大阪府と和歌山県をつなぐ南海本線という電車がある。南海電鉄という会社によって運営されているこの鉄道のいくつかの駅には社員用の食堂があり、社員以外の利用も可能なのだ。つまり私がそこで食事をしてもいいわけだ。
しかしこれがなかなか入りづらい場所にあるのだ。その入りづらさと、一旦入ってしまえばすごくいい食堂であるという事実をみなさんに知ってもらいたい。
大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好きです。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動しています。(動画インタビュー)
南海電鉄なんば駅にやってきた。
大阪を代表する繁華街・ミナミにある駅で、和歌山市駅方面へ向かう電車や、関西国際空港行きの特急電車、高野山方面へ向かう電車などの始発駅になっている。南海電鉄の社員向け食堂は、この駅の改札内にある。
ホームには、なんば駅と関西空港駅を短い時間で結ぶ特急列車「ラピート」が停車していた。甲冑を思わせるような、『キン肉マン』のロビンマスクみたいな、すごいデザインだ。
改札内には「南海そば」という立ち食いそば店があったりする。しかし、社員食堂はこんな風にわかりやすい場所にはない。
一見何もない通路の、黒い鉄のドアのに「食堂営業中」の文字がある。それを見逃したらまさかここに食堂があるなんて思わないだろう。
私がこのドアの写真を撮っていたら、まさにそのドアが急に開き、中から背広姿の方が現れ、「食堂はここやで!利用してな」と言って去っていった。社員の方だろうか。颯爽とした後ろ姿だった。
そう言ってもらったのだから入ろう。ドアを開けるとすぐそこに月刊の献立表が貼ってあった。
昼帯と夜帯にそれぞれA定食、B定食の二つが用意されていて、他に単品メニューがあるらしい。
冒頭にも書いたが、ここはあくまで南海電鉄の社員の方向けの食堂である。なので、社員向け価格と一般価格が別々に設定されている。券売機のボタンがわかりやすく色分けされている(トレイの色も分けてあった)。
カウンターに食券を出すと「ごはんの量は?」と聞かれる。「大盛り(350g)」「普通(300g)」「小盛り(250g)」「半わり(210g)」と分かれているようで、「小盛りでお願いします」と頼んだが、それでも結構な盛りのよさだった。数種類ある中から好きな小鉢を一つ選んで定食完成。
ふと壁の掲示物を見ると「乗務員は時間に余裕がありませんので優先的に取扱い致します」と書いてあった。一般の利用者はできるだけ邪魔にならない時間帯を選び、サッと食べてサッと出るのがマナーだろう。可能な限りのスピードで食べ、外に出た。
さて、南海電鉄の社員食堂はなんば駅から15分ほど電車に乗った先の堺駅にもあるという。そちらの様子も気になったので行ってみる。
堺駅に直結する駅ビル内に目的の食堂があるらしいことはわかっているのだが、そこまでの行き方がなかなかわからない。
ビルの地下に降りたり、エスカレーターに乗って上階へ行ってみたりするも、食堂への案内表示などは一切なし。そこへ通じる道も見つからない。30分ほど歩き回り、途方に暮れた。
しかし、一人、思いもよらない場所に入って行く人がいてようやくわかった。
目立たない扉を開けて進むと壁に「5F 職員食堂」とプリントした紙が貼ってある。
エレベーターで5階へあがると、「南海職員食堂こちらへどうぞ」の貼り紙。
ビルの上階にあるということもあって窓の外の眺めもよく、日差しが入ってポカポカ暖かかった。
今月分の献立表をいただいたのでそれをじっと見ていると、カロリーと栄養バランスを考慮しつつ、飽きのこないような多彩なメニューが並んでいた。
ここでの食事で健康を維持し、鉄道を日々安全に運行している方が多いのだと思うと、私がのん気に食事をしていいものかと申し訳なくもなる。が、せっかく一般の利用も可能なのだから、これからも邪魔にならぬように時々利用させてもらおうと思った。
すっかり満腹になって帰宅した後、和歌山市駅にも南海電鉄の社員食堂があるらしいことを知った。そっちもまた、入りづらいのだろうか。とても気になっている。