メタバース 101:イーサリアムのアップデートはサステナビリティとNFTの議論をどう変えるか?

DIGIDAY

1年以上にわたって大々的に語られてきたが、イーサリアムはエネルギー消費量が少ないとされるプルーフ・オブ・ステーク(PoS)モデルへの移行準備を進めている。もっとも人気のあるブロックチェーンであるイーサリアムは、今年の第2四半期に「The Marge(ザ・マージ)」と呼ばれるアップグレードを完了すると予想されている。

ファッションにおけるライフサイクル分析

物理的な衣服のように、NFTもサステナビリティに影響を与えるため、この変化はファッション業界にとって大きな意味がある。

ファッションアイテムのライフサイクル分析はますます一般的になりつつある。それは個々の衣服の二酸化炭素排出量や、資源に対する長期的な影響を正確に見ることができる方法だ。2015年6月に研究者のサンドラ・ルース氏が発表した、もっとも包括的な衣料品ライフサイクル分析のレポートによると、基本的なライフサイクル分析は通常、製品の開発時点から追跡を行う。これには原材料の製造から廃棄やリサイクルにいたるまでが含まれる。彼女は衣服のライフサイクルを、製造、流通および販売、使用、廃棄の4段階に分け、その最終段階を「エンドオブライフ(製品の寿命)」と呼んでいる。

ルース氏は各段階における、さまざまな衣服のいくつもの環境指標の影響を集計した。そこには水の使用量、二酸化炭素排出量、人体への毒性(発がん性など)などが含まれている。Tシャツのようなシンプルで使用頻度の高いアイテムでは、1回の着用につき最大120リットルの水を使用し、染色だけでも0.02ポンド(約9グラム)の二酸化炭素を排出することがわかった。次に彼女はある国でTシャツが使用されることによる影響を、スウェーデンを例に挙げて数値化した。スウェーデンでは1枚のTシャツを1年間に平均22回着用し、平均して2回着用するごとに1回洗濯が行われる。

これと同じことをデジタルアイテムやデジタルガーメントに当てはめることはできない。NFTの製造にかかるエネルギーコストは、特定のブロックチェーンでは著しく増大するかもしれないが、NFTはそのライフサイクルにおいて材料や水の使用、クリーニングなどを考慮する必要はないからだ。

デジタルファッションのサステナビリティへの影響

サザビーズ(Sotheby’s)のメタバースを先導した、NFTコマースのためのWeb3プラットフォーム、モヒート(Mojito)の創業者アマンダ・カサット氏によれば、NFTの環境面への影響を計算することはさらに拡大するという。2016年から2019年まで、カサット氏はブロックチェーンソフトウェア企業コンセンシス(ConsenSys)のCMOとしてイーサリアムの市場投入を担当し、最大かつもっとも堅固なブロックチェーンエコシステムへと成長させた。「デジタルファッション市場における運営コストは、ソフトウェアとデザインの才能にかかるコストに削減される。物理的な製品に発生するような、素材の調達、製造、人間の労働、出荷、保管、小売スペースといった付帯的コストは実質的にはゼロだ」と彼女は述べている。ブロックチェーンに電力を供給する配電網が完全に再生可能であれば、エネルギーの影響もまた再生可能であるとも彼女は指摘している。だが、これはありえない。マイニングはメインフレームの発電機に依存しており、ほとんどのマイニングは中国と米国で行われているが、両国における水力発電やその他の再生可能エネルギーへの依存度は、石炭など安定した電力の選択肢と比較するとかなり低いのだ。

NFTが拠点としているブロックチェーンネットワークによって、そしてまたそのシステムがマイニング(プルーフ・オブ・ワーク)を使用しているか否かによって、デジタルガーメントやNFTのサステナビリティへの影響は大きく変わってくる。さらに、ライフサイクル分析はあまり一般的ではない。NFTのライフサイクル分析は、物理的な衣服のサプライチェーンを追跡してリサイクルされた製品が実際にどこに行き着くのかを確認するよりは簡単に数値化できるかもしれないが、異なる分野を中心とした複数の分析が必要とされる。それには、完全にデジタル化されたNFTの処理やブロックチェーンの検証などが含まれる。LVMHのバッグやロレックス(Rolex)のような物理的なアイテムでさえ、その真正性を証明するためにブロックチェーンに記録されたデジタルトークンを含んでいる。

「ファッションメーカーは、ブロックチェーン台帳を活用して、原材料や完成品を最初から最後まで改善および追跡し、ファッション業界から生じるあらゆる負の外部性を削減することができる」とカサット氏は述べている。

イーサリアムが使用するマイニングとは

2021年10月のコインテレグラフ(Cointelegraph)のリサーチによると、ゲーム、コレクティブル、マーケットプレイスなど、あらゆるNFT市場分野の97%がイーサリアム上で起こっている。イーサリアムの暗号通貨であるイーサ(Ether)は、2015年に誕生したもっとも古い暗号通貨のひとつだ。イーサリアムは一般的にレイヤー1ブロックチェーンと呼ばれており、ブロックチェーンの検証にマイニングを使用している。

