ゲーム広告 の時代が到来、ブランドは「新常識」の把握に必死

DIGIDAY

ゲーミングはいまや、ポピュラーカルチャーの支柱であると同時に広告インベントリの源でもある。ただし、一部のブランドおよびエージェンシーは依然、この新メディアが持つ多大な価値を把握しきれていない。

ゲーム内広告企業は自身のプロダクトの強み――そして、広告主とメタバースを繋ぐ架け橋としての潜在力――に自信を見せているが、メディアバイイング側ではいまだ、ベテランバイヤーでさえゲーマーとブランドの関係性に関する時代遅れの誤解から離れられずにいる。

この知識格差を埋めるべく、インタラクティブ広告協議会(IAB)は4月4日に、初となるゲーミング領域専門イベント「プレイフロンツ(PlayFronts)」を開催した。ゲーミングにおける広告およびパートナーシップの機会を主題とするこの1日限りのカンファレンスでは、アドテクプロバイダーやパブリッシャー、エージェンシー、ブランドなど、業界内のさまざまな利害関係者がプレゼンテーションを行なった。

「今はまさしく、いわゆるパーフェクトストーム(最悪の状況)が起きている」と、同イベントのオーガナイザーでIABエクスペリエンスセンター(IAB Experience Center)のVP、ゾーイ・スーン氏は話す。「消費者行動に明らかな変化が見られる。リニアTV視聴率が著しく低下し、CTVは過飽和に近づきつつあるのだ。一方で、ビデオゲームは動画の一形態となり多くの若いオーディエンスを引きつけている」。

ゲーム広告という生まれたばかりの業界において、この「知識格差」がどれだけ大きなものになり得るのかは、今回のイベントでもはっきりと見て取れた。テック・ゲーミングサイドの一部出席者にしてみれば、今回のプレゼンで共有された情報の大半は、特段目新しいものではなかった。反対に、ブランド・エージェンシーサイドの経験の浅い多くのオーディエンスは、始終メモを取ったり、プレゼンテーターが示す表やグラフを熱心に写真に撮ったりしていた。

今回のイベントは、ゲーム広告業界の利害関係者が一堂に会した、文字どおりの名士録であり、ブランドやエージェンシー、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)やライアットゲームズ(Riot Games)といったゲームパブリッシャーとサービスを共有するという、喉から手が出るほど欲しかった機会をベンダー勢に提供するものとなった。

以下はDIGIDAYが同イベントから導き出した重要な結論の一部だ。参加者は700人近くに上り、バーチャルと対面の割合はほぼ半々だった(イベントでは、ランチタイム中に人気のビークルサッカーゲーム、ロケットリーグ[Rocket League]トーナメントの大会も開催され、ザクシス[Xaxis]のチームが優勝した)。

「一般的な統計データ」にうんざりする人々

ゲーミング領域への理解が浅い出席者を念頭に置き、多くのプレゼンターは実証済の統計データを多用していた。しかし、それはどれもゲーム広告ピッチデッキを見たことがある者なら誰もが知っていてもおかしくないものばかりだった。「ゲーマーの約5割は女性が占めている」、「ゲーマーはもはや実家の地下にこもってプレイするティーンが大半ではない」などは、その最たる例だ。

こうした統計は事実ではあるが、かなり以前から理解されている業界の「常識」でもあり、今更感もある。経験豊富なゲーミングサイドの参加者の一部を呆れさせたのもまた事実だった。ゲーミングオーディエンス層の拡大は、いまに始まったことではない。だがその情報に目を丸くする参加者の多さに、業界のベテラン勢は呆れていたのだ。

「かなり前から多くの女性がゲーミング界に入ってきている」と、ゲーム内広告を15年ほど前に開発した電通メディア(Dentsu Media)の米メディアパートナーシップ部門EVPサラ・ストリンガー氏は話す。「にもかかわらず、ゲーマーはティーンの少年だけとの固定観念が業界にいまだに残っている事実には、非常に興味深いものがある」。

デモグラフィックこそが鍵

業界のベテランは呆れたかもしれないが、ゲーマーの約半数が女性というデータに対してブランドおよびエージェンシーが強い関心を見せた事実は、ゲームデベロッパーおよびそのアドテクパートナー勢が自社サービスを業界外のブランドに売り込む際、同プラットフォームの広いデモグラフィックの強調が得策であることを示している。

たとえば米アパレル、アメリカン・イーグル(American Eagle)のマーケティティング、メディア、パフォーマンス、エンゲージメント部門VPアシュレー・シャピロ氏が同日午後、同社のロブロックス(Roblox)エクスペリエンスに関するプレゼン後、米DIGIDAYの取材に応えてくれた際にも、この強い関心がはっきりと見られた。

「非常に興味深い点は、プレゼンでは話さなかったが、我々が利用しているロブロックス内の都市であるライブトピア(Livetopia)では、ユーザーの65%が女性だという事実だ」とシャピロ氏は話した。「ライブトピアを選んだ理由のひとつはそこにある。我々の女性顧客層にもリーチできるからだ」。

ゲーム内広告は、それ自体が幅広くと多様な業界

広告におけるゲームの役割が拡大を続けるなか、プレイフロンツが今後、ゲーム広告スペースの特定分野に寄与するサブイベントを生む可能性もある。今回、多くのゲーム内広告企業が出席し――プレゼンを行なった6社を含む――その数は独自イベントを開催するに足るものだった一方、メタバースの背景にある哲学やメタバースとゲーミングとの関係性など、理論面に焦点を合わせたプレゼンターもいた。他方、IGNをはじめ、ブランドとゲーマーを結びつけるメディアとしてのゲームの役割にフォーカスしたところもあれば、動画リワード広告やインターステイシャル広告といった旧フォーマットのゲーム広告の強みを強調したところもあった。

