Amazon 初のファッション実店舗「Amazon Style」の勝算 :ディスカバリーを促す最新OMO

DIGIDAY

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Amazonは今年中に、同社初のファッションの実店舗であるAmazon Style(アマゾンスタイル)を開設する予定だ。これは、消費者がeコマース大手である同社をファッションの購入場所として考えてもらうための、同社にとってこれまでで最大の取り組みのひとつだ。

Amazon Styleは、同社がアパレル分野への展開をめざした初の取り組みではない。同社は4月に入り、同社のファッションコンテスト番組「メイキング・ザ・カット(Making the Cut)」を新シーズンに更新し、同社のカスタム身体測定衣服サービス「メイド・フォー・ユー(Made For You)」をアスレチックTシャツにまで拡大した。実際のところ、ウェルズ・ファーゴ・リサーチ(Wells Fargo research)は、2021年にAmazonがまたしてもウォルマート(Walmart)を打ち負かし、約730億ドル(約9兆3400億円)の売上で、アパレルとフットウェアで世界最大の小売業者の地位についたことを明らかにした

Amazonはこのオンラインでの経験を生かして、オフラインのAmazon Styleストアを活性化させ、たとえば試着室でのサイズ調整やスタイルに関するリクエストをAmazonのアプリと接続することを約束した。アナリストは、試着が必要で、しばしば対面によるインスピレーションが必要なカテゴリーにおいては、実店舗での取り組みが有意義だと考えている。しかし、Amazonがファッションの発見力を向上させるために過去に行ってきた投資が示すように、eコマース大手の同社は依然として試験段階にあることが示されている。

ランウェイに値する実験

Amazonは過去数年間に、自社のアパレルプラットフォームの商品を増やし、より幅広い出品者と買い手にアピールするため、オンラインで数多くの変更を行ってきた。もっとも重要な変更として、同社はより多くのファッションブランドを、Amazonで販売するために呼び入れた。たとえば、オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar De La Renta)のようなデザイナーブランドにアピールするため、招待制のラグジュアリーストアを開設した。

さらにAmazonは、顧客がファッションの目的地、新しい服を見つける場として考えてもらえるよう、ブランドを構築するさまざまな試みを行ってきた。2019年5月には、インフルエンサーやセレブリティとのパートナーシップによる商品ドロップモデル型のストリートウェア・ブランド「ザ・ドロップ(The Drop)」を立ち上げた。同年後半には、消費者が実生活で気に入ったアイテムの写真を撮影すると、Amazonにある類似の商品を紹介する「スタイルスナップ(StyleSnap)」というアプリ内ツールをリリースした。

2020年には、ファッションコンテスト番組のメイキング・ザ・カットを開始し、CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー協議会)と提携して若手デザイナーのためのCovid-19救済基金に出資し、高級デザイナーブランドをプロモーションするためラグジュアリー専門の招待制店舗内ストアを立ち上げた。

しかし、Amazonは多くのファッション関連機能を取り入れることに意欲的だったが、その多くは定着しなかった。

ザ・ドロップは数多くの高名なインフルエンサーとパートナーシップを結んだにもかかわらず、インスタグラムのフォロワー数は37万1000人にしか達しなかった。スタイルスナップは、「ショッピングの方法を永久に変化させる」という同社の公約にもかかわらず、ソーシャルメディアでほとんど話題にならなかった。同社はその後、CFDAとのCovid-19救済のパートナーシップを解消し、同社のサイト内にあったハブにはコンテンツがなくなってしまった。

eコマースコンサルティング企業であるクウォンティファイド(Kwontified)の共同創設者であるイレイン・クウォン氏は、「ブラウジングとキュレーションの体験が、Amazonのアキレス腱であることは常にわかっていた」と述べている。

「Amazonで買わなかった」新規顧客を取り込める可能性

オンラインでファッションを発見しやすくすることはまだ難しいかもしれないが、Amazonはその代わりに実店舗に目を向け、顧客がAmazonを通じて新しいファッションブランドを発見するように働きかけている。

グローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏は次のように述べている。「Amazonは実店舗を通じて、オンラインでは行えないような方法で展示を行えるようになり、これまでAmazonで衣服を購入しようとは考えていなかった一部の顧客を獲得できるかもしれない。また、これによってAmazonは人々が対面でどのようなショッピングを行うのかについてのデータと分析情報を収集でき、それを使用してオンラインと店舗の両方をサポートするような新しいテクノロジーとソリューションを開発することができるようになる」。

Amazon Styleは今年中に、ロサンゼルスのラグジュアリーショッピングセンターであるジ・アメリカーナ・アット・ブランド(The Americana at Brand)にオープンする予定だ。Amazonは、実際にどのようなブランドを店内で扱うのかについて、詳細をほとんど明らかにしていない。同社はオンラインで50を超えるアパレルの自社ブランドを持ち、Amazonファッションハブには数千のブランド、さらに同社のより広範なアパレルマーケットプレイスでは数十万のブランドを抱えている。

Amazon Styleはオンラインの機能を店内に統合し、消費者は自分のスマートフォンや、店舗の試着室に置かれたタブレットでAmazonアプリに接続することができる。消費者はおすすめのスタイルを閲覧した後、試着したいアイテムを試着室に運んでもらうことができる。店頭での販売価格は10ドル(約1280円)から400ドル(約5万1200円)程度を予定している。

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過去の小売店舗との相違点

Amazon Styleは、Amazonが新しいブランドを取り込むのにも役立つかもしれない。

Amazon.comには何十億ものリスティングがあるため、検索結果やホームページの配置でブランドを目立たせるには見つけやすさが問題になる。Amazonは、Amazon Styleが従来の同規模の店舗よりも「2倍以上のスタイル数」を提供すると語っているが、この比較的狭い土俵は、多くのブランド、特に実店舗でまだ販売を行っていないブランドにとって、魅力的に映るかもしれない。

「より多くのブランドにとって魅力的に感じられるように試みているAmazonにとって、これは間違いなく新たな業績になるだろうと考えている」とクウォン氏は述べている。同氏は、Amazonのプラットフォームに最近加えられた変更、たとえばブランドが自社商品の価格設定やブランド体験をより細かくコントロールできるようにになったことなども、「ブランドにとってたいへん好ましいことだった」と付け加えている。

ただしAmazonは、同社がオンライン・アパレルで払った労力と同様に、さまざまな実店舗のコンセプトを取り入れてきたが、そのすべてが長期間続いたわけではない。過去2年間に、同社は書店コンセプト、ポップアップ店舗、フォー・スター・ストア(four-star stores:オンラインで4つ星以上の評価を受けた商品を扱う)に投資してきた。同社は今年、これらの小売店舗68拠点をすべて閉店する

サンダース氏は次のように述べている。「Amazonは多くの点で非常に優れた小売業者だが、買い物の感情的な側面を理解していないことがある。Amazonが閉店にした店舗のコンセプトはいずれも妥当なものだったが、消費者が望んでいたものとあまり一致してはいなかった」。

クウォン氏は、これらの閉店は、多くの場合「うまく行かなかった場合に、あとから実験と呼ばれることがある」と認めている。しかし同氏は、Amazon Styleは、eコマース大手である同社がこのコンセプトを作り上げるために行ったと思われる初期投資を考えれば、Amazonにとって長期的な投資になるだろうと確信している。

同氏は次のように述べている。「このコンセプトに内部で割り当てられているとみられる膨大な量の財務的な投資とリソースを考えれば、これまでの実店舗での実験よりもはるかに大規模な事業だということは明らかだろう。これは書店よりもはるかに大きなものだ」。

[原文:Amazon Briefing: How new stores could aid in Amazon’s fashion discovery efforts]

Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon

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