マイニングは、計算パズルによってそのイーサリアムのチェーンに次のブロックの暗号通貨イーサを追加するプロセスである。テクノロジーに精通したマイナー(採掘者)たち(大抵は中国や米国を拠点としている)が、これらのパズルを解いて報酬を得ている。最初にパズルを解いた人は2イーサ(6000ドル、約75万円以上)を手に入れることができる。マイナーはより多くのイーサを稼ぐために、これらのパズルでコンピュータを動かし続けるため、フィンランドのようなひとつの国の年間電気使用量に匹敵するほどの膨大なエネルギーを消費することになる。しかし、ひとつのNFTがもたらす二酸化炭素排出量を、Tシャツ1枚と同じようにカウントすることはできない。「NFTはイーサリアムの二酸化炭素排出量を直接的に増やしてはいない。NFTの鋳造(デジタルファイルをブロックチェーン上に保存された資産に変換するプロセスで、ミントともいう)に関しては、NFTがひとつだろうが100万個だろうが、エネルギーの消費量には影響はない。NFT自体はエネルギーを消費しない。ブロックチェーンの操作がエネルギーを消費する」とカサット氏は説明している。

もっとも人気のあるブロックチェーンのひとつであるイーサリアムは、新規ユーザーの登録に伴い、セキュリティとスピードの維持に苦労している。そのためプロセスを高速化するにあたり、ポリゴン(Polygon)のようなサイドチェーンを利用するようになっている。暗号資産取引所クラーケン(Kraken)によると、ポリゴンはイーサリアムの上にあるレイヤーで、効果的かつコスト効率の高い方法でメインプラットフォームの障害を取り除き、イーサリアムのスケーリングを支援している。サイドチェーンは、メインのイーサリアムブロックチェーンに結合された独自のブロックチェーンであり、イーサリアムで利用できる多くの分散型金融(DeFi)のインフラをサポートするのに有効である。

DeFiには、3月24日から27日にかけて第1回メタバースファッションウィークが開催された仮想世界のディセントラランド(Decentraland)も含まれている。またポリゴンは、ブルガリ(Bulgari)プラダ(Prada)といったブランドのNFTプロジェクトでも定番の選択肢だ。イーサリアムはこれまでずっと、エネルギー消費の少ないシステムに完全に移行することを意図していたが、それが選択肢となったのは今年になってからだ。

エネルギー消費の少ないプルーフ・オブ・ステークへの移行

いまイーサリアムが近いうちにプルーフ・オブ・ステーク方式に移行すると予想されるからには、マイニングはいずれ廃れていくだろう。プルーフ・オブ・ステーク方式はステーキングに依存しており、これは一定量のイーサを保有している人がプラットフォームの通貨にそのイーサを預け入れる(ステーキング)ことができるシステムだ。その後そうした人たちは、ステークの保有期間やステークの規模に基づいて無作為にバリデーター(承認者)に選ばれる可能性がある。このシステムはザ・マージが完了すれば、イーサリアムのブロックチェーン全体のエネルギー消費を99.95%削減する。

バブルハウス(Bubblehouse)のような一部のNFTマーケットプレイスは、現状のイーサリアムよりも99.99%炭素効率性が高くなることを目指すために、すでにポリゴンと提携している。しかしイーサリアムがマージ、つまりプルーフ・オブ・ステーク方式へ移行すれば、これまでの炭素排出量のわずか0.05%しか排出しなくなる。その結果起きる変化は、ブロックチェーンを使ったエネルギー利用にとって、大きな一歩となる。現時点では、イーサリアムで作成されたNFTは183ポンド(約83キログラム)のCO2を発生させるが、ザ・マージ後は0.09ポンド(約41グラム)となる。比較するなら、ペーパーバックの本を作る過程で発生するCO2は2.2ポンド(約1キログラム)だ。

バブルハウスマーケットプレイスとポリゴンの場合、このプロセスはCO2が0.02ポンド(約9グラム)まで下がり、ルース氏の報告にあるペーパーバックの本やTシャツよりも大幅に低い。ポリゴンのグロース・バイスプレジデントであるアルジュン・カルシー氏は声明のなかで「ポリゴンのエネルギー消費量は非常に少ないので、バブルハウスとポリゴンを合わせれば、今後1年間、バブルハウスだけでなくポリゴンブロックチェーン全体の二酸化炭素排出量を、1万ドル以下(約125万円)のカーボンオフセットで中和できることになる」と述べている。ポリゴンはイーサリアムのレイヤー2であるため、その機能を利用すれば、ポリゴン上の既存のプロジェクトはプルーフ・オブ・ステークモデルに移行する必要はない。そしてこの移行により、レイヤー1であるイーサリアムも、同じエネルギー出力になるだろう。

カーボンニュートラルなブロックチェーンとなる可能性

正式にはビーコンチェーン(Beacon Chain)と呼ばれるイーサリアムのマージチェーンのオフセットが追加されれば、イーサリアムはカーボンニュートラルなブロックチェーンとなる可能性を秘めている。携帯電話の暗号ゲーム、ザ・サンドボックス(The Sandbox)の米国CEOマシュー・ノウザレス氏は、ザ・マージによってユーザーは最初から最後までより速く、より安い取引が期待できると述べている。それによって、ブロックチェーンゲームが正常化し、NFTの価格も下がるだろう。グッチなどのブランドはザ・サンドボックスの土地を購入し、メタバースでの存在感を拡大している。

「環境への影響の大幅な低減は非常に大きく、いくつかのカーボンフットプリント削減の試算では、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)に比べてPoS(プルーフ・オブ・ステーク)は2000倍も影響が低いといわれている」とノウザレス氏は述べた。ザ・サンドボックスはL2イーサリアムチェーンとも呼ばれるポリゴンに移行し、ゲーム内のトランザクションをより高速かつ安価にしている。環境フットプリントを削減しながら、1分あたり数千件のトランザクションを低コストで処理することになるだろう。同社は、このステーキングシステムが、ゲーム内の土地所有者とトークン保有者の手にガバナンスを委ねるという、2022年の目標のひとつを前進させるだろうと期待している。

[原文:Metaverse 101: How Ethereum’s update will change the conversation about sustainability and NFTs]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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