月でダウンタウン・ロサンゼルスの本社から移転してくる予定で、それ以外の全ブランドのスタッフは既に移転を済ませている。ここにはほかにも、ヘアケアを学べるプロフェッショナル・アカデミーや、教室エリアが備わっている。また、カフェやナチュラルジュースのバー、ウルフギャング・パック(Wolfgang Puck)の食事、ジム、ドッグラン、イベントスペース、菜園などの設備がある。

スタジオ・ブリッツはユーチューブ(YouTube)の本社を手掛けたこともあり、ロレアル本社がカリフォルニアのテック企業のライフスタイルに焦点を当てたオフィスに着想を得たことは明らかだ。だが同時に、美容の会社としてのアイデンティティを体現できていることも重要だった。

「マスキュリン(男性的)な感じや無味乾燥な印象を与えたくなかった」とハミルトン氏は語る。

「ロレアルならではの、創造性やコラボレーションを促進する環境にしたいと強く感じていた」とグリーンバーグ氏は述べる。ブランドスペースには「自由な遊び」エリアが設けられ、モンテッソーリ教育をヒントにした玩具が用意されている。

コロナ禍で米国では企業における物理的なオフィスの役割が変化し、過去2年間で開発されたコンセプトにもそれが反映されている。ロレアルグループのグローバルポリシーでは、従業員の週3日の出社が義務付けられており、渋滞を避けるためフレックス勤務が導入されている。グリーンバーグ氏によるとこのポリシーに「変更を加える予定はない」とのことで、物理的なワークスペースに「100%コミットしている」と付け加えた。

「私たちは、人材の重要性を強く実感している。また、美容のように創造性やイノベーションが主導するビジネス、そして有形で触れることのできる商品を扱うビジネスでは、一緒にいることや、コラボレーション、オープンな議論、コミュニケーションやコネクションが重要だと信じている」。

「私たちは『同僚たちが職場に戻りたいと思うアメニティは何か』と思い描く必要があった。デザインを開始した当初は、職場に従業員が戻ってくるとは誰も考えていなかった」とハミルトン氏は振り返る。ビデオ会議の役割が大きいのは明らかで、チームメンバーがバーチャルに参加できる大画面を備えたグーグルのキャンプファイヤー(Campfire)が社内に複数設けられている。

パンデミック対応のデザインで目指したもうひとつの大きな目標は、「何人の従業員がオフィスに戻ってくるか不明なため、がら空きな印象を与えないこと」だったとハミルトン氏は語る。

ロサンゼルスのコンテンツ制作産業における重要な役割も、新社屋は遺憾なく発揮する。グリーンバックのスタジオに用意されたメイクアップスタジオでクリエイターやセレブリティたちは撮影準備を整え、アーバンディケイ、ニックス コスメティックス、パルプ ライオット、プロフェッショナル・アカデミーのエリアにあるコンテンツスタジオで撮影することができる。

「カルチャー、アート、ポップカルチャー、プロダクション、フィルム、インフルエンサー、そしてアーティストにとってロサンゼルスは刺激的な場所であり、私たちが居るべき場所なのだ」とグリーンバーグ氏。「ここロサンゼルスは、彼らが創造する場所。彼らの近くにいて、接しやすくあることは本当に素晴らしいことだ」。

同社は今後予定している買収について詳細を明らかにしていないが、グリーンバーグ氏によると、買収の可能性を検討する際には「規模はそれほど重要でなく、そのブランドが消費者とどのような関係を築けているかを重視している」とのことだ。

同社の2022年上半期の財務報告によると、直近で買収したユーストゥーザピープルは北米市場向けのスキンケアの業績向上に貢献している。全体として、北米の売上高は前年同期と比較すると11.6%増加した。

「スキンケアは当社の戦略上、関心を持っているカテゴリーだ」とグリーンバーグ氏。ユーストゥーザピープルの買収は「とても新しい、多様な顧客をもたらした」点で魅力的だったという。「非常にモダンで、考え方は多様性に富み、平等主義で、親しみやすく、正直だ。そして、成分や自分たちについて投影し、消費者に語りかける方法には、透明性がある」。

ロサンゼルス本社の開設に続き、ニューヨークのハドソン・ヤードにあるオフィスも2024年の開設を目指して改装中だ、とグリーンバーグ氏は語る。ニューヨークのオフィスは、高層ビルで多数のフロアにまたがる上、犬の立ち入りが許可されないなど建築規制が厳しいこともあって、カリフォルニアの社屋から着想は得るものの同じにはならない。

「ニューヨークとパリは、より企業らしく、よりフォーマルで階層的だ」と語るハミルトン氏は現在、カリフォルニアとニューヨークの両拠点を行き来している。「ニューヨークは、地理的にはパリとカリフォルニアの中間点にある。そして文化の違いも、同様に大きいと思う」と同氏。「フォーマルになりすぎたり、威圧感が強すぎる企業を、人々は好まない」。

[原文:Inside L’Oréal Group’s new LA headquarters: ‘It was strategic that the brands we were acquiring were here’

LIZ FLORA(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)

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