新型コロナのパンデミックに見舞われた1年目の2020年、パブリッシャー業界は様変わりした。コロナ禍の影響を緩和させるために、経営陣は一部の事業を停止するだけでなく、新たな収益事業の模索を余儀なくされたのだ。
しかしながらパンデミックも2年目に入り、パブリッシャーは新たな現実に対する理解を深めたようで、赤字の危機から企業を救った基幹事業に従事するだけでなく、オンラインで事業を復活させるケースも見られる。なかには復活どころか成長を見せる事業もあるほどだ。
非上場パブリッシャーは事業の成功や厳しい状況を発表しながら折に触れて手の内を明かしてきた一方、パブリッシャーのなかでもニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やガネット(Gannett)、アリーナ・グループ(The Arena Group)、IAC、ニューズ・コーポレーション(News Corporation)、現在のBuzzFeedのような上場企業は、「オーディエンスがどのようにニュースを消費しているのか」などオーディエンスの行動はもとより、収益が回復しつつある事業の状況についても、情報を少しずつ提供している。
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各社の収益源はより多様に
ここで、上場パブリッシャー6社の最新年次報告書から集めた情報で状況を読み解いていこう。なお、情報は2021年の1年間のものである(ただし、ニューズ・コーポレーションのDow Jones/WSJ年次報告書の会計年度は、7月1日から6月30日まで)。
上のグラフを見ると、ほぼすべてのパブリッシャーが2020年より2021年のほうが成長していることがわかる。このパンデミックで、2020年第2・第3四半期には経済全体と広告業界が打撃を受けたことを考えると、それほど驚く結果ではない。しかしながらガネットは、2020年と比較すると2021年の収益が、前年比で6%にすぎないものの、2億ドル(約250億円)減少している。
パブリッシャーは平均して2020年と2021年の年間収益で20%の変動を見せた。パブリッシャーの多くが20%前後の成長を享受している一方で、2021年の収益源は多岐にわたる。
BuzzFeedとガネットの場合、年間収益の50%以上が広告に起因するものだが、ニューヨーク・タイムズでは2021年の広告収入は4分の1にすぎない。一方、IACのドットダッシュ・メレディスとアリーナ・グループの年次報告書では収益の分類が紙媒体とデジタルの2種類だけだが、IACの場合は、2021年末に実現したばかりのメレディス・コーポレーション(Meredith Corporation)買収による紙媒体の収益が追加されている。
収益の内訳が最も変化したのは、買収の影響を受けたドットダッシュ・メレディスである。同社が米国証券取引委員会(SEC)に提出した2021年の法定開示書類の年次報告書10-Kによると、デジタルの収益はディスプレイ広告、パフォーマンスマーケティング、ライセンス供与で構成され、紙媒体の収益はサブスクリプション、販売店、紙媒体広告、パフォーマンスマーケティングから成る。なお、2020年のドットダッシュ・メレディス収益内訳は、ディスプレイ広告、パフォーマンスマーケティング、アフィリエイトeコマース代行手数料収入で、合計2億1400万ドル(約268億円)だった。
eコマースに注力するBuzzFeed
BuzzFeedは報告書の内訳で、eコマース収益を「その他」に含めるのではなく、独立した項目として設定している数少ないパブリッシャーの1社だ。2021年のeコマース収益からわかるのは、どのパブリッシャーも、第4四半期にサプライチェーンから極めて大きな影響を受けていたことだ。ただし、BuzzFeedによると、第4四半期の収益の前年比が26%減少したのは、出荷遅延と在庫問題だけが原因ではないという。
2022年3月22に開催されたBuzzFeedの収支報告で、同社のCFOフェリシア・フェリシア・デラ・フォーチュナ氏は、この下落は「世界の活動再開」にも関係しており、この活動再開で消費者が対面ショッピングに回帰したからだと説明した。
また、BuzzFeedの2021年eコマース収益は2020年より19%増加し、合計金額は2020年の約5000万ドル(約63億円)から6160万ドル(約77億円)になったと発表した。これはつまり、バズフィードのeコマースのコンテンツが2021年の取引で約6億ドル分(約750億円)に相当することを意味する。
2022年のパブリッシャー業界は、対面ショッピング回帰にもかかわらず、eコマースビジネスが強気である。バイス・メディア・グループ(Vice Media Group)の最高デジタル責任者であるコリー・ハイク氏もそう考える一人だ。2022年2月のDIGIDAY Podcastインタビューで、2024年には収益全体の3分の1がeコマースになるだろうと答えている。
ニュース各社の抱える課題
ニューヨーク・タイムズ、ガネット、ウォールストリートジャーナルのパブリッシャーは各社とも、四半期比で収益が増加しており、今回のコロナ禍でも深刻な傷を残さずにすんだ。とはいえ、ポストトランプの景気後退やサブスク疲れなど、2021年の読者の購読傾向に影響を与えた流れがいくつかあったのは間違いない。
ニューズ・コーポレーションのDow Jones/WSJ部門は、四半期比で小幅な増加を見せたが、ニューヨーク・タイムズは2022年はじめにサブスク事業の金字塔を打ち建てた。しかも予定より3年も早く達成している。もともと2025年までに有料購読数1000万獲得を目標に掲げていたが、2022年2月にアスレティック(The Athletic)の買収が成立すると、合計購読数に120万がプラスされて、目標の数字に達した。
とはいえニューヨーク・タイムズは、ニュースに対する読者の関心が高まりを見せたり、料理、ゲーム、ワイヤーカッター(Wirecutter)などのバーティカルなサブスクリプションを多角的に展開したりして、独自の取り組みも功を奏し大きな発展を遂げていた。その多角的なアプローチや買収のおかげで、ニューヨーク・タイムズは現在、2027年までに購読者1500万人という新たな目標を掲げている。
ガネットは2022年に、デジタル版のみの購読者数200万人超え(2021年末の数字から40万人増)を見込んでおり、そこから2025年まで前年比40%の割合で成長を続ける計画だ。2021年度第4四半期決算報告書によれば、その結果、2025年までにデジタルのみの購読者数を600万人にするという目標を掲げることになるという。
ガネットは、2021年後半にかけて集客力のあるUSAトゥデイの有料化を開始したところ、2021年の前半と後半で、デジタル版のみの購読者数が20万人増加した。2022年の目標はその数字を倍に増やすことだが、今年は購読者増加の実現に向けてさまざまな戦術を試していることを考えると、妥当な目標だといえる。しかしながら、2023年から2025年にかけては、新規購読数年間100万以上という数字を掲げており、2022年の目標である40万と比べると大幅な増加で、課題も多くあるだろう。
IACはサブスクリプションの内訳を発表していないが、注意すべきは、ドットダッシュ・メレディスの紙媒体事業は依然として収益に対する影響力が極めて強い点だ。2021年の年間収益をみると、57%を占めたのは紙媒体であり、その残りがデジタルだった。
[原文:In graphic detail: What trends we can see from publisher 2021 earnings reports]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)