Googleの消費者向けサービスとそれに付随する広告スタックは、インターネットで最も人気が高いプラットフォームだ。このプラットフォームでCookie廃止へのカウントダウンが続いている。つまり、市場関係者は準備を進める必要があるということだ。
2022年も第2四半期に入り、(広告媒体としての)インターネットは既知の領域と未知の領域に二分されるという予測が聞かれる。前者は「認証済み」の領域とも呼ばれ、一般的に、ウォールドガーデンという特徴をもつと指摘する声もある。
UID 2.0定着を目指すTTD
ウォールドガーデンは通常、独自技術を優先し、サードパーティの参入を制限している。つまり、パブリッシャーや独立系アドテク企業が広告主との関係を維持するには、今後1年半でサードパーティCookieの後継となるユニバーサルIDを確立するという大仕事を成し遂げなければならないということだ。
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この「問題」についての対応として、独立系アドテク企業はIDソリューションの普及によって、(未知の)ウェブを認証済みにしたいと考えている。トレードデスク(The Trade Desk)のUnified ID 2.0(以下、UID 2.0)は、ほぼ間違いなく、もっとも有名な例だ。
DSPであるトレードデスクはこの数週間、LiveRamp(ライブランプ)の認証トラフィックソリューション(Authenticated Traffic Solution:以下、ATS)との提携を含む一連のパートナーシップを発表している。UID 2.0をEUのプライバシー法により確実に準拠させ、2023年以降の地位を固めることが狙いだ。
また、トレードデスクはソフトウェア大手アドビ(Adobe)との提携も発表した。アドビの顧客データプラットフォームからアクセスできるメールアドレスと同期することで、パートナーのファーストパーティデータと同期し、広告ターゲティングを改善する識別子UID 2.0のアドレサブルな基盤を強化することが目的だ。
Googleとの「複雑な」関係
さらに、トレードデスクは最近、オープンパス(OpenPath)というサプライパス最適化(SPO)の取り組みも発表した。広告主がプレミアムな広告インベントリに直接アクセスできるようにするもので、立ち上げ時点の参加パブリッシャーはコンデナスト(Condé Nast)、ガネット(Gannett)、ハースト(Hearst)、ロイター(Reuters)などだ。
そのほかにも、SPOの一環として、Googleのオープンビッディング(Open Bidding)の停止を予定している。Googleの広告スタックの一要素であるオープンビッディングは現在、テキサス州のケン・パクストン司法長官が主導する反トラスト法訴訟でやり玉に挙げられており、トレードデスクはSSP(サプライサイドプラットフォーム)にも追随を呼び掛けている。
トレードデスクのCEO、ジェフ・グリーン氏は最近の公開討論で、広告業界全体がそうであるように、トレードデスクはGoogleと「複雑な関係」にあると述べ、パクストン司法長官の主張がもし事実であれば、問題が待ち受けていることを示唆していると続けた。「GoogleはFacebookと協力関係を築こうとしている(と言われている)。そして、彼らにほかよりも安い価格を提示することで、一定の市場シェアを保証しようとしている(中略)このような行為が反競争的と見なされるのは当然だろう」。
驚きと混乱
オープンパスの発表はある程度の混乱を巻き起こした。正式に発表されたとき、メディアエージェンシー(ザ・トレードデスクの主要顧客層だ)とSSP(このような直接統合によるリスクが最も大きいとされる業界の層)は仰天した。
たとえば、トレードデスクは市場のバイサイドとセルサイドの両方にどのように保証を与えるつもりなのかという疑問が上がっている。つまり、トレードデスクがGoogleを批判しているのは、自分たちが市場のすべての層から売上を得ようとしているため(そしてその障害となるのがGoogle)ではないのかという疑問だ。
一方、パブリッシャーはどうすれば需要をうまく取り込むことができるかというジレンマに直面している。SSPとの長年の関係を維持するべきか? それとも、業界最大の独立系DSPと直接取引すべきか? という選択だ。
トレードデスクのインベントリー管理担当バイスプレジデント、ウィル・ドハーティー氏はそうした懸念に対し、オープンパスはバイヤーとセラーの両方に新たな選択肢をもたらすものだと説明している。「私たちがここで行っているのは、戦略的に重要で、私たちの投資戦略に合うと判断したパブリッシャーに新たな選択肢を提示し、鎖からひとつの輪を取り除くことだけだ」。
パブリッシャーのジレンマ?
