NFT 、パブリッシャーの新たな会員制モデルの原動力に:「収支が合うかより、読者につながりをもたらすことを目指す」

DIGIDAY

パブリッシャーは最も熱心な読者のサブセットを特定するため、何十年も前から会員制を採用している。限定コンテンツにアクセスし、ほかのファンとつながるため、喜んで自ら金を出す読者を特定するためだ。しかし、一部のパブリッシャーはWeb3の世界で実験を行っており、NFTの所有者が新たなブランドエバンジェリストと見なされ始めている。

数百~数千ドルのNFTを購入した人を満足させるということは、限定イベントへの参加、プレミアムコンテンツの購読、メッセージボードなど、具体的な付加価値を提供することだ。しかし、そのようなスーパーファンを満足させ続けることは、企業の収益にとって大きな負担となる可能性がある。

ブロックワークス(Blockworks)、プレイボーイ(Playboy)、タイム(Time)はNFT購入者の「コミュニティ」を構築し始めた数少ないメディア企業であり、暗号通貨を専門とするコインデスク(CoinDesk)は、最もアクティブな読者の報酬として参加トークンを用い、そのコホートから疑似メンバーシップを形成しようとしている。

定期的に関与、活動するブロックチェーンファンのグループがあれば、将来的にNFTがドロップ(公開)されたとき、その購入者で自動的にファネルが満たされる。しかし、NFT所有者の一回限りの購入に報酬を与え続ければ、チケット販売、購読、製品ライセンスなど、ほかの収益源に想定外の影響が及ぶ可能性もある。

コミュニティは自ら形成する

暗号通貨のオンラインニュースを運営するブロックワークスは、5月に「パーミッションレス(Permissionless)」カンファレンスを開催し、スーパーファンの中核グループをつくり上げた。共同創業者のジェイソン・ヤノウィッツ氏によれば、555人のVIPチケット所有者がイベント後も連絡を取り合っているという。

ヤノウィッツ氏のチームは、VIPチケットを最低価格1.1 ETH(当時のレートで3300ドル[約45万円])からという価格で、555体のNFTアバター限定コレクション、パーミーズ(Permies)とし、チケット売上に再販ロイヤリティという付加価値を加えることにした。

その結果、一般入場券より1000ドル(約14万円)以上高い金額を支払ってでも、カンファレンス中、より多くのパーティーや限定イベントに参加し、NFTを所有している限り、生涯にわたってパーミッションレスに入場できる権利を手に入れたいと考えるファンを特定できた。

「パーミーズを中心に、非常に強力なコミュニティが形成されており、彼らは基本的に、私たちの製品を最初に試す人々になった」と、ヤノウィッツ氏は話す。

彼ら自身「パーミーズ」として知られるNFT所有者たちは、ディスコード(Discord)のプライベートチャンネルにもアクセスできる。ここでは、多くの暗号通貨関係者や重要な投資家がアイデアを公開する前にワークショップを開催している。さらに、パーミーズはブロックワークス・リサーチ(Blockworks Research)へのアクセス権も与えられている。通常、2500ドル(約33万4000円)の年会費がかかり、暗号通貨に関するさまざまな統計や情報をひとつのプラットフォームでフィルタリングできる。

「パーミーズはリサーチ製品の最も積極的なユーザーであり、多くのフィードバックが得られる。実際のところ、非常にコアなユーザーグループがいるようなもので、助かっている」と、ヤノウィッツ氏は話す。

このフィードバックが、555人のNFT所有者がブロックワークス・リサーチにアクセスするために支払ったはずの毎年約140万ドル(約1億8700万円)に見合うかどうかはまだ不明だ。ブロックワークは、パーミーズの発売時に180万ドル(約2億4000万円)を売り上げ、その後の二次市場で7.5%のロイヤリティを得ている。ただし、直近1週間に成立した再販(オープンシーによると4件)は0.6~1.59 ETH(約971〜2573ドル)と価格に幅がある。

ヤノウィッツ氏によれば、今後、パーミーズ・コレクションのNFTを追加発売する予定はないという。そうすることで、会員の限定性が維持され、パーミーズの再販価格も高く維持される可能性が高い。

バーチャルとフィジカルをつなぐ

プレイボーイは、有名なプレイボーイ・マンション(Playboy Mansion)で排他性とVIP文化を貫いてきたが、Web3の到来とともにその扉を開き、NFT「ラビッター(Rabbitar)」という形で、ファンにアクセス権の購入機会を提供し始めた。

プレイボーイは2021年10月、1万2000近い動くウサギのNFTをコレクションとして発売。オープンシーの記録によれば、そのうち最も高額なものは10 ETH(当時のレートで約4万2000ドル)で販売された。オープンシーによれば、最初の販売と再販を合わせて2600 ETHの取引が行われている。現在のレートでは400万ドル(約5億3400万円)相当だ。また現在、ラビッターの所有者は5200人に達している。プレイボーイは2021年、NFTで1200万ドル(約16億円)を売り上げ、そのうち約1070万ドル(約14億2900万円)はラビッターによるものだと報告している。