「さまざまな理論が存在し、さまざまな方法が統合された形で存在している」と、アクティビジョン・ブリザード・メディア(Activision Blizzard Media)のビジネスマーケティング、効果測定、インサイツ部門グローバルベッドおよびVPである、ジョナサン・ストリングフィールド氏は話す。「『ゲームのなか』『ゲームに隣接』『ゲームの外』という言葉を使った者もいたが、こうしたフレームワーク設定は非常に優れていると思う。何がそのブランドにとって有意義なのか、現実的に考える際に非常に役に立つと思う。初期段階ではやはり、オプションは多ければ多いほど良いだろう」。

IABがこの先もプレイフロンツの開催を続けるのなら――実際、スーン氏は「ほぼ間違いなく」やるだろうと語っていた――どこかの時点で、ゲーム内広告に特化したイベント「インゲーム・プレイフロンツ(In-Game PlayFronts)」が開催される可能性もある。

「そうした異なるタイプの広告、異なるフォーマット、異なるスタジオ、異なるプラットフォームには間違いなく価値がある」と、ゲーム内広告企業フレームプレイ(Frameplay)のCEO、ジョナサン・トラウトン氏は話す。「ただ、我々はあくまで、ゲーム内が支配的フォーマットになると確信している。それこそが最高のエクスペリエンスを得られるフォーマットだからだ」。

ゲーミングとメタバースの関係は明白、ただし投機的

今回実施された12のプレゼンテーションの内、4つがタイトルに「メタバース」の文字を含んでおり、ほぼすべてがゲーミング環境に起因するメタバースの潜在力に触れていた。それらに共通する主張は極めて明快だった。メタバースはモダンインターネットのより没入的な3次元の後継者であり、そこから論理的に導かれる結論は−−ゲーマーが比較的若年であり、テクノロジーに適性があり、バーチャル世界を航行する経験を有する事実に鑑みると−−彼らがメタバースの最初の居住者になる可能性が高い、というものだ。

「商業的判断だった」と、ゲーム内広告プロバイダー、ビッドスタック(Bidstack)の共同創業者でマネージングディレクターのフランチェスコ・ペトゥルゼリ氏は話した。氏のプレゼンテーションのタイトルは「メタバース内におけるブランドのための新たな道の構築(Forging a New Path for Brands in the Metaverse)」だった。「私が思うに、メタバースはブランドのゲーミング領域参入の敷居を下げてくれる。ゲーミング自体がポジティブな意味合いを持っているが、メタバースにはそれに輪をかけてポジティブな意味があると考えている」。

ただし、出席した全員がこの分析に同意したわけではない。なかには、メタバースおよびそのゲーミングスペースからの進化に賭ける姿勢は、本末転倒であると、警告する者もいた。

「マーケターはマーケターがもっとも得意とすることをする。つまり、彼らは次に来る大流行を追いかけたがるし、だからこそ『間違いない、メタバースは最高だ』となる」と、アクティビジョン・ブリザード・メディアのストリングフィールド氏は話す。「ただ、こうしたトレンドはあくまでゲーミングありきの話であり、その理解に必要とされる知識をすべて飛ばして先に進んでしまいかねないという、非常に危険な状態にあると思う。まずはゲーミングに関する基本をしっかりと押さえることが極めて重要であり、そのうえで初めて、本当の意味で興奮に満ちた可能性が開けてくると、私は考えている」。

これ以上ないほどの好タイミング

メタバースとゲーミングとの関連性については意見が割れたものの、米DIGIDAYが話を聞いた出席者全員が、今回のイベント、プレイフロンツの開催時期は絶好のタイミングだと語った。

「開催委員会として、このイベントの開催時期について協議した際、我々の目的はこの機会を利用して人々を刺激し、理解を深めさせることにある、ということで意見の一致を見た」と、ゲームない広告ベンダーのフレイムプレイ(Frameplay)でチーフストラテジーおよびオペレーションズオフィサーを務め、IABのゲーミングおよびeスポーツ委員会の共同チェアでもあるキャリー・ティルズ氏は話した。「秋ではなく、今この時期に開くしかないことはわかっていた。IABには大いに感謝している。もしもこの段階でできていなければ、今年については、遅きに逸してしまった可能性がある」と、多くのブランドストラテジスト勢の1年間にわたる計画を引き合いに出して、氏はふり返った。

ただ、絶妙な開催時期だったのは事実だがIABがこの時期を選ぶに至ったのは、巧妙に計算されたメディアプランニングの結果ではなく、主な動機は前述のとおり、スーン氏の言う「パーフェクトストーム最悪」だった。

「この2年余り、我々の話題はコロナ禍であり、コロナ禍が過去8~10カ月にわたってゲーミングへの関心を高めた成り行きだった。Web3.0やメタバース、その他諸々も盛んに話題に上がった。ようは、鉄は熱いうちに打て、だ」と、IABの役員を務めるストリングフィールド氏は語った。

「我々には、この業界にチャンスがある時期を的確に見極める必要がある。我々が人々の頭を占めているのなら、人々が我々のことを考えて興奮しているのなら、彼らと深く関わらない手はない、そうだろう? つまり、その意味において、今回のタイミングは完璧だと考えている」。

[原文:IAB PlayFronts takeaways: Game advertising has arrived — and brands are playing catch-up

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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