複数の関係者が米DIGIDAYの取材に対し、規模が大きく、技術的に洗練されたパブリッシャーにとっては、トレードデスクのようなDSPとの直接統合はより現実的な選択肢だと述べている。一方、リソースが少ないロングテールのパブリッシャーの場合、従来のSSPの方がよりよいサービスを期待できる。
「オープンパスへの入札はSSPを経由した場合と変わらない。パブリッシャーが本当に答えるべき質問は、トレードデスクから直接入札を受けた場合とSSPのパートナーを経由した場合、(どちらの)利益が大きいかだ」とドハーティー氏は補足する。「私たちはパブリッシャーの事業を行っているわけではない。ヘッダー入札が進歩した結果、パブリッシャーとの緊密な連携がはるかに容易になっただけだ」。
オープンパスの参加パブリッシャーはトレードデスクに「統合料金(integration fee)」を支払う。この料金はインフラ維持費用に充てられる予定で、新たな収益源になることは意図されていない。ドハーティー氏によれば、ビッドストリーム管理などのサービスも契約に含まれており、(バイヤーとセラー両方にとって)複雑な詳細はすべて契約条件に明記されているという。
しかし、SSPの関係者からは、サプライチェーンの圧縮がパブリッシャーの利益を押し下げる可能性が高いという指摘も出ている。たとえば、Googleのオープンビッディングを促進したいパブリッシャーとSSPは、別々の「統合」に費用を支払うことになる。
下方圧力がかかることへの懸念
複数のセルサイド関係者(トレードデスクの需要に依存しているということにより、全員が匿名を希望)が米DIGIDAYの取材に対し、トレードデスクの公式声明は「紛らわしい」と述べている。その大きな理由は、選ばれたパブリッシャーはセルサイドのアドテクを(効果的に)回避できると公言していることだ。
SSP関係者のひとりは「トレードデスクはパブリッシャーの利益を最大化することなど気にしていない。そのことが将来的に問題を引き起こすと私は考えている」と話す。「オークションを迂回(うかい)すれば、バイヤーは必ず安い方を選ぶ。そのため、時間の経過とともに、パブリッシャーに下方圧力がかかるのではないかと思う(中略)オークションと異なり、いわゆる『適正価格』をつくり出すことはない」。
パブマティック(PubMatic)のCCO(chief commercial officer)ジェフ・ヒルシュ氏は米DIGIDAYのメール取材に対し、SSPの役割は直接統合の技術的な知識を持たないパブリッシャーが逆のことをすることを支援する、と述べている。つまり、利益の最大化を支援すると言うことだ。
「ヘッダー入札の台頭は、競争の激化がパブリッシャーのCPM上昇につながることを示唆している」とヒルシュ氏の声明には書かれている。「入札密度が低下したら、パブリッシャーはインベントリーの適正な市価を確実に受け取るため、最低価格の戦略を見直す必要がある」。
DSP排除への対策?
サプライチェーンが重複していると、バイサイドが盲目的に運用するシナリオになりかねない。たとえば、複数のSSPが扱うパブリッシャーのインベントリーは、DSPが同じオークションに2回入札し、不必要にコストを上昇させることが多い。つまり、理論的には、オープンパスはすべてのバイサイドに利益をもたらす。
しかし、オープンパスはトレードデスクにとって、近年のエージェンシーグループのSPOへの取り組みを相殺しようとしたものではないかという疑問の声も聞かれた。そうしたエージェンシーの取り組みはSSPとの接近による、DSPの排除が狙いだという見方もある。
実際、複数の関係者が米DIGIDAYに対し、DSPはエージェンシーグループとSSPのパートナーシップにいら立ちを感じていると話している。事実上、広告予算の投入先がDSPからSSPに移行するためだ。DSP、SSP両方との関係を理由に匿名を希望しているある関係者は「これは基本的に、エージェンシーが特定のSSPを介した取引に関心を持ち始めたことを意味する」と述べている。
トレードデスクのドハーティー氏は米DIGIDAYに対し、オープンパスはプログラマティックサプライチェーンの複雑化に伴い、「バイヤー(主にメディアエージェンシー)の多くが私たちにしばらく前から求めていたものだ」と説明している。
「私たちにとって、このようなことを行う理由は手数料ではない。私たちが直接パブリッシャーに入札することで、入札パフォーマンスを改善、強化することがすべてだ」。ドハーティー氏はさらに、エージェンシーグループとトレードデスクのSPOは共存できると言い添えている。
DSPがこぞって模倣する?
ハバス・メディア・グループ(Havas Media Group)の投資担当エグゼクティブバイスプレジデント兼マネージングディレクターであるアンドルー・グッド氏は米DIGIDAYの取材に対し、SPOを巡る状況は変化のさなかにあり、ほかのDSPもオープンパスに注目し、模倣する可能性が高いと述べている。
「エージェンシーとSSPの関係はサプライヤーの選択におけるDSPの排除につながり、地殻変動が起きる可能性がある」とグッド氏は米DIGIDAY宛てのメール声明に書いている。グッド氏によれば、クライアントが投資先を完全に把握できることが重要だという。
「オープンパスはSSPのオークションを迂回する機会をもたらすもので、賢明な動きだと思う。パブリッシャーの料金体系が下がり、金銭的な透明性が実現すれば、SSPは競争圧力にさらされるだろう」。
[原文:The Trade Desk’s supply-path optimization efforts portend potential disruption ahead]
Ronan Shields(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)