ラビッターを購入すると、所有者は対面とメタバース両方の限定イベントに無料で参加できる。2021年12月にはフロリダ州マイアミビーチで、アート・バーゼル(Art Basel)に合わせていくつかのイベントが開催された。その結果、本来得られるはずのチケット売上が失われてしまった。

プレイボーイとしては、ファンがバニーグッズや雑誌を収集するように、NFTもコレクションしてもらいたいと考えているが、PLBYグループ(PLBY Group)のCEO、ベン・コーン氏は、このようなコレクターからコミュニティを構築することも、Web3戦略の中核だと述べている。デジタル資産の収集だけでなく、「ほかに何が手に入るか」も重要だ。

プレイボーイは7月、仮想不動産を販売するメタバースプラットフォーム、サンドボックス(The Sandbox)と提携し、「メタマンション(MetaMansion)」を建設することも発表している。ラビッターの所有者はバーチャルマンションを訪れ(象徴的なバニーの衣装をまとうピクセルの女性が出迎えてくれる)、ゲームをしたり、ほかのNFT所有者と交流したり、イベントに参加したりできる。

タイムもバーチャルなタイム・スクエア(TIME Square)でサンドボックスのメタバースに参入し、NFT所有者がメタバース空間でディスカッションやイベント、上映会に参加できるようにしている。また、NFT所有者には、月額4ドル(約530円)または年額39ドル(約5200円)の購読料が無料になる特典もある。

タイムはNFTに積極的なメディア企業のひとつで、タイムピーシーズ(TIMEPieces)コレクションのNFT販売だけで、1000万ドル(約13億3500万円)の利益を得ている。

タイムピーシーズを中心としたコミュニティのメンバーは、約4000人のNFT所有者だけではない。Twitterとディスコードのチャンネルを合わせて、タイムピーシーズのメンバーは5万人を超えている。ディスコードはバーチャルイベントのプラットフォームとして機能しており、メンバーはグループの一員として、タイムの記者や編集者と交流できる。

トークンを会員制のインセンティブとして活用

コインデスクは、最も熱心な読者のコミュニティを構築することに取り組んでいるところだが、イベント事業のために構築した参加特典システムをエディトリアルポートフォリオに活用することで、それを実現しようと考えている。

6月、コインデスクはテキサス州オースティンで4日間の重要なカンファレンス「コンセンサス(Consensus)」を開催し、そこでDESKのテストを行った。2万人の対面参加者がパネルディスカッションやスポンサーとの交流など、さまざまな特典を利用できるようにつくられたトークンだ。500以上の特典からひとつを選んで利用した後は、QRコードをスキャンし、暗号通貨ウォレットにトークンを預け、イベント内で飲食や商品購入、ほかの特典に利用できるという仕組みだった。

このトークン経済をインハウスで構築したのは、シニアバイスプレジデントのサム・エウェン氏率いるコインデスク・スタジオ(CoinDesk Studios)チームだ。チームはこのモデルを製品ポートフォリオ全体で再現し、月間ユニークビジター150万人(コムスコアが集計した2021年5月~2022年5月の平均)の読者にもDESKを集めて消費してもらいたいと考えている。

エウェン氏によれば、読者は記事を読んだり、ポッドキャストを聞いたり、動画を見たりすることで、DESKの報酬を受け取ることができるという。ただし、最終的なモデルはまだ調整中で、年内に運用を開始する予定だ。DESKの所有者には、限定イベントへの参加、2023年のコンセンサスの割引または無料チケット、コインデスクのマーケットプレイスでNFTを購入できるといった特典が用意される。

「これを構築するのは決して安くないし、正直なところ、トークノミクスそのものを構築することの複雑さを思い知らされている。それでも、文字通り、コインデスク全体にまたがる報酬ベースのエコシステムを構築しようと挑戦しているところだ」とエウェン氏は語り、この技術を構築するための投資が長期的に報われることを期待していると言い添えた。エウェン氏はこれまでの構築費用を明かさなかったが、構築期間は約8カ月だと述べている。

コンセンサスでは、参加者の20%にあたる約4000人がDESKを集めて消費した。この採用率をコインデスクのオンライン読者に換算すると、約30万人がオンラインでトークンを使うことが予想される。

「我々はDESKだけで黒字になるか、収支が合うかよりむしろ、コインデスク・ファミリーの一員だと実感できるような形で、読者により大きな実用性、価値、つながりをもたらすことを目指している」と、エウェン氏は語った。

[原文:NFT holders might become the new membership model but could threaten other revenue streams

Kayleigh Barber(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:黒田千聖